26.分からない感情
アラタ「…」
俺の元から立ち去っていく見知らぬ彼女の後ろ姿を、ただ見送る。
でもその時…
なぜか急に、このまま行かせてはいけないという感情が、
激流のように急激に俺の心に襲いかかってきた。
アラタ(…?! なんだよ、これ…!!なんで…。)
わけが分からないまま動悸のしてきた心臓に、
胸元の服をぎゅっと鷲掴みする。
アラタ(…でも…このまま行かせたら…
二度と会えないんじゃないかって…)
なぜだかそんなことを思った。
そしたらもっと動悸がして…
不安になって…
苦しくなって…。
アラタ「…ぁ」
一歩、彼女の元に踏み出そうとして、
でも、もう遅くて…
彼女はずっと遠くにいて…
そのまま、街の中へと消えていってしまった。
アラタ「…はぁ」
深くため息をつく。
声をかけて引き留めなかった後悔なのか、
動悸がする心臓をただ落ち着けたかっただけなのか…。
今の俺にはそんな判断もできなかった。
………
……
…
あれから一週間。
あの時の彼女のことは気になっていたものの、
そのままいつものように日々を送っていた。
アラタ「そろそろこれも洗うか」
洗濯物をまとめてカゴの中へ入れていく。
コロンーー。
ふと、なにかが音を立てて床に転がり落ちた。
アラタ「ん?」
落ちたものを見つめる。
それは、しずく型のカット加工をされた、
黒っぽい石のようなアイテムだった。
アラタ「これ…」
拾い上げてその石を見つめる。
アラタ(目が覚めて気がついた時には
ポケットに入ってたんだよなぁ…。
元から持ってたから、なにか大切なお守りか何かかと思って
ずっとポケットに仕舞い込んでたんだっけ。)
手に持ったそのしずく型の黒っぽい石を
あちこち角度を変えて眺めてみる。
窓からの日の光を反射し、
キラキラと綺麗な虹色の光を放った。
アラタ「綺麗…だな」
そう口にした途端…
一瞬、あの時の彼女が、
このアイテムを持って楽しそうに眺める姿が浮かんだ気がした。
そしてまた、強い感情が押し寄せ、胸が締めつけられた。
アラタ「…はぁっ」
顔を顰め、胸元の服をぎゅっと掴む。
アラタ「…なんでまた…」
目を閉じ、深呼吸を何度かして気持ちを落ち着かせる。
数分後、落ち着いてきた頃に目を開け、
手のひらのあの石をしばらく見つめる。
アラタ(理由は分からない。
けど、きっと…やっぱり大切なものなんだろうな…)
アラタ「ふぅ…」
あの石を握りしめた後、
カバンの中に大切に仕舞い込むことにした。




