「あんたでいいや、あたしと付き合ってみない?」その不誠実な告白を断ったら、なぜか恋に落ちるキッカケになっていた
*短編『「あんたでいいや、あたしと付き合ってみない?」その不誠実な告白は、恋を知るキッカケになっていた』当作品の男性視点となります。あらかじめ女性視点をお読みいただけますと、より楽しめると思います。
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「あんたでいいや、あたしと付き合ってみない?」
暗がりの校舎裏にて、同学年の女子が恥ずかし気もなく口にした言葉だった。
一年生の時と変わらず、いつものように校舎裏にて昼食を摂っていると、「失礼します」と礼儀正しくも、彼女はこちらが過ごすひとりの時間に土足で踏み込んできていた。
最初は恋を知っているか、そう唐突に質問されていた。
そこからの急転直下の告白。確実に裏があるのではないかと、疑いの目を掛けている。
透き通った髪色はツインテールに。白のシャツは第二ボタンまで外し、緩めに結ぶは黒の紐タイ。赤色のカーディガンはボタンを留めずに羽織っており、膝丈より上の短いスカートは健美な太腿を覗かせている。チェック柄の靴下は目につきやすく、爪は長く色は黒。おまけにピンク色のピアスも付けていれば、風紀委員を逆撫でするような、そんな派手な格好の人物に告白されていた。
どうせ、友達ひとりもいない人物をからかいに来たのだろう。
顔が整っていることからもそう判断し、探りを入れてみたのだが……その質問はすべて否定されてしまう。
最終的に、どうして自分に告白したのかと気になって問えば、小さなため息を吐いたあとに返される。
「……ひとりでいるし、恋を知らない。直感的にも問題ないと思ったから。別にうちの高校、風紀委員であろうと恋愛は禁止されてないでしょ?」
あんたでいいや、そう切り出した不誠実な告白は、あまり悪意がないような気がしては警戒心を解きそうになっていた。
だけど、緩めることはない。見知った顔であるかのような人物は、何かと一年生のころから噂になっていたような気がしたから。
そもそもの話、目の前の女子による直感という言葉にはあわれ大丈夫なのかと、心配というよりは憐みの目を向けていた。
「断固として断る」
これが返しとして正しいだろう。
ここで頷くよりかはダメージは最低限に抑えられる。
何様のつもりだ、そう男子から噂が広がってしまうだろうが、どうでもいい。恋というものはまだ知らないけど、勉強という学力を失ったら、自分には何も残らない。
運動ができず、特技というものは特になし。友人のひとりもできていない人間にとっては、勉学しか取り柄がないから。
とりあえず、中断していた昼食を再会することにする。
ただ……。
「……」
「ん? なに?」
告白を断られた女子は、平然と自分の隣で、お昼ご飯を食べていた。
一応、告白を断られた身だよな? そんな疑問を他所に、彼女は自身の隣から離れることはなければ、目に映る景色を眺めながらブロッコリーを口にする。
美味しいと顔が喜んでいた。不覚にも見入っていれば、手に持つ菓子パンを口にして誤魔化した。
結局、小さなお弁当箱が空になるまで彼女は隣に座っていた。
それも「またね」なんて言葉を残しては、立ち去る背中を見届けることになる。
どういう状況だったんだ。仮にも同級生で、容姿の整った異性とふたりで昼食を摂っているのは、この先の人生で起こり得ない事柄であろう。それも、付き合える可能性が少なからずあったとなると、ほかの男子生徒なら喜んで受け入れていたと思う。
ぼっち飯を続けていたら、こんなことが起きるのか。
なんて、気まぐれだろうとため息を吐くと、予冷のチャイムを耳にする。
(やば、次体育だ)
先ほどの出来事を忘れるかのように、急いで教室へと戻れば、少し遅刻する形となってしまった。
風紀委員に所属する身として遅刻とは、最悪な出来事であった。
翌日、次の授業が移動教室ということもあり、教科書に筆箱を片手に抱え、ひとりして廊下を歩いている。
「あ、見て見て、あれ」
前を歩くクラスメイト、そんな女子ふたりの会話を耳にする。
向けられた視線は、廊下で楽しそうに話をしている、派手な格好をした女子。
