27.抜け落ちていた大切な記憶
アラタ(洗濯物も終わったし、
今日は天気もいいから買い物にでも行くか。)
窓の外の青空を眺めながらそう思うと、
身支度をしに部屋に向かった。
店主のおばちゃん「あいよ。これおまけね」
アラタ「ありがとうございます。」
果物屋の顔見知りのお店のおばちゃんから
おまけの果物を紙袋に追加で入れてもらい、お礼を言う。
店主のおばちゃん「あ、そうだ。今日はいい野菜が手に入ったって、
噴水広場のカジさんが言ってたよ。行ってみたらどうだい?」
アラタ「へえ、そうなんですね。後で行ってみます。」
紙袋を片手に抱え、一つ果物を取り出して眺めながら歩いていく。
大通りを行き交う人々からは、
楽しそうな話し声や笑い声が聞こえてくる。
走り回る子供たち、井戸端会議をする主婦…
前のダンジョンの取り分の話をする冒険者たち…
アラタ(うん…平和だな)
そんな穏やかで平和な光景に、クスッと微笑む。
いつものように部屋で一人、目を覚まし…
いつものようにのんびり家のことをし…
いつものようにこうやって買い物に来て、誰かと話して…。
そんな毎日に、満足していた。
別に不満なんて感じてなかった。
アラタ「…うん、美味いな」
手に持った果物にかじりつき、一口食べる。
そうして噴水広場の方に向かおうとした時、
ふと、男女の冒険者が視界に入った。
冒険者の女性「依頼も終わったし…
ねぇ、今日はあっちのお店で食べようよ」
冒険者の男性「そうだな。報酬もあるし、
今日はちょっといい店に行こうぜ」
女性に腕を引かれ、楽しそうに昼食の話をする男女の冒険者の2人。
アラタ「…」
なんでか、目が離せなかった。
止まって、ただ呆然とその2人の行動を見つめた。
そして、無意識に視線が自分の横隣りへと移った。
アラタ(…なんで、俺の隣には誰もいないんだろう…。
いつもいたはずなのに…『あの子』が。)
勝手にそんな思いが脳裏を過ぎる。
その時、強い感情が、想いが…
激流のように心の奥底から溢れ出てきた。
あの日、「元気でね」って微笑んだあの子の顔が鮮明に浮かび上がった。
そしたら、それを皮切りに
次から次に記憶が蘇って溢れ出した。
あの子との、とても大切だった日々のことも。
アラタ(なんで俺…こんな大事なことずっと忘れてたんだよ…っ)
顔を顰め、やるせない気持ちに頭を掻きむしる。
居ても立っても居られず、
焦るようにして慌てて聞いて回った、あの子のことを。
でも、みんなあの子のことは知ってるのに、
誰もあの子が今どこにいるのかなんて知らなかった…。
アラタ(そう…そうだよな…)
あの子は誰よりも強かった。
出会った時からそうだった。
誰のことも頼らないくらいに強くて、
でも、簡単に他人に手を差し伸べて助けてくれるような子で…。
活発で、明るくて、
いつも俺があの子の後ろをついて行って…。
アラタ(今もそうなのかもしれない。笑って気ままにあちこち行って…。
サクッと魔物倒して、人助けして…。)
アラタ「…」
そんな、あの子のことを、俺は探し出せるんだろうか…。
迷うことなくいつもどこかに向かって進んでいく、あの子のことを。
あの子の背中ばかり追いかけてた俺が、一人で…。
…至難の業なのかもしれない。
…無謀なのかもしれない。
アラタ(それでも、俺は…っ)
どんなに無謀なことだと分かっても、
会いたいと思った…すごく。
だから、諦めることなく探し回った。
あの子のこと。
何日も…何ヵ月も…。
色んな街を、村を回っては人々に聞いて回った。
でも、噂は聞けても本人には一向に会えることなく
月日は残酷に流れていった…。




