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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
リオグラス編:異世界の少年と創造の少女
13/196

11:少女ミナ

ただ、綺麗なままで。












《SIDE:JEY》











「ジェイ」

「気にすんな、問題はねぇよ」



 俺の外套を引っ張ってきたリルに、嘆息交じりにそう告げる。

先程感じたエルロードの気配、そしてそれを追って行ったあの小僧。

あの神が何らかの思惑で動いている事は分かっている。恐らく、邪神絡みでだ。

そうである以上、邪神に対する切り札と成り得るあの小僧を、あの性悪の神がただで帰すとは思えない。


 まあ、どちらにした所で今回の奴の行動の意味はさっぱり分からない訳だが。

ともあれ、分からない事を気にしていた所で意味は無い。


 邪魔な思考は切り上げ、俺は公爵家の前へと到着した。

門の前に立っていた門番に、公爵からの手紙に入っていた紹介状を手渡しながら名乗りを上げる。



「依頼を受けた、傭兵ギルドの者だ。公爵に取次ぎを頼む」

「……少々お待ち下さい」



 訝しげな表情と共に、門番はもう一人立っていた奴に一言告げ、屋敷の中へと入って行った。

やれやれ、そんなに信用無いかね。



「よう、済まんな旦那。あいつ、新入りでな」

「あん? ……ああ、別に気にしてねぇよ」

「そいつは何より。それにしても、久しぶりだなぁ」



 声を掛けてきたのは、そのもう一人の門番だった。

どうやら五年前からいたらしく、俺の事を知っているらしい。

五年も務めていて門番止まりなのか、こいつは。



「それにしても、五年前から見た目が全く変わってねぇな。噂は本当かい?」

「―――お前、俺の事を何処まで知っている?」



 視線に威圧を込め、門番に向けて言い放つ。

公爵は俺の事を最も良く知る人物の内の一人だ。

公爵が俺の秘密を漏らすとは思えないが、それでも何処から情報が漏れるかは分かったものじゃない。


 そんな事を考えている俺の視線を受けた門番は、顔を引き攣らせながら大きく首を振って見せた。



「お、おいおい、そう睨むなよ! 俺はギルベルト様が懇意になさっている不死者イモータル・ブラッドの傭兵がいるって話を聞いただけだ!」

「……そうか」



 考え過ぎだったな……少々、余計に反応し過ぎたかもしれない。

しかし、俺が不死者である事の情報が回っていたとはな……傭兵連中にもあまり知られてない事だが、何処からそんな噂が出たのやら。

……まあ、時折尋ねてくる俺の姿が全く変わらなかった事からだろうがな。


 これからは、少しは周りの目を気にする必要があるかもしれないな。

どこで妙な噂を流されるか分かったモンじゃない。

それでもし、あの事に掠りでもして妙な噂が立ったら面倒だ。


 話しかけてくる門番を無視しながらそんな事を色々と考えている内に、先程の門番が戻ってきた。

今一納得し切れていない様子だったが、話はついたのだろう。



「お待たせしました、ご案内します」

「ああ」



 まあ、ここで態度の指摘をして話がこじれても面倒だ。さっさと連れて行って貰うとするかね。





















 ただっ広い屋敷の、これまた豪華な客間に通されて二分ほど。

目的の人物は、意外と早く姿を現した。



「ジェイ! 良く来てくれたな!」

「お久しぶりです、公爵。それに夫人も」

「あらあら、昔のように呼んでくれないのかしら?」

