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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
120/196

114:二国の今後

彼女は最も多くの絶望を知り、そして最も多く立ち上がってきた。












《SIDE:FLIZ》











「桜、誠人! お母さんは!?」



 星崎との戦闘を終えたあたしは、すぐさまお母さんの方へと戻って来ていた。

あの場所ではまずいと判断したらしく、とりあえず街の中に入って近くにあった建物の中へと移動していたんだけど―――



「はぅ……さ、最善は尽くしました……とりあえず、一命は取り留めた筈です」

「っ……は、ぁ」



 そんな桜の言葉にあたしは思わず息を呑み、そして深々と安堵の溜息を漏らしていた。

よかった……一時はどうなる事かと思っ―――



「―――ですが」

「え……?」



 桜が付け加えた言葉に、あたしは顔を上げる。

見れば、桜はあたしに背を向けて、ベッドで眠るお母さんの額へと手を当てていた。

表情は見えない……けれど、その声には、どこか沈んでいるような気配があった。

そんな様子のまま、桜は声を上げる。



「……魂が、休眠した状態のままです……肉体のダメージが酷くて、魂が眠りについてしまったんだと思います」

「え? それって、どういう事なの……?」

「現代でも、大怪我をした人が、体は治っているのに意識を取り戻さない事がありますよね……あれは私に言わせると、魂が眠ったままなんです……」



 確かに、そういう話は聞いた事がある。

けど、お母さんがそれと同じ状態だって事……?



「じゃ、じゃあ……すぐには目を覚まさないって―――」

「いずれ目を覚ましてくれるんならいいんですけど……このままだと、肉体は徐々に衰弱していってしまいます。

現代のような優れた医療技術もありませんから、意識の無い人を長い間生かし続けるのは難しい……このままだと、衰弱死してしまうかも……」

「そ、んな……」



 間に合ったと思ったのに、そんな事って……お母さんまで死んじゃったら、あたしにはもう―――


 絶望と共に、あたしは思わずその場に膝を着く。

どう声を掛けていいのか分からず視線を右往左往させている桜や、部屋の隅でじっとお母さんの事を見つめている誠人も……皆、何も出来ないままだった。

と―――そんな時、唐突に部屋の扉が開いた。

その音にあたしは咄嗟に振り返り、そこにあった姿に思わず目を見開く。



「―――フリズ」

「え……お、おっちゃん?」



 戸口に立っていたのは、アルバートのおっちゃんだった。

おっちゃんはあたしたちを見、それからベッドで眠るお母さんの姿を見てから、部屋の中に入ってくる。



「状況は? どうなってる?」

「ど、どうなってるって―――」

「カレナさんを狙ってきた男は、フリズが追い返した。だが、その時に受けた傷が原因で、カレナさんは眠ったままの状態だ……もう、目を覚まさない可能性まである」

「ッ……そうか」



 状況を端的に説明した誠人の言葉に、おっちゃんは俯いて唇を噛む。

かく言うあたしも、改めて言葉にされたその内容に、再び衝撃を受けていた。


 お母さんが、目を覚まさないかもしれない。

もしかしたら、このまま死んじゃうかもしれない。

お父さんと同じように……そして、前世の両親と同じように、もう二度と話す事が出来ないかもしれない。

けど―――



「……ッ!」



 がん、とあたしは床を殴りつけた。

その音に驚いた皆があたしの方へと視線を向けるけれど、今はそれを気にしている場合じゃない。


 あたしは決めたんだ、たとえ奪われたとしても取り戻すって。

もう目覚めないかもしれない事を嘆いていても意味は無い。何としてでも、お母さんを目覚めさせる方法を探さなきゃ!

