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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
130/196

124:人形遣い

満ちるのは不穏な気配。

彼女達の目的は、一体?












《SIDE:MASATO》











『クハハッ!』

「おおッ!」



 会議場に開いた壁の穴から廊下へと飛び出し、ガープと攻撃を躱しながら駆け抜ける。

以前と違うのは、オレが新たな力を使えるようになっている事だ。



『クハッ! 当たらねぇ当たらねぇ! 避けるのが上手くなったじゃねぇか、マサト!』

「生憎、あまり刀を折る訳にも行かないからな」



 今の刀は仮とは言え、既に二本も折ってしまっているのだ。

調子に乗っていづなの負担を増やす訳にも行かないだろう。

故に、ガープの攻撃は受けるのではなく、極力回避する。今のオレならば、これを躱す事も難しくはない。



「成程……これが、お前の見ていた世界と言う訳か」

『ふふ、中々便利だろう?』



 目に意識を集中させる。

視界の中にいるガープが、オレに向けて拳を突き出し―――それを躱せば、オレが躱した後の所にガープの拳が突き出された。

オレと椿の持つ《神の欠片》……《未来視》の力。

成程、直接相手に影響を及ぼすタイプの力では無いが、来れた確かに強力だ。

椿は今まで、こんな感覚の中で生きてきたのだな。



『オゥルアアッ!!』



 オレの上半身でも刈り取ろうと言うのか、ガープから刃のように鋭い回し蹴りが放たれる。

《未来視》で予め読んで躱したが、その一撃はオレの後ろにあった壁へと突き刺さり、そこを紙切れかなにかのように引き千切る。

向こう側は……外か、ちょうどいい。室内で長大な刀を振るのは難しかったからな。



『いいのか、誠人? 相手も魔力噴射を使えるようになってしまうぞ?』

「前より避けるのは容易い……カウンターを狙えるさ」



 椿の言葉に小さくそう返し、オレは外へと飛び出した。

門から正面入り口へと続く広場のような場所に立ち、オレはガープを待ち構える。

そんなオレの姿を見て、ガープは歓喜の笑みを浮かべた。



『クハッ、ハハハハハッ! いいねェ、やっぱりテメェは最高だ、マサト!』

「御託はいい、さっさと来い」

『カカッ、当然……!』



 その言葉と共に、ガープの肩に付いた装甲が開く。

凝縮される魔力を肌で感じ取り、オレは静かに意識を集中させた。

見ろ……あいつが辿る未来を、この目で捉えろ。



『行くぜェ、マサトォォォオオオッ!!』



 咆哮。

そして、ガープの背中で魔力が爆ぜた。

オレの―――いや、オレ達の目が捉えた通りの未来を描き、ガープは突撃してくる。

そこに、刃を……合わせるッ!



「ふ……ッ!」

『ぬ……!?』



 最適のタイミングで合わせた一閃―――しかし、ガープの鱗の強度は並ではない。

きっちりと合わせたものの、浅く傷をつける程度にしか刃は通っていなかった。

やはり、対応できるようになったからと言って、容易く倒せるような相手ではないか。



『クハハハハッ! 流石だなァ、あの時より強くなってるじゃねェか!』

「あの決着では納得できなかったからな……お前も、そうだろう?」

『あァ全くだ! あんなので終わりなんつったら、興醒めにも程があるってモンよ!』



 苦笑する。

全く、本当に分かりやすい男だ。

それに付き合っているオレも、似たような物なのだろうが。



『やれやれ。敵同士の友情を深めるなら、せめて人間を相手にしたらどうだ?』

「さてな……友情と言うような物ではないだろう」



 オレとこいつは宿敵同士だ。

いずれは決着をつけ、どちらかが死ぬ事になるだろう。

それを惜しいとは思わないし、その瞬間を待ち望んでいるといってもいい。

まあ、とは言っても―――



「……ここで決着をつけるのは、あまりにも興醒めだがな」

『アァ?』

「今のオレには精霊付加は出来ない……それは、全力とは言えないだろう?

ガープ、お前もそんなオレでは満足できない筈だ」

『そーいう事か……ま、確かになァ。お互い本気じゃねェのに、それで終わっちまったら楽しくねェ』



 ガリガリと頭を掻きつつ、ガープはオレの言葉に同意する。

オレとしても、コイツと戦うのならば全力を尽くすつもりだ。

だから、ここで終わらせてしまうつもりも無い。

もっと強くなった上で、コイツを叩き潰したいのだ。


 ―――オレは、強く在りたい。



「あ……」

『ン? どうかしたか?』

「……いや、少し引っかかった事があっただけだ、気にするな」



 今は、いい。

戦闘の最中に考え事をするほど余裕がある訳ではないのだ。

例え攻撃を躱すのが楽になったと言っても、相手は強力無比な力を持った魔人。

その突撃を喰らえば、一撃で砕かれる事に変わりは無い。



「……まあ、いい。とりあえず、続きと行くぞ」

『カカッ! そうだな、全力じゃなくても、とりあえず楽しむ事はできるからな。

今回は別に本気で攻めに来た訳でもなし……楽しんだって、文句は言われねぇよなァ!』



 歓喜の声と共に、ガープの両肩と拳に魔力が集中する。

オレは再び意識を集中させつつも、奴の呟いた言葉を静かに吟味していた。


 今回は本気で攻めに来た訳では無い……どういう事だ?