昨日、告白してきた人物であった。
「お洒落番長こと、遠野さんじゃん。超かわいいー」
「ねぇ。うちもあれぐらいお洒落しよっかなー」
「あそこまではやめときなよ。あれは遠野さんだからこそだよ。それに、内申点が本当に下がるんだったら、あたしら終わるよ」
「うえっ。それはまじ勘弁」
あぁ、そういうことか。
どうして、あの女子を見知った顔なのかと思えば、お洒落番長の名で通っている人物だから。うちの風紀委員長が、目の敵にもしている生徒のひとりであった。
そのような異名が付けられているのは、お洒落は見た目通りだが、赤いカーディガンを羽織っていること。
強気な性格だと印象付けられるその色からは、番長といった言葉を合わせ、お洒落番長といった異名が付けられたとか。
「隣は……生徒会書記の真面目ちゃんじゃん」
「あのふたり、幼馴染らしいよ。正反対に見えるのに仲いいよね」
今度は隣へと視線を移す。
去年もそうだが、生徒会選挙に出ていた人だ。
たしかに、ふたりが並んでいるのを見るとあべこべだ。真面目でしっかり者に見える生徒会書記に、校則破りのお洒落番長。幼馴染と言われなければ、どうして仲がいいのかわからないだろう。
ふと、彼女と視線が合ってしまう。
幼馴染といい、周囲にバレないよう、こちらへと小さく手を振っていた。
勘違いされるようなことはやめてほしい。
そう思い、無視する形で角を曲がっていた。
「こんにちはー」
丸めていた背中に、軽い蹴りが入る。
自然と隣に座る彼女であれば、睨みつけていた。
「なんで無視したの」
「いや、昨日話したばかりでしょ」
昼休みの時間帯、校舎裏にてじゃりパンを嚙みちぎっていると、彼女が不満そうな顔を見せていた。
そんなことより、告白を断った次の日もここに来るとは思ないだろ。昨日のことが何もなかったかのように、彼女は平然としていては、軽薄そうなその態度に断ってよかったと、心の中で思った。
「一応、風紀委員だけど」
「そんな感じは最初からしてた、見かけたことあったし。……何、昨日の自己紹介?」
「違う。よく風紀委員の隣に座れるなって話だ」
「いや、座れるでしょ」
「じゃあ言わせてもらうけど──制服を着崩すな、スカートの丈も短すぎる、その靴下の色はなんだ、黒い爪もアウトだ。それと、ピアスも駄目だ。指摘した箇所、全部校則内に戻せ」
人差し指を突き立てて、校則外の個所を指摘しては言葉にもしてみせる。
すると、彼女は身を庇うよな体勢となっては、わざとらしい声音で言い返す。
「へんたーい。男子がじろじろ見ないでくださーい」
「そんな目で見ていない。校則内に戻せ」
「はーい」
若干、心の中で動揺してしまったが、問題なく言い返すことができる。
それにしても、反省の色が感じられない適当な返事を聞けば、直ることはないのだろうと悟った。
「……さっき、胸ないとか思ってないよね?」
これでも、健全な男子高校生ではある。
彼女の怖い目つきには、当然、口には出さず首を横に振っていた。
二日目も共に昼食を摂ることになれば、学校がある日は毎日のように彼女とお昼を共にしていた。
校舎裏ということもあり、去年も変わらず誰も来ない場所。放課後ともなると、告白用途に使うだろうこの場所は、昼休みに関してはなぜか問題がない。
ただ、一件を除いてではあるが、それは彼女が引寄せたようなものであった。
それにしても、どうしてお洒落番長と呼ばれる女子と、昼ご飯を食べれているのかがわからない。
全くもって顔も良くない自分と居ることに、何も思わないのだろうか。少しばかり気にはなった。
日が経てば、毎日校舎裏ということはなかった。雨の日もあれば、近くにある空き教室前の廊下にて、座って昼食を摂ることも。
今日がそう言った日となっていれば、彼女との間で起きたことを思い出し、家へと帰って直行、自室のベッドへと飛び込み、悶えていた。
『そんなことより、いつになったら着崩した制服とかは校則内に戻るんだ』
『んー……私の頬にキスでもしたら、ちゃんとするかもね。まぁ、できないから直ることはないかなー』
(あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……!!!)