「いや……」



 思わず、苦笑する。五年前に訪れた時と何一つ変わっていない。

ギルベルト・カーツ・フォールハウト公爵、並びにカティア・リーン・フォールハウト公爵夫人。

この世でたった二人だけの、俺が敬語を使う相手だ。


 年齢的には既に70を超えている筈なのに、壮年の力強さ、落ち着いた美しさを保ち続けている。

これは長寿である王家の血が一部混じっている為であり、フォールハウト公爵家は代々寿命が長い。

まあ、俺が言うのもなんではあるが。



「わう!」

「あらあら、リルちゃんもお久しぶりね。ジェイの事、ちゃんと生活するように見張ってたかしら?」

「わう。ジェイ、だらしない」

「おい、リル……」

「ハッハッハ! 相変わらずだな、お前達は!」



 ったく、俺は緊急だからと呼ばれてきたんだがな……この人達にはどうもペースを崩されがちだ。

話が進まないからと二人をさっさと席に促し、俺も席に着く事にする。



「それで、公爵。依頼はミーナリアの事だと聞いてきましたが」

「ああ」



 瞬間、今までの弛緩した空気が消え去った。

隣に座っていたリルも、ぴくりと耳を動かしている。

普段は温厚ではあるが、この人は王都を護る事を任とした歴戦の武人だ。

その姿に、俺もまた気を引き締める。



「どうやら、また俺の愚弟の仕業らしい。前々から娘との婚姻を迫って来ていたが……実力行使に出ようとしているようだ」



 公爵の弟……一応は伯爵位を持っていると聞いたが、直接会った事はない。

この公爵家を継ぐ者は、二人の娘であるミーナリアに間違いはない。

だが、あの娘と婚姻を結べば、公爵の持つ権限の殆どを手に入れる事に等しいだろう。

要するに、ミーナリアを意のままに操ろうと言う訳だ……思いつくだけで、それを可能にする魔術式メモリーが五個はある事が厄介だが。



「それで、あいつは今何処に?」

「ああ、部屋にいるはずだ。会いに行くといい、あの子も喜ぶだろう」

「わふ?」



 と、そこで何故か、リルが首を傾げた。

こいつの感覚は俺たちより遥かに過敏だ。何かを感じ取ったのか?



「どうした、リル」

「いない。匂い、よわい」

「―――ッ!」

「リーベル!」



 俺が思わず立ち上がると同時、公爵が部屋の隅に立っていた執事を呼んだ。

公爵家に代々仕えるエルフィーンの執事だが、そんな事は今はどうだっていい!



「リル、獣化しろ! 急いであいつを追え!」

「わうっ!」



 リルは頷くと同時、二本のナイフ『双牙』を抜いてその場に四つんばいになった。

瞬間、ミシミシと言う何かが歪むような音と共にリルの姿が変化してゆく。

頭髪と耳と尻尾のみを覆っていた銀色の毛は全身に広がり、更に両手にあった筈のナイフは腕と融合して両側に突き出たブレードと化す。



「ゥゥウ、ワォオオオオオオオオッ!!」



 遠吠えを一発、完全な獣の姿と化したリルはそのまま床を蹴り、開け放たれていた窓からすぐさま外へと飛び出して行った。

その姿を見送った俺もまた、窓に向かって走って行く。



「公爵!」

「ああ、娘の事は任せる!」



 どうやら、役割分担・・・・の事はとっくに承知していたようだ。

小さく笑み、俺も装備に刻まれた魔術式を発動させる。



「《強化:身体能力リーンフォース・フィジク》!」



 そして俺もまた、リルの後を追うように公爵家から飛び出して行った。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 俺はミナを伴って、ニアクロウの街の屋台を回っていた。