こいつらの目的は、一体何だと言うのだろうか。



『誠人、考え事は後だ』

「……そうだな」



 そちらの事はいづなに任せよう。オレはただ―――



「目の前の敵に集中する……!」



 そして、オレは再び未来を見た。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:IZUNA》











「避難っちゅーても、何処に避難すればええんや、これ」



 お偉いさん御一行の前に立って護衛しつつ、うちは小さく一人ごちていた。

相手には空間転移能力者……何処へ逃げてもあっさりと追いつかれてまうやろう。



「神殿に逃げると良い」

「え?」



 と―――そこで聖女様が声を上げた。

神殿っちゅーと、あの街の中心に立っとる巨大な建物の事やね。

せやけど、アレは会談の場としてでも使う事は出来ひんかった所や。

異郷の人間を入れる訳には行かないとかどうとか……案の定、隣におった教皇が抗議の声を上げた。



「聖女様、リオグラスの人間を神聖なる神殿に入れるなど―――」

「邪神の力を持つ者からの攻撃を防ぐのならば、強力な結界の張られたあそこしかあるまい。

ここで王子と王女が死ねば、リオグラスとも事を構える事になりかねんのだぞ?

そのような事になれば、我等二国は確実に帝国に滅ぼされる事になろう」



 まあ、それに関しちゃ同意や。

この状況でリオグラスとグレイスレイドの関係が悪化するような事は、何が何でも防がなあかん。

正直な所、この聖女様一人だけやったら、うちらの助けなんて要らないんやなかろうかと思うんやけどな。

一人で軍相当の力を持っとるんは、彼女とあのテオドール・ラインだけや。



「とにかく、ええんですね?」

「ああ、無論だ」



 おし、とりあえずそれなら、帝国側の侵入も防げる筈や。

ほんならさっさとこの建物を出て、そっちの方へと向かってまおう。

あんまり遠くは無かった筈やしね。



「む……待て。この先に何かがいるぞ」

「え?」



 と、ゼノン王子が言い放った言葉に、うちは咄嗟に扉を開けようとしとった手を止める。

何や、何かおるんか?

気配だけやと気付かなかったんやけど―――



「下がっておれ。《創造クリエイト》―――」



 言いつつ、巨大な魔力をそのミナっちと同じ杖へと集中させて、聖女様が前に出る。

そして扉を開け放ちつつ、その莫大な力を一つの形として解き放った。



「―――《光龍ルミナスドラゴン》!」



 ―――その掛け声と共に現れたんは、鳥のような翼を持つ白い三本角の龍。

龍種の中でもかなり珍しい、光属性の力を持つ龍や。

人前には滅多に姿を現さんそれやけど、聖女様の力にかかりゃ、何処でも呼び出せるんやろう。


 そしてそれとほぼ同時、現れた巨体へ向けて、いくつもの魔術式メモリーが解き放たれた。

ルミナスドラゴンはその翼で自身を包み込み、与えられた魔力を使って強大な魔力障壁を作り上げる。

数秒の拮抗。せやけど、放たれた無数の魔術式のうちの数条がそれを打ち破り、ルミナスドラゴンの身体に傷を与える。



『クルォォゥゥウゥ……』



 その白い身体を流れ出た血で染めたルミナスドラゴンやけど、痛みに呻きながらもその場を決して動こうとはせんかった。

そんなルミナスドラゴンの身体をそっと撫で……聖女様は、その向こうに立つ無数の人影へと視線を向ける。



「妾が何者か……知っていての狼藉であろうな?」

「ふふ……当然でしょう?」



 そこに立っていた内、真ん中にいた少女が声を上げる。

金色の長い髪と、赤と黒のドレス。その胸に小さな人形を抱えた少女……見た目は可憐やけど、甘く見たら怪我しそうな相手やね。



「《人形遣いドールマスター》……アリシア・ベルベット。成程、貴様は帝国に付いたと言う訳か」

「あら、龍使いの聖女様に名前を覚えていただけるなんて、光栄ですわ」



 人形遣い?

そういや、さっきから周りを包囲してる人たちは微動だにしとらんけど……これ、全部人形って事なん?

ちゅーかこの人、さっき人形から魔術式を放って来たんか!?



「奇襲は出来なかったけど、まあ一人殺すぐらいなら行けるかしらねー。

まあ、大体の目的は達してる訳だし……正直どうでもいいんだけど」

「……?」



 目的は達しとる……?

何や、両国の要人を殺す事が目的やなかったんか?