自分は何をしたか。容姿が整った彼女の肩に手を置き、頬にキスをしようとしていた。
まじで今振り返ると気持ち悪い! イケメン並みの顔すら持ち合わせていないのに、平気でやってのけようとしていた自分が気色悪い!
それに、カッコつけるかのように『言ったな?』て調子に乗っていた気がする。
振り返るだけで、まじできつい! それに、待ってる、てなんだよまじで! 期待するような気障なセリフ口にして、自分を客観視してみろよ……!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……!!!」
そんなこんなで後悔の念が押し寄せ、悶えていれば、日曜日となる学校が休みの日は気が気ではない。全くもって塾では集中できず、家での勉強も上の空となっていた。
月曜日が訪れると、風紀委員の当番として、朝早くから学校の正門付近に立っていれば、挨拶がてら校則チェックを行うことに。
少し眠いと、なぜか風紀委員長とペアになって挨拶をしていると、後ろから袖を引っ張られてしまう。
そんな恋模様になるような相手はいないぞ、そう思って振り返ると、目を見開いた。
「おはよっ」
容姿の整った、かわいい女の子──お洒落番長が校則を守った服装へと変わっていた。
白の半袖シャツに上は黒のベスト。スカートも夏用のものを着用しているだろう。
そんなことより、白の半袖シャツは第一ボタンだけ開けていれば、黒の紐タイはしっかり結び、スカートの裾は膝丈に合わせている。靴下も無難な紺色、爪は黒色から目立つ色ではなくなれば、ピアスを付けていなかった。
併せてとなるが、なぜか髪を下ろしていた。
いつものツインテールに髪を巻いていなければ、ストレートヘアに紺色のカチューシャを付けている。
こちらを覗き込むように、そして、着ている制服を見せつけるかのように彼女に挨拶をされると、先ほどまでの眠気が一気に吹き飛べば、照れてんの? と、にんまりとした表情を浮かべられては、顔を背けていた。
誤魔化したのは光る爪を見てから。
よくわからないけど、指摘してみせれば、彼女は逃げるようにこの場から立ち去ってしまった。
そんな姿に、カチューシャは良いのか? なんて思っていると、今回は自分の肩を掴まれてしまう。
やってしまった。隣の人物、委員長のことを忘れていると、怖い顔を向けられ問われてしまう。
「御影君。あれってさ……私の天敵だった、お洒落番長だよね?」
「……そうですね、はい」
「だったらさ、どうしてさ、お洒落番長が校則内の服装になってるの? 私の記憶がある限りさ、今日初めて見たんだけど……御影君が変えたんだよね?」
「……本当に……まぐれです」
圧ある声音に、縮こまってしまう。
偶然であり、本当に校則内で制服を着てくるとは思ってもみなかった。
どうせ冗談で言ったんだろ。そうわかっていて移した行動から、しっかり約束を守るなんて予想できなかった。
「まぐれなのはわかったよ。なら……──お願い、本当に教えて!」
圧ある声音に怯えていると──急に委員長は、目を輝かせては懇願する声音へと切り替わる。
は? この人、何言ってるんだ? そう思うは、茶化されたりするもんだと身構えていたため、前のめりな委員長を前に気圧されてしまう。
「お洒落番長を落すなんて凄いことだよ! てか参考にさせて! 私に実践するのでもいいからさ! 更生させた手段教えてよ!」
「いや、無理です! まじで偶然なんですって! しかも教えれないです!」
「だったら、君にお願いしたい生徒がいる。生意気な一年坊主なんだけど──」
「あ、お断りします。頑張ってください」
と、自分も時間を見てから逃げるように教室へと向かっていた。