ふむ……流石にたこ焼きとかそういうのは無いけど、お好み焼きっぽいのとか焼きそばっぽいのはあるもんなんだな。

まあ麺類の屋台があるのは理解できるし、お好み焼きは材料に何ら難しい所はないから作れるんだろう。


 さてと、何を食おうかな。

そんな事を考えて辺りをきょろきょろと見回していた俺の袖を、くいくいと引っ張る手が一つ。



「レン……あれ、何?」

「ん、あれって?」



 俺の名前を呼んでくれるのか、ミナ。

何かちょっと感動しつつ、ミナが示した方向を視線を向ける。

そこにはでっかい肉の塊を立て、それを包丁で少しずつ削ぎ落としている屋台の姿があった。



「へぇ、ドネルケバブか。あ、でもこの世界だと呼び方が違うのか」



 ビナサンドと書いてある。

まあ実際、ドネルケバブと何一つ変わらないみたいだったけど。



「ああやって削ぎ落とした肉をパンに挟んで食べるんだよ。食べてみるか?」

「……ん」



 コクリ、とミナが頷く。

もうちょっと分かりやすく感情表現してくれると助かるんだが、まあ贅沢は言わないでおこう。

とりあえず、屋台に近づいて声をかける。



「おっちゃん、ビナサンド二つ頼む」

「おう、二つで半銀貨だ!」



 半銀貨……えーと、銅貨50枚分か。銅貨一枚で10円ぐらいだったから、まあ妥当か、ちょっと安いか。

こういう店はあんまり行った事ないからよく分からないな。


 この世界では銅貨、銀貨、金貨と言う貨幣が流通しているらしい。

それぞれ100枚で一つ上の貨幣に相当するそうだ。

まあ100枚も持ち歩くのは面倒そうなので、それらを半分にした半銀貨、半金貨という物もあるんだが。


 一応、兄貴から小遣いとして貰った銀貨が5枚あるので、この位だったら大丈夫だ。

パンにレタスみたいなのを挟み、その上から肉を乗せ、特製のソースをかける。

へぇ、屋台だからあんまり期待してなかったけど、結構美味そうだな。



「はいよ、そっちの彼女ちゃんにはサービスだ!」

「いや、そういうんじゃないって!」



 思わず反論するが、当のミナはと言えば、言われた事をまるで理解していないらしい。

何かムキになったのが馬鹿みたいだ……しかし、美人ってのはお得だな、全く。


 とりあえず邪魔になるので屋台の前から離れ、ビナサンドとやらを口に運んでみる。



「うん、結構イケるな」



 大体予想したとおりの味だったが、このソースが絶妙だ。

肉の旨みを引き出して、尚且つパンに染みる事でそれぞれの味を際立たせている。

いいな、これは正解だった。


 俺が食べ始めたのを傍らで眺めていたミナは、俺を見習ってかビナサンドを食べ始める。

一口齧り―――元々大きかったその瞳が、大きく見開かれた。

余程気に入ったんだろう。表情はあまり変わらないながらも、瞳をきらきらと輝かせながらビナサンドに齧り付いている。


 こうして見ると、やっぱり可愛いな、この子は。



「美味いか?」

「……!」



 口に加えたまま、コクコクと頷くミナ。

ただし、首を振る勢いがさっきまでの比ではない。

ここまで喜んで貰えると、こっちとしても奢った甲斐があったってもんだ。


 小さな口で黙々と食べているミナを横目に、俺は一足先に完食する。

さてと、ミナもこれぐらいじゃ足りなそうだし、他にも少し見繕ってみるかな。

とりあえず俺は、次なる目標を探す為に周囲に視線を走らせるのだった。






















「これも結構美味しいだろ?」

「……ん」



 近くにあった店でクレープ(のようなもの)と飲み物を購入した俺たちは、少し歩いて小さな公園のような場所に来ていた。

あの場所で食べようかと思っていたんだが、ミナがどうにも目立って視線を集めてしまうので、仕方なく人気の無い場所を探してきた次第だ。

ミナは周囲の視線などお構い無しだったが、俺は流石に衆人環視の中で食事をするのはちょっと辛いものがある。



「しっかし、ミナ。君は買い食いとかした事無かったのか?」

「かいぐい?」



 クレープから顔を上げる天然娘。頬に付いたクリームを拭ってやりつつ、俺は苦笑しながら声を上げた。



「ああいう屋台とか出店とかで食べ物を買ってその場で食べる事だよ。

あんなに店があるんだし、この街に住んでるんだったらそれぐらいやった事があるかと思ったんだけど」

「……」



 しかしその言葉に、ミナはふるふると首を横に振った。

何か悪いことを聞いたかな、とも思ったが、彼女は特に気にした様子も無くクレープに集中する。



「あー、じゃあ、ここへは旅行で来たとか?」

「りょこうって、何?」

「……そう来たか」



 旅行も知らないって、一体どんな世間知らずなんだ。

この世界に『旅行』って言う言葉が無い訳じゃないみたいだし、単純にこの子が知らないだけになるんだろうけど……まさか、な。


 そういや、兄貴の話はそろそろ終わったんだろうか。

合流できなくても困るし……まあ、その内リルが俺を見つけてくれるとは思うけど。

それまでどうするかな―――ん?


