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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
リオグラス編:異世界の少年と創造の少女
11/196

09:戦う為に

彼が選ばれた理由。


それってただの欠点なのではなかろうか。










《SIDE:REN》











 風を切る音と共に、俺の前に布の塊が突き出される。



「―――ッ」



 俺はそれを、必死に目を閉じないようにしながら見続けた。

先日の依頼から数日。俺は、兄貴によって稽古をつけられていた。


 今やっているのは、物が飛んで来た時に目を閉じないようにする訓練。

適当に拾ってきた棒の先に布を巻きつけたものを、兄貴は俺の顔めがけて何度も突き出してくる。

まあ、訓練なのでこれは寸止めなのだが、届かないと思って気を抜いていると、たまにそのまま俺の顔面を痛打しようとしてくるから油断は出来ない。


 兄貴は槍使いと言うだけあって、その武器捌きは非常に鋭い。

目の前に突き出されたかと思えば、すぐさま切っ先は引き戻され、横薙ぎに首筋に突きつけられる。

油断を許さぬまま、兄貴は何度も俺に向かって棒を振るっていた。


 そして―――



「う、おっ!?」



 背筋に走った悪寒に従い、俺はとっさに首を傾けた。

瞬間、俺の頬をかすりながら布を巻いた棒が突き出される。

何とか攻撃を避けた俺を見て、兄貴は小さく笑みを浮かべた。



「ほぉ、ようやくマトモになったじゃねぇか」

「そりゃ、こんだけやればなぁ」



 兄貴の目を見続けている事で、兄貴が本気で突き出してくるかの判別はつけられるようになった。

癖とかそういうのではなく、単純に意気込みの違いだ。

攻撃する意思があるのと無いのでは、その目線やそこに篭められた意思に変化がある。



「ふん、まあ今日の所は合格だな。その感覚、忘れないようにしとけよ」

「了解……はぁ、疲れた」



 肉体的には殆ど動いてないが、精神的に。

木陰で昼寝してるリルが羨ましくなるな、全く。


 屋敷の敷地内なので見てる奴はいないと言う事で、俺はその場に寝転がった。

と、そこに、屋敷の方から声がかかる。



「ジェイ様、アルシェール様がお見えになられました」

「ん、そうか。すぐに行く」



 声の主であるリコリスは、兄貴の言葉に頷いて屋敷の中へと戻っていく。

俺は上半身を起こし、首を傾げた。



「アルシェール?」

「ああ、俺の古い友人だ。お前の武器を預けた相手だな。大方、鑑定その他が終わったんだろ」



 どうやら、例の魔術式使いメモリーマスターとやららしい。


 ここ数日で、俺はこの世界の様々な事を学ばされていた。

そしてその中でも、魔術式メモリーというものの説明は多かったのでよく覚えている。


 魔術式とは、この世界ヴェレングスにおける、所謂『魔法』のようなものらしい。

世界に刻まれた記憶だとかよく分からない説明を受けたが、とりあえずヴェレングス以外では発動させる事はできないらしい。


 基本的には本棚のようなものを想像すると分かりやすいんだそうだ。

その中の本の、一部の記述を取り出して読む事が魔術式の発生に繋がる。


 種類は第一位ファースト第二位セカンド第三位サード最高位ファイナルの順に強力になってゆく。

第何位というのが本棚の段、そこにある書物の内の一つを選び、必要な記述を探すと言う手順で読み上げるそうだ。

まあ、腕のいい魔術式使いの場合は第何位かだけで必要な魔術式を探し当ててしまうらしいが。


 また、特殊なものとして固有オリジナル終極レクイエムと言うものも存在するらしい。

固有は、持ち運びできる基点から一定距離内のみで発動する術者固有の魔術式。リコリスが使ってたのがこれだな。

で、終極は理論上人間の魔力量では発動できない、つまり命を消費する事になる魔術式を指すらしい。


 それと、物質に文字で魔術式を刻む事もできるそうだ。

基本的に固有魔術式オリジナルメモリーの基点となるのはこれで、高位の騎士や傭兵などもこういったものを装備している。

兄貴の持ってる装備は全てこれらしいな。

魔術式の刻まれた武器には『基本機能』と言うものが備わっており、これは魔術式を宣言せずとも自動で発動している術式を指すそうだ。


これを話す時の兄貴の表情が何か悔しげだったのは、何か印象に残ってる。

しかし魔術式の刻まれた武器や防具は非常に高価であり、駆け出しではそうそう手は出せない代物だそうだ。


 って言うか、良く考えたら俺が持ってる銃もこれなんだよなぁ。

そんな高価なもの持ってるのか、俺。



「おい、何してる」

「え?」



 ボーっとしながら色々と解説を思い出していた俺は、唐突にかかった兄貴の不機嫌そうな声に顔を上げた。

兄貴は少しこっちの事を睨みながら、嘆息しつつ声を上げる。



「今回奴に頼んだのはお前の事だろうが。お前が来ないと始まらん」

「あ、そうか……分かった、すぐ行く」



 頷き、俺も立ち上がる。

少し気になって横を見ると、リルは未だに昼寝の真っ最中だった。

まあ、今回はリルはいなくても大丈夫、かな?

少し気にしつつも、俺は兄貴に付いて屋敷の中へと戻って行った。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:JEY》











