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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
107/196

101:月夜の誓い

それは、一つの答え。

正しき答えが存在しないのならば、残るのは己の願いのみ。

代償となるのは、一体何か。










《SIDE:MASATO》











 唐突に晩餐会など開いて、人を集められるのかと思っていたが―――どうやら、あの王は予め開く事を決めていたらしい。

知らなかったのはオレ達だけなのだろう。

その行動力は感心するべきなのか、それとも呆れるべきなのか。



「フーちゃん、さくらんも、ちっとは落ち着きって」

「む、無茶言わないでよ……」

「ぁぅ……」



 そして城へ馬車で向かう最中。礼服に身を固めつつ、身体まで緊張でガチガチに硬くした二人に、オレは小さく嘆息を漏らしていた。

まあ、オレとしても緊張はしているが……今日の主役は煉だしな。

その当人はと言えば、既に諦めの境地に達したのか、深々と溜め息を吐いた後は窓の外をじっと見つめ続けている。



「……桜、そこまで緊張するのなら、椿と交代したらどうだ?」

「ぁ……な、成程……お姉ちゃん、お願い」



 言って、桜は目を閉じる。

今日は元々髪を解いてあるので、見た目ではどちらか分からないが。

そして目を開いた椿は、肩を竦めて深々と嘆息した。



「やれやれ……そう言うなら、せめてこの服を選ぶ前に言って欲しかったな。ワタシにはこういう可愛い系の服は似合わんだろう」

「せやねぇ。つばきんはどっちかっちゅーとカッコいい系やからな」

「……そういうアンタは、いつの間に和服なんて作ってあったのよ」


 桜が着ていたのは、その名を表すような薄桃色のドレス。

可憐なイメージはとても桜に似合っていたが、生憎と椿のイメージには合わないようだ。


 そしていづなの服装は、相変わらず何かこだわりでもあるのか、和の系統で固めている。

鮮やかな紅葉柄の着物だが、一体何処でそんな物を作っていたのだろうか。



「あー、うちは晩餐会の話だけは聞いとったからね。この世界に来た時に着とった着物を持ってきただけやで?」

「私物なのか……これは驚いたな」

「って言うか、知ってたんなら教えなさいよ!?」

「えー、だってその方が面白いやん」



 憤るフリズの服装は、ゴシックロリータと言うか、フリルをふんだんにあしらったようなドレスだ。

普段のイメージには合わないが、その身長の小ささも相まって、人形のような可愛らしさがある。

煉はその姿を噴き出しつつも褒めていたが、フリズはどうやら皮肉と受け取ったらしく、一発しっかりと拳を叩き込んでいた。


 そしてそんな様子を見ながら小さく微笑んでいるミナは、イメージカラーの翠のドレス。

ケープを羽織っている姿といい、普段とあまり変化は無いが、やはり本職の似合い方は段違いだ。

露出は少ないながらも、ミナ自身の美貌を強調するようなデザインになっている。


 そしてオレ達男二人はと言えば、二人して黒のタキシードと言うあまり面白味の無い服装に落ち着いていた。

まあ、男の服装などそれほど変わる物ではないだろうが。


 オレやいづなのように、目立つ武器の携帯は無理だったが、煉は脇の下にホルスターを装着して持ち歩いている。

そして杖を手放したがらないミナの方は、杖を構成していたミスリルを一度分解し、更に豪華なデザインに変えて再構築していた。

素材もホーリーミスリルになっており、神秘的なイメージを周囲にはなっている。

ちなみに、比翼剣も持ってくる事は出来なかったので、フェゼニアは留守番らしい。オレには見えないが。



「お、見えてきたな」



 窓の外を見つめていた煉が、小さく呟く。

コイツの視力の基準はあまり信用ならなかったが、どうやら常人にも見えるレベルの距離だったようだ。

そして周囲にその姿を晒す瞬間が近づいた事を知り、フリズがますます身を硬くする。



「や、フーちゃん……そんなに嫌なん? かわええよ?」

