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IMMORTAL BLOOD  作者: Allen
ニアクロウ編:新たなる英雄と新たなる戦い
104/196

98:帰郷

願いは一つ。

けれどいつも通りなようで、状況は確実に変化していた。











《SIDE:FLIZ》











 善は急げ、とでも言うべきだろうか。

あたし達は宣言通り、あの相談の次の日から活動を再開していた。

ニアクロウへと向かってシルクに揺られる事数時間。

まあ、中継地点の小さな町とかも挟みつつ、あたし達はニアクロウに到着した。

ちなみに、シルクは近くの森に隠してある。自分で餌とか獲ってるみたいね。



「相変わらず栄えてるなぁ、ここは」



 煉が感心したような声を上げる。

その声の中に、昨日までの落ち込んだ様子は無い。

まあ、それは安心した所なんだけど……その元気になった原因がアレだと思うと、あたしとしてはちょっと複雑だ。

つーか、コイツは本当にどういう性格してるのよ。俺のモノって……アンタ王様じゃないんだから。

あー、思い出すとまた恥ずかしくなってきた。頭を振って、脳裏に浮かんできた声を消す。

あーもう、何でコイツは―――



「そーいや煉君、聞くの忘れとったんやけど」

「ん?」

「新しく同盟に求める目的……煉君は、どないするん?」



 いづなの声に、あたしは顔を上げる。

ミナが隣に並んでいる煉の姿は、この人ごみの中でも十分に目立っている。

まあ、誠人が威圧的な雰囲気出しながら控えてるって言うのもあるけど。


 それはともかく、そうだったわね。

煉があたし達に求めていた助力は、もとの世界に帰るためのものだった。

けれど、煉はそれを止めた―――こちら側の世界には、ミナや……ええと、その、あたしがいるから。

だから、これからも同盟にいるためには、別の目標が必要になる。

けど、あいつが何を言うかは、あたしは何となく分かっていた。



「そうだな……俺は、俺のモノを護りたい。そして、兄貴がやりきれなかった事を成し遂げたい」

「ほほう、結構欲張りやねぇ」

「知ってただろ? でも、ちょっとだけ思う事があるんだ」

「思う事?」



 煉の言葉に、いづなが首を傾げる。

何となく見回してみれば、他の皆もその話に耳を傾けているみたいだった。



「この、同盟って言う形……もう、必要ないんじゃないか?」

「……ふむ」

「確かに、俺達はまだ出会ってから日が浅い。一年どころか、数ヶ月しか経ってないさ。

それでも、俺達は互いに色々話したし、協力してきた。だからもう、利害関係じゃなく……『仲間』と呼べるんじゃないか、ってさ」

「それで、もう同盟は必要ないって?」

「んー、まあ、そんな所だ。結構さ、目的が無くなっちまった奴らもいるし」



 ……確かに、そうよね。あたし達は互いの事を信頼してるって、胸を張ってそう言える。

それに誠人もミナも煉も、ある意味では目的を達成してしまった。

桜は確か、自分が本当にやりたい事を見つける為。椿は、桜の事を護る為。

桜も、もしかしたら目的を達成してるのかもしれないわね。


 そんな、煉の言葉を聞いて―――いづなは、小さく笑い声を上げた。

煉がきょとんと目を見開く中、いづなは楽しそうに声を上げる。



「確かにそうやね。今は、この同盟と言う形は必要ないかもしれへん。

せやけど、形だけでも保っとく必要があるんや。いつかまた、うちらが仲間に入れていいと思うような人が現われた時の為に」

「……珍しいな、お前がそういう事を言うのも」

「まーくんのおかげやないか」



 言って、いづなはクスクスと笑う。

いつもの豪快な笑い方ではなく、あのお嬢様じみた笑い方だ。

何かあったのかしら、いづな。



「うちらはな、とっくに利害関係を超えた仲間になっとるんやで?

だって最近、誰も『同盟』って単語は使わなかったやないか。皆、『仲間』って言っとったんやで?」

「あー……確かに」



 思い返したのか、煉が苦笑する。

あたしも同じような表情だろう。まあ、あたしは皆の事、昔から仲間だって思ってたけど。



「誰も、皆から離れとうない。せやから、うちはミナっちについていくような提案をしたんやで?

