107:出逢いと別れ
そして、一つの狂気が動き出す。
《SIDE:REN》
「ったく、アンタ達は! いくら術式銃があんまり知られてない武器だからって、王都でポンポン発砲してんじゃないわよ!」
「……ねぇ、何でアタシまで怒られてるの?」
「さあ……フリズだからとしか」
「そこ、私語は慎め!」
いや、そこっつーか俺達しかいないだろ。
俺と蓮花は今現在、孤児院―――つまり教会の庭で二人並んで正座させられつつ、仁王立ちするフリズから説教を受けていた。
うーむ、コイツやらいろんなことに配慮して、ちゃんと殺さなかったんだがな。
「大体ね、あたし達は王女様の護衛としてくっ付いて来てるのよ!?
それなのにこの国の人にポンポン攻撃していい訳無いでしょうが! せめて発砲しないで殴り倒すとかにしなさいよ!?」
「いや、それってアタシは関係な―――」
「うっさい!」
唇を尖らせて抗議する蓮花の言葉を一蹴し、フリズはなおも説教を続ける。
気付かれないように二人して嘆息しながらも、俺達は横目で視線を交わしていた。
まあ、俺は慣れてるからいいんだけど……コイツは大丈夫か?
見た感じ、あんまり気にしていないようではあるけど。
「別にあたし達だけの時は、まあ殺さないんだったらいいけど……でも、責任背負ってる時に安易な事すんじゃないわよ!」
「だからアタシ―――」
「諦めろって、多分聞こえてないから」
嘆息しつつ、そう呟く。
何かこう、生き生きと説教してるよなぁ、コイツは。Sか?
でも追い詰められた時の反応って結構楽しいし……しかもそういう時もこいつは結構楽しんでたりするし。
うーむ、どっちなんだろうか?
「中々愉快な仲間がいるのねぇ、煉」
「まあ、確かに愉快だな、コイツ。迫ってやると真っ赤になって襲い掛かってきたりするし」
「ほほう……ふーん、成程成程ぉ」
フリズに聞こえないように小声でそう告げると、蓮花は何やら楽しそうな笑みを浮かべた。
さらに蓮花は俺、フリズ、そしてミナへと視線を向け、何やらしきりに納得したように頷いている。
そして―――
「こんな美少女二人も手に入れるなんて、貴方中々やるのねぇ」
「ぶッ!?」
「お、分かるのか?」
「そりゃもう。気に入ったモノは手元に置いときたいもんでしょう?」
「なッ、なななな……な、何でっ!?」
あー、成程。コイツは俺の同類か。
真っ赤になって動揺するフリズをニヤニヤした笑みで見つめながら、蓮花は更に続ける。
「説教されてる時はちょっとなーと思ったけど……成程、これは可愛いわ。結構いい目をしてるのね、煉」
「フリズは面白い奴だからな。俺も、結構気に入ってるぜ」
「な、な……何言ってんのよアンタ達はぁぁぁあああッ!?」
おお、爆発した。何か、最近よく見る光景だな。
とりあえずいきなり危害が及ばない程度に距離をとりながら、俺は蓮花の方へと視線を向ける。
どうやら蓮花は俺と同じく、気に入ったものは自分の物にしたがるというタイプの人間らしい。
最初から妙に気が合うとは思っていたけど……何つーか、まるで俺を女にしたような奴だ。
「うんうん。アタシは女だけど、こーゆー子を友達にしたら楽しそうだわ。ねえ煉、ちょっと貸してくれない?」
「それは無理だな。お前だって、同じ事言われたら出来ないだろ?」
「あー……成程、煉もアタシと似たような感じなのか。そりゃ無理だわね」
「まあ、仲間内だったら貸すぐらいならいいんだけどな」
「あはは! それ勧誘のつもり?」
「さあ、どうだろうな?」
蓮花の事は結構気に入ったし、俺は割と本気で勧誘したいと思っている。
けどまぁ、流石にいきなり俺のモノにしたいと言うほどではないし、無理に連れて行くつもりもないが。
と―――そんな会話をしている外で、プルプルと震える小柄なポニーテールが一人。
「だから……アタシは誰の物でもないって言ってんでしょうがぁぁぁぁぁあッ!!」
いきなり大噴火したフリズが、まさにそんな感じの顔色で、拳を握りながら俺達に襲いかかってくる。
まあ怒りで動きが単調になってるおかげか、割と避けやすい正直な軌道ばかりだったので、ひょいひょいと躱していく。
「どうどう、落ち着けってフリズ」
「あたしは馬か!」
「確かに馬の尾ね」
「そういう事言ってるんじゃないっつーの!」
うーむ、やっぱりコイツはからかうと楽しいな。
