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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
115/196

109:鍛冶場にて

「さあ、再び運命の歯車は回り出す。悪いが、休む暇はそれほど与えられないよ」










《SIDE:IZUNA》











 あー、面倒やね、これ。

刀の造り方を教える事になったうちは、まず鉄の作り方から入らなあかん事になった。

現代の製鉄、あるいはこの世界で使われているのとも違う、砂鉄から鉄を作り出す方法―――即ち、たたら製鉄や。

大量の砂鉄と炭を使わなあかんこの方法は、実際非常に面倒や。

まあ、玉鋼を作る工程としてはどうしても必要なモンなんやけど……どうしても面倒なんで、普段のうちは、最初からミナっちに使用可能な状態で創り出して貰っとる。


 玉鋼っちゅーのは、含まれる炭素の量が1パーセント程度まで少なくなった鋼の事を指す。

炭素が多く含まれる鋼は硬くはあるが、その分だけ砕けやすいんや。

せやから、折れるは駄刀、曲がるは良刀と言われる。


 まあ、今回は玉鋼の製造方法だけを解説して、あらかじめ完成したモンを持って来たんやけど。

あんなもんやっとったら時間かかりすぎてしゃあないわ。

さてと……槌やふいごもちゃんと用意してあるみたいやね。



「んじゃまあ、行くでー」



 玉鋼を砕いて積んだテコ鉄を、水を浸した紙で包み、脱炭するのを防ぐ為に藁灰を全体にまぶす。

さらにその上から粘土を溶いた泥水をかけ、ようやく火床に突っ込む訳や。



「……」



 能力を使いつつ、取り出す際の最適なタイミングを計る。

さて……そろそろやね。



「ほな、ガラムのおっちゃん、出番やで」

「何?」

「そこの大槌持ってこっちに来て。そいつで、うちが取り出した玉鋼を打つんや」

「お、おう!」



 普通の刀鍛冶は、大体三人一組ぐらいでやる。

まあ、おっちゃんはニヴァーフやし、一人でやってもそこまで疲れへんとは思うんやけど。

ちなみに、うちがやる時は、シルフェ姐さんに貸して貰った単純作業用の人造人間ホムンクルスを使っとる。

それにフーちゃんが加わっての三人一組となる訳やね。



「よし、ほな始めや。あんまり力入れすぎて砕かんようにな」

「おう、任せとけ!」



 言って、おっちゃんは槌を振るい始める。

ちなみにこれ、普通の人がやると力が足らんどころか、狙った所に振り下ろすのも難しかったりもするんやけど……流石は職人種族、問題はなさそうやね。


 おっちゃんが大槌の鍛打で玉鋼を延ばし、うちが普通の槌で形を整えてゆく。

玉鋼が冷えて来てもうたら、また火床に入れて沸かす―――これを繰り返すんや。



「おっちゃん、よう見とき。盗むんは何も、打ち方や沸かす時間だけやないで?」

「何?」



 槌を振るうおっちゃんに、他には聞こえない程度の声音で声を掛ける。

重要な要素はいくつもあるんや、これが。



「例えば、火花の飛び散り方、例えば打った時の音―――いい感じになってきた時には、色々と変わるモンや。

せやから、しっかり様子は観察しておく事やで」

「成程……奥が深いな」



 感心したように頷いたおっちゃんを一端止め、たがね―――まあ、でっかいのみみたいなモンを取り出す。

それを、湧いた状態の玉鋼の中心へと押し当てた。



「はい、おっちゃんこれ打ってな」

「い、いいのか?」

「はよせい」



 まあ、剣を造ってるつもりなんに、突然その刀身と思われる部分に溝なんか入れたら驚くかもしれへんけど。

とにかく、おっちゃんに打って貰って、玉鋼に溝を入れる。

