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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
105/196

99:公爵家にて

これまでの事と、これからの事。

共に戦って行く為に。











《SIDE:REN》











「―――と、ゆー訳で」



 豪華な内装の広間。壁やカーテンなどは白で統一され、壁には絵画などがかけられている。

どうやら食堂らしく、かなり長いテーブルに俺達は着いていた。

こんな広い部屋を使って三人だけで食事してたんだろうか、ミナや公爵……ギルベルトさんって。


 まあとにかく、そんな部屋で食事を摂りつつ、いづなは―――相変わらずマイ箸を使っているが―――声を上げた。



「うちらの扱いはしばらく保留。王様の指示があるまでは待機、って感じやね」

「何か大層な事になってるわね……」

「大層な事をしたのだからな。それは仕方ないだろう」



 今一実感は無い……つーか、戦ってたのは殆ど兄貴達だけど、俺達は邪神を倒したんだよな。

成り行きとは言え、本当に大事になったもんだ。



「でも、どうなると思う?」

「あー……」



 俺の疑問の声に、いづなは何故か気まずそうな表情と共に視線を逸らした。

……何かやったのか、オイ。

そんないづなの様子に、ギルベルトさんは小さく苦笑する。



「陛下は君達の事をいたく気に入っていたようだったからな。

特にいづな君。国のトップ達の前でアレだけの啖呵を切った君の事は」

「勘弁してくださいな。あん時はうちも気が昂ぶってたもんで……」



 頭を抱えながらテーブルに突っ伏すいづなに、俺とノーラ、リル以外のメンバーが苦笑を漏らしていた。

一体何を言ったんだろうか、いづなは。

まあでも、気に入られてたって事は悪いようにはならないのかな。



「うーむ……考えられる事としては、まあうちらを勧誘してくるんやなかろうか」

「勧誘?」

「国に仕えてみないかー、みたいな事言うとったからな」

「そしていづなの返答が、周囲を納得させられるだけの理由を用意してからにしろ、だ」

「理由って……」



 まあ、確かに俺達はどこの馬の骨とも知れない傭兵な訳だけど。

でも、それって―――



「……現状、達成されてまってるようなモンやからね。何処まで正確に情報が伝わっとるんかは知らへんけど、ミナっちとまーくんは魔人、煉君は邪神を倒してもうた訳やし」

「むしろ、放っておく方が危険だと思われてしまうかもしれないな」



 ギルベルトさんの言葉に、思わず頬を引き攣らせる。

国のトップの人々は、兄貴が生きていた事を知っていた筈だろう。

そして、その英雄が連れ歩いている子供の事も、ある程度は伝わっていた筈だ。

俺がジェクト・クワイヤードの関係者で、しかも邪神を倒した……そういう風に認識されている可能性もある。



「邪神と対等に戦える戦力は、各国でも一人か二人程度しか保有してへん。

せやけど、この国ではそれが無くなってもうた訳や」

「アルシェールさんは?」

「自分から動いてくれそうやけど、まあ操れてない以上はこの国の戦力として数えるべきやないやろ」



 ふむ、確かにアルシェールさんは、人間の指示は聞かないだろうからな。

となると、リオグラスは邪神と対等に戦える戦力を失ってしまった事になる。

つまり―――



「邪神と戦える戦力は、喉から手が出るほど欲しい筈や。それが、ジェクト・クワイヤードの弟子みたいな存在で、しかも何処にも属しとらん……ま、手ぇ出されん理由があらへんね」

「……どうすんだ?」

「どうするもこうするも……ある意味、煉君にとっては好都合かもしれへんで?」



 え? どういう事だ?

俺が首を傾げていると、ギルベルトさんが口元に笑みを浮かべながら補足した。



「君達が私の下に付けるよう手を回している。君達と言う戦力は非常に貴重なものだから、ある程度は君達側からも要求を出す事ができるだろう。

その君達の要求と言うのが―――」

「このメンバー全員が離れ離れにならず、フォールハウト公爵家の管理下に置かれる事や。

相談せずに決めてまったのは悪かったけど、問題はあらへんやろ?」

「まあ、問題は無いけど……それだけで良かったの?」

「本命はそれだけや。他にも色々言わせて貰っとるけど、そっちはどうでもええ。

大きすぎる願いを提示した後で本命を提示するんは常套手段やけど、まあそっち飲むよりはマシやろね」



 ……まあ確かに、良く使われる手ではあるけど。

それでも、国家―――しかも大国相手に臆面も無くそんな事が出来るのは、流石と言った所か。

しかし、本当に大丈夫かな?



「フォールハウト公爵家は、リオグラスでも随一の権力を持ってるんですよね。

そこに力が集中する事に文句は言われないんですか?」

「無論、反発の声はあるだろうね。しかし、王の命ならば従わざるを得ない。そして―――」

「王様にお願い事するんやったら、別ルートがあるって訳や」



 何つーか、ギルベルトさんといづなってちょっと似てる気がするな。

二人とも、そういう方面に凄く頭が回るし。

しかし、別ルートって何だ?

