25.『今』のアラタ。そして…
街の外れの緑の多い場所。
そこにポツンと佇む小さな一軒家。
ひなた(ここにアラタくんがいるって画面の情報には出ていたけど…。)
少し離れた位置から様子見する。
すると、一軒家の裏手の方から歩いてくるアラタを発見した。
ひなた(あ、見つけた。)
ひなた「アラタくん♪」
名前を呼び、小走りで駆け寄る。
アラタ「…あ、ええと…キミ、俺のこと知ってるの?
どこかで会ったっけ?」
私のことを不思議そうに見つめる。
ひなた「私のこと…覚えてない?」
不安げに小首を傾げて尋ねる。
アラタ「…あ~…ごめん。俺、こういうことたまに起きるんだ。」
申し訳なさそうに頭を掻いて謝る。
ひなた「…ぁ。」
その時、ふと思い出した。
アラタは転生直後に、
記憶喪失や記憶の混濁を起こすことがあるってことを。
ひなた「あ…う、うん…そっか。こっちこそ、急にごめんね。」
困ったように苦笑いする。
アラタ「いや、多分、俺が悪いと思うし、
そんなに謝らなくていいよ。
お詫びといってはなんだけど、よかったらお茶でも飲んでいかない?
さっき、中央通りで買ったんだ。」
ひなた「あ、ええと…」
返事に迷い、視線を泳がせる。
丁度、庭のテーブルに置かれた果物カゴや洗濯物が目に入った。
なんだかとても穏やかで、平和そうなその空気感に、
またふと思い出す。
ひなた(そうだ…そういえばアラタくん、言ってたな…
『ただ、平和で穏やかな日常を普通に過ごしてみたい』…って。)
ピチチチーー。
小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
優しい風が吹き抜けていく。
改めて、ここの穏やかで平和な空気感を全身で感じた。
ひなた(せっかく会えたし、また一緒にいられたらって、
ちょっとだけ思ったけど…。)
アラタの服装をゆっくりと全身見ていく。
ひなた(前とは違って、武器も防具も装備してない。
まるで、戦闘なんて一切関係がない『ただの村人』みたいに…。)
『今』のアラタを魔物との戦闘が起きるような日常に、
本当に連れて行ってもいいんだろうか…。
ただ、『普通の生活』がしたいと望んだ、あのアラタを…。
ひなた(一緒にいた前の時だって、あんな、魔王と戦って倒して…。
私と一緒にいたら、きっと…
アラタくんは『普通の生活』なんてできない…)
アラタの今の姿をただぼーっと見つめながらそんなことを思う。
ひなた(だったらいっそのこと、アラタくんにこのまま、
私のこと思い出さないでいてもらった方が…)
無意識にポケットの上から『ヘキラの想い』を
ぎゅっと握りしめていた。
アラタ「…あの?」
アラタが不思議そうに顔を覗き込んできた。
ひなた「あ…」
アラタ「都合悪かった?別に無理にとは言わないけどさ」
ひなた「…あ~。うん、ごめんね。ちょっと、用事あって無理かも。」
苦笑いして断る。
アラタ「そっか。残念。」
ひなた「ええと…長居しても悪いし、もう行くね。
ごめんね、お邪魔しちゃって。」
アラタ「いや、こっちは大丈夫だ。」
ひなた「それじゃあ…アラタくん。
…元気でね」
『さよなら』とは言いたくなかった…。
でも、『またね』なんて無責任な約束もできないと思った…。
だから…
精一杯、普通に微笑んでそう言った。
アラタ「え…? あ、あぁ…そっちも、元気で。」
よく分からなさそうな表情で合わせるように返事をする。
ひなた(これで、いいんだよね…)
心の奥の小さな引っかかりを胸に抱きながら、
アラタに背を向け、私は彼の元から去っていった。




