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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
131/196

125:回帰の力

それは、古の神の力。いまだ、超越には至らず。












《SIDE:SAKURA》











「……どうするのですか、桜?」

『うん、どうしようか……』



 絶え間なく響く剣戟の音の合間で、私の意識は小さく嘆息を漏らす。

何故今現在、私がフェゼニアちゃんに体を貸しているかと言うと―――



「クソッ、どうして攻撃が通じないッ!」

「……ボクとしては、その無駄なタフネスが疑問なのですが」



 彼、星崎和馬をどうしても倒しきれなかったからだ。

巨大な氷の中に閉じ込めても、氷の中で無理矢理体を再構成して出てきてしまった。

水の中に閉じ込めて圧縮してもあっさり再生してしまうし、岩の槍で貫いて、地割れの中に飲み込んでも脱出してくる。

風で遥か彼方に吹き飛ばしたとしても、飛んでここまで戻ってきてしまうし……ホント、どうしたらいいんだろう。


 私の回帰リグレッシオンはあまり燃費が良くないから、そう長々と戦う事は出来ない。

そういう意味では相性が悪いんだけど……とりあえず倒す方法を考えるため、フェゼニアちゃんと交代して時間を稼いでいる所だった。



『でも、フェゼニアちゃんは大丈夫? 貴方も放出するタイプの力だった筈だけど』

「みゅ、この程度の威力なら、何時間でも防いでいられるのですよ。時々強い攻撃を撃ってきたりもしますけど、それだって防げない訳ではないですし」



 流石はフェゼニアちゃんの《遮断バウシュタイン》……防御特化の能力かぁ。

と、それよりも彼を倒す方法を考えないと。



「おおおおおおおおおッ!」

「みゅ……いくら力を入れても無駄なのですよ。ボクの力を貫けるのはレンぐらいなのです」

「そんな筈は、無いっ!」



 どうしてこんなに自信満々なんだろうか、この人。

フリズさんにも負けたし、私にも一方的にやられてたのに……まあ、ここまでタフだとは思ってなかったけど。



「無駄なのですよ。ボクが持つのより上位の《欠片》を持っているならまだしも、貴方は《欠片》を持たないのです。

邪神の力を再生力にばかり傾倒させている以上、ボクの力は貫けません」



 そう言えば、《欠片》には格があるんだっけ……煉さんの《欠片》はかなり上位の物で、あの力ならフェゼニアちゃんの防御を貫けるどころか、物理も魔術式メモリーも通用しない精霊状態の私にも攻撃できるとか。

《拒絶》って、一体どんな力なんだろう?



「違う、俺の力は全てにおいて完璧だ……あの人もそう言っていた!」

「いっそ哀れになってくるのですよ……と言うか、あの人? 誰なのですか?」

「それは……っと、教えると思うか!」



 今、一瞬言いかけてたような。

こういう時、いづなさんだったら巧みに言葉を操って、情報を聞き出してしまうんだろうけど……流石に、私やフェゼニアちゃんには無理だ。

とりあえず、彼に邪神の力を与えた人が、彼らの後ろにいるのは確かみたいだけど。

その人が、私達の敵っていう事だろうか。



「それで……どうするのですか、サクラ?」

『あ……え、えーと、えーと……倒せないなら、動きを止めるとか?』

「どうやってです? 雷で痺れさせても復活してきたのですよ?」



 そうなんだよね……というかそれ以前に、雷と化して地面に叩きつけても復活してきたし。

この再生力だけは本当に凄いと思う。その他の能力は大した事無いけど。

うう、やっぱりこの人の相手はフリズさんの方がいいような気がするなぁ。



『えっと、フェゼニアちゃんの能力で閉じ込める?』

「……比翼剣で結界を作れば出来なくはないですが、ずっとここで見てるのですか?」

『え、ええと、それなら……ね、眠らせるとか?』



 あー、でも眠らせるとかどうすればいいんだろう?

私は魔術式メモリーはそこまで沢山使えるって言う訳では無いし、どの属性ならそういう効果を得られるのか分からない。

これじゃあダメか、と思っていたんだけど―――



「みゅ! そうです、それなら行けるのですよ!」

『え、え?』

「貴様、さっきから何独り言を言っている!」



 あ、そういえば彼、私が入れ替わってる事に気付いてないみたいだから……もしかして、私が独り言ブツブツ呟いてると思ってる?

いやまあ、他人にどう思われようと別にどうでもいいけれど、ちょっと納得行かないと言うか。

まあ、それはともかくとして。



「精神干渉は闇属性なのです。サクラ、行けるでしょう?」

『あ……う、うん。でも、回帰リグレッシオンを発動させる時間が欲しいんだけど……』

「みゅ、相手を精霊でぶっ飛ばせば問題ないのです。では、代わりますよ」



 何か、皆に影響されてきたのかな。

フェゼニアちゃんの性格が、だんだん変わって来てるような気がするんだけど。

ま、まあとにかく……そういう事なら、大丈夫な筈。


 フェゼニアちゃんは頷くと、両腕を強く前へと押し出し、《遮断バウシュタイン》の壁を通常よりも広く広げた。

その壁に押されて、彼は向こう側へと押し出されてゆく―――そしてそれと共に、私の体の自由が戻ってきた。

撃つならば、回避不能な光速の光属性攻撃!