「はぁい、相変わらず無駄に元気そうね、ジェイ。それと、レン君だったかしら? 初めまして。私はアルシェール・ミューレよ」

「あ、ああ、どうも。九条煉……いや、レン・クジョウです」



 屋敷の客間。挨拶のお手本のようなものを交わしている二人を見て、俺は小さく嘆息を漏らした。

この小僧も、やはりアルシェの外見に毒を抜かれたらしいな。

前評判と噛み合わない見た目であると言うのは、自他共に認める所らしいが。


 アルシェは簡単な自己紹介を終えると、俺に視線を向けて声を上げた。



「それじゃ、とりあえずあの武器から説明を始めましょうか」

「ああ、頼む」



 俺の言葉に頷き、アルシェは持ってきたバッグの中から一丁の術式銃メモリーキャリバーを取り出し、テーブルに置いた。

それを見た小僧も、自身が持っていたもう片方を並べて置く。



「品物は術式銃、銘は背信者アポステイト。遥か昔、古代文明の時代の頃に作り上げられた魔術式メモリーが、貴方の持っていた武器に宿ったものね。

解読にはちょっと苦労したけど、どんな効果を持っているかも分かったわよ」

「ほう……それで?」



 先を促す。アルシェは肩を竦めると、片方の武器を持ち上げてその魔力カートリッジを取り出した。



「基本機能は《永劫否定エターナル・エンド》。取り込んだ魔力にこの魔術式を読み込ませて放つのがこの武器の特性ね」

「聞いた事の無い魔術式だな……どんな効果があるんだ?」



 俺の槍の《不死殺しの牙クルースニク》のように、一般に知られている魔術式ではない。

現在知られていない魔術式か、或いは古代に作られた固有魔術式オリジナルメモリーか。


 どちらにしろ、とんでもなく貴重な品だ。



「基本的には貴方のと同じ、不死殺しイモータル・ベインの効果があるわ。ただ、特殊な点が一つある」

「特殊な点?」

「この世に存在している時間が長ければ長いほど、より強力な威力を発揮する。簡単に言うとこんな所ね。

逆に言うとこの世に存在している時間が短いと効果が薄い……赤ん坊に撃っても石ころを軽く投げる程度のものよ」



 ま、最低威力での話だけど、とアルシェは小さく嘆息した。

だが、成程確かに強力な能力だ。邪神にすら通用する兵器と言っても過言ではない。


 思わず口の端に浮かんだ笑みを抑えつつ、俺はアルシェに続きを促した。



「で、この魔力カートリッジだけど、現代の人間でも魔力チャージは可能みたいね」

「はぁ、なら良かった。弾切れしたらずっと使えないんじゃ話しにならないもんな」

「あらレン君、安心するのはまだ早いわよ。このカートリッジ、一定以上の魔力を持ってる人間じゃないと魔力チャージが出来ないわ」

「……え」



 硬直する小僧に、思わず嘆息する。

まあ、その点ならばアルシェに依頼すれば問題は無いだろう……ただし、その都度とんでもない金を取られるが。

しかし、こいつの基準で『ある程度』となると、一流の魔術式使いでもなければ難しいかもしれないな。

また頭の痛い問題が浮上してきやがったな、ったく。



「ま、それはひとまず置いときましょうか。で、この武器なんだけど……追加であと少しだけ魔術式を刻めるわ」

「魔術式を? それって、兄貴の武器みたいな?」

「そうね。強力な一撃を放つ為の最高位ファイナルクラスを一つ、形態変化の為の第三位サードクラスを一つ。後は技としての第二位セカンドクラスをいくつかって所かしら。

一応、リクエストがあったら聞くわよ。この間の報酬は十分なものだったし、サービスしてあげるわ」

「ほ、本当か!? えーと、じゃあ……」