とりあえず、今出来る事は―――



「誠人! お母さんをシルフェリアさんの所まで運ぶわよ!」

「何……? いや、待て……成程、確かに有効かもしれないな。あの女なら、この状況でも衰弱しないように処置する事が出来るかもしれない」

「本当か!?」



 誠人の言葉に、おっちゃんが目を見開く。

確信がある訳じゃないけど、あの人に出来なかったら他の誰にも出来ないだろう。

だったら、あの人に賭けるしかない。

最悪、体を作ってもらう方法だってある訳だし……無茶苦茶な借金を負う訳だから出来ればやりたくないけど。



「とにかく、さっさと―――」

『あー、フーちゃーん? 聞こえるー? こちら、いづなやでー』

「―――って、いづな!? 何よ、この忙しい時に!」

『あ、まだ戦闘中やったん? ごめん、そんなら後で―――』

「いや、戦闘は終わってるんだけど……」



 お母さんの方へと視線を向けながら、あたしは小さく呟く。

覚悟を決めたけれど、ショックなものはショックなのだ。

そんなあたしの声音から何かを察したのか、口調を鋭いものに変えていづなが問いかけてくる。



『……何かあったん?』

「敵は、撃退したんだけど……お母さんが、目を覚まさなくて」

「魂が、眠りについています……状況は違いますけど、ジェイさんと似たような感じです……」

『……そか、分かった。ちょいと待ってな』



 そう言ったまま、いづなの声が途切れる。

向こうでも何かあったのかしら……そう言えば、あたし達が出てからどれぐらい経ったんだっけ?

かなり急いでたから、いまいち時間の感覚が無いけど。



「お、おい、フリズ? お前ら、誰に向かって喋ってるんだ?」

「あ、あー……えーと、特別な魔術式メモリーで仲間と話してるだけだから」

「そうなのか……便利な物もあるもんだな」



 まあ、《神の欠片》の事を一から説明するのも面倒だし、ここはそう誤魔化しておこう。

ん? っていうか―――



「おっちゃん達は何してたのよ?」

「……そう言われると、立つ瀬が無いんだがな。俺達は住民の避難を優先した。

あの野郎と戦うのはカレナに任せてな……済まん、本来ならば俺達が率先して戦うべきだったんだが―――」

「……別に、怒ってないからいいわよ。騎士隊の皆じゃ、あいつには勝てなかったと思うし」

「それはそれで辛辣だぞ、お前」



 あたしの言葉に嘆息して、おっちゃんはお母さんの方へと視線を向ける。

多分だけど、自分達がいれば、お母さんがここまで傷つく事は無かったとか思っているんだろう。

けれど言ってしまえば、おっちゃん達ではあいつの相手にはならなかったと思う。

回帰リグレッシオンを使えるようになったあたしだからこそ、あいつを圧倒する事が出来たけど―――騎士隊の皆じゃ、時間稼ぎ程度にしかならなかったと思う。



「でも……」

「うん?」

「お母さんの力は、あたしが受け取ったから……だからもう、お母さんは昔みたいには戦えない。

だから、これからはお母さんを頼ってばかりなんてダメだからね」

「……バカ言うな」



 そう言うと―――おっちゃんは、大きなその手であたしの頭をぐりぐりと撫でた。

身長が縮みそうだからあんまり好きじゃなかったんだけど、でも何故だか落ち着く感じがする。



「俺は最初から、カレナの事も一市民だと思ってたさ。市民を護るのが、俺達の仕事だ」

「……うん。ありがとう、おっちゃん」



 こんな事になってしまうなんて、思いもしなかった。

お父さんの仇を討ったお母さんは、もう戦いを離れて平穏に暮らすんだって、そう思ってた。

……やっぱり、この世界は残酷だ。

この世界を造った神様とやらは、最初からこんな風に造ったの?

救われない結果ばかりを生み出してしまうような世界を、貴方は望んだというの?

だったらあたしは、貴方を赦さない。そんな、人間に殺される程度の無能な神ならば―――



『―――フーちゃん、お待たせ』

「っと……はい、聞こえてるわよ。何してたの?」

『あー、ちっと大事になって来てて……今回、ディンバーツ帝国はグレイスレイド領内の街にまで手を出したやろ?』

「ええ、そうね」



 東の端っことは言え、この街もグレイスレイドの領内だ。

って事は、あの帝国はリオグラスとグレイスレイド、二つの国に喧嘩を売ったって事?