「精霊さん!」



 私の意思を読み取り、光の精霊さんが閃光のように鋭い光条を発射する。

それが命中したのを確認した所で、私は小さく頷き、声を上げた。



回帰リグレッシオン―――」



 フェゼニアちゃんが表に出ている間に多少回復したとは言え、残りの力は少ない。

早めに勝負を決めないと、そろそろ危険になってしまうかも。

だから、本気で行こう。



「《魂魄ゼーレ肯定創出エルツォイグング精霊変成ジン・メタモローフェン》!」



 その宣言と共に体が薄く透き通り、黒い影となって揺れ始める。

そして私が両腕を広げると共に、周囲は光一つ無い完全なる暗闇に包まれた。



「な、何っ!?」

『誘え……深き眠りの底へ』



 この漆黒は私の一部。

この中に溶けてゆくように、この中に消えてゆくように、彼の精神をゆっくりと沈めてゆく。

そして―――私が柏手を打つと共に、周囲の暗闇は消え去った。

後に残ったのは、地面に転がって寝息を立てる一人の人影。

その姿を確認して、私は大きく息を吐きながら力を解除した。



「ふぅ……」

『お疲れ様なのですよ、サクラ』

「うん……これは、疲れたよ」



 ここまでしぶといとは思わなかった。

本当に人間なんだろうか、この人。まあ、今は人間とは言いがたいかもしれないけど。

とりあえず、このまま放っておいていいものかどうか悩むけれど……下手に刺激して起きて来ても困るし、このままにしとこう。

このままでも、しばらくは起きて来ないだろうからね。



「とりあえず、皆の所に……」

『みゅ。そうですね、戻りましょう』



 フェゼニアちゃんの言葉に小さく頷き、私は再び風の精霊さんを呼び出したのだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:FLIZ》











回帰リグレッシオン―――」

「へぇ、最初から見せてくれるんだ」



 相手は恐らく魔術式使いメモリーマスター

それも、自分独自の戦闘方法を確立した、結構高位の奴っぽい。

だから、最初から手加減無しで行く!