うちらは仲間……ううん、家族や。だから、一緒にいたい……煉君やって、そうやろ?」

「……ああ、そうだな」

「うちらの共通の目的……一つ、ある筈や」



 言って、いづなはあたし達全員へと視線を向ける。

あたし達の共通の目的か……そんなものは、決まってる。

視線で合図を取って、あたし達は一斉に声を上げた。



『―――邪神を倒して、皆で生きてゆく!』



 ―――ほら、やっぱり皆同じだった。

頼れる大人は、いなくなってしまったかもしれない。

けれどあたし達は、あたし達だけで生きて行く事が出来るようになった。

それだけ、あたし達は成長したんだ。


 それは、どれほど幸せで、希望に満ちた理想だろう。

あたし達は一人では生きていけない。だからこそ、皆と一緒に生きていける。



「確かに同盟は必要ないかもしれへん。もう、絆が出来上がってしまったから。

せやけど、これから皆で幸せに生きて行く為には―――」

「形だけでも必要、か。分かった、お前の言う通りだな、いづな」



 そう言って、煉は笑う。

見れば、隣でミナも笑っていた。ここの所思い詰めた表情を見せる事が多かったから、少し安心かも。

だから―――



「そいつの前であんまりいい事言うんじゃないわよ、いづな。気に入られたら大変なんだから」

「そこまで見境無くねぇっての」

「―――ほほう?」



 ―――思わず、そんな事を言ってしまっていた。

ギラリと、いづなの瞳が輝く。



「つまり、フーちゃんは煉君に気に入られたと?」

「あ……あー、え、えーと……」

「煉君の事やから、そうやね……俺の嫁宣言されてまったとゆー訳か!」

「誰が嫁か!?」

「何ですって!?」

「ノーラも反応しない!」



 うがー、さっきまでいい話だったのに!

失言だったわ、あたしのバカ、迂闊! って言うかこの話はバレたくなかったのに!

袖で口元を隠しながらニヤニヤ笑ういづなをどう黙らせてやろうかと考え―――別の所で戦争が勃発している事に気付く。



「レンさん……私のフリズに手を出すとは、いい度胸です」

「残念だったな、フリズは俺のモノだ。渡しゃしないぜ?」

「そこ、大声でいかがわしい話を宣伝するな! つーかあたしは誰のモノでもない!」



 辺りの人達がこっちの事見てるじゃないの!

痴情の縺れだとか変な単語が聞こえてくるんだけど!?

いづなはニヤニヤ笑いながら傍観……する筈無いわね。アレは確実に引っ掻き回すつもりだわ。

誠人と桜は―――あーもー完全に他人の振りしようとしてるし!

仲間とか家族とかそういういい話は何処へ行った!



「ええと……リル! ……はちょっと無理そうね」

「わう?」



 ミナの事を護衛するように控えているリルは、正直あまり当てになりそうに無い。

リコリスは馬車に乗る人数の関係上腕輪の中に引っ込んでるし、ここは―――



「ミナ、あいつらに何か言ってやって!」

「フリズが一緒だと、わたしも嬉しい」

「あー! そういう子だったわねアンタは!」



 浮気だか何だか良く分からないけど、全肯定って言うのもどうなのよ!?

そりゃまあ、好意を向けられて嫌な感じがするほどあいつの事を嫌いって訳じゃないし―――



「満更でもないって感じなんやろ?」

「そうそう……じゃないわよ!? 人の思考を誘導しようとすんな!」



 いつの間にか背後に近付いていたいづなを、近くの屋台に投げ飛ばしてやろうと手を伸ばすが、あっさりとそれを躱される。

くっ、何か最近動きのキレがよくなって来てるわね!



「さー! ここにおるんは、一人の少女を巡って争う二人の少年少女!

性別は違えどもその愛は―――」

「いいから黙れぇぇぇぇぇぇぇぇええええっ!!」



 力の限り絶叫する。

あーもー! 何でここに来てまで大騒ぎしなきゃいけないのよ!?


