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短編集

インフィニティ

作者: チャラン

 恒星間航行用宇宙船インフィニティ。地球からの大規模エクソダスのために作られた輸送用超大型宇宙船だ。その銀色の山を思わせる巨体に、これから数万人の命が乗ろうとしている。


「大きいなー! すごいね! 父さん!」

「ああ、すごい宇宙船だ。でもな、ソラ。これに乗ったら地球とはお別れだぞ。乗る前にしっかり見ておきなさい」


 ソラとテツヤの父子は貧困家庭であり、その日の食料を手に入れるのにも難しい生活を、今まで続けていた。ソラは今より幼い頃、内臓疾患系の病気を患っていた母を失っている。貧困から十分な医療を受ける金を工面できなかった結果、テツヤは妻を失ったのだが、彼らの家庭の貧しさは、政府の圧政によるものであった。


 毎日ほとんど休み無く働いても、何とか糊口をしのげるほどの賃金しか手に入らない。テツヤの妻が患っていた内臓疾患は、初期治療をしっかり行えば快癒する手のものだったのだが、ほんの僅かに蓄えていた金では、スラム街で粗悪品の薬を買うのがやっとであった。それでも、効くか効かぬのか分からない怪しげな薬を、テツヤの妻は、


(この子を残しては逝けない……)


 我が子のソラを案じる必死の思いで飲み続けた。しかしながら、粗悪品の薬では十分な薬効を得られず、テツヤの妻は二年ほど前に、帰らぬ人となってしまった。


(病院にさえかかれていれば、あいつは……。俺はもう、この地球に憎悪しか抱いていない。恨みだけが残っている。一刻も早くインフィニティに乗って離れたいばかりで、この星に未練など微塵もない。だが、ソラは違うだろう)


 宇宙船基地を中心とし、雄大な地平が広がる景色を目に焼き付けるように名残惜しそうに、ソラはじっと見続けている。倍率の高い抽選で選ばれ、移民船への乗船を許されたことは、ソラとテツヤにとって一生一度の幸運と言える。だが、ソラは、形容し難いほど苦しい生き方を強いられていたとはいえ、地球を離れることに一抹の未練を残していた。しかし、それもすぐに吹っ切れた。


「船に乗ろう、父さん。新しい星に行こう。お母さんもそうした方がいいって、きっと思っているよ」

「そうだな……あいつもそういう思いだろう。よし! 行こう、ソラ! 新しいフロンティアへ!」


 ソラとテツヤを含めた全ての移民が搭乗し終わると、インフィニティは、間もなく発進し、大気圏から宇宙へ出た(のち)、時空を歪め、恒星間ワープを行う。


 ソラとテツヤがその先に見た、母なる新しい星は、優しく美しい青さを湛え、彼らを温かく出迎えてくれた。

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― 新着の感想 ―
貧困家庭が健康で文化的な生活を送れていない所に、作品世界における地球の政府の失策と社会保障の脆弱さが感じられますね。 妻を亡くした親子の味わった辛酸は、相当な物でしょう。 新天地で幸福になれると良いで…
 良作ですね。  絶望からの脱出は可能か?  それとも無限に続くのか?  新天地にて彼ら親子を待つ運命はいかに?  絶望の過去と未来への希望を親子や星に対比させたのは秀逸ですね。  短編として完結して…
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