無理に決まってる。委員長がただのキス魔になってしまうから。
「廊下もあつ~、日陰よりやばいかも」
「多少は涼しいだろ。それに教室入ればクーラーついてるし、わざわざ外で食べなくてよくなる」
「なに、一緒に教室で食べようってお誘い?」
「……そんなわけない」
夏休みが近づいてくる今日も今日とて、校舎裏にてふたりして昼ご飯を食べると、なぜか本日は、教室に戻るまで彼女と会話することになっていた。
変わらず距離が近いような気がするが……少しばかり、顔が引き攣ってしまう。
それは、数々の視線が突き刺さっているから。
本人は気にした様子が伺えない。
普段からこのような環境なのだろうと、彼女の立場を知ることとなれば、精神的にやられそうではある。もはや、監視社会で生きているような囚人の気分。風紀委員の時と違った、独特な雰囲気に呑まれそうになっていた。
先に教室へと戻ることになれば、いつも通り「またね」と彼女が言ってくる。
声量としては、あまり周りへと聞こえない声であったため、少しは助かった。
しかし、席に着けば多くの男子による眼光が、こちらにだけ注がれてしまう。
本当にどうして、一緒に教室に戻ることになったのか。
「おい」
そう圧ある声を飛ばしてきたのは、クラスの男子、二年生ながらにしてサッカー部のエースであった。
「御影。お前、どうして遠野さんと一緒だったんだよ」
「……どうしてって言われても、僕が訊きたい」
「仲良さそうに戻ってきたくせにか?」
怪訝な表情みせる彼は、少し苛立つように拳を握りしめていた。
すると、周りの男子たちも興味本位ということではなく、加勢するかのように声を上げ始める。
「彼女とかじゃないよな?」
「違う、それはない」
「てかさ、前の日から遠野さん、イメチェンしちゃったよな。前よりかわいくなくなったていうかさ、大人しめになったというか」
「それな。もしかして……こいつのせいじゃねぇの?」
「は?」
ひとりの男子が、こちらを指差すように言った。
そんな言葉には、表情が曇ってもしまう。
「風紀委員だからだよ。しつこすぎたから、嫌々変えたんじゃねぇの?」
「うわ、脅しはまずいからって、圧掛けしたって話か。可哀そすぎ」
「そういうことかよ、ただのクズじゃん。俺たちのお洒落番長返せよ」
「こいつが遠野さんを変えたとか、まじキモ」
「ていうかさ、風紀委員をいいことに、遠野さんに近づいたんじゃねぇの? 遠野さんやさしいから、仲良さそうな振りして戻ってきたとかさ」
「きっしょ。むっつりは考えることが違うわぁ」
加勢の声は、たったひとりの平凡な風紀委員では、覆せない空気へと様変わりしていた。
そうなってしまうと、より周りの視線がきつくなる。
まぁ、標的にしやすいよな。平凡な顔をした風紀委員なんて、目の前の男たちにとっては格好の的だ。ストレスや負の感情をぶつけやすい、ただの玩具だろう。
何も言い返せずにいるのは、あながち間違ってはいないから。
彼女に注意した回数は多いだろう。そう捉えられても可笑しくはない話だ。
(……つら)
未だに根も葉もないことを言われてしまう。半ばタコ殴りに合ってしまえば、メンタルがぼこぼこにやられていた。
別に精神的な話は、一年の時も含めた委員会活動で鍛えられていたはずだ。男女関係なく先輩たちにも立ち向かうことになったし、先月なんて彼女を壁に追い込んでいた男に対しても、弱気な表情を見せずに立ち向かえたはずだ。
だけど、そうかもしれないといった真実が存在すれば、違った方向で傷が増えていく。
「え……」
このまま時間が過ぎるのを待つしかない、そう思っていると、ひとりの女子が呆気に取られるような声を漏らしていた。
