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僕が義家族の一員になるまで〜ときどきまゆげ〜  作者: 雨宮倫


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義兄と会おう 1

 義実家のあいさつを終えたのち、最初の数日間は発言の失敗を引きずっていたものの、数日もすると傷も少しずつ癒えてきていた。そんな中、午前中は珍しく外回りのアポがなかったため、デスクワークに励んでいたら、3年先輩の遠藤さんに昼食に誘われた。昼食は外回りついでにコンビニかカフェで食べることが多いため、人と昼食を共にできる喜びから二つ返事で承諾した。

 


 「義実家のあいさつか~。あまり印象がないが、特に問題なく終わった気がするな。それなりに緊張もしたけど、相手の親御さんもいい人で会話も弾んだ記憶だな。なに失敗したの?娘さんと僕に下さいとか古い感じで言っちゃった系?」

 にやっと笑いながら聞いてくる様はまさに悪ガキのようだった。ただ的確なアドバイスをくれると僕は知っている。遠藤さんは同年代とは思えないくらいどしっと構えている雰囲気があり兄貴分肌であると感じていたため、今までも相談に乗ってもらうことがしばしばあった。だからこそ僕は彼に相談するのだ。



 「それだけならいいんですけど、緊張しすぎて彼女を物のように扱った言葉がでてしまいました。普段からモラハラしているように思われてもおかしくないです。失敗したと思って巻き返そうにも、お義父さんが無口というか一回も目が合わなくて、それでまたパニックになって、みたいな感じでした。」

 「はっはは、木下君ってそんな感じになるんだ。そつなく何でもこなすイメージがあったけど。なんか意外だね。」お待たせしました、かつ丼です。と店員さんが運んでくるおぼんを受け取りながら彼は言う。

 「僕も意外でした。イメトレなんて何回もしたし、しかも僕営業職で食っているのに、本当に情けなくなりました。」僕はお腹が減っていたのでとんかつ定食にした。



 「まあ、そういう失敗ってどこかで笑い話になるし、時間が解決してくれるよ。大体さ、義両親なんて他人だったわけじゃん。相性とかもあるし、合う合わないはどこかで感じると思うよ。」

 遠藤さんは淡々とけれども寄り添いつつ励ましてくれる。だから信頼できるのだ。

 僕らは同じチームに所属しているが、一方で僕らの上司はすぐ自分の経験に当てはめるタイプなので参っている。事あるごとに、「俺がバリバリ営業やってた時は、毎日飛び込みだったから大変だったよ。その時代に比べて君たちは大分楽だよね。」なんて言うもんだから、僕らはノスタル爺と呼んでいる。



 「でも僕、義家族と仲良くなりたいんです。お義父さんとゴルフしたり、お義母さんにも家事のことを教えてもらいたいし。彼女の姉妹とだって気軽に出かけたいし。」

 「なんでそんな仲良くなりたいの?別に最低限の付き合いでよくないか?年に2回くらいだろ、会うの。」

 「確かにそんなに頻繁に会うわけではないです。」その時、僕自身もなぜこんなに義家族と仲良くなりたいと思っているのか不思議に思った。なぜか僕の中では、仲良くなるのが当然でと思っていたたため、理由なんて考えたこともなかった。

 まあ、あまり力みすぎるなよ、締めの言葉をかけられ、僕らは仕事の話を始めた。そういえば、遠藤さんは義家族とどんな関係なんだろうと思った。今度聞いてみよう。



 家に帰ると柚子が、ごはんを作ってくれていた。僕らの家事分担は料理担当は柚子、掃除担当は僕となっている。その他家事はできるほうがやろうという方針である。僕らは別会社であり繁忙期も違うので、協力しあうことを前提に家事協定を結んだ。しかし、台所の生ごみを捨てる作業も僕の担当となっているため、いつか彼女に料理担当の業務範囲ではないかと異議申し立てをする予定だ。



 「こむぎの写真が送られてきたんだけど、見て!もう顔の肉で目が潰れちゃってるよ。」と笑いつつ愛おしそうに言う彼女。写真の中のこむぎはまゆげもまだまだ存在感を放っている。

 「柚子は犬飼いたい?」僕が尋ねるともちろん、というが散歩に行けるかが不安なんだよねと言う。あれ、命の値段をつけるのが許せないとか言ってなかったっけ?と僕が聞くと、そんなこと言ったっけ?とケロッとしている。

