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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
129/196

123:静止

彼女に隠された、一つ目の秘密。











《SIDE:IZUNA》









 


「あーもう!」



 ガンと机を拳で叩き、うちは入り口近くにいた衛兵に指を突きつけた。

あかん、あの子の能力の検証をしとかんかったうちのミスや!



「そこの人、全員の武器を元の持ち主に渡しぃ!」

「は、はあ!?」

「はよせい! ここに敵が直接乗り込んでくるで!?」



 そうやって叫んだうちの言葉に、会議場内にいた全員が反応した。

後ろの方で控えとった七徳七罪の二人が己の武器を取り出し、ゼノン王子が近くの兵に預けていた手甲を自分から出向いて奪い取る。

そんな中、状況を理解できてへんオッサンが、うろたえた声を上げた。



「な、何事だ!? 敵襲は街の外ではなかったのか!?」

「相手に空間転移を使える能力者がおったんです。あっちは陽動、本来の目的はこっちに直接乗り込んでくる事やと―――」

「―――あら流石、勘がいいわね」



 ―――刹那、この場にあるはずの無い水音が響き渡った。

会議場の中心、その円形のホールに、何処からともなく滴り落ちてきた黒い水が広がる。

水底から這い上がるように現れたのは……一人の、女の子。



「―――ぬぅッ!」

「ハアアァッ!!」



 刹那、七徳七罪の二人が動いとった。

その巨体に似合わぬ俊敏さで跳躍したサムさんが巨大な戦槌を振りかぶり、エレーヌさんの螺旋を描く魔力刃が地を這うように下から襲い掛かる。

躱しようの無いタイミングや―――けど、次の瞬間広がった光景に、うちは思わず息を飲んだ。



「はいっと」



 そんな軽い掛け声と共に、彼女は左手だけでサムさんの戦槌パシッと受け止め、下から来ていたエレーヌさんの剣を右足で踏みつけてもうた。

うちよりも小さく小柄な女の子が、あの巨体から繰り出された攻撃を軽く受け止める……俄かには信じがたい光景やったけど、うちはそれ以上に信じられない事が起こってもうた事に気付いとった。



「な……う、動か―――がハッ!?」

「おいおい……後がつかえてんだからよ、立ち止まってないでさっさと出ろよな」

「しょうがないじゃない、名乗りを上げる間もなく襲い掛かってきたんだもの」



 黒い水の中から飛び出してきた黒髪の男が、サムさんの事を殴り飛ばす。

長身痩躯ながら、かなり引き締まった身体をしとるな……何か声に聞き覚えがあるような気がするんやけど、今はそれ所やない。



「アンタ……何処で、その力を手に入れたん……?」

「あら、いづな……何処でってそりゃ、最初から持ってたに決まってるじゃない。貴方だってそうでしょ?」



 薄く笑いながら言い放たれた言葉に、うちは思わず言葉を無くす。

まさか、これは流石に予想外や……正直、信じとうない。

せやけど、この魂の奥底で共鳴するような感覚は―――まず、間違いない。



「《神の欠片》……!」

「そう。貴方達も皆持ってるんでしょ?

何だか親近感が湧くわね……そこら辺の、フェンリルやミドガルズを崇めてる連中は滑稽だと言わざるを得ないけど。

古の神の成れの果てなんか崇めて、何が楽しいのかって感じよね。貴方もそう思わない、いづな?」



 ……この子、二千年前の事まで知っとるんか。

国の人達には話さんようにしとったんやけどなぁ……まあ、それはええ。



「アンタ、何処でそんな事を知ったんや?

二千年前の情報を持っとる存在なんて、そうそうおらん筈や」

「悪いけど、そこは守秘義務があるのよね。ま、とりあえずこの場を生き残る事を考えたら?