相手が止めようとする様子すら無いのは気になったけれど―――



「《加速ベシュレウニグング肯定創出エルツォイグング神獣舞踏フェンリスヴァルツァ》!」



 発動さえしてしまえば、こっちのものだ。

あたしの宣言と共に周囲の動きが止まったように遅くなり、あたしはそのまま身体強度強化と摩擦熱緩和を行いつつ歩き出す。

この状態なら、別に無理に走る必要が無いって言うのは分かってるしね。

とりあえず、周りにある人形達からぶっ壊して行くとしましょうか。



「とは言っても、本当に人形なのかしら、これ」



 ミナの言葉を信用しない訳じゃないけど、見ただけだと普通に人間にしか見えない。

とりあえず、そっと相手の腕を握ってみる。



「あ……冷たいし硬い」



 成程、これは確かに人間じゃない。

加速しているからとかそういうのではなく、単純に人間の構造ではなかった。

まるで樹を触っているような感触だ。


 とにかく、コイツが人間じゃないんなら―――



「ぶっ飛ばしても、問題は無いッ!」



 小さく笑い、あたしはその人形を拳で殴りつけた。

現実の体感では凄まじい衝撃が走り、粉々に砕け散りながら人形が吹き飛んでゆく。

よし、この調子で全部―――



「ッ……え?」



 僅かに感じた痛みに目を見開き、頬を拭う。

見れば、そこには何故か一筋の傷が走っており、僅かに血が流れ出ていた。

どうして……攻撃を受けた訳じゃないのに。

別に能力の制御をミスった訳でもないし、ついでに言えば身体強度強化の魔術式メモリーを使ってる今のあたしは、ちょっとやそっとの事じゃ傷付かない。

それなのに、一体どうして―――



「……ん? これ―――」



 と、ふとあたしは、さっき攻撃を行っていた場所で紅い色が浮いている事に気づいた。

首を傾げつつ、ゆっくりと近付いて観察してみる。



「これ、あたしの血? さっき傷付いた時のだろうけど……」



 この空間内なら、あたしから飛び散った物が落ちる速度は、他の物体と同じく非常に遅い。

けど、これは何かおかしい。まるで、細く伸びているような―――



「あ……そうか、まさか」



 本人に確認するのもどうかとは思ったけど、とりあえず反応を見ておくだけでもしておこうかしら。

あたしは小さく息を吐き出してから能力を抑え、人形遣いとやらに視線を向ける。



「あら、力を抑えちゃうの?」

「……分かってて言ってるでしょ、アンタ」



 クスクスと笑う彼女に、あたしは思わず顔をしかめた。

この反応から見てほぼ間違い無さそうだけど、まあ一応聞いておこう。



「アンタ、鋼線を使ってるのね」

「うふふ……人形遣いですもの。操り糸の扱いは心得ているわ」



 やっぱり、そうか。

この女、周囲に向かって無数の鋼線を張り巡らせているんだ。

普通なら直接相手に放って使うんだろうけど、それじゃああたしは捉えられない。

だから、予め周囲に設置して、あたしが自分からかかるのを待っていたんだわ。

これだけの速度で動いてりゃ、いくら強化しててもスッパリと行っちゃいそうだしね。

それに、どんな金属を使っているのかも分からないし。


 でも―――



「……普通の金属だって言うんなら、どうとでもなるわ」



 小さく呟き、あたしは再び自身を加速させた。

リコリスみたいな魔力の糸だとどうしようもなかったけど、普通の鋼線だって言うんなら対処のしようはある。

胸中でそう呟き、強化に使っているうちの魔力の一部を放って、あたしは魔術式を発動した。



第二位魔術式セカンドメモリー、《身隠しの霧雨ヒドゥン・ミズル》」



 放たれたのは、霧のように細かい水の粒子。

本来ならば自分自身の姿を隠すために使う魔術式。あたしが使うと、この霧の温度を一気に上げて相手を蒸し焼きにするっていう事も出来るけど、今回はそうじゃない。

必要なのは、これを一度広範囲に広げる事だ。


 放たれた霧は周囲を包み、そしてそのまま文字通り霧散してゆく―――その周囲の光景に、あたしは会心の笑みを浮かべていた。



「よし、これなら見えるわね」



 あたしの周囲に張り巡らされた無数の鋼線。

今、それら一本一本に、大量の水滴が付着していたのだ。

おかげで今まで細くて見えなかった糸達が光を反射し、その姿を容易に捉える事ができる。



「よし……それなら、行きますか!」



 張り巡らされた糸に注意しつつ、あたしは動き出す。

動く時も、衝撃をしっかりと押さえつつだ。発した衝撃波で水滴を飛ばしてしまっては意味が無い。

張り巡らされた糸を跨ぎ、潜り、近づいた人形に対して一発。

木のような材質で出来ているのか、乾いたパーツとなってバラバラと吹き飛んでゆく人形を横目に見ながら、他の人形へ。

とりあえず、これなら気を付けてさえいれば問題はなさそうね。



「……まあ、色々と面倒だけど」



 一人ごちて、小さく苦笑する。

派手さが無くてつまらないけど、まあ背に腹は代えられない。

景気よくぶっ飛ばしてやりたいという思いはあるけれど、安全と引き換えには出来ないものね。

まあ、こんな事はとっとと終わらせるに限るわ。



「……っと、こんなもんかしら」



 そうこう言っている間に、あたしの周囲を囲んでいた人形たちの破壊はほぼ完了した。

後は、あの本体なんだけど―――小さく嘆息しつつ、あたしは拾い上げた小石を投げつけてみる。

神速の弾丸フィルグルーク・クーゲル》程じゃないけど、少しだけ加速させた小石があの女へと迫り―――直前で、弾き返された。

どうやらこの女、自分の周囲に強力な防御系魔術式を展開していたようだ。



「どのくらいで壊れるか分からないから面倒くさいのよね、こういうの」



 ぶちぶちと呟き、嘆息する。

全力で殴りつけて消し飛ばす訳にもいかないし……まあ、魔術式によってはそれでも破れないでしょうけど。

あたしは小さく肩を竦めて、能力を一旦抑えた。

途端に感覚が現実の尺度に戻り、人形遣いはきょとんとした表情で周囲を見回している。



「あら、存外あっさりと対応されちゃったわね。それとも、加速した感覚の中でしばらく悩んでたのかしら?」

「舐めんなっての。で、アンタはそうやって縮こまってる訳?」

「挑発にしては安すぎるわよ、フリズちゃん。私は面倒な戦いはしない主義なの」



 言って、人形遣いは腕を振るう。

警戒してあたしは構えるけれど、彼女が魔術式をこちらへ向けて放ってくる気配は無かった。

そしてそれと共に、彼女の姿が薄れ始める。



「アンタ、逃げる気!?」

「私を殺してもいいのなら、無理矢理でも止めに来なさいな。そんな事は出来ないんでしょうけど」

「ッ……!」



 こいつ、あたしの事を知って―――!

やばい、これからはこういう奴らが相手になるって事!?

あたしが動揺したのを見たのか、人形遣いはその顔に意地の悪い笑みを浮かべる。



「うふふ……それじゃ、アルシェールによろしくね、フリズちゃん?

今度こそ、私がアンタを殺してあげるって……そう、伝えておいて」



 そして、そう言い残し―――彼女は、姿を消した。

しばし構えたままその場所を見つめ……小さく、嘆息する。



「はぁ……あいつも、アルシェールさんと敵対するつもりで向こうについたって事?」



 何か、そこら中で恨みを買ってるのね、あの人。

しかしまぁ、それにしても……今回の相手は、厄介な事になりそうだわ。

晴れない気分のまま晴れた空を見上げ―――あたしは、深々と溜息を漏らしていた。











《SIDE:OUT》





















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