『煉君の話を聞いてみた感じ、カレナさんを襲ったんは、決してそいつの独断専行って感じやなかった。

一応やけど上の許可を取って、その上で動いとる感じやったやろ?

ほんなら……ディンバーツは、リオグラスとグレイスレイドっちゅー、二つの大国を相手にする準備があるって事や』

「それって……戦争になるって事?」

『まず間違いなく、そうやろうね』



 戦争……でも、このタイミングで、しかも二国を相手に?

いくら巨大な国だからと言って、そんな事が出来るのかしら?



『状況はよう分からんけど、もしも沈黙を保っていた三十年間、帝国がずっと富国強兵に努めて来たんやったら……』

「っ……!」



 成程、それは確かに脅威だわ。

国力を高めて、兵士の質と量を高めて……三十年もあれば、いくらでも戦争の準備が出来る。

けど、何でこのタイミング?

邪神の事件の事を深く知っているんだったら分からなくもないけど―――



「いづな、少し気になる事がある」

『まーくん? どないしたん?』

「今回カレナさんを襲撃した相手……あれは、かつてベルレントにいた星崎和馬だった」

『何やて?』



 頭の中に響くいづなの声に、硬い物が混じる。

いづなにしてはちょっと過剰な反応の気がしたけど……どうかしたのかしら。

ともあれ、いづなはしばし沈黙した後、再び声を響かせた。



『了解や。ベルレントの方も調べとくように伝えとくで』

「ああ……だが、奴も帝国の軍服を着ていた。ベルレントからは離れているような事も言っていたぞ」

『……そか。ほんなら、まあ一応は安心やと思うけど』

「……そうも言ってられないと思うけど」

『フーちゃん?』



 あいつの姿を思い出し、あたしは小さくそう呟く。

まあ、あたしのそんな声もミナの能力はきちんと拾っていたのか、いづなはしっかりと聞き返してきたけど。

とりあえず、別に隠すような内容でもないので、肩を竦めながらも声を上げる。



「星崎の奴……邪神の力を使ってたわ」

『な……!?』

「凄まじい再生能力だったし、あたしじゃなかったら勝てていたかどうか分からない。

あいつの事を回収しにきた蓮花も、邪神の力を持ってるみたいな事を言ってたし……帝国って、何か妙な事やってるんじゃない?」



 確証は無いけれど、正直怪しい物だとは思う。

姿を現した帝国側の人間が、両方とも邪神からと思われる力を得ている。

これは異常なことだ。もしかしたら帝国側にも邪神に詳しく―――いや、それどころか邪神に手を出している者がいるのかもしれない。



『とにかく、一端王都に召集される事になってもうたから、出来るだけ早く帰ってきてな』

「分かったわ。お母さんをシルフェリアさんの所に預けたらさっさと向かう」

『あー、成程な。分かった、うちの方からも姐さんには話を通しとくさかい、急いでなー』



 そこまで言った所で、いづなの言葉が途切れる。

聞こえなくなった事を確かめてから、あたしは深々と息を吐き出した。



「……この間大騒ぎしたばっかりだって言うのに……二週間ぐらいしか休んでないじゃない」

「敵は待ってくれないと言う事だろう。とりあえず、カレナさんは俺が運ぼう」

「お願い。桜はあたしと一緒に周囲の魔物の警戒かしら……おっちゃんはどうする?」

「俺も付いて行きたい所だが、生憎とまだ街が混乱してるからな。そっちの指示を出さなきゃならん。カレナを任せたぞ、お前達」



 おっちゃんの言葉を受けて、あたしたちは頷く。

そうしてあたしたちは、慌しいままにファルエンスを後にしたのだった。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:IZUNA》