「うっさい、似合わないわよこんなの!」

「そうか? 実際、似合ってると思うぞ。ギャップ萌えってやつか」

「アンタは黙れ!」



 フー! と猫が威嚇するような音を立てつつ、フリズは煉を睨み据える。

生憎と、その愛らしい姿では威圧感も半減だったが。

そんな姿に、煉は嘆息しつつ肩を竦める。



「嘘は言ってねえよ。なあ、ミナ」

「ん……レンは、本心で言ってる」

「う……!」



 まあ、現代の嘘発見器よりも遥かに優秀なミナの言葉ならば信じざるを得ないだろう。

そのまま、フリズは顔を赤くして小さく縮こまっていた。

やれやれ……その羞恥は、果たしてどちらの意味なのやら。


 そうこうしている内に、城に到着したのか馬車が停止する。

固まったままのフリズを、半ば無理矢理扉の外へと押し出しつつ、オレ達は城の入り口の前へと立った。

オレ達の進行方向の先には、一足先に到着していた公爵、および公爵夫人の姿がある。



「お待たせしました、ギルベルトさん、カティアさん」

「何、私達の馬車が先に走っていただけの話だ。大して待っていた訳では無いよ。では、行こうか」

「はーい、フーちゃん往生際が悪いでー」

「わ、分かってる……分かってるから引っ張るなってば!」



 いづなによって無理矢理連れてゆくフリズを眺めながら、オレ達は小さく苦笑して歩き出した。

いつものように袴ではない為か、いづなの歩幅は小さい。

少々遅れた所で、普通に歩けば追いつくのに時間はかからなかった。

そしてその頃には、フリズも諦めたのか普通に並んで歩くようになっていたようだ。



「やれやれ……それで、晩餐会と言うのは、何をする所という風に認識しておくべきなのだ?」

「最初の目的が何であれ、食事を楽しむなんちゅー目的で参加する人はまずおらんやろ。

基本的には、貴族同士の交流の場や。今日は煉君の社交界デビューやね」

「そういう変にプレッシャー掛けるような事は言わんでくれ」



 肩を竦めつつ椿が発した質問に、いづなは得意げな様子で指を立てながら声を上げた。

そんな言葉を受け、煉は深々と嘆息を漏らす。

要するに、今回は煉の顔見せと言った所だろうか。



「だが、君に干渉しようという者は多く現われる筈だよ、レン君。

君の願いは、君たち全員が一箇所に固まっている事だ。

だからこそ手に入れる事は容易では無いが、一人手に入れれば全員が付いて来ると考えている者もいるだろう」

「……はい」



 公爵の言葉に、煉は呻くような調子で声を上げる。

要するに、オレ達の事を勧誘しに来る連中が大量にいると言う事か。

それは確かに、うんざりもしたくなる。



「ま、全員出来るだけ固まっとるようにしとこか」

「そうしてくれると助かる……ミナにまで変な累が及びかねないしな」



 始まる前から疲れた様子だが、まあ辟易したくなる気持ちも分かると言う物だ。

話を聞きつつも、オレ達は件の会場へと近付いてゆく。

そして、扉の前―――



「ギルベルト・カーツ・フォールハウト様、カティア・リーン・フォールハウト様、ミーナリア・フォン・フォールハウト様、レン・ディア・フレイシュッツ様、並びにそのお仲間の方々が入場します!」

「痒ッ」



 思わず腕を擦る煉に苦笑しながらも、オレ達は会場の中へと足を踏み入れる。

途端、中にいた人々の視線が一気にこちらへと集中した。

その量の多さに一瞬押されかけるが、涼しい顔をして受け流す公爵の様子に、こちらの落ち着きを取り戻す。

流石にミナはこういったものは苦手なのか、煉の後ろで隠れるように立っていたが。



「さて、済まないが、我々は挨拶に回らなければならない……君達はどうする?

着いて来るのであれば手助けする事も出来るが―――」

「そないな事しとったら、舐められてまいますよ。こっちはこっちで何とかするんで、ギルベルトさんは自分の事に集中しとってくださいな。

けど……ミナっちの、創造魔術式クリエイトメモリーとは別の力……うちらと同じ力のこと、周囲の人達に明かす事になるかもしれへんのですけど」

「自分達全員が同じような力を扱える事まで言うつもりだろう?

