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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
127/196

121:会議の始まり

そして、異変の始まり。











《SIDE:IZUNA》











「それでは、ディンバーツ帝国の脅威に対する対策会議を始めさせて頂く」



 結構広い会議場に、そんな文官の声が響き渡る。

うちがいるのは、そんな会場内でも中心近く―――マリエル様の隣や。


 ……うん。何でうち、こんな所におるんやろ?



「グレイスレイドからは代表として、聖女リーシェレイト様、およびクラヴィス・ラーヴェ教皇猊下。

リオグラスからは、第一王子ゼノン様、および第一王女マリエル様にお越しいただいた」



 しかも、なんか教皇まで来とるし。

いやホント、うちらって王女様達の護衛としてついてきた筈やよね?

まあ確かに、聖女様そっくりなミナっちや、風当たりが強そうなフーちゃんは連れて来るべきやないと思っとったんやけど……何でうちだけ。

や、確かにこういうのはうち担当かもしれへんけど。



「ぅぁー……」



 小声で呻く。

流石に態度に出して頭を抱える訳にも行かず、胸中でやるしか無いんやけど……ちなみに、例の七徳七罪のお二人さんもおるみたいで、あのエレーヌさんの視線がうちにチクチクと突き刺さっとったりする。

フーちゃんのお仲間だからとか、そんな理由だけで狙われとるような気が。



「ではまず、現状の確認から始めましょう」



 その言葉とともに、うちらに資料が回される。

お、ちゃんと紙を使っとるんやな。結構高価な筈なんやけど。

そういや、シャルシェントの近郊で、製紙業が盛んな土地があったなぁ……ふむふむ、交易とかちゃんとしとるんかな?

いやまぁ、そういう事を話しに来た訳やないけど。


 うちが一人で葛藤しとる間にも、進行役の人が話を進めてゆく。



「先日、グレイスレイドおよびリオグラスにて、ディンバーツ帝国の軍人と思われる者による襲撃事件が発生しました。

標的とされたのは、カレナ・シェールバイトおよび、リオグラス王宮近衛騎士隊クルースニク総隊長リンディオ・ミューレ将軍。

前者は襲撃の際の傷によって意識不明、後者は行方不明となっております」



 ふむ、確かにこれが現状や。

襲撃者個人の理由は分かっとるけど、それ以外の点に関しちゃ、納得し辛い状況やね。

ディンバーツ帝国は、何故リオグラスとグレイスレイドに対して敵対行動を取ったんか。



「尚、襲撃者の証言によると、その目的はアルシェール・ミューレの関係者への攻撃だと……そうですね、マリエル王女」

「ああ、そのように報告されている。しかし、それは個人の目的に過ぎぬだろう。

恐らく、ディンバーツ帝国の方にも、その男を泳がせておくだけの理由がある筈だ」



 やっぱり、マリエル様もそう考えとったか。

仮にも軍人が動いとる以上は、国の方も許可を出しとる筈や……まあどうせ、正式な辞令を出した訳でもないやろうけど。

一応、一個人の暴走として処理できなくも無いレベルで話を進め取る筈や……まあ、多分。



「現在の所、我が国が出した使者は戻って来ていない。期間としては微妙な所だが、消されている可能性も考慮せねばならないだろう」

「そうなった場合、全面戦争となるのか?」

「……それも辞さない構えです。貴国の方はどうなっているのでしょう?」



 聖女様の問いかけに、マリエル様は頷きつつ返す。

まあ、正式な使者を殺されたとなりゃ、そりゃあもう戦争しかあらへんやろうけど。

グレイスレイドの方も、使者は送っとるんかな?

と―――その言葉に返答したんは、聖女様ではなく教皇の方やった。

少々運動不足気味な身体を派手な法衣で隠しつつ、教皇は笑みを浮かべながら声を上げる。



「無論、我がグレイスレイドも黙っているつもりは無い。

我が国の戦士たるカレナ・シェールバイトを攻撃されたのだ、報復せねばなるまいて」



 あー……やっぱり、この人はやっぱりこういう類かぁ。

正直あんまり関わり合いになりたくないんやけど、途中で口を挟む事になりそうやなぁ。

マリエル様もそんな言葉に顔を顰めとったが、下手に口を挟むような真似はしなかった。

そんなうちらの様子には気づかず、教皇は得意げな様子で続ける。



「おお、忘れておった、これも話しておかねばならぬ事だったな。

カレナ・シェールバイトの娘であるフリズ・シェールバイトが、何故貴国の軍に所属しているのかな?