嫌な空気が流れていた教室内で耳にすれば、誰もが教室の出入り口にて佇む女子へと視線を移している。
「遠野さん……」
自分を睨みつけ、気持ち悪いと引いていたサッカー部のエースがそう呟き、彼女へと顔を向ける。
なんでいるの、違うクラスでしょ。そう言いたかったが、眉を顰める彼女を目にすれば、口には出せない空気。
ただ、彼女が手に持つ教科書に筆箱と見れば、移動教室だったのかと知ることができる。
「途中から聞いてたけどさ……なに? 高校生にもなって苛めなんてしてんの?」
「は、はぁ?」
睨みつけるのではなく、憐れむような目を向ける彼女に対し、向けられたサッカー部のエースは動揺したような声で言った。
周りで味方となっていた男子たちの中には、息を呑む者もいる。
「どう見ても違うだろ。そもそも、遠野さんは大丈夫? こいつに校則とかでしつこく言われて、嫌々その格好になってない?」
「……は? 何心配面してんの」
「だから、風紀委員のこいつにしつこく言われて、服も髪型も変えたんじゃないかって言ってんだよ。なぁ?」
サッカー部のエースは、周りの男たちも何か言うように煽り立てる。
「そうだって。いつも派手な格好しててかわいかったじゃんか。お洒落番長って感じで」
「どうして落ち着いたんだよ。前のほうが輝いてて良かったのに」
「つーか、なんでこいつと一緒に話してたの。顔もそうだけど、全てにおいて全然釣り合わないって。こいつより、俺とか、サッカー部のエースなんて肩書ある、こいつほうがまだましだぞ」
貶しに貶してくれる。
自分が思うより、人に言われるのはなんかきつい。
そんな男子の言葉を受けた彼女はというと、こちらへと一瞥し、話し始める。
「言っとくけど、これ、あたしが好きで着こなしてるだけだし。それに、あたしから御影君に話しかけてただけだけど」
「いやいや、そんなわけないでしょ」
「そうそう、冗談きついって」
彼女の言葉を聞けば、から笑いする男たち。本人の言葉すらも信用しないというよりは、自分の存在を見知っての反応であった。
変わらないその対応には、特に感情は変わらなかった。
ただ、小さく彼女が何か言っていたようで、男たちのひとりが途中気づく。
「そっか、弱み握られてる感じか。あとで裏で話してよ」
「なるほどな。俺ら、なんでも聞くし解決するよ?」
「──あほ……」
「え? なんて?」
「こっちがきついわ、どあほ」
から笑いする男子たちが寄り添うような言葉を口にしていると、一斉に表情が固まってしまう。
お洒落番長と笑顔を振りまいていた彼女が、血の気が引くような表情を見せては低い声音を発し、周りを委縮させる。
「たしかにさ、俳優並みに顔が良いわけじゃないよ、御影君は。それにあたし、あんたたちのように入り口として顔は否定しないし、第一印象は大事だと思ってる。でも、顔だけで決めるほど、あたしバカじゃないんだわ。それとも何? あたし、チョロそうに見える? 顔だけで選ぶ女に見えた?」
「……」
「ほかの人は知らないけど、顔だけで決めることはないから。あたしの場合、直感を信じているけど、中身とその行動を一番に見てるから」
ほかの男子たちには目を向け、長身であるサッカー部のエースに対しては、彼女は腕を組み、堂々とした佇まいで言い返す。
睨みつける彼女からは圧が感じられる。
それでも、他の男子たちと違って、睨みつけられた本人は平然を装って話し始める。
「わかった。……これでも俺、サッカー部のエースって、遠野さんも知ってるでしょ? 入り口が問題ないんだったらさ、俺の中身、見てくんね? こいつと話すより、俺のほうが絶対楽しいからさ。どう? 俺と付き合わない?」