思わず、皆が首を傾げ―――何か思いついたのか、顔を上げてフリズが声を発した。



「もしかして、ルリアの事!?」

「大正解! フーちゃん、今日は冴えてるで」



 ルリアって……あの王女様の事か。

確かに、彼女なら王様に繋がってると言っても過言じゃないだろうけど。

まさか、そこまで根回ししていたとは……流石に予想外だ。



「ミナっちとあのフレンドリー王女様が文通しとる事は、王室内でも周知の事実。

手紙の中に、一枚うちからの手紙が紛れ込んどっても誰も気付かへん」

「ぇ、えと……もしかして、そこに王様へお願いして貰うように書いておいた、って事ですか……?」

「そーゆー事やね。持つべきものはコネ……やなくて、えらーいお友達や」

「言ってる事の黒さはあまり変わらんぞ、それは」



 全員の呆れたような表情も何処吹く風、いづなは上機嫌で声を上げる。

いやホント、末恐ろしいと言うか何と言うか……コイツ、利用できる物なら神様だって利用するとか言い出すんじゃないだろうか。

まあ、エルロードは苦手みたいだけど。



「まあとにかく、いくら若いとは言うても王位継承権第一位。

発言権も、有名無実とは言え無い訳やない。王様におねだりするなら最適な人選やね。

まあ、王様が親バカやったりすると楽やったんやけど、流石にそこまではいかへんかったわ」

「アンタね……」



 いづなの事だから本人の前で下手な事は言わないだろうが、いつか不敬罪で捕まるんじゃなかろうか。

と言うか、ここにはギルベルトさんがいる訳だけど……この人なら告げ口するとかそういう事はしないだろうが、本当に大丈夫か?



「ま、と言う訳で……ちっと賄賂も贈らせて貰ったし、殆ど心配あらへんよ」

「いつの間に!? っていうか賄賂って何だよ!?」

「んー? これやこれ。あ、ギルベルトさんにも一振り渡す予定やったね」



 言いつつ、いづなが足元から何かの包みを取り出す。いや、いつの間にそんなもの持ち込んでいた?

って言うか、一振りって言ってたけど、それってまさか―――

全員が止める間もなくいづなが取り出したのは、やはりと言うか何と言うか、一振りの刀だった。



「研究中に造った試作品なんやけどね。これは、オリハルコンを加工して造った刀や」

「ほう……それがミナの言っていた『カタナ』か。しかも、オリハルコンの加工技術を持っているとは……少々見せて貰っても構わないかな?」

「はい、どうぞー」



 食事中に刃物を出しても何も言われないのか、ここは。

と言うか、警備の人達も何も言わないでいいのか、これ。


 いづなから刀を受け取った公爵は、その場でそれを引き抜く。

光に晒された刀身は、青みがかった光沢を持つ金属―――見慣れているとは言え、やはり見惚れるほどの美しさだ。

それは公爵も変わらなかったのか、魅入られたように刀身を見つめている。



「……オリハルコンは魔力を拒絶する作用があるんで、魔術式メモリーを刻めんのが玉に瑕って所やね。

刃の自浄作用が持たせられへんかったんで、ちゃんと手入れしないとあかん」

「と言うか、いつの間にそんなものを造っていた? 刀は本来一振り造るのに百日以上かかる筈だろう?」

「言ったやろ? この世界には魔術式っちゅー便利な物があるんや。

身体強化系の魔術式を刻んだ装飾品をジャラジャラ付けて、能力使って最適化しつつ、フーちゃんの力を絶妙のタイミングで使う。

一日中やっとってもそこまで疲れへんし、これだけでも結構工程を短縮できるんやで?」



 ホント、これに関する情熱は凄いよな。

しかし、これで試作品なのか。もう完成品と言ってもいいほどの物に見えるけど、どこか悪いのだろうか。

まあ、こっちは素人目だし、いづなにとっては何か許せない部分があるのかもしれないが。


 軽く刀を振るった公爵は、満足気に頷いてそれを鞘に納める。

やっぱり、問題は無いように見えるんだけどなぁ。



「素晴らしいな。一体どうやってオリハルコンを加工しているのか、教えては貰えないか?」

「まあ、それは流石に企業秘密……っちゅーか、うちにしか出来ない方法やから、教えても意味無いと思います」



 いづなは自分の能力を使って最適のタイミングと強度を測りながら、フリズに指示を飛ばして力を使って貰っている。

二人の能力が必要不可欠なので、確かに他の人には不可能な技術だろう。

公爵は残念そうに苦笑すると、刀をテーブルの下に置く。



「ともあれ、これはかなり貴重な品だ。献上する物としては十分だろう」

「ありがとうございますー。あ、出来れば今度鍛冶場とか使わせて貰えると嬉しいんですけど」

「君の作品を見せれば、気難しいニヴァーフ達も納得するだろう。

こちらからも紹介状を書いておくから、立場が落ち着いたら是非行くといい」



 やっぱり、そういう所はニヴァーフ……俺達が言う所のドワーフみたいな種族が仕切ってるんだな。

予想通りといえば予想通りなので、少々苦笑してしまう。



「と言うかいづな、それはまだ完成品じゃないのか?」

「うちが造ろうとしとる刀は、もっと凄いもんやで?