「別に急がなくてもいいわよ。今日はしばらくここにいるつもりだし、帰り際までに考えといて。それじゃ、次の説明ね」



 言いつつ、アルシェが取り出したのは、俺がこの間預けたジャケットだ。

ケルベロスの革を使い、ボタンと装飾にはクリスタルゴーレムの水晶を、そして肩にはエンシェントゴーレムの装甲を備え付けた品。

先程の背信者のようにもう二度と手に入らない装備と言う訳ではないが、これも結構貴重な品だ。



「はい、これね。ジェイの依頼通り、色々と魔術式を刻ませて貰ったわ。

内訳は《防御増強フォースフィールド》、《障壁:自動防御プロテクション・オート》、《強化:身体能力リーンフォース・フィジク》、《術式増強メモリーブースト》ね」

「また、随分と大盤振る舞いだな」

「折角の品だからね。私の魔力を水晶に封じてあるから、かなり長時間の運用でも問題は無いはずよ。魔力を持たない貴方でもね」

「うぐ……」



 そのアルシェの言葉に、小僧は一瞬硬直してからうなだれた。

自分が魔力を持っていない事が―――いや、正確に言えば魔力容量を持っていない事だが―――結構ショックだったらしい。

魔術式で戦うのなんぞ、俺からすれば面倒だから別に問題は無いと思うんだがな。



「で、最後がこれね」

「あ……俺のゴーグル?」

「さっきのと違ってあんまり大きくないから、刻めたのはほんの少しだけね。《強化:感覚能力リーンフォース・センス》と《熱源感知サーモグラフ》よ。

まあ、どちらの装備もそれ自体の強度は上げてあるからそうそう壊れないと思うわ」



 そして、そのゴーグルもまたテーブルに置かれる。

これで、小僧の装備は揃った訳だ。



「さて、じゃあ早速試してみましょうか」

「えーと……装備すればいいのか?」

「そうね、まずはそれだけ。それじゃ、見せて貰おうかしらね」



 アルシェの装備は、どんな物であろうと素人には手の出せない最高級品。

さてと、この小僧はこいつらを使いこなせるかね?











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 何と言うか、色々と予想外な事があった。

まず、兄貴の言っていた魔術式使いメモリーマスターが、俺とあまり変わらなそうに見える女の子だった事。

そしてもう一つが、いつの間にか俺の装備が整えられてた事だ。


 実際、俺が今身に纏っている物は何一つ特別なものは無い。

まあ、向こうの世界の品が特別かどうかと聞かれると微妙な所だけど。

不思議な力が無いと言う点では、銃以外に関しては全部普通の品物でしかない。


 まあ、実際力がある装備だって言うんならかなり助かる所だ。

そんな物、俺ひとりで手に入れようとしたってそうそう手が届かないだろう。


 だけど、兄貴は何でこんな凄そうなものを俺にくれるんだ?

背信者アポステイトに関してはまだ納得できなくも無いけど、この装備に関して俺は何もしていない。

兄貴は一体、何を考えてるんだ?



「レン君?」

「あ、ゴメン」



 アルシェールさんに促されて、俺はとりあえず渡された装備を身に纏った。

ジャケットとゴーグル……ジャケットは少し大きめな気がするが、着ている分には問題ない。

肩についてる装甲の所為かちょっと重いが、大丈夫そうだ。

ゴーグルについては見た目何も変わってない。



「ふむ、サイズは良さそうね。じゃ、魔術式メモリーのチェックするわよ。

最初はとりあえず、《強化:身体能力リーンフォース・フィジク》ね」

「ええと……?」



 チェックと言われても、何していいのかよく分からない。

魔術式を刻んだって言った短だから、それを読み上げればいいのか?