そしたら、表面についてる酸化した鉄を振り払った上で、鏨を入れた逆方向へと打ちながら折り曲げるんや。

これを繰り返す事で、刀は何層もの鉄を折り重ねた構造へと変化してゆく。



「よっと……うし。これが重要な作業やで。普通は、これを十五回繰り返すんや」

「十五回か……また、大変な作業だな」



 2の15乗。実に32768層もの鉄が折り重なる事になる。

これだけの手間を掛けるからこそ、日本刀は世界最強の剣と呼ばれるんや。

さてさて、どんどんやってかなあかんね。



「しかし嬢ちゃん、良くその若さでこれだけの技術を手に入れたもんだ」

「まあ、好きな事はそれだけ頑張れるって事やね」



 半ば逃避じみた形で始めた刀鍛冶やけど、それからはのめり込むようにやっとったからなぁ。

うちも、あの家は嫌いやったけど、刀を打っとる時間だけは嫌いにはなれへんかった。

何かを造ると言うこの工程―――うちは多分、これに途方も無いほど魅力を感じとるんやろう。

せやから、こんなキツイ作業やって、喜んでやる事が出来るんや。


 打って延ばし、鏨を入れて折り曲げる。

一度延ばすんやって、結構な時間がかかる。そしてこの熱の中でずっと槌を振るい続けなあかんから、体力の消耗も激しい。

せやから、本当なら一日中ずっとやっとるなんて事は不可能や。

うちの場合、体力回復の魔術式メモリーを刻んだ装飾品を付けとるから、まだマシってだけや。

ま、体力的に考えて、今日は芯鉄を入れる作業の寸前まで程度は出来るやろ。

芯はミナっちに頼んでそのまま創って貰った訳やし、明日には焼入れまで行ける筈やね。



「おーいお嬢! 俺達にもやらせてくれよ!」

「ガラムさんがええっちゅーたらなー」

「ハッ、十年早ぇな!」



 と、言う事らしいで。

まあ実際、本当に腕のあるような人達は、黙ってうちらの作業を見つめとる。

何が何でもうちの技術を盗もうって訳やね。ま、それに関しちゃええ心がけやと思う。

せやけど、気をつけてもらわなあかん事もあるな。



「ま、盗むのは自由やからしっかり盗み。せやけど、盗んだらあかんものもあるで?」

「ほう? そいつぁ何だ?」

「最後の焼入れの作業の時や。熱した刀を冷やすために水を使うんやけど、この水の温度だけは企業秘密。

それぞれの刀匠が己で見出すべきモノや。もし手ぇ突っ込んだりしたら、その場で斬り落としたるからな」

「……おっかねぇな、オイ」



 うちの口調に、冗談やない事を感じ取ったのやろう。

実際、それをやって腕を落とされた刀匠もいるらしいし。

警告の意味でも、しっかり言っとかなあかん。



「当たり前やろ? 他の技に関しちゃ、どれも一朝一夕で手に入れられるモンやない。

それぞれ見て盗んだ上で、更に己の力で磨いていかなあかんモノや。

せやけど、水の温度なら、覚えさえすりゃ誰だって真似できてまう……せやから、これだけは教えられへん」

「……本気って訳か。了解だ」



 何の努力も無く研究の成果を真似されてもうたら、屈辱以外の何物でもあらへんしな。

まあ、うちは能力っつー反則手段を用い取るわけやし、偉そうな事言える立場って訳やないんやけど。



「ま、うちも折角出来た弟子みたいな人達の腕なんぞ落としとうないからな。くれぐれも変な気を起こすんやないで?」

「……分かった」



 とりあえず、うちの本気さ加減は伝わったみたいやね。

元々、刀鍛冶の様子なんちゅーんは、他の人間には見せんような門外不出のが多い。

こうやって見せて盗ませとるだけでも、十分特別な措置なんやで。

これ以上軽々と真似されたら堪らんわ。



「また鏨を入れて、と……うん、ええ感じやね。おっちゃん、初めてにしちゃ上手いと思うで」