ここだと貴方の優先順位は低いし、急げば逃げられるかもしれないわよ?」



 掴んどった戦槌をその場に落とし、彼女―――水淵蓮花は銃を抜く。

あかん……何の《欠片》なのかは分からんけど、彼女の能力はまず間違いなく防御系。

攻撃能力を持たんうちやと、《欠片》の防御能力を突破するんはまず無理や。足止め程度にもならん。


 と―――そこで、机を破壊しながら吹き飛ばされていたサムさんが身体を起こした。



「ぐ……ぬ、ぬぅ……! 聖女様、教皇猊下、お逃げ下さい……ここは、我らが!」

「あら……ただの人間にしては頑丈ね」



 目を見開き、彼女はその銃口をサムさんへと向ける。

あかん、彼女の能力が分からへん。物理攻撃も魔力攻撃も受け止めてまうような何か……一体、何なんや?

こちらの攻撃が通じないんやと、アレを止める手段も―――刹那、会議場内に巨大な銃声が轟いた。

一瞬、彼が撃たれてもうたんかと思ったけど……ちゃう、そうやない。

今の銃声は―――



「よう、蓮花。意外と早く会えたな」

「……! ふ、あははは! ええ、アタシも会いたかったわ、煉!」



 振ってきた声に、皆の視線が上を向く。

そこにおったんは、天窓の向こうで銀色の銃を構える煉君の姿やった。

せやけど、今撃った弾丸は何処に……なっ!?



「驚いたな、お前もそんな力があったのか」

「ふふ、便利でしょ?」



 煉君の放った銀色の魔力弾は、彼女の胸を貫く寸前で空中に止まっとった。

弾く訳でも、消し去る訳でもなく、ただ受け止める―――そうや!



「煉君、その子の力は自分に向かってきた物を停止させる能力や! 煉君の能力を使わんと、攻撃は届かんで!」

「成程、了解だ。ホント、お前は俺向きの相手って訳だな」

「あら、素敵じゃない。貴方と戦いたかったのに、勝負にならなかったら面白くないもの」



 おし……これで彼女は煉君に集中してくれたやろ。

後の問題は―――



「ったく、俺様の事を忘れやがって……まあいい。俺様一人でも仕事には十分だ」



 この、黒いライダースーツの男や。

短く刈った黒髪をオールバックにしとるんやけど、日本人っぽい感じはせぇへん。

何モンや、この男。確か、さくらんが言っていたのにこんな感じの奴がおったはずやけど。

話を聞く限りやと、リンディオさんの軍勢は、ほぼこの男一人の手で倒されとった。

つまり、途方も無く強い相手の筈……こちら側の戦力は、うちとエレーヌさん、そして怪我をしたサムさんや。

ゼノン王子も戦えるけど、万一の事を考えたら戦力に数える訳には行かん。



「マリエル様!」

「っ……了解した! 兄上、聖女様や教皇猊下を頼む!」

「む!? ちょっと待て、俺は護衛ではなく―――」

「行かせねぇよ!」



 叫び、男が飛び出す!

刀が無い、徒手空拳やけど、やるしかないか―――!



「ふッ!」

「ぬぉ!?」



 男の突き出す拳の前へと身体を踊らせ、その右腕へとうちの右手を添わせる。

そしてその手首を掴み、身体を縮めて滑り込ませ、背中の上から投げ飛ばす!

更に空中へ投げ出された男へと、エレーヌさんの魔力刃が襲い掛かった。

流石に、この状況で敵とか味方とか言い出すつもりは無かったみたいやね。



「クハハハ! やるじゃねぇか嬢ちゃん達!」



 せやけどこの男、何をどういう風にしたんか、空中で身体を器用によじって攻撃を回避してもうた。

そのまま男は壁に足を付けると、その場を蹴ってうちへ向かって飛び出してくる。



「く……ッ!」



 咄嗟に跳躍して後退し、攻撃を回避。

そしてその瞬間、男の拳の激突によって、石造りやった頑強な床は一撃で砕け散ってもうた。

……手甲も装備しとらんのに、この男の手は一体何で出来とるんや。

後ろの方でガンガン銃声聞こえとるし、流れ弾も恐いからここにはいたくないんやけどなぁ。


 と―――



「いづな!」

「!」



 マリエル様が、うちの刀を投げて寄越す。

その扱いにはちっと文句を言いたかったけど、今はありがたく受け取っとくしかあらへん。

投げ渡された刀を左手で受け取り、そのまま居合いの構えへ―――狙うは、まだ屈んどる男の首!