今現在は誰も傷一つついとらん……この状況で、一体何を達しとるっちゅーんや。



「ま、そーゆー訳で……」



 ピッと、人形遣いとやらは指を持ち上げる。

そしてそれと共に、彼女の周囲に控えとった無数の人形たちがその手に魔力の剣を作り出した。

どうやって生き物やない人形に魔術式を使わせとるんかよう分からんかったけど、それ所やないか。



「く……っ、戦うしか無いか」

「マリエル様は下がっといてください。ここは、うちが何とかします」

「あら、《欠片》の力を操れていない貴方で、私のレギオンを相手取れるのかしら?」



 こいつも、《神の欠片》の存在を知っとる訳か……まあ、仲間の中に持っとる人間がいるみたいやし、そこまで不思議やないけど。

しかし、力の事を知られとるんは厄介やな……これからは、そっち方面でも心配せなあかんのか。

まあ、今はこの場を切り抜ける事を考えなあかんのやけど―――



「―――みつけた」



 ―――間に合ったか!

頭上から響いた声に、うちは胸中で歓喜の声を上げていた。

そしてそれと共に、うちらの目の前に一人の人影が飛び降りてくる。



「そいつら護るって言うのは業腹だけど……ま、ここは任せておきなさいな」

「あら、フリズ・シェールバイト……じゃあ、あの三下を迎撃しに行ったのは誰なのかしら?」

「三下て……仲間やないんかい」

「冗談、勘弁してほしいわ。まあ、あのしぶとさだけは評価しないでもないけど」



 やれやれと肩を竦める人形遣いに、うちは小さく頬を引き攣らせる。

あの勇者君、どんだけ嫌われとるんやろ。

っと……まあ、今はええ。

とにかく、マリエル様たちを護衛する事だけを考えな。



「フーちゃん、ここは任せた!」

「ええ、分かってる。ミナ! いづなと一緒にマリエル様たちの護衛よ!」

「ん……お姉さま、一緒に」

「ふふ。心強い事だ、ミーナリア」



 ふわふわと浮遊しながら下りてきたミナっちが、フーちゃんの言葉に頷く。

まあ、こっちは聖女様とも仲がええ訳やし、そっち訪問の問題はあらへんやろ。

とりあえず、うちらは離脱する!



「邪魔はさせないわよ」

「べーつに。貴方を無視できるとは思ってないわよ」



 人形遣いはフーちゃんと睨み合っとるし、人形たちも皆フーちゃんの方へと集中しとる。

これなら、何とか突破する事も出来そうや。

と、周囲をじっと見回したミナっちが、フーちゃんへ向けて声をかける。



「人間に似てるけど、皆人間じゃない。造り物、心が無い」

「了解。それなら、遠慮する事も無さそうね」



 その言葉と共にフーちゃんは笑い、そして周囲にその力が満ち始める。

魂の底がざわざわと震えるようなこの感覚……最初っから使う気やね。

ほんなら、もう心配はなさそうや。

頷き、うちは駆けだした。



「ほんなら、また後で!」

「ええ、気を付けて!」

「そっちもな!」



 フーちゃんに声をかけ、人形たちを迂回するように駆けて行く。

ゼノン王子が若干不満層やったけど、生憎と話を聞いとるような余裕はない。

フーちゃんの速さならこっちに敵を漏らすような事は無いやろうけど、それでも安心は出来ひんのや。

とにかく、出来るだけ遠くに離れなあかん。



「っと……せや、ミナっち」

「?」

「あの人形遣い、何考えとったか分かる? あいつらの目的を知りたいんや」

「……目的」



 そう呟き、ミナっちは黙り込む。

やっぱり、あれだけの間やと気にしとる暇も無かったんかな……と、そう思っとったんやけど、ミナっちは少しして顔を上げた。



「……わたしたちの事を、気にしてた」

「うちらの事?」

「わたしたちの戦い、わたしたちの力……とにかく、わたしたちの事」



 うちらが、目的?

ほんなら、今回のあいつらの目的はこの要人達やなくて、うちらの戦力観察?

いや、まさか……それやったらまるで、二つの国よりうちらの事を危険視しとるみたいやないか。

うちらの力は、そこまで注意せなあかんもんなのか?

だとしたら―――



「……いづな、どうした? 顔色が悪いぞ?」

「……や、何でもないです」



 マリエル様の言葉に、うちは小さく苦笑しながらそう返す。

国の人に教える訳には行かんやろ、これは……確かにうちらの力は強力無比、回帰リグレッシオンに至った二人の力は軍に匹敵するモンや。

うちらの事を危険視するのやって、分からんでもない。

せやから……今度の敵は、場当たり的に戦うような相手やない。

うちらの事を観察し、うちらの対策を立てながら襲ってくるような連中や。

絶対に、油断は出来ひん。



「……気を付けな、あかんね」



 うちの心の中を読んだんか、隣を走るミナっちが小さく頷く。

怖い相手や。あの時の邪神の眷属が、まだ可愛く感じるほどに。

せやけど―――うちは、負けん。



「絶対に、負けへんで」










《SIDE:OUT》





















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