「ま、鉄を打つ事自体は、俺も気が遠くなるほどやってきた事だからな。力加減なら理解してるぜ」

「せやね。やっぱり分かっとる人は違うなぁ」



 フーちゃんはこの辺り手伝ってくれへんからなぁ。

まあ、あの力を使って貰えるだけでも相当助かってるんやし、そこまで注文増やすつもりもあらへんけど。

そもそも、うちがかなりの速さで刀を造れるんって、ミナっちとフーちゃんの助けがあってこそやからなぁ。

普通にやっとったら、どうした所で時間がかかりすぎてまう。



「うーむ……改めて恵まれとったんやなぁ、うち」

「ん? どうかしたのか?」

「や、何でもあらへんよ。ほい、次行くでー」



 沸かし、打ち、延ばし、折り重ね―――それを幾度と無く続けてゆく。

この作業で二つの金属を刃と峰で使い分けるんは、結構難しい作業工程になるやろうなぁ。

芯だけならそれほど難しくもないんやけど、これは中々大変や。

何せ、二種類の金属やから強度が全然違う。均等に打って行くのは中々大変や。


 オリハルコンは溶け辛く、魔術式の火やと弾いてまうから、加工は物凄く難しい。

うちはフーちゃんという反則技があるから簡単に加工できとるんやけど、通常やったらまず鍛造でオリハルコンを加工するんは不可能や。

熔鉱炉かなんかで熔かしでもせん限り、オリハルコンの形を変える事は難しいからなぁ。


 一方、ホーリーミスリルは貴重なだけで加工はそこまで難しい訳やない。

熱を通さん訳でも無し、特別硬い金属と言う訳でもない。

まあ、ここまで強度の違う金属やと、冷やし方を気をつけんと妙な形に曲がってまうかも知れへんから注意やね。

その辺りは能力使いつつ、フーちゃんに細かい指示を出しながらやれば大丈夫やと思うけど―――我ながら、本当に反則的な技術やねぇ。


 と、そんな事を考えながら打っとった時、後ろの方から別のニヴァーフの声が響いた。



「おーい、お嬢! 旦那が来てるぜ!」

「ほーい。今ある程度までやってまうつもりやから、ちょっと待つように言うとってー。

それと、うちはフーちゃんやないから、自爆させようとしても通じんでー」

「りょーかい。つまんねーなぁ」



 フーちゃんが面白すぎるだけやって。

今のは、単純に『剣士の旦那』とかそういう意味で言っとっただけや。

これがフーちゃんやと、『誰が誰の旦那だー!』とか盛大に墓穴を掘ってまうんやろうけど。

うーむ。フーちゃん、煉君にちょっかい出されるようになってから本当に面白……もとい、可愛くなったなぁ。

煉君も見てる分には楽しい性格しとるし。



「標的にされたら堪ったもんやないけどなぁ」



 あそこまで積極的かつ情熱的にやられると、意思の弱い子やったらあっさり押し切られてまうやろう。

まあ煉君も、性格の一面除けば悪い男やないし、そこまで悪い物件って訳やないんやけどな。

とりあえず浮気を容認出来る大らかさは必要やと思うけど。

煉君の性格からして、元から一夫一妻は合っとらんしなぁ。

まあ、煉君はうちにちょっかい出す気は無いみたいやけど。



「せやけど、あの認識は何なんやろ……」



 煉君曰く、『お前や桜は誠人のモノだから手は出さないさ。気に入り過ぎないように注意する』だそうで。

何、そういう風に見えとるん、煉君のフィルター越しやと。

さくらんはともかく、何でうちまで。



「んー……」



 うちにとってのまーくんは、やっぱり『相棒』や。

煉君が言っとるような意味でまーくんを必要としとるのはさくらんの方やろう。

それば、うちがまーくんを必要としとらんっちゅー訳やないけど。

何ちゅーか、必要とする立ち位置が違う感じや。

さくらんは、隣を歩んで欲しいと思う感じ。それに対しうちは、背中合わせで立って欲しいと思うような感じや。