彼女は、我が国の民であるはずだが……我が国に帰属するべきであろう?」



 寝言は寝て言わんかいタコ。

と―――思わず口に出しそうになってもうたが、我慢。

この場でそんな事言うたら、流石に国際問題になりかねんし。

でもまぁ、ここは流石に話とかんといかんやろうなぁ……下手な事になって、フーちゃんが連れて行かれてまっても困るし。

横目で見ると、マリエル様もこっちの事を見つめて頷いとる所やった。小さく、嘆息する。



「フリズ・シェールバイトは現在、リオグラスの貴族たるレン・ディア・フレイシュッツ卿の所有物・・・です」

「……何かな、君は?」

「フリズ・シェールバイトと同じく、フレイシュッツ卿に雇われとる傭兵です。うちらは、フレイシュッツ卿に永年契約で雇われる形となっとります。

故に、グレイスレイドのフリズ・シェールバイトがリオグラスの軍に所属する形やなく、傭兵のフリズが契約によって雇われとるだけに過ぎません。

とは言え、傭兵ギルドは国を股にかけた独立組織……国とは言え、その所属に口を出す権利は無い筈です」



 煉君が貴族としての地位を手に入れた時、うちがまず行ったんはこの手続きやった。

最初はミナっちでやるつもりやったんやけど、思いがけず煉君が貴族位を手に入れたんで、そっちに変更したんや。

何処出身であろうと、傭兵は基本的に国籍の無い人間として扱われる。

国同士の戦争に参加したりする時とかに、無理矢理故国に呼び戻されたりするような事が無いようにする為や。

何処に所属するかは傭兵の自由意志で、国家がそれに介入する事はできん。


 それに、騎士団所属やと、他の貴族達からの命令を聞かなあかん事にもなりかねんからね。

せやから、煉君に雇われる形で、うちらはリオグラスに所属するような形になっとるっちゅー訳や。

そんなうちの言葉を聞いて、教皇は苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

しかし、ここで反論を許すと余計な戯言を聞かなあかんので、向こうが口を開く前に畳み掛ける事にしてまおう。



「分かっとるとは思いますが、永年契約の破棄には雇う側と雇われる側両者の同意と、傭兵ギルドからの審査が必要になります。

生憎うちらの関係は良好、契約の破棄はまずありえへん所ですが」

「な―――」

「それと!」



 教皇が口を開こうとするが、うちはそれを封殺するように声を張り上げる。

―――言わせへんよ。



「カレナ・シェールバイトのグレイスレイド国籍は、既に失効されとる筈です。

彼女は元々傭兵として無国籍の人間でしたが、セラード・シェールバイトとの結婚時にグレイスレイド国籍を得とりますね。

しかし、セラード氏の戦死と共に彼女はグレイスレイド国籍を破棄する手続きを行っとります。

ついでに言うと、娘のフリズ・シェールバイトの国籍に関しても同様ですね」



 元々、勧誘がウザイ言うて、カレナさんはグレイスレイドの国籍を早々に捨ててもうたからね。

フーちゃんに累が及ぶのを考えて、フーちゃんの方もさっさと国籍を捨てたみたいや。

まあ、そのおかげで正式に学校に通えたんはほんの少しの間だけやったけど、元の世界の知識があるフーちゃんにはこの世界の教育なんぞあって無いようなモンやからね。

手続きを途中で握り潰しとる可能性もあるけど、その辺は抜け目が無かったみたいで、手続きの証明書自体はカレナさんが持っとる。

当然、うちが回収しといたんやけどね。



「まあとにかく、そういう訳でフリズ・シェールバイトは国籍の無い傭兵の筈ですが、何故貴国に帰属する必要があるんです?」

「そ、そのような処理が行われた事は―――」

「証明は残っとりますんで、これが食い違っとると言うんなら、貴国の管理体制に関して疑問を持たなあかん事になりますが?」

「ぐ……!」

「やれやれ……だから言ったであろう、クラヴィスよ。その娘はシルフェリア・エルティスの助手をしていたのだぞ?

一筋縄で行く相手の筈があるまい」



 うちと、そして意外にも助け舟を出してくれた聖女様の言葉で、教皇は言葉を失う。

いい気味やね、全く……まあ、そういう態度は表に出さへんけど。

しかし、聖女様の方は、うちの素性まで知っとったか。

と、そんな聖女様の言葉に、教皇が目を見開く。



「かの錬金術師の……」

「……一応言うときますけど、下手な事言わん方がいいですよ?