「えっと、リーン……?」

「『リーンフォース・フィジク』。はい復唱」

「リ、《強化:身体能力リーンフォース・フィジク》!」



 アルシェールさんの言葉に従い、そう唱えてみる。

瞬間、俺が着ていたジャケットの一部に、青白く輝く紋様が浮かび上がった。

だが、1,2秒ほど光っていた紋様は、すぐに消えてしまう。

ひょっとして、失敗なのか?



「ふむ、ちゃんと発動したみたいね」

「え、これでなのか?」

「自覚無いのかお前は……そこのソファーでも持ち上げてみろ」



 呆れを交えた声で、兄貴はさっきまで俺が座っていたソファーを示す。

高級品なのかどうなのかは分からないが、黒くて重そうな奴だ。

半信半疑ながらも、俺はそれを両手で抱え―――うおっ!?



「ほら、しっかり発動してるでしょ」



 勢い余って尻餅をついた俺に、アルシェールさんは小さく笑いながらそう言った。

羞恥に思わず視線を逸らす……けど、確かに効果を確認する事はできた。

凄いな、こんな重そうなものが簡単に持ち上がるなんて。片手でも軽く持てそうだ。


 そんな風に感動している俺に対し、アルシェールさんはそのまま次の言葉を放った。



「じゃ、次は防御機能ね」

「え?」



 思わず、彼女の方に振り返る。そこには、掌に白い光の弾を作り上げた魔術式使いの姿が―――って!?

咄嗟に体勢を整えようとするが、彼女の魔術式は既に放たれた後だった。

防御する為に腕を構える暇も無く、光弾は俺の胸元に飛び込んでくる。


 やられる―――!



「―――って、え?」



 思わず、目を見開く。

俺の胸元に飛び込んできた光の弾丸は、俺の胸を貫く直前で霧散したのだ。

そこまで来てようやく、この服には防御用の魔術式が仕込んであった事を思い出す。



「は、ははは……人が悪いぜ。そういう事なら先に―――」



 思わず、乾いた笑みを浮かべながら顔を上げ―――そして、そこにあった姿に俺は首を傾げた。

アルシェールさんは、俺に掌を向けた姿勢のまま、目を見開いて硬直していたのだ。

視線をめぐらせれば、兄貴もまた呆然とした表情で俺を見つめている。



「ど、どうしたんだよ、一体?」

「……なら、これは?」



 俺の問いには答えず、表情を変えぬまま呟いたアルシェールさんは、今度は手の中に逆巻く風の渦を作り出した。

空気の流れが変わり、アルシェールさんや兄貴の髪をはためかせている。

今度は俺も落ち着いたもので、一応は防御姿勢を取りながら待ち構えた。

そして―――風の塊が解放される。



「……っと」



 放たれた風は俺に当たる直前、現れた光の壁によって弾き返された。

けれど完全に打ち消すには至らなかったのか、残った風に体を押されてたたらを踏む。

さっきとは何か感覚が違うが、まあ成功なんだろう。

袖とかに傷が無い事を確認した俺は、再び二人の方へと視線を戻した。



「これは効いた……? そもそも、防御用や強化用の魔術式はちゃんと発動してる。なら、これは一体どういう―――」

「あ、アルシェールさん?」

「ちょっと待って、今整理してる」



 制止するように手を上げ、もう片方の手を額に当てながら、アルシェールさんは何かをぶつぶつと呟いている。

一体何がどうしたんだ、さっきのでは何か問題でもあったのか?

判断に困って兄貴の方を見てみれば、そっちもまた口元に手を当てて何かしら考えているようだった。

何つーか、居心地が悪い。


 そして、大体一分ぐらい経ち―――何も出来ずに視線をめぐらせていた俺は五倍ぐらい長く感じたが―――アルシェールさんは顔を上げた。



「予定変更。ちょっと実験するわよ」



 何か、雲行きが怪しくなってきたな、ホント。

とは言え、有無を言わせぬ様子にアルシェールさんに、俺はコクコクと頷いていた。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:JEY》