いつもと違って標的が二人いるためか、攻撃が中々定まらず、ちょっと涙目になって来ている。
「あ、やばいわ。真面目に可愛いわねこの子」
「同じぐらいの年頃だと思うぞ。ちっこいけど」
「アタシも小柄だけど、確かにちっこいわね」
「ちっこいゆーな!」
がー、と叫びながら襲い掛かるフリズをいなしつつ、俺達はフリズの事を笑いながら観察していた。
ミナはいつも通りの無表情で観察しているので、助け舟を出すつもりもないらしい。
と―――そこで、いづな達がようやく、教会の中から姿を見せる。
「おん? 何遊んどるん?」
「遊んでないわよ!」
「……あー、成程」
若干涙目で叫ぶフリズの様子に、いづなは納得したように頷いた。
便乗してくるかとも思ったが、流石にそろそろ限界だと思ったのか、肩を竦めてフリズを宥めにかかる。
「まあまあ、ええやないかフーちゃん。愛されとる証拠やで?」
「こんな愛いるか! もっとこう、ミナみたいに優しい感じで!」
「……一々地雷踏みに行く辺り、フーちゃんはホントにかわええなぁ」
色々と間違えているというか何と言うか……とりあえず、頷きつつ俺は声を上げた。
「成程、ああいう包み込むような感じがいいのか」
「今度やってあげたら、煉?」
「むぎー!」
まあ、実際やったらこいつは憤死しそうな感じではあるが。
……いや、案外大人しくなるか?
結構流されやすいタイプだし、この前みたいに強引な感じじゃなく、もっと優しい感じで攻めればいい訳か。
意外と乙女な所あるよなぁ、コイツ。
まあその辺り、前世やら今世で当たり前の幸せを得られなかった反動なのかもしれないが。
信念強く、折れようとも決して立ち止まらぬ強さと、その影にある少女らしさ―――そんな所か。
フリズは、俺のモノだ。
だからこそ、そういう幸せだって与えてやりたい。
己の腕の中に閉じ込めるのならば、それだけの覚悟を決めるつもりだ。
「で、そっちの人はどちらさん?」
いい加減フリズが落ち着きそうもなかったからか、いづなが話題を転換する為に蓮花の方へと視線を向ける。
その視線を受け、蓮花はにっこりと微笑んだ。
「アタシは水淵蓮花。ま、旅行者みたいなもんよ。それで、貴方は?」
「うちは霞之宮いづなや。あっちの方から歩いてくるんは、神代誠人に雛織桜……それとまぁ、この国の王女様やね」
本来ならそっちを先に言うべきじゃないのか?
まあ、そっちにはあまり興味を持ってないみたいだったけどな、蓮花は。
「ふむふむ……さっき妙に銃声が重なって聞こえたんは、アンタのおかげって訳やね」
「ま、そういう事ね」
蓮花の腰―――そこにある術式銃を見つめながら、いづなは頷く。
その視線を受けて得意げに笑いながら、蓮花もまた小さく頷いた。
「仲間に入れたかったんだが―――」
「生憎、アタシにも用事があるもんでね。結構気は合いそうだったんだけど……あはは、アタシとしてもちょっと残念だわ」
「ふーむ……ま、また機会があったら考えるって感じやね」
やっぱり、いづなはちょっと警戒気味な感じだな。
まあ、向こうの世界から来た人間を特に注意しろといったのはいづな自身な訳だし、最初から信じる訳にも行かないんだろうが。
そんないづなの言葉をどう取ったのかは知らないが、蓮花は小さく笑いながら声を上げる。
「あはは! そうね、アタシも貴方達……特に、あなたの事は気に入ったしね、煉。ここまで息が合う相手は生まれて初めてだったもの。
だから、出来るならまた会いたいわ」
「……そうだな。今後俺達はニアクロウを拠点にするつもりだ。あまり離れる事は出来ないと思うから、用があったらそこまで来てくれ」
「結構遠いわねぇ……ま、暇があったら寄ってみるわ。それじゃ、アタシはお先に失礼するわね」
言いつつ、蓮花はヒラヒラと手を振りながら踵を返す。
その背中に声を駆けたのは、俺達ではなく孤児院の子供達だった。
「えー、レンねえちゃんもう帰っちゃうのかよ!」
「もっと遊んで~!」
「んー、これ以上いるとお礼とか何とか言われて捕まりそうだしね。そうすると仕事に間に合いそうにないから、御免なさいね」
肩越しに振り返り、蓮花は申し訳なさそうな笑みを見せる。
仕事か……一体何をやってるんだかな。腕は立つようだし、傭兵なのかもしれないが。
と―――そんな事を考えていたその時、意外な事にミナが声を上げた。
「……レンカ」
「お? えっと……ミナちゃんだっけ?」