それに、私にとって有益となるように宣伝するつもりのようだ。

その子だけを異端とするつもりが無いのならば、思うようにやりなさい」



 言葉を交わし、いづなと公爵は笑い合う。

全く、本当に腹黒いと言うか何と言うか。

そうして言葉を交わした後、公爵達は人々の中へと歩いて行った。

その背中を見送った後、いづなは周囲を見渡しながら声を上げる。



「さーて、ほんなら先ずは―――」

「―――ミナ!」

「……っと、向こうから来てくれたみたいやね」



 声の響いた方へと視線を向ける。

そちらから近寄ってくるのは、この国の王女にして王位継承者―――ルリアロス王女だ。

さて、いきなり他人から目を付けられそうな状況の訳だが。



「こんばんは、ミナ。貴方の大切な方、助ける事が出来たようですね」

「ん……ありがとう、ルリア」

「貴方の方も、お父様に怒られなかった?」

「ふふふ。面白い連中と友達・・になったな、と笑っていましたよ、フリズ」



 さて、この状況だが、本当に大丈夫か?

ミナが王女と友人だと言う事は周知の事実であるというが、その連れという扱いを受けているフリズが、ここまで親しげに話していいものか。

けれど、いづなはそんな事を気にした様子も無く、にこやかに声を上げる。



「ごめんな、心配させてまって。手紙が遅れてもうたから、心配したやろ?」

「心配はいたしましたけれど、信じていましたよ。友達・・ですから」

「にひひ。せやね、友達・・やからね」



 ……成程、ここまで来るとオレにも分かる。

要するに、周囲に対する牽制だろう。王女とオレ達は互いに友人関係を築いていると、そう宣伝しているのだ。

分かりやすく友達を強調しているから、これでオレ達に危害を加える方面での接触は難しくなっただろう。

そんな風に考えていたかどうかは知らないが、もしもそんな事をすれば、公爵家と王女―――つまり、王家を敵に回す事になる。

しかし、そんな事をあっさりと理解した上で口にするこの王女も、本当に只者ではないな。



「しかし、本当に綺麗な……ドレス、ですか?」

「あー、これな。着物っちゅーんや。うちの故郷の服なんやで?」

「キモノ、ですか。本当に綺麗……この柄は一体?」

「これは紅葉っちゅー、うちらの世界の植物の葉っぱや。季節によって、こんな風に鮮やかな赤色になるんやで。

いつかエルロードに話を付けられたら、見せる事ができるかもしれへんね」

「おいおい、あんまり安請け負いするなって」



 神の名前まで出すか……本当に、利用できる物はとことん利用するな。

流石にやり過ぎだと思ったのか、煉が制止の声を上げる。いづなもそろそろ頃合だと思っていたのか、小さく肩を竦めてから視線を戻した。



「さてと……ルリア、主催者様に面会できるかな?」

「ふふ。ええ、でも今はまだお話の最中だと思うので、向こうの方で少しだけ待ちましょう。

いつまでも入り口の近くにいる訳には行きませんものね」



 クスクスと笑いながら、王女はオレ達を連れ立って歩き出す。

やれやれ、本当に底が知れない王女様だ。

一体、何処まで考えている事やら。

さてと―――



「椿、周囲の様子はどうだ?」

「流石に、気の弱そうなお嬢様お坊ちゃま方は大抵気後れしているようだが……胆力のある者と何も分かっていないバカは、まだこちらに興味があるようだな」

「ふむ……ピンキリか。まあ、そこから先はオレが目を光らせておこう」



 行って、小さく目を瞑り―――思考を、戦闘時のように研ぎ澄ませる。

戦いを始める時に剣の柄を握り、いつでも武器を構えられる状態にしている時と同じような、そんな感覚だ。

分かる者には分かるだろう。事実、屈強な身体をした騎士と思わしき者達は、何人かこちらの様子を眺めている。

要するに、オレが後ろで威圧しているのだ。

覚悟の足りない子供程度なら、目を合わせただけで怯むだろう。

オレの気配に押されてか、周囲の人間はあまり近づいてはこない―――いや、二人ほどそんな影があった。



「ルリア、彼らが件の英雄殿か?」

「お姉様! はい、その通りです」



 銀色の髪に緑色の瞳を持つ女性と少年。姉……と言うことは、ルリア王女と同じく、王女と王子という事になるのか。

その言葉に驚いて目を見開いていた煉の脇腹を、いづなが肘で突く。

それに正気を取り戻した煉は、その二人へと向かって声を上げた。



「レン・クジョウ……いや、レン・ディア・フレイシュッツと名乗るべきなのか?

ええと……とにかく、今回邪神を倒すのに協力させて頂いた者です」

「ああ、いや。父上が勝手につけた名なのだろう?