 そしてこれを少しでも楽しいと思ってしまうあたし自身も―――こいつらに、毒されているんだろう。











《SIDE:OUT》





















《SIDE:REN》











「久しぶり……と言うほどではなかったかな。ともあれ、久しぶりだねレン君」

「いえ、早めに連絡もできずに、申し訳ないです」



 一応、先に伝書鳩を飛ばしておいたとは言え、殆ど間も開けずに来ちまったからなぁ。

邪神の事があった以上、公爵だって忙しかっただろうに……正直、本当に申し訳なく思っている。

けれど、今回は出来るだけ早く連絡しておきたかった。


 部屋の中には、俺とミナ、そしていづながいる。

今回はあまり大人数で話すような事も無かったからだ。


 とにかく、この人にあの事を言わなくては―――



「あの、兄貴……いえ、ジェイは―――」

「―――己の使命を、全うしたのだろう」

「え……?」



 その言葉に、思わず耳を疑う。

あそこはかなり遠い。報告が届くにしても早すぎると思うのだが。

そんな俺の表情を見て、公爵は小さく苦笑を浮かべた。



「これでも一応、ジェイの父親を自負していたのだ。あ奴に戻るつもりが無かった事など、とうに理解していたよ。私も、陛下もな」

「公爵……」



 分かっていたのに止めなかったのか、と言う言葉を飲み込む。

そんなもの、止めようとしていたに決まっているだろう。

この人だって、本当に兄貴の事を大切に思っていたのだ。

兄貴の死は、誰にも止められなかった。唯一その可能性があるとしたら、アルシェールさんだけだった筈だ。



「一つだけ、聞いてもいいかな?」

「……はい」

「ジェイは……満足していたか? 笑いながら、逝く事が出来たのか?」



 そう言う公爵の表情は、少しだけ曖昧に歪んでいた。

泣きそうなその感情を、無理やり押さえつけるかのように。

あの時、兄貴を前にしていた俺も、同じような表情をしていたのだろうか。


 けれど、兄貴は―――



「……はい。笑って、いました。いつも通り、不敵な表情で。

俺に、『後は任せた』なんて勝手な事を言いながら、笑って逝きました」

「……そう、か。あいつは、君に託したか」



 言って、公爵は天を仰ぎながら目を閉じた。

そこにある思いは、公爵が積み重ねてきた思い出は、俺には推し量る事は出来ない。

この人は、俺よりも遥かに長く兄貴と付き合い、兄貴の事を見てきたのだから。



「……馬鹿息子め」



 小さく呟かれたその言葉には、どれだけの想いが込められているのだろう。

けれどそれは、俺達の想いにも劣らない重さを持っている。

その重さに、思わず泣きそうになる―――それを、何とか堪えた。

この人が堪えているんだ。俺が感情を乱してどうする。


 公爵はそのまま大きく息を吐きだすと、視線を再び俺の方へと戻した。

隣に座るミナが、少しだけ身じろぎする。

公爵はいつも通りの優しげな表情で、俺の事を見つめていた。



「レン君、君はこれからどうするつもりかな?」

「ええと、それは……」

「うちの方から説明させて頂きます、公爵閣下」



 俺が横目で見ると、いづなは頷きながら話し始めた。

この人と何度か話している俺はともかく、殆ど初めて話すのに全く緊張している様子は無いいづなは、流石と言った所か。



「ふむ。君は確か―――」

「霞之宮いづな、言います。娘さんとは仲ようさせて頂いとります」

「ああ。娘から話を聞いた事があるよ。とても頭が良く、優しい人物だと」

「そんな大層な人間やないですよ、うちは」



 純粋に褒めてくれる公爵の言葉に、いづなは照れたように笑いながら頬を掻いた。

俺達が褒めてもこういう反応は無いんだけどな……目上の人に褒められるのには慣れてないのか?

