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僕が義家族の一員になるまで〜ときどきまゆげ〜  作者: 雨宮倫


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2/2

結婚のあいさつから帰ろう

彼女の家族と仲良くなりたい。


お義父さんとお酒を飲んだり、ゴルフに行ったり、


お義母さんから料理のコツを教わったり——


そんな“理想の家族像”を夢見て、僕は奮闘する

 やってしまった。思ってもないことを口にしてしまった。いや幸せにしたいと思っているが、言葉選びがまずかった。そこまで傲慢な言葉が自分から出てくるなんて思いもしなかった。



 「なんとたくましいじゃない。柚子をよろしくね。」動揺を隠せずにあわあわしていると、お義母さんが言葉をかけてくれた。そんな、普段僕は豆腐を扱うかのように彼女と接していますよ~あははは〜と冗談を言いたいのに。

 「侑一郎なんか男らしいね。うける。普段からそんな感じでもいいのに。」フォローしてくれた将来の奥さん。手汗いっぱいの手で今すぐ抱きしめたいと思った。お義父さん、娘さんのおっしゃることを噛み砕くと、普段は優しく柚子さん優先で、紳士的なんですということですよ。相変わらずお父さんとは目が合わない。



 「ま、まあ、2人が幸せなら僕らは安心です。どうか柚子をよろしくお願いします。」お義父さんは僕の右肩あたりを見ながらそう言った。

 「こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いします。」営業職で鍛えてたボキャブラリーはどこへやら。




 彼女に犬に会いに行こうと誘われた。きっと僕とお義父さんだけが感じていた気まずさを紛らわせてくれたわけではなく、単純に彼女は犬が好きなのだ。2人で出かけている時も隙あらばペットショップに入ろうとする。犬欲しいなあ、でも命を買うっていうことが正しく人間のエゴだよね、そこが気に食わない。なんて愛護団体顔負けのセリフをよく口にする。実家の犬は地元のブリーダーから買ったようだ。結局買っているじゃないか。


 

 まるまると太った柴犬。茶色いしっぽを揺らしながら近づいてくる様は、非常に愛らしい。名前はこむぎ。”こ”は余計なのではと思うほど大きい。まるでぱんぱんに詰まった稲荷寿司のように。こむぎは6畳ほどの広いスペースで放し飼いされていた。もちろん四方には120センチほどのフェンスで囲まれている。フェンスは外からカギをかける形となっており、彼女はそのカギを開けた。

 開けた瞬間、飛び出してくる稲荷寿司。ちぎれんばかりにしっぽを振り、しゃがんだ彼女の顔や手をぺろぺろしている。2歳というのでまだ子供なのだろう。僕も癒し欲しさに近づき撫でようとした。が、こちらを見た瞬間、こむぎは小刻みに震えだした。怒っている、いやおびえているように見えた。


 「わー、めっちゃびびってるじゃん。侑一郎でかいからじゃない?」確かに身長185センチ近くある。彼女やお義母さんは160センチといったところか。彼女のお義父さんも170センチほどなので、きっとこむぎが見てきた人間のなかではかなり大きいのであろう。

 「困ったな、僕は君とも仲良くなれないのか。」

 「え、なにうちの両親と仲良くしゃべってたじゃん。」

 「僕的には全然うまくいかなかったよ。会話のテンポが速すぎてお義母さんと柚子が何を話しているのか全く分からなかった。」

 「大丈夫だよ。そのうち慣れる。」

 彼女的には問題なかったようなので、ひとまず安心した。ただお義父さんは何年も一緒にいるはずなのに慣れていなかったよね?という疑問は声には出さなかった。依然として彼女は優位にいるからだ。

 


 相変わらず僕から目を逸らさない、震えているこむぎに彼女はペット用のお菓子を取り出した。近くにキャビネットがありそこに餌やお菓子が入っているのだという。お気に入りはさつまいもスティックだそうなので、彼女からさつまいもスティックをちぎってもらい、こむぎに差し出した。怯えながら近づき食べた。咀嚼中も僕から目を離さない。お義父さんとは真逆だね!なんて声をかけてやりたい。