「ん……必ず、また会えるよ」
その言葉に、他でもない俺達が驚いて目を見開いた。
ミナが初対面の相手に声を掛けただけでも驚きなのに、こんな台詞が飛び出してくるとは。
しかしそんな俺達の驚きを知ってか知らずか、きょとんと目を見開いていた蓮花は、その顔に嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ふふ……そうね。それじゃ、AufWiedersehen。機会があったら会いましょう」
そしてそんな言葉を発すると、蓮花は今度こそ振り返らずに去って行った。
その背中を見送っていたいづなが、ポツリと小さく声を上げる。
「ふーむ……ミナっちにあんな言葉を貰えるっちゅー事は、悪い子やなかったみたいやね」
まあ、ミナに対してはまるで悪意は無かったのだろう。
それでも、初対面の相手にミナがあんな反応する所は見た事が無いが。
ミナの顔は、いつも通りの無表情だ。あの状態だと、何を考えているのかさっぱり分からない。
「水淵蓮花、か……」
水底に沈む蓮の花ねぇ。
俺と同じ妙な性癖を持ってるみたいだが……果たして、どんな奴なんだかな。
まあ、また会った時にでも話せばいいだろうが。
「さてと、それでは戻ろうか」
ボーっとあの背中を見送っていた俺達に、マリエル様の声がかかる。
いつまでもこうしていたって仕方ないからな……苦笑しつつ、俺は頷いた。
それに、ミナが言ったからって訳じゃないが、また会える気がする。
再会を楽しみにさせてもらうとするかな。
《SIDE:OUT》
《SIDE:LENKA》
「ふふふっ」
アタシは、上機嫌にフェルゲイトの街を歩く。
ちょっとした暇潰しのつもりだったんだけど、思わぬ出会いがあったわね。
「煉……九条煉、か」
小さく、彼の名前を呟く。
アタシと同じような名前を持って、アタシと同じような武器を使って、アタシと同じような思いを抱えていた。
ちょっと急いで出てきたのは、あのままあそこにいたら彼の事を欲しくなってしまいそうだったから。
「我ながら、厄介な性質よねぇ」
気に入ったものは己のモノにしたくなってしまう、強欲な性。
下手に他人を気に入ると面倒な事になるから、あまり深くは関わらないようにしてきた。
けれど―――
「あはは!」
―――彼ほどアタシが共感できた人はいなかったし、彼ほどアタシと共感してくれた人もいなかった。
それがたまらなく嬉しくて、彼と共に戦った時の一体感も素敵だった。
ふふ……もしかしたら、もう手遅れなのかもしれないわね、アタシは。
「煉、煉、煉」
ああ、まるで失っていた半身を見つけたかのような気分だ。
彼の名前を呼ぶだけで、欠けていた何かが満たされてゆくような気がする。
でも、足りない。まだ足りない。
だってアタシは―――欲張りだから。
―――ああ、やっぱり手遅れだ、アタシ。
彼を一目見た瞬間に沸きあがってきた感情―――あれが、アタシを支配して止まない。
あのノイズと共にアタシを満たした感情。
「ああ、煉。アタシ、貴方の綺麗なミナちゃんも、可愛いフリズも欲しいわ。
でもそれだけじゃダメ……貴方を、アタシのモノにしたい」
声に出す。そして、想いが固まる。
手遅れになってしまった事を確信し、けれどその熱い想いがあたしの心を昂揚させてゆく。
ふふ、あはは! やっぱり最高だわ、煉!
「アタシが奪ってあげる……それが嫌だったら、アタシを奪って見せて。だって―――」
―――貴方も、アタシと同じなんでしょう?
アタシと同じ想いを、抱えているのでしょう?
「ふふ、あははは……!」
ああ、本当に楽しみだ―――
「―――おい、遅いぞ」
「って……人が折角楽しんでるのに、邪魔しないでよ」
「フン、お前の事など知るか」
思いに浸っていたら、どうやらいつの間にか待ち合わせ場所に着ていたようだ。
こいつの辛気臭い顔なんか見てても面白く無いんだけど……まあ、仕事だからしょうがない。
さて、さっさと終わらせて帰るとしましょうかね。
何処まで仕事をやったら煉に会えるぐらいの暇が出来るのかしら。
「行くぞ、水淵!」
「はいはい……」
あーあ。こんなつまらない男なんかと一緒にいなきゃいけないなんて。
コイツの復讐なんか、アタシは全然興味ないんだけど。
はぁ……ま、さっさと終わらせますか。今日はまだ、本番じゃないんだしね。
《SIDE:OUT》