あの人、何処で話を聞いとるか分かりませんから。話の上だけでも妙な扱いされとったら、直接爆発物が飛んで来かねんので」



 シルフェ姐さんの事やし、もしかしたらうちの体のどっかに人工精霊を付けとるとか、そういう事をやってるかも分からへん。

国に喧嘩を売るなんぞポンポンやりかねんし、相手が国のトップだろうが、気に入らなきゃ消し飛ばすやろ。

生憎、うちはそんなんに巻き込まれとうない。



「……まあとにかく、過去の英雄さん達の事はどうでもええんで、さっさとこの先の話をしときましょう」



 今回うちらはそういう話をしに来たんやないからなぁ。

そないな勢力争いをしとる場合やない。二国間で喧嘩しとったら、ディンバーツ帝国に勝てる訳が無いんやから。


 そもそも、考えることは山ほどある。

帝国の目的だけやない。どうやって邪神の力を人間に与えるなんぞと言う大それた事をやっとるんか。

そんな存在にどうやって対抗するべきなんか。

生憎と、うちらの状況は決してええとは言えんのや。


 うちは、マリエル様に目配せをする。

生憎、ゼノン王子はうちの話をよう分かっとらんみたいやったけど、まあええわ。



「……では、会議を再開しようか。我々の協力は、必要不可欠だ」











《SIDE:OUT》




















《SIDE:MASATO》











 会議場の前、警備の騎士たちがちらほらと歩き回っている場所。

オレと桜―――今は椿だが―――は、この入り口付近の警備と言う形で配置されていた。

とは言え、この入り口付近に関しては、椿曰く何も起こらないそうだが。

ちなみに、ミナとフリズは宿となっている建物に待機中で、煉は会議場の最上階から周囲の監視をしている。



「さて、話はいづなから聞いたと思うが」

「……あの話か」



 建物の壁に背を預けながら、オレ達は互いに語り合う。

内容はこの間いづなから聞かされた話。椿がオレの刀に宿れば、オレ達の《欠片》を重ね合わせた事になるのではないか、という提案だ。



「まあ、そうだな。この力を自在に扱えるようになるのならば、かなり有効だとは思う」

「何か思う事でもあるのか?」

「いや……お前が、構わないのかと思ってな」



 椿の願いは、桜を己の力で護る事だろう。

そこに、オレと言う要素が挟まっていいのかどうかが気になったのだ。

しかし椿はそんなオレの言葉を、小さく苦笑しながら否定する。



「思い出したんだ」

「思い出した……? 一体、何をだ?」

「ワタシの本当の願い。ワタシが、一番最初に抱いた思い。ワタシはただ、桜に幸せになって貰いたかっただけなのだ」



 言って、椿は自分の掌を―――いや、桜の掌を見下ろした。

その表情に浮かぶのは、どこか自嘲じみた物。



「それがいつの間にか、桜を護れるのは自分だけなのだと言う思いに変わっていた。

独占欲のようなものにな……全く、無様なものだ」

「……今は、違うのだろう」

「ああそうだ。思い出した以上、もう間違えはしない」



 言って、椿は笑う。

何かを吹っ切ったようなその表情の中には、最早迷いは無い。

それは、どこか強さにも思えた。



「ワタシ一人の力では、桜の幸せを護ることは出来ない。

だから、ワタシはお前と共に戦おう、誠人。お前に力を貸し、お前自身を護る事―――それも、桜の幸せに繋がるんだ」

「……買いかぶられた物だ」

「自覚のない振りは止める事だな、お前は芝居が下手だ」



 小さく笑みながら椿が発した言葉は流し、小さく嘆息する。

ともあれ、椿が了解していると言うのならば異論は無い。

オレも力を自分の意思で使う感覚と言うのは覚えておきたいし、互いに損は無いだろう。

頷き、オレは背中から刀を抜き放った。



「ふむ。では、やってみるぞ」



 言って、椿は髪を解いて目を瞑る。

いつもはそのまま、腰についているテディベアのストラップの中に入っていくそうだが、今回はこの刀の中に入るのだろう。

見た目ではどうなっているのか、気になるような気にならないような。

椿が抜け出した後は桜が表面に出てきたのか、髪を右側で結んでいた。



「ぇと……お姉ちゃん、上手く入れた?」

『うむ。ホーリーミスリルと言うのは中々入り心地がいいのだな』

「む……? これは、椿の声か……?」

「え?」

『何!?』



 突然頭に響くように聞こえた声にオレが呻くと、桜の声と椿と思われる声の二つが驚愕に染まった。

驚きを表情に浮かべたまま、桜がおずおずと声を上げる。



「ぁ、あの……もしかして、お姉ちゃんの声、聞こえてますか……?」

「ああ、いつもより低い声だが……これが椿本来の声と言う事か?」

『本当に聞こえているのか……驚いたな。この状態で会話出来たのは、幽霊以外では桜とアルシェールぐらいなのだが』



 どうやら、これは本当に椿の声らしい。

ふむ……成程、刀に宿っている時は、オレとも会話できるようだな。



『これは嬉しい誤算かもしれないな。まあ、ともあれ力を使ってみてくれ。意識を集中すれば、何となく見えてくると思うぞ?』

「また随分と適当だな……まあ、やってみるか」



 小さく苦笑しつつも、言われた言葉に従う。

まあ、何だかんだ言っても期待が無い訳ではないからな。

ともあれ、意識を集中し―――



 ―――次の瞬間、周囲に大きな銃声が響き渡った。











《SIDE:OUT》





















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