 数分もしたら、こむぎも慣れてきたのか、震えも止まり、僕の方に寄ってきてペロっと手をなめてきた。しっぽはだらっと垂れ下がっているが、まあ最初はこんなもんだろう。


 気が付けば、あきらめなければ、こむぎも心を開いてくれるし、義両親とも仲良くなれると勇気付けられていた。先ほどの失態もいつかは笑い話になるという自信につながった。こむぎよ、僕を励ましてくれているのだろう、なんて愛らしいんだ。僕はこむぎを刺激しないように丁寧に頭を撫でた。


 そのときに初めてこむぎの顔を正面から見た。目の上の毛の色が少し黒っぽかった。全体的には茶色いななみのため、目の上に眉毛があるようだった。僕は無意識にこむぎの眉毛を指でなぞった。すると本人も眉毛の存在を気にしているかのように僕の前から立ち去った。間抜けに見えるが、いいチャームポイントだよとこむぎの伝えたい。



十分な癒しと休息を得た僕は、彼女とともに居間に戻り手土産のゼリーをいただいた。まあまあ冷えている。彼女もせっかちなので、冷凍したごはんのレンジもタイマーが終わるまで待てず、途中で出してしまい、一部冷たいご飯を提供されることもしばしばある。血は争えないものだ。



 「今日は泊まっていくの?今から帰るのは大変よね?」お義母さんが食べ終わったゼリーの容器を片付けながら僕らに問いかけた。容器を渡し、ありがとうございます。と伝え、今日は近くのホテルに泊まることにしています。と重ねた。

 「えーせっかくなら泊まっていけばいいのに。」と名残惜しそうにお義母さんが言う。

 「私からホテルを提案したの。だって侑一郎からしたらいきなり実家に泊まるのってかなりハードル高いじゃん。普段も仕事で疲れているし、せっかくの休みはリラックスしてほしいと嫁(未来)は思うのです。」ピースしてこちらを向く彼女。あくまでこういう僕を気遣っていないふりをして気遣ってくれているところが好きなのだ。あくまで彼女の意見でホテルにしたと暗示させるテクニック、そうすることで彼女の両親からすると、僕が義実家に泊まることを嫌がっているわけではなく、彼女の意見を尊重できるできた彼氏を演出できるというわけだ。

 ただ実際は僕に気遣っているわけではなく、ホテルに泊まることは彼女の意思であり、彼女がそこまで考えていないこと僕は知っている。彼女はただ欲望に忠実で素直なのだ。



 義実家には計1時間ほど滞在し、僕らはホテルに向かうことにした。近くのホテルといっても義実家周辺は田舎であるため、ホテルまでに車で1時間かかる。だいぶ緊張がほぐれてきたと思っていたが、別れ際に、「引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。」と取引先に言うようなセリフを吐いてしまい、これまたお義母さんに笑われた。お義父さんがちらっとこちらを見たような気がしたが、気のせいだった。

 


 「いや~お義父さん私の方ばかり見て話すんだもん、笑いそうになったよ。」

 「やっぱりそうだったよね。最後まで僕と目が合わなかった。もしかしてあまり気に入られてないのかな。」

 「お義父さん結構誰とでも話すタイプと思ってたから意外だった。まあかわいい娘の旦那だからちょっといやなんじゃない?お義父さん、3姉妹のなかで私と一番仲いいからね。てか夜ご飯どうする?」

 僕の傷を癒してくれないのか、僕の話は夜ご飯よりどうでもいいのか、もう君の優位なポジションは終わったのだよと伝えたいが、そんな些細な事に囚われているのは僕だけだろうと思い直し、寿司はどう?と提案した。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


繊細で細かいところが気になる侑一郎と、ざっくり大雑把な柚子とその家族の物語です。


どこかで聞いたことがある、または体験したことがあるような共感できる物語になればいいなと思っていますので、続編も読んでいただけると嬉しいです。


次回は、侑一郎が同僚にはげまされる&義兄登場です。

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