わかった、そう理解を示したサッカー部のエースは、何を思ったのか突然告白しだしていた。
それも流れ的にも不誠実であれば、告げられた彼女は呆然としてしまい、見る見るうちに怪訝な表情を浮かべていた。
今突っ込みどころではないけれど、心の中で思う。あなたに付き合ってと言われた際、自分もそんな顔してましたよと。
ただ、沈黙した状況にもなってしまえば、空気のひりつきが増していく。
彼女は返答すらせず、目の前の彼から視線を逸らしていた。
「うわ、ここで告白とかありえないわ」
そのような状況の中、ひとりの女子が教室の皆に聞こえるような声量で言って退けた。
すると、怪訝な表情を浮かべた男たちはすぐさまその女子へと視線を移し、サッカー部のエースは睨みつけるのだが、
「幻滅するわ~、空気読めないの寒すぎ~」
「ほんとにそれな。てか、クーラー効きすぎたんじゃない?」
「いやぁ、そう思いたいけど、やっぱ寒いって~」
「──うわ、遅れてやってきたかも」
「ほらね? 寒いよね、まじ」
睨みつけてくる男子のことは気にせず、女子ふたりは関係ないと言わんばかりに、軽いノリで当の本人を言葉で叩く。
そんなふたりに、反撃しようとしたのだろう。彼が言い返そうと一歩踏み出すと、今度は三人グループの女子が声を上げた。
「てか、遠野さんのその格好かわいくないとか、あんたら何様だよ。超かわいいでしょうが、意味わからん」
「遠野さん可哀そう。こんな理想像だけ押し付けてくる男子がいるとかさー、ほんと最悪ー」
「しかも、俺たちのお洒落番長、だってさ、まじヤバすぎ。いつから男子のものになったんだよ、キモいのはあんたらでしょ」
空気の流れが大きく変わった。それは、この教室いる女性陣の皆が、隠そうともともせずにクスクスと笑い始める。
そんな状況を好ましく思わない男子たちは、顔を歪めてしまっていた。
うわー、すごー。女子が団結すると迫力が違うなぁ。
そう他人事のように眺めていると、教室の出入り口付近にてひとりの女の子が顔を覗かせている。
彼女の幼馴染だ。もうすぐ授業が始まるよ、そんなことを気にしながら、こちらの教室にある時計を気にしているようだった。
一応、伝えたほうがいいか。そう同じく口角を上げていた彼女を手で指し示せば、幼馴染の様子に気付いてくれる。
あ、授業遅れる、と。
「おい、まだ話し終わって──」
彼女がこの教室を後にしようとすると、恥さらしとなったサッカー部のエースは青筋を立て、強引に引き留めようと足を踏み出す。
「つーかさ、あんた誰?」
「…………は?」
しかし、彼女が足を止めれば、呆気に取られた彼のことは気にせず後ろへと振り返りながら話す。
「肩書きあるとか顔良いからってさ、覚えられてるなんて勘違い、やめたほうがいいよ。それにあんたが思ってるほど単純な生き物じゃないんだわ」
そう口にし、最後に一言。
「女なめんなよ」
最後の捨て台詞をきっかけに、彼女はこの教室をあとにする。
「なんかカッコつけたね、最後」
「いいから、そんなこと言わなくて。遅れるし」
「こっち、待ってた立場なんですけど……?」
「……」
待っていた幼馴染の元に戻れば、沈黙した教室には少しばかりふたりの会話が聞こえてくる。
かっこくよく決めてたし、少し怖くもあったけれど、にっこりと笑う生徒会書記の声音も相当であった。
「ごめん。自分が話したいばかりに、御影君のこと全然考えてなかった」
放課後、誰もいなくなった教室にて彼女が謝罪してくる。
夕日で照らされる景色を前に、頭まで下げている姿を目にすれば、こちらとしては小さくため息を吐いてしまう。
「どうして謝るんだ。君は何も悪くないだろ」
「それはない。男子からの声とか知ってるから、あぁなることぐらい予測できたはずだし」