 さっきの奇妙な現象から少し経ち、一通り魔術式メモリーを試した俺達は、一つの結論に達していた。



「レン君。貴方はどうも、物理的な存在性を持たない魔力を散らしてしまう能力があるみたいね。

さらに正確に言えば、己以外の意思が働いた魔術式のみのようだけど」

「は、はぁ」



 当の小僧はと言えば、何が何だか良く分かっていないようだった。

まあ、魔術式の事を学んだばかりの人間に言っても理解は難しいだろうが。



「逆に、貴方の意思の働いた魔術式は大丈夫みたいね。強化系の魔術式を発動させられた事からも明らかだわ」

「ええと、俺には攻撃の魔術式は効かないって事か?」

「少し違うわ。貴方が完全に無効化できるのは、物理的な存在性を持たない光と闇と無の魔術式だけ。

発生させた瞬間に物理的に存在し始めるその他の魔術式は無理みたいね」



 えらく限定的な効果だが、それでもかなり希少性の高い能力だ。

が、疑問点と問題点がいくつかある。



「ただ、疑問に思ってることが一つ。何故、翻訳疎通系の魔術式は貴方に効果を及ぼしたのか」

「あ、そう言えば……あの時のリルの魔術式は効いてるもんな」

「私は、貴方がその時は魔術式の発動の仕組みを知らなかったからだと考えているけど……確証は無いわね」



 アルシェはそういう結論に達したらしい。

まあ、俺からすれば理由なんてさっぱりだが。

とりあえず、信用しても大丈夫だろう。魔術式に関してこいつ以上に詳しい人間はいない。



「で、この能力に関して問題点が一つ」

「え、問題点?」



 きょとんとした顔で小僧が呟く。

こいつ、さっきの説明で気付いていなかったのか?



「小僧、お前は他者の意思の働いた魔力を霧散させる。即ち、別の人間の使った強化や回復の魔術式も無効化しちまうんだよ」

「いっ!? それって、怪我出来ないって事じゃねぇか!」

「お前が魔力を持たない以上はその通りだな」

「まあ、幸い貴方は遠距離で戦闘するみたいだから、まだ怪我の心配は薄いでしょうけど。

一応ポーションの類はちゃんと効果を及ぼすはずだから、自分でちゃんと用意しておきなさいね」



 しかし、メリットもあるがデメリットの方が大きく感じる能力だ。

ついでに言ってみれば―――



「小僧」

「……何だよ、兄貴」

「お前、無駄に金がかかるな」

「……言わないでくれ、分かってるから」




 魔力チャージやらポーションやら、無駄に金の掛かるガキだ。

しかし―――俺にとってみれば、こいつの能力は大きい。


 俺の隣でニヤニヤ笑っていたアルシェを睨んでやると、こいつは肩を竦めながら声を上げた。



「ま、とりあえず刻んだ魔術式はちゃんと機能してたし、そっちの問題は無いわね。

で、その武器に刻む魔術式は決まった? 紙か何かに纏めておいてくれるとありがたいんだけど」

「あ、ああ、そうだった。それじゃ、リコリスに言ってメモを貰ってくる」



 そういうと、小僧はばたばたと慌しく部屋を出て行った。

小さく嘆息しながらその背中を見送り―――適当に席に着こうとした所で、隣から声がかかる。



「ねえ、ジェイ」

「何だよ、アルシェ」

「分かっているでしょ、貴方なら。

あの子は、あまりにも対邪神に特化しすぎている・・・・・・・・

「……」



 ああ、そうだ。その通りだ。

邪神を傷つける事すら可能な強力な武器、邪神の干渉や呪いすら打ち消す特殊能力。

エルロードは間違いなく、これを分かった上であの小僧をこの世界へと連れてきた。


 奴は、俺を利用しようとしている。

俺を利用して、あの小僧を育て上げようとしている。


 上等だ。全くもって上等だよ、エルロード。



「貴方も、利害は一致してるんでしょうけど……それなら、しっかり護ってあげなさいよ」

「ああ、分かってるさ」



 こんなチャンスは二度とない。ならば、精々お前の思惑に乗ってやる。

だが、俺を甘く見るな。簡単に使いこなせると思うなよ。



「売られた喧嘩は買う主義だ。だから―――」



 ―――俺を失望させるなよ、小僧。











《SIDE:OUT》





















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