無理に名乗る必要は無い―――と言っても、他の貴族の前では止めた方がいいがな。仮にも、国王陛下から賜った名だ」

「は、はい」



 その言葉に、煉は微妙に頬を引き攣らせながらも頷いた。

まあ、あの名を名乗らなきゃならないのは恥ずかしいだろうからな。



「と……済まない、君が名乗ったのに名乗り返さないのは礼に反するな。

私はマリエル・キルト・スワロウ・リオグラスだ……こら、クー。お前も挨拶をしないか」

「その呼び方はしないでくれって言ってるだろ、姉上!

ちっ……クローディン・ブレイ・リーヴェルト・リオグラスだ」



 ぴくりと、ミナの肩が震えるのが見えた。

王女の方がいいが、この年若い王子の方は、どうにもこちらにあまり好感を持っていないようだな。

流石に王子なので、こちらに頭を下げさせると言う訳にも行かないのだろう、マリエル王女も困ったように眉根にしわを寄せている。

しかしそんな周囲の様子などお構い無しに、王子は煉へと挑発的な視線を向けた。



「お前が術式銃メモリーキャリバーで邪神を撃った男だったか。フン、仲間に護って貰いながら撃っただけの癖に、随分といいご身分な事だ」

「クー! いくら何でも失礼だ、前言を撤回しろ!」

「事実を言ったまでだ」



 あからさまな反応に、見えないように小さく息を吐き出す。

横目でいづなの様子を見てみれば、そちらも同じような反応を見せていた。

煉は―――苦笑を浮かべている。どうやら余裕はあるようだな。

そんな煉の表情に、王子はぴくりと眉を跳ねさせる。



「何だ、反論でもあるのか」

「いいえ、別に。皆がいなければ、俺が死んでいたのは確実みたいですからね。

けれど、仲間達は来てくれた。だから俺は、俺の仕事を確実にこなしただけです」



 椿の予言の事を言っているのだろう。

だが、あの不吉な予言はオレ達が阻止した。結果としてジェイを救う事は出来なかったが、少なくとも、オレ達が誰一人として欠ける事が無かったのは不幸中の幸いだろう。

あの場で煉に求められていたのは、あの弾丸を確実に制御して命中させ続ける事。

それを完璧にこなした煉に、文句を言われるような筋合いは無いだろうとは思うのだがな。

しかし、当の王子はそんな煉の言葉が気に入らなかったらしい。



「ッ……僕なら、もっと上手くやれた……僕がやったなら、ジェクト・クワイヤードは死ななかった筈だ!