「だからなんだ。それは周りの話であって何も悪くない。君は芸能人か何かか?」
少しばかり、自分の顔が歪むのを感じ取りながら問い正す。
ただの学校の人気者が、期待の目を向けた周囲の行動による過ちに対し、どうして本人が謝らないといけないのか。
あのような嫌味ぐらい、あの瞬間だけで耐えたらいいだけなのに。気持ち悪ければ、暗い顔を見せる彼女が目に映ると、尚のこと腹立たしくなる。
それも自分が人気ものであれば、こうはなっていないのかと考えると、申しわけが立たなくなる。
ただ、今はその気持ちを消さないといけなかった。
あまり気が進まないが、人として必要なことだと思えば、口を開く。
「それでも、言い返してくれて嬉しかった。ありがとう」
目が合う彼女にそう伝えれば、開けた窓の先、夕日へと視線を逸らしていた。
風紀委員の仕事を終えてからの頬撫でるやさしい風は、先ほどまでの嫌な気持ちを持ち運んでくれるよう。正面から感謝の言葉を送るのは気恥ずかしい。そんな気持ちだけは心に取り残されていた。
ふと、彼女へと盗み見るように視線を向けてみる。
夕日のせいか、彼女の頬が赤いように見えていた。
雨音が反響する外を他所に、空き教室にて彼女とふたりして昼ご飯を食べている。
風紀委員としての普段の行いからか、掃除をする条件など踏まえて鍵を借りることができていた。
とはいえ、今日を持って学校にて昼ご飯を食べることはないだろう。明日から短縮授業に入れば、夏休みへと突入。夏季課外があるものの、午前までと家で昼食を摂ることになるのだから。
そう、彼女とお昼ご飯を共にするのも本日を皮切りに終わることだろう。
二学期も、なんてことはなければ、自然消滅していると思う。
(……)
胸が痛んだ。元通りに戻るだけの環境に、何も不満などないはずなのに。
今日は特別、一言も言葉を交わすことがない。先日まで夏休みに関しての話をしていたが、最終日となる今日はひとりの頃と変わらない静けさ。
隣へと視線を移すも、彼女は俯き気味に食事していては、途中喉に詰まったのか顔を顰めれば、慌てずに水を飲んでと小さく咳をしていた。
いつもより、昼ご飯を食べるのが早かった。
彼女が先に食べ終わることはなかったのにと振り返っていると、自分も購買のパンを食べ終え、互いに席を立っては教室へと戻る準備をする。
持参するウエットティッシュで机の上を拭き、軽く掃除を済ませれば、鍵を閉める。
「また」
一緒に教室へと戻ったのは、あの日限り。
自分は鍵を返しに職員室へと向かうため、帰る方向は別れている。
何か話したほうがいいか。
そう思うほど静かではあったが、夏休み期間も会わないわけではない。
だけど、ふたりで会うこの時間は無くなっている。
寂しさを覚えながらも、次の授業は存在している。
そのため、彼女に背を向けては歩きだすと──腕を掴まれていた。
どうしたのかと振り返ると、俯いた彼女が目に映る。
「夏祭り」
小さく呟いた言葉を耳にすると、今度は顔を赤らめた彼女が顔を上げ、こちらの目を見て口にした。
「夏祭り……一緒に行かない……?」
唐突な言葉に、怪訝な表情を浮かべることはなかった。
容姿の整った彼女の誘いに、疑いの目を向けることもなかった。
恋なんて知らないけど、学力が失ったら自分には何も残らない。
お洒落番長と言われる人気者の女子が、平凡な自分に好意を抱いているなんて信じたくもない。
だけど、自分の気持ちに嘘を吐けないことがあるのだとしたら、それはひとつ。
目の前の彼女に対し、恋に落ちていたこと。
それだけは、真剣な眼差しを前にして、首を横に振ることはなかったのであった。
お読みいただき、ありがとうございました。