「斬るッ!」



 気合一閃。

放たれた刃は、防ぐ事も許さず高速で相手に迫り―――ガキンと、何かに受け止められてもうた。



「は……!?」



 思わず、目を見開く。

男は、何とその歯でうちの刀を受け止めとった。

そのあまりにも想定外な防御に、うちは思わず動きを止め……気付いた時には、相手は既に拳を握り締め取る状態やった。

あかん、この距離やと―――



「やられ―――へぶっ!?」



 ―――しかし次の瞬間、うちは横から飛んできた巨大な板に弾き飛ばされ、先ほどサムさんが叩きつけられたのの隣の机に脇腹から叩きつけられた。



「お、おおおおおお……!」

「……だ、大丈夫かね?」



 い、痛い……半端やなく痛いで、これ。思わず机をバンバンと叩くうちに、サムさんが引き攣った声を上げる。

何か気遣うような声音が身に染みる……や、そんな事より、一体今何が起こったんや?

痛みを堪えつつ視線を向けてみれば、床に転がっとるんは大きな扉。これ、入り口の扉だった筈やね。

何でそんな物が、突然―――



「悪いな。少々、荒っぽい助け方になった」

「え……ま、まーくん!?」



 視線を上げた入り口の場所……扉の壊れたそこに立っとったんは、他でもないまーくんやった。

って事は今の、まーくんが扉を蹴り飛ばしてうちにぶつけたって事かい!?



「も、もうちょっと助け方ってモンがあるやろ!?」

「いくつか方法を検証してみて、それが一番最適だと出てな。悪かったとは言っているだろう」



 おん? 何や今の言い方?

何か引っかかるような―――



「とにかく、お前はマリエル様達を護衛してくれ。そいつは、オレの相手だ……そうだろう?」

「……クハッ、クハハハハハハハハッ! 流石ァ、分かってんじゃねぇか、マサトよォ!

俺様とした事が忘れてたぜ……そこの嬢ちゃんはお前のツレだったもんなぁ」

「は……って、この口調、まさか―――」



 せや……何か印象に残っとると思っとったんやけど―――この男、まさか!