お前の武器を僕に渡せ、僕ならばもっと上手く―――」

「ッ、拙い!」



 思わず、声を張り上げる。それは、煉にとっては禁句だ。

そして、次の瞬間―――背筋が凍るほどの殺意が放たれ、オレは反射的に身構えていた。

先ほどオレの気配に反応していた周囲の人々も、咄嗟に反応してこちらへと向き直る。

しかしそんな様子もお構い無しに、煉は冷たく凍った瞳で王子の事を見下ろしていた。



「……今、何て言った?」

「な―――」



 王子は、その瞳を正面から見てしまったのか、青い顔で煉の事を見上げている。

背信者アポステイトは、煉が『自分自身のモノ』と認識している物だ。

それを奪おうとする者には、例え相手が誰であろうと容赦はしないだろう―――そう、例え王族であろうとも。



「俺のモノを、奪うって言ったのか?」

「な、何を……!?」

「レン」



 流石に危険だと思い止めようとしたその時、ミナが煉の手をそっと押し止めた。

重ねられた掌に、煉ははっと目を見開き、それと共に放たれていた殺気が霧散する。

その様子に、オレは思わず胸を撫で下ろしていた。

流石に、心臓に悪い。



「……王位継承権一位を奪われたから、ルリアに嫉妬していた。そしてジェイへの憧れと、ジェイが死んだ事への悲しみと失望。

でも、それをレンにぶつけるのは間違い……です」

「なッ! だ、誰がそんな事を!」

「貴方の心を、ここにいる皆に聞かせる事もできます……わたしたちには力がある。だから、邪神と戦える。

貴方には、それがありますか?」



 ……どうやら、ミナも相当怒っていたようだな。

あまりにも淡々と相手の心中を暴露するミナに、オレの隣に立っていたいづなは、小さく苦笑を漏らしていた。

まあ、若干いい気味だとは思わなくもないが。

しかし、王族に対してここまで言うのはいいのだろうか。相手も相当腹に据えかねているようだ。

一応声は抑えられているので、周囲の貴族には聞こえていないようだが―――



「ッ……無礼な―――」

「おっと、そこまでだ」



 感情のままに叫ぼうとしたのだろう。王子は激昂しかけながら口を開き―――その頭を、後ろからやってきた国王によって押さえつけられた。

若干、驚く。いつの間に近付いて来ていたのだろうか。



「済まんな、フレイシュッツ卿。父親として謝罪しよう」

「あ、いえ……こちらも大人気なかったです」

「まあ、あれに関してはお前達の参謀から聞いていたからな。ああなるとは思っていたさ」

「……いづな」

「やー、うちらを使う上での注意点ぐらいは喋っといた方がええやろ。特に煉君」



 まあ確かに、逆鱗に触れられたら相手が誰であれ攻撃しかねない奴だが。

しかしそれにしたって、身内のそんな話をあまり外に出さないで欲しい。

とりあえずいづなは笑みを浮かべながらそういうと、再び煉の脇腹を突く。

あれは、挨拶をしろとでもいう合図なのだろうか。



「ええと……今宵は、お招きいただきありがとうございます、陛下」

「何、貴公の働きに対する報酬としては安すぎるぐらいだ。遠慮せず、存分に楽しんで行くといい」



 報酬というよりは罰ゲームに近いような気がするのだが。

しかしそんなこちらの内心も読んでいるのか、国王はにやりと人の悪い笑みを浮かべる。

やれやれ……ここの王族、特に蒼銀を持つ者は、皆油断ならないような人間になるのだろうか。



「さてと……クローディン、お前は戻っていろ。ジェクトの名をここで出すべきではない」

「ッ……はい」

「それからマリエル。お前はそこの娘と話すといい。軍師として、中々いい話が出来るかもしれないぞ。

ルリアは、そのままミーナリアと共にいるといい」

「ほう、それは楽しみです」

「はい、ありがとうございますお父様」



 王は、自分の子供達に指示を飛ばしてゆく。

ちなみに、マリエル王女に対する言葉で、王が示したのはいづなだった。

どうやら、本当に気に入られているようだ。

実際、王の腰にはいづなが贈ったと思われる刀が佩かれているからな。



「それから、フレイシュッツ卿」

「は、はい?」

「少し付き合って貰いたい。案内したい所があるのでな」



 その言葉を受け、煉は一度いづなへと視線を向けた。

小さく肩を竦めながらもいづなが頷いたのを見ると、煉は再び王へと向き直り、首を縦に振る。



「分かりました。皆、悪いけどちょっと席を外すぞ」

「ん……レン、また後で」

「ああ、ちょっと待っててくれ」



 ミナの言葉に頷き、煉は王の後について歩き出す。

はてさて、あの国王、一体何を考えている事やら。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











 俺が王様に連れられて辿り着いたのは、前にルリアと出会った中庭の一角だった。

目の前に鎮座しているのは一つの墓碑。これは、まさか―――



「ここはな、ジェイの前に、初めてフェンリルが現れた時の場所なんだ」

「じゃあ、これは―――」

「あいつの墓だ。最初は名目上の物でしかなかったんだが……結局、ホンモノになっちまったな」



 王様は、墓碑の表面をそっと撫でる。

背後からではその表情は分からないけれど、それでも何となく想像する事だけは出来た。

だからこそ声を掛ける事は出来ず、その様を無言で見つめる。


 そして、しばし待ち―――王様はこちらの方へと振り返った。



「なあ、レンよ。お前は、まだ吹っ切れていねぇんだろ?」

「え……?」



 予想外と言えば予想外な言葉をかけられ、俺は思わず首を傾げる。

そこまで重い話が来ると思っていた訳ではなかったが、それでも国に関わる事だと思っていたのだが。

王様は俺の様子に苦笑しつつも、兄貴の墓を示しながら声を上げる。



「本来なら、もっとじっくり考えるべきなんだろうけどよ。お前、結構忙しいだろ?