 フーちゃんとの通信を終え、うちは深々と息を吐きながら椅子に沈み込むように座っとった。

ホント、ようやく平和な暮らしが出来るかと思ったんやけどなぁ……ここしばらく、波乱万丈すぎるやろ。



「いづな、だいじょうぶ?」

「あー、だいじょぶだいじょぶー……やとええんやけどねぇ。流石に、戦争ともなると気苦労が絶えんて」



 国の中枢に関わるようになってもうたこのタイミングでこれや。

まあ、まーくんの話では相手方に邪神が関わっとるみたいやし、二つの意味で無視する事は出来ひん。

しっかし―――



「あー、分からんなぁ」

「何がだよ、いづな?」

「お、煉君帰りー……分からんのは、帝国が攻めてくる理由や」



 ギルベルトさんと少し出ていた煉君が戻ってきたんで、うちはそちらへと視線を向ける。

投げ掛けられた問いに返答を返しつつ、うちは小さく嘆息しながら肩を竦めた。

そんなうちの言葉に、煉君は首を傾げる。



「理由って……そりゃ、土地が欲しいからとかそういうのじゃないのか?」

「その辺を適当にこじつけてやって来るんが普通やけど……このリオグラスの土地が、そこまで欲しいモンとは思えへんのや。

特に、あんな土地のあるこの国はな」

「……ああ、ゲートの事か」



 そう……この国には、無限に魔物を吐き出してくるゲートと言う土地がある。

今でこそ上手く運営出来てはいるんやけど、一度バランスが崩れてまえば、大量の魔物が地上に解き放たれる事にもなりかねん。

そんな爆弾みたいなモンを、態々刺激しようと思う理由が分からへんのや。



「邪神の力を操っとった連中ってのも気になるし……疑問だらけや」



 邪神の力……即ち、負の側の天秤に乗っている力や。

元を正してみりゃ、うちらの《神の欠片》と同じモンといっても過言ではないはずやね。

それを、どうやって扱ったのか。ベルレントで見た時の勇者君には、そんな力は無かった筈や。

ほんなら、帝国に属する何者かが、何らかの方法でその力を彼に与えたっちゅー事になる。

果たして誰が、何の為にそんな事をしたのか。



「うだー、分からん」

「……まあ、現状の情報じゃ判断できないんじゃないか?

変に先入観持つよりは、別の事考えてた方がいいだろ?」

「んー……せやね。いい事言うなぁ」



 確かに現状やと、何か考えた所で確かめる手段もあらへん。

変に先入観を持ってまうと、事実に直面した時に思考が止まってまうかもしれへんからね。

現状判断できひん事は考えん方がええやろ。



「それで、今後はどうするんだ?」

「ミナっち通信で、とりあえず王様には連絡取ったから、また王都に行く事になるやろうね。

それから、グレイスレイドの聖女様とも連絡はついた。今回は向こうも当事者やし……会談が必要になる筈や」



 まあ、敵の刺客が国内まで入り込んどる状況で、国のトップ同士が顔を合わせるとは行かへんやろうけど。

もしかしたら、そっちの方に付いて行く羽目にもなりかねんな、これ。



「……とりあえず、うちらの仕事は邪神の力を持つ者たちの排除、っちゅー事になると思う」

「つまり?」

「煉君は、水淵蓮花と戦う事だけ考えとれば大丈夫や」



 彼女がその力をもっとって、その上で敵やと言うんなら……まず間違いなく、煉君を狙ってくるやろうからね。

そんなうちの言葉に煉君は目を見開いて―――それから、嬉しそうに笑っとった。

うーむ、まーくんとあの魔人みたいな状況やね。



「……了解だ。とりあえず、また戦いになるって事だろ?

その方が強くなれるし、俺達が追い求める物へも近づいて行ける。さっさと当面の目的を果たして、俺達の願いを掴もうぜ」

「んー、ポジティブ思考やねぇ。ま、その方がええけど」



 思わず、苦笑してまう。

せやね。エルロードによって与えられたうちらの使命は、当面の目標でしかない。

煉君が掲げた願いは、その先にあるモンや。

そしてそれを目指すんやったら、こんなんはただの障害物に過ぎんと。


 ホント、煉君らしい言い方や。



「さて、忙しくなるなぁ」



 戦いの作戦を立てなあかんし、今後の方針も考えなあかんし……やっぱり、仕事は楽やあらへん。

せやけど、やっぱりやり甲斐はある。


 今後の戦いに思いを馳せ、うちは小さく笑みを浮かべとった。











《SIDE:OUT》





















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