 こうなると言った言ってない議論になるだけのため、大体ここで戦略的撤退する。僕は紳士なのだ。紳士エピソードはそれだけではない、夜ご飯もとんかつだったが何食わぬ顔で食べる。これが円満の秘訣である。今までテレビや雑誌で目にしたことがある”妻や彼女の作ったごはんに文句を言ってはいけない”というフレームが刷り込まれているだけな気もするが、文句を言っても夜ご飯のメニューを変更できないのだから、文句を言うだけ損なのだ。紳士というより戦略的撤退というのがふさわしいかもしれない。



 「そういえば、お姉ちゃんから家に早く来てよって連絡がきたの。再来週の土曜日とかどう?」吉報だ。お姉さんの桃香に会えるのだ。それだけではない、お姉さんの旦那、つまり義兄と対面できる。僕は予定を確認し、問題ないことを伝えた。



 「奏多と遥香に会えるの楽しみだね~。」3歳の甥っ子と1歳の姪っ子のことだ。写真は何度か見たことがあるが、この方たちとも初対面である。こうなると難しいのが手土産だ。大人向けの手土産にすると子供たちが食べられない可能性がある。なんなら大人向けの手土産にすることで、子供たちのことを考えていないと姉夫婦に思われるのも避けなければならない。超難問を突き付けられた気分だ。

 「チャイルドシートとかどうかな?」僕は双方にとって必要なものを挙げた。

 「え、なんで?」彼女は困惑した顔していたため、僕は大人も子供も喜ぶ手土産がチャイルドシートしか思いつかなかったと正直に話した。チャイルドシートなんてすでに持ってるでしょうというのでそれもそうか、なんて浅はかな提案だったのだと少しばかり反省した。



 結局、大人にはデパートで買えるデザートと、子供には子供向けアニメのキャラクターのぬりえ本をあげることにした。消えもの系がいいでしょという彼女の意見に賛成した結果だ。ただ、義実家に行ったフルーツゼリーの冷える時間を思い出し、大人向けのデザートは焼き菓子にしようと提案した。僕は失敗を活かすタイプなのである。



 僕らの家から義姉家は車で、2時間ほどだ。コンビニでコーヒーを買い向かう。義姉夫妻はマンションの賃貸に暮らしているそうだ。マイホームを建てる計画もしているのだとか。自分と同年代にも関わらず人生が進んでいることに驚きながらも、いつか僕も彼女と子供でマイホーム暮らしをしたいと願っているのだ。子供が大きくなったら犬も飼おう。彼女の会社の愚痴を聞きつつ、妄想を膨らませているといつの間にか到着した。



 「いらっしゃい!よく来たね。ささ上がって。あ、侑一郎さん初めましてだよね。背高いね。何センチあるの?柚子もこんなイケメンよく捕まえたね。」スリッパを出しながら義姉が畳みかけてくる。

 「久々だねお姉ちゃん。私、意外とモテるんだよ。お邪魔します~。」答えを考えているうちに柚子が返事をした。義実家に行くときほどの覚悟がなかったためか、義姉に圧倒されてしまった。なるほど、柚子の家族はお義父さんを除いてみんなおしゃべりなのだ、矢継ぎ早に話すのは母親譲りなのだと確信した。


 「初めまして、お姉さん。木下侑一郎と申します。本日はお招きいただきありがとうございます。お邪魔します。身長は185センチです。」義姉の問いに最低限の返答をしたが、義姉はへえ~いいねえとだけ言った。別に興味はなかったのかもしれない。


 「わー奏多と遥香大きくなったね!彰さんもお久しぶりです。大きくなりましたね。」

 柚子が近づいてきた奏多のほっぺを人差し指でつんつんしながら言う。お義兄さんとは2回ほどしか会っていないと言っていたのにも関わらず冗談を言う彼女はなんと心強いか。お義兄さんはふふっと笑うだけだった。



 「初めまして、木下侑一郎と言います。この度はお招きいただきありがとうございます。」お義兄さんにもあいさつをした。

 「初めまして。わざわざお越しいただきありがとうございます。田中彰です。こっちは奏多で、こっちが遥香です。」無駄のない端的な自己紹介だ。笑顔もなく淡々と話す姿に気圧されながら、床に膝をつき、お義兄さんの近くに立っている奏多にあいさつをした。奏多はぎこちない笑顔を見せた後、初めましてと緊張気味に言った。



 僕は少し子供が苦手だ。子供との距離の詰め方が分からないため、お義兄さんに抱かれている遥香にも同様に堅苦しいあいさつをした。くそ、遠藤さんに子供との接し方を聞いておくんだったと後悔した。お姉さんがお茶を出しながら、リビングにあるソファに誘導してくれたため、一時退避することに成功した。

 さて、ここからどうやって義兄と仲良くなろうか。まさかお義父さんと同じタイプではなかろうかと一抹の不安を抱いた。


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