 クレープの最後の一切れを口の中に放り込み、買った飲み物で流し込む。

炭酸飲料が無いのが残念だったが、まあ無いものは仕方ない。

そしてそのまま立ち上がり、右手でホルスターのボタンを外す。



「……レン?」

「ミナ、あいつは知り合いか?」

「? ……!」



 その言葉に首を傾げたミナは、俺の示した方向へ視線を向け、小さく硬直した。

その先からは、走って来る男の姿がある。

タキシードを着た、茶髪の男。



「ミーナリア様!」

「……シェルト」



 ミーナリア、か。一応少しは予想してたけど、まさか本当に当たってたとは。

シェルトと呼ばれたその男は、こちらに近寄ってくると腰からレイピアを抜いて俺に向かって突きつけた。

対する俺も、既に背信者アポステイトを抜いて右手に構えている。



「ミーナリア様を誘拐したのは貴様か、小僧!」

「人違いだ。俺は捕まっていた彼女を助けた」

「戯言を……ッ!」



 ……どうにも、話を聞く気は無いらしい。

チッ、頭に血が上ってやがるな、こいつ。

こんな無駄な事で貴重な弾を消費したくないし、出来れば誤解を解きたいんだが―――



「シェルト。レンが言ってるの、ホント」

「は……? で、ですが!」

「シェルト」

「ッ……了解しました」



 忌々しげに俺を見つめる、シェルトと呼ばれた男。

その時見えた男の瞳に、俺は妙な違和感を覚えた。


 こいつ……演技をしてる?

一瞬だけこいつの視線に、頭に血が上ってる様子とは違った冷静な意思が見えた。

兄貴との訓練で、攻撃の寸止めを食らってた時と似ている、あの感覚。



「ミーナリア様、屋敷に戻りましょう」

「………」



 おずおずと、ミナは頷く。

何だろうか、ミナは何を躊躇っている?

屋敷に帰りたがっていないのか、それとも―――



「ミナ」

「……レン」

「君が、あのミーナリア・フォン・フォールハウトだったのか?」

「小僧、口を慎め! 最早貴様は関係ない、何処へなりと失せろ」



 これはただの確認に過ぎない。男は無視し、俺はミナに問いかけた。

俺の言葉に、ミナは小さく目を見開いて、それから躊躇いがちに頷く。

黙ってたから怒られるとでも思ったのか?

まあともあれ、そうであるなら俺にとっても好都合だ。



「ちょうど良かった、俺の仲間が君の家を訪ねてる筈だったんだけど、仲間と逸れちゃったんだ。君と一緒に行っても大丈夫か?」

「……仲間?」

「ああ、ジェイって言う傭兵なんだけど―――うおっ!?」

「ジェイっ!? ジェイが来てるの!?」



 急に顔を上げ、俺に詰め寄るミナ。この反応は、流石に驚いた。

何を言ってもぼんやりとした反応しか戻ってこなかったのに、急にこれだ。

兄貴、一体この子に何したんだ……?



「あ、ああ……合流したいから、君と一緒に行きたいんだけど」

「……!」



 コクコクと、勢い良くミナは頷く。

ともあれ、これで目的は達成された。横目で、ちらりとシェルトを見る。

顔を伏せていて表情は見えないが、この反応―――警戒した方がいいかもしれない。


 そう思った、瞬間。



「が……ッ!?」



 ―――後頭部に衝撃を受け、俺はその場に倒れ伏していた。











《SIDE:OUT》





















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