互いに対等で、共に助け合える存在……うちが望んだんは、そういう形や。

やっぱり、伴侶になるとかそういうんはちょっと違う感じ―――



「オイ、嬢ちゃん。何一人でブツブツ言ってるんだ?」

「おっと、ゴメンな。ほな、さっさと今日の分は仕上げてまうよー」



 うむ。考え事しながらでも仕事はきっちりこなしとったみたいやね、うち。

身体に染み付いた動きっちゅーのは中々落ちないもんや。

まあそれでも、ボーっとしとったら怪我する場面なんやし、気は引き締めんとね。

ほな、今日のノルマをさっさと仕上げてまおうかな。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:LENKA》











 血のような黄昏。

日の沈みつつある荒野に吹き上がるのは、空の色にも似た紅い血。



「オラァッ!」



 鈍い音が響いて、白い鎧を着た男がひしゃげながら吹き飛んでゆく。

その様を眺めつつ、アタシは小さく肩を竦めていた。

野蛮よねぇ。ま、激しいアクションは見てて楽しいけど。


 甲冑を纏った騎士をぶっ飛ばしたのは、ライダースーツのようなものを身に纏った、黒髪オールバックの男。

腕は立つ……けど、無駄に粗暴。口より先に手が出て、手よりも先に足が出る。

何か、アタシの従者って事で付けられたんだけど……どうしたもんかしらね、コイツ。

まあ、基本邪魔にはなってないけど。



「あんまり遊んでんじゃないわよー」

「わぁってるさ。俺様だって、こんなザコばっか相手にしたかねぇよ」



 本当に分かってるのかしらね。

本気出せば、こんな騎士団程度一瞬で殲滅できるくせに。

正直な所、アタシだって本気のこいつとは戦いたくないわよ。

まあ、勝てるけど。



「全く、さっさと終わらせなさいってば」



 そんな事を言ってる間に、一人抜けてきちゃったじゃない。

小さく嘆息を吐き出しつつ、アタシはホルスターから銃を抜いてその騎士の眉間を撃ち抜いた。

血を吹き出しながら倒れるその姿に肩を竦めつつ、アタシは従者へと視線を向ける。



「ほら、あたしの手を煩わせるつもり?」

「チッ、しゃぁねえな」



 男は舌打ち交じりに重心を低く構え―――次の瞬間、その体がぶれた。

高速で直進したその一撃が、直線上にいた騎士達を撥ね飛ばし、砕け散らせる。

まあ、真面目にやるようにはなったみたいだけど、全然本気は出してないわね。

何でも、宿敵以外には本気を出さないらしいけど……んー、まあ気持ちは分からなくもないかな。

アタシも、煉が相手だったらそんな事考えるかもしれないし。



「さてさて、さっさと仕事しますかねー」



 あの復讐バカはこの仕事には興味が無かったらしく、こっちには来てないし……アタシが頑張らないといけないのよねぇ。

あー、だるいわ。何で仕事がこんなにあるのかしら。

これが無ければさっさとニアクロウに遊びに行くのに。



「指揮官指揮官、と……まあ、普通は後ろの方でふんぞり返ってるモンでしょうけど―――」



 ミンチになった死体を踏み越えながら、鼻歌交じりに歩いてゆく。

標的がどこにいるかは分かっている。

さぁて、さっさと仕事を終わりにしますかねー。

お、いたいた。



「君は……っ! その軍服は、まさか―――」

「こんにちは、リンディオ・ミューレ将軍。地獄のお迎えが来たわよー、ってね」



 ―――見えてきた銀髪眼鏡の男に対し、アタシは静かに笑みを浮かべていた。











《SIDE:OUT》





















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