「テメェが相手なら本気を出せるぜ……さぁ、楽しもうじゃねぇか、マサト!」

「生憎と精霊付加は無いが……新しい力を試させて貰うとするか……来い、ガープ」



 まーくんがその名前を呼ぶと共に、男の体が黒い水に覆われてゆく―――そして次の瞬間、その身体は黒い鱗に包まれた人にあらざる姿へと変貌しとった。

顔面を黒いバイザーで覆い、硬質化した拳を構えたその姿は、見間違えようもあらへん。

魔人ガープ……あの子がダゴンの力をその身に宿しとるって話を聞いた時点で、予想しとくべきやったかもしれへんなぁ。



「っと……とりあえず、ここはあかん。巻き込まれたら危険や。サムさん、立てまっか?」

「あ、ああ……しかし、アレは一体?」

「魔人です。うちらは交戦経験あるんで、直接戦った彼に任しといてください。うちらは聖女様たちの護衛へ」

「ぬ……確かに、このダメージでは足手纏いにしかならぬか……致し方ない」



 あばらでも折れてるんか、胸を抱えながらサムさんが立ち上がる。

まあ、動けるんやったら重畳や。連中の事やし、まだ何か隠し玉があるかもしれへん。

ほんなら……残る二人も呼んどくべきか。



「どうかしたのかな?」

「いや、何でもあらへん。ほな、行きましょ」



 二組の戦いを避けるように、うちらは会議場から出てゆく。

正直、関わり合いになりたくない所やね、ホンマ。



「さて、鬼が出るか蛇が出るか……ホンマ、妙な事になってきたなぁ」



 やれやれと、うちは小さく一人ごちとった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 銃声が轟く。

飛び交うのは、銀と暗血色の弾丸だ。



「あはは! 避けるのが上手いわね、煉!」

「元の世界にいた頃から、サバゲーは日課だったんでね!」



 蓮花の銃は六発式のリボルバー、装弾数では俺の方に分があると思っていたのだが……どうやらあの銃、蓮花から直接魔力を吸い取って放っているらしい。

おかげで、弾切れの心配は無いようだ。

リロードの隙を晒すのはこちらだけって訳か。おまけに―――



「そこッ!」

「甘いわ!」



 俺が放つ弾丸は、蓮花に命中する直前でその場に止まってしまう。

蓮花がそこから離れるとまた動き出すのだが、あの能力は結構厄介だ。

まあ、俺の方も蓮花の銃弾に意識を集中させれば、弾丸を散らせる事も可能なんだが。

もしも命中しそうになった時は、俺も能力を使って対抗している。

ちょっとぐらい力を込めただけじゃ、蓮花の防御は貫けない。なら―――



「ブチ抜く……!」



 机の陰に身体を隠しつつ、右の銃に己の力を込める。

蓮花はまだ向こう側にいるしな……よし、ここから直接狙えるはずだ。



「《熱源探知サーモグラフ》」



 ゴーグルに刻まれた魔術式を軌道、向こう側にいる蓮花の位置を探る―――ん?



「映らない……?」



 故障ではない筈だ。これも蓮花の能力か何かか?

しかしそれでも、熱を持った二つの銃の形は机越しに見えている……これなら、一応狙える筈だ。

ならば、と俺は銃口を机の板に押し付けた。

この程度の木の机、俺の最大威力の銃弾の前には紙切れに等しい。



「貫けッ!」



 そしてそれと同時、巨大な威力に障壁突破の力を秘めた弾丸が撃ち放たれた。

弾丸は止まる事無く直進し、蓮花に正面から激突する。



「―――ッ!? くっ、これが煉の力って訳か……!」



 今までとは違い、手を前に出して俺の弾丸を受け止めようとしている蓮花。

しかしそれでも、防御を貫こうと回転する俺の弾丸は、まだ止まろうとしていなかった。

ッ……しかし燃費悪いな、この力。まだ大して使ってないのに、少し頭痛がしたぞ。

これだと、連続して放つのは無理か。



「く、ぉ、のおおおおおおっ!」



 蓮花は弾丸をずらすようにしつつ身体を逸らし―――すんでの所で、弾丸を受け流した。

弾丸はそのまま壁に激突し、そこに巨大な穴を空ける。

そこから二人の影が外へ飛び出していったが、まあいいだろう。



「……結構本気で力を込めたんだけどな。まさか逸らされるとは」

「あはは。アタシだって、本気で《静止アンシュラーグ》の力を使っても受け止め切れないとは思わなかったわ」



 互いに言い合って、小さく苦笑する。

本当に、俺達は色々と相性がいいみたいだな。

さて、ちょっと疲れたが―――



「まだ、遊び足りないよなぁ?」

「ええ、勿論……ここで本気を出してしまうのも面白くないけど、お遊びだったらまだまだ楽しめるわ」



 互いにまだ奥の手は出さないでおく、ってか。

まあ、そうだな。こんな所で決着をつけちまっても面白くない。

ならばしばらく、このじゃれ合いじみた戦いを続けるとしようか。



「精々―――」

「―――楽しみましょう」



 そして、俺達は再び、同時に銃口を向け合った。











《SIDE:OUT》





















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