気を取り直し、いづなは佇まいを正して声を上げる。



「折り入って相談があるんですが、聞いて頂けるでしょうか?」

「ふむ……何かな?」

「うちらの事を雇って頂きたいんです。ミナっち……娘さんの護衛として」

「ほう」



 興味深そうに、公爵は目を見開く。

これは公爵にとっても悪い話ではないだろうし、しっかり聞いてもらえるだろう。

手応えを感じたのか、いづなも言葉を続ける。



「娘さんの事に関しては、ある程度聞いとります。

それは信頼の証として本人から聞かせて頂いた事で、うちらは誰も他言するつもりはありませんのでご安心ください」

「ふむ……まあ、ミナは君達の事を本当に信頼しているみたいだからね。それに関しては不問としよう。

それで、君たちは何の為に私に雇われたいと?」

「……娘さんは、もう功績を上げる必要はあらへん筈です。もうこの屋敷に戻っても問題はあらへん。

せやから、うちらをどうか彼女の護衛として雇って頂けんでしょうか―――」



 一応、例の話はミナが皆に話した、という事にしておいた。

本当の事では無いが、何故か全員知っていたと言っても余計に話が複雑になるだけだ。

と言うか、本当にいつ聞いたんだろうか。兄貴が言っていたのか、それとも俺やミナが無意識の内に話していたのか。


 いづなは、じっと公爵の目を見つめる。

とても凄い事だ、と俺は思う。

公爵はこちらに敵意など持っていない。けれど、不思議と圧倒されるような存在感を持っているのだ。

それを真っ向から受け、尚且つ立ち向かっていく事が出来るのは、本当に凄い。


 そして、公爵の目を見つめていたいづなは―――ふと口元に笑みを浮かべ、声を上げた。



「―――あの時、啖呵を切ったように……うちらは、ミナっちの事を本当の家族のように思っとります。

せやからは、離れたくない。ミナっちも、うちらも……全員が、同じ思いです」

「お、おい、いづな」



 それは流石に正直すぎないか、と声を掛けるが、いづなは笑みを浮かべながら返す。



「本来なら、うちらは愛娘を無理やり連れまわしとったような連中なんやで?

それでも、閣下はうちらに誠意を持って接してくれとる。なら、誠意を返さん訳にはいかん。

正直と誠意は最強の外交手段や。それに返さん者は、容易く排除されるんやからね」

「一面的ではあるが……成程、一理ある言葉だ。それが、君たちの『理由』かな?」

「はい、その通りです」



 護衛は建前、本当はただ一緒に居たい。それが、俺達の全てだ。

ミナは、ただじっと公爵の事を見つめている。

その表情は、いつもと同じように消されていて、ここからでは読む事が出来ない。

信じているのか、それとも懇願しているのか―――読み取る事は出来ない。

けれど、一つだけ言えるのは……その表情に、緊張は無かった。


 公爵が、小さく息を吐きだす。



「その話は……この場では、頷けないな」

「っ……何故ですか? そちらにも悪い話やないと思います」

「私としてもそう思う。娘の護衛には、本当に信頼できる相手を置きたいからな。

その点、君たちは本当にミナの事を大事にしてくれている……だからこそ、私としても君達を引き入れることに異存は無い。

だが……君達の立場は、今非常に微妙な状態にあるんだ」

「俺達の、状態……?」



 どういう事だ?

俺達はただの傭兵だし、何故そんな話になるのか―――そんな事を考えながら首を傾げていた俺の横で、突如としていづなが額に手を当てながら天を仰いだ。



「あー、せやった。この国の偉い人達、うちらの事を知っとるんやないか」

「え……? いづな、どういう事だ?」

「どうもこうも、今この国の上層部に、うちらの事がどう伝わっ取ると思っとんの?」

「どうって……」



 俺は連れ去られた後の事は良く知らないし、精々あの王女様に俺達の事を話していたぐらいだが。

まあ確かに、それだけでも目を付けられる要素にはなりそうだったが―――



「ジェイさん……ジェクト・クワイヤードが連れ歩いていた少年少女。蒼銀を持つ人狼族ヴェーア・ウルフ

邪神に有効なダメージを与えられる武器……この国にとっちゃ、かなり価値のあるモンやろ。

それに、あの王様にも目ぇつけられとったみたいやし」

「と、言う事は……?」

「少なくとも、近い内に城からお呼びがかかるやろ。どんな形になるかは知らへんけど」

「そう、つまりそれが終わるまでは、君達の扱いは保留にせざるを得ないんだ」



 なんか、思った以上に厄介な事になってるみたいだな。

俺達が国に関わる事になるのか……正直、考えてもみなかった展開だ。

まあ、とりあえず事情は分かったけど―――



「とりあえず、それまでは君達の身柄を預かろう。その間は、先ほど言った通りミナの護衛として動いてくれて構わない」

「その後の事は、どうします?」

「出来る限り、君達がミナの傍にいられるように努力しよう。娘も、その方が喜びそうだからね」



 その言葉に、俺達はほっと息を吐く。

この先どうなるかまでは分からないが、何とか一緒にいる事は出来そうだ。



「ありがとうございます、公爵」

「何、私は娘の願いを叶えただけだよ」

「それでも、ありがとうございます」



 小さく笑う公爵に、もう一度礼を言う。


 そうして俺達は、とりあえずの護衛としての生活を確立したのだった。











《SIDE:OUT》





















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