まあ確かに、オリハルコンの刀も強力や。腕さえあれば、鉄どころかミスリルすら斬れてまう」

「……十分じゃない」



 それ、何で防げばいいんだ?

同じくオリハルコンの防具でもなければ防げないだろ。

しかも、オリハルコンの性質から、魔術式の防御すら貫いてしまう。

実質、防げる物が存在しないようなものだ。

半ば呆れたような表情を浮かべるフリズの言葉に、いづなは首を横に振る。



「魔力の拒絶性は、使い手にとってマイナスになりかねん。

さくらんの精霊付加やって上手くいかへんやろう。せやから、もっと改良が必要なんや」

「じゃあ、どうするつもりなんだ?」



 確かに、誠人の精霊付加状態はかなり強力だったし、使えなくなるのはちょっと痛いからな。

そんな当事者である誠人の言葉に、いづなは嬉しそうな笑みを浮かべる。

そんなに自慢したかったのか。



「まず、芯に使うのはヒヒイロカネや。折れず曲がらず、刀の素材としてはこれだけでも一級品やね。

で、刃の部分に使うんはオリハルコン。これで魔術式も斬れるし、最大の斬れ味を持たせられるやろ。

それから、峰の部分にはホーリーミスリル。これで精霊付加も可能になる筈やからね。

でもって柄にはアダマンタイトとか使って―――」

「……何よ、その城一つ買えそうな刀」



 あまりのテンションに、フリズが引き攣った声を上げる。

他のメンバーもみんな同じような表情だったが、あまりにも嬉しそうなので口を挟むに挟めない。

っていうか、そんな貴重な金属ばっかり……まあ、ミナが創ってくれる訳だから元手はかからないけど。


 こうして見てるといづなも年が近いんだと感じるが……まあそれにしたって、性癖の方向性が色々と間違ってる気がする。

本当に刀が好きだからな、いづな。



「……っとまあ、そんな風な感じの刀をまーくんに造ったるから、楽しみにな」

「あ、ああ……」

「っちゅーても、しばらくは研究せんとあかんから、完成にはしばらく時間がかかると思うで」



 若干引かれている事にも気付かず、いづなはニコニコと上機嫌に声を上げる。

……まあ、性癖は人それぞれだからな。



「……ん? 何だよ、フリズ」

「いや……何となく、アンタが言うなって言いたくなったから」

「は?」



 こちらの事を半眼で見つめていたフリズに、思わず首を傾げる。

どういう意味だよ、そりゃ。

何となく視線を向けてみれば、ミナも小さく笑いながらこちらの事を見ている。

うーむ……何なんだ、一体。



「はぁ……何でもない、忘れて。で、いづな」

「おん? 何や?」

「公爵様の配下につくとして……それから、どうするのよ? 何かやる事でもあるの?」

「獲らぬ狸の皮算用やし、そもそもうちやなくてギルベルトさんに聞くべきやないの、それ?」



 小さく苦笑を浮かべつつも、いづなは律儀に声を上げる。



「特別やる事がある訳でもあらへんし、好きな事をしてればええんとちゃう?

まあ、仕事を渡されたらそれをこなすのが当然やけど……せやね。うちら全体の目的としては、力をつける事や」

「力を?」

「うちらの持っとる力。とりあえず、ある程度は育てなあかん訳やろ?」



 ああ、そうか。《欠片》がある程度育ってないと回帰リグレッシオン超越ユーヴァーメンシュは使えるようにならないんだっけ。

一応、《欠片》同士が近くにあれば少しずつ育っていくらしいけど……それだけだといつ達してるかどうかも分からないからな。

自分たちでも力を使って、どの程度強くなってるか確かめておくべきか。


 一応公爵の目を気にしているのか、いづなは《神の欠片》や、俺達に課された使命に関しては口にしない。

まあ、公爵を心配させるのも良くないし、今は黙っておくべきだろう。



「うちらが出会ってからここまで、長いようで短い日々やった。それだけ、密度が濃かった訳や。

せやから、休憩するええ機会やろ。あんまり根を詰め過ぎてもあかんし、じっくり自分を見詰め直す機会は必要や。

積極的な活動はせずに、しばらく充電期間。ええね?」

「ああ、了解だ」



 代表してと言う訳でもないが、いづなの言葉に頷いておく。

確かに、この世界に来てからずっと突っ走ってきたような感覚だ。

少し足を止めて、じっくり考えてみるべきだろう。



「……本当に、あっという間だったな」



 誰にも聞こえないように、小さく呟く。

俺がこの世界に来てから、どれほどの時間が経っただろうか。

正直な所、この世界の時間で言う三カ月程度しかたっていないだろう。

期間にして百日強。百五十日には到達したかしていないか。

けれど俺は、もう何年もこの世界で過ごしたような気分になっていた。 


 少し、焦っていたのかもしれないな。

少し休むのもいいだろう。



「……そうだろ、兄貴」



 俺のそんな呟きは、誰の耳にも届かぬまま、騒がしい空気の中に溶けて行った。












《SIDE:OUT》





















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