だったらせめて、あいつに言いたい事ぐらいははっきりと口にしとけよ」

「兄貴に、言いたい事……?」

「死人ってのは面倒でな……話したかった事も何もかも、生者の言葉は行き場を失っちまうんだ。

どんなに大切な事であったとしても、俺達の言葉は届かない。だから、自分なりに決着つけるしかねぇんだ」



 けれど、話しておきたい事はいくらでもある。

だから王様は、俺をここに招いたのだろう。

俺に、俺自身の行く末をしっかりと定めさせる為に。



「……」

「俺は聞かねぇよ。お前が、お前の手で決着をつけな」



 そう言って、王様は―――レオンハイム陛下は、俺の肩をポンと叩くと、そのまま横を擦れ違うようにして去って行った。

遠ざかってゆく気配を背中に感じながらも、俺はじっと兄貴の墓標を見つめる。


 ……そう、だな。言いたい事はいくらでもある。

けれど、この言葉は決して届かない。だからこれは、ただ俺自身が逃げられないようにする為だけに。

だから、兄貴―――



「ざまぁみろだ、このバカ」



 今だけは、恨み言を吐かせてくれ。

口元に浮かぶのは、皮肉気な笑み。



「今回の事でよーく分かったよ、アンタは馬鹿だって。俺だって似たようなもんだとは思うが、アンタは俺よりよっぽど性質が悪いよ。

俺を選んじまった時点で、既に人を見る目が無いんだろうが」



 涙は既に流し尽くした。

この本当に馬鹿な男の為に、既に悲しめるだけ悲しんだ。

だから、後に残るのは覚悟だけだ。



「俺は欲張りなんだ。アンタがいないままのこの世界で満足するつもりはない。

いつか必ず、アンタの事を連れ戻すぜ。何年だろうが、何十年だろうが、何百年だろうが―――どれだけかかっても、アンタを見つけて叩き起こしてやる」



 人を超越する覚悟は既に出来た。後は、力に届くように強くなるだけだ。

強くなれば、いつまででも待つ事が出来る。

それだけの業を積み重ねる覚悟を、今ここで決める。



「けど、残念だったな兄貴……アンタが自分に必要だと思ってたものは、全てこの俺が奪ってやる。

邪神を倒すとか言う使命も、ミナやフリズを護ると決めていた覚悟も……全て、俺の、そして俺達のモノだ。

もう、二度と返すつもりはないぜ。アンタの全て、この俺が奪ってやる!」



 笑う。嗤う。

俺と言う人間を見誤った兄貴を、どこまでも嘲笑する。

アンタが全てなどと勘違いしていた薄っぺらい物は、もうアンタに返してやるつもりはない!



「邪神は俺達が斃す。ミナとフリズも、俺が永遠に護ってやる。アンタには手を出させない!

無理矢理ここには連れてくるが、アンタにとっての『全て』は何処にも無くなってるからな、ざまぁみろ!」



 これが報いだ。無自覚に多くの人間を傷つけてきたアンタは、その報いを受ける義務がある!

そして、その報いを受けた後―――



「―――だから、アンタは本当にすべきだった事をしろよ。

カレナさん達、かつての仲間の事。ギルベルトさん達、かつての家族の事……そして、アルシェールさんの事。

アンタが本当にすべきだった事を、今度こそ見誤るな」



 アンタは、もう十分に戦ったんだ。

この世界で、誰よりも戦っていた人間の一人の筈だ。

だから、もう幸せになっていい。植えつけれれた幸せではなく、自分と自分の大切な人々、全てにとっての幸せを得る権利がある。


 ―――そして、俺は小さく笑った。



「なあ、兄貴……今度こそ手に入れようぜ、誰もが幸せな結末って奴を。

その為だったら、俺はいくらでも戦ってやる。英雄だろうが世界最強だろうが、喜んでなってやる。

戦って、戦って、戦い抜いて……満足する結末を得るまで、諦めない」



 俺は、ようやく手に入れたんだ。

心から信頼できる、仲間って奴を。

あいつらと一緒に生きて行く為だったら、俺は神にでも悪魔にでもなってやる。

だから―――



「俺は行く。アンタはそこで待っててくれ……いつか必ず、迎えに行くから」



 ―――これが、俺の覚悟だ。

俺が本当に欲しかった結末を、その光景を見るまで、決して立ち止まらない。

その為ならば、いくらでも戦い続けよう。

兄貴のように、誇り高く。


 ああ、本当にキツイ。

けれど、仲間と一緒だと思えば、悪くは無い。口元は、自然と吊り上るような形を取っていた。


 ―――さあ、行こう。今度こそ、手に入れる為に。











《SIDE:OUT》





















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