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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
虐遇王女と受容

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Ⅱ584.虐遇王女は微笑ましくなり、


「……大丈夫かしら、皆」


特にハリソン副隊長とセドリック。と、具体名は敢えて伏せながら、テーブルに着いた私達は改めて広間内をぐるりと見回す。

セフェクとケメトのお祝いパーティーが始まってから、全員に料理が行き渡った。ハリソン副隊長のスイーツと生姜焼き合併行動はびっくりだったけれど、アーサー達のお陰でなんとか今は無事に食べ始めてくれている。

セドリックの方は、……レオンが回収してはくれたけれど未だに人間ストーブのように発熱しているのが遠目でもわかる。何とか料理を食べる手は動いているけれど、まだ記憶に苛まれているのだろうなと思う。

私もついセドリックの黒歴史を彷彿とさせてしまう危険を忘れてしまっていた。ごめんなさいセドリック。


絶対的な記憶能力を持っている彼は、最近こそ私やティアラを前にする程度で真っ赤になることは減ったけれど、だからって普通の人みたいに忘れたわけでもない。あくまで〝慣れ〟でなんとか保っているだけだ。

そして彼の中でつまみ食い事件は未だに慣れには至っていない。まぁ当然だ。特に豚の生姜焼きなんてセドリックが見たのは今回が綺麗に二回目なのだから。


「大丈夫ですっ!マリアもほらっ!トリクシーが料理運んでくれていますし!」

ティアラが視線で示してくれる先では、マリアがソファーに寛ぎながらちょうど屋敷の侍女のトリクシーの取り分けてくれた料理を受け取っているところだった。

マリアも私達の料理を気になってくれたらしく、一番に皿へ取ってくれたのが嬉しい。こちらの視線にも気付いて優雅に小さく手を振ってくれるマリアは凄く楽しそうだ。

まだ席はなんとかなるしこっちの席にどう?と誘ってみたけれど、そこは断られてしまった。寧ろステラの様子を遠巻きで見れるのが嬉しいらしい。


ジルベール宰相の御屋敷を借りてのパーティー。

今回はこっそり私とティアラの手製料理をした為、またジルべール夫妻に屋敷を貸して貰うことになった。更には、ケメトとセフェクのお祝いと伝えればステラとマリアも是非にと今回は参加してくれることになった。

防衛戦後あたりからひょんなきっかけで仲良くなったらしいケメトとセフェクは、時々ジルベール宰相の屋敷に遊びに行っていて今ではかなり懐かれている。……ヴァルだけは未だにステラに好かれていないけれど。

まぁ彼が優しいのはケメトとセフェク限定なのだろう。毎回二人にせがまれて仕方がなくジルベール宰相の御屋敷には行っても、基本彼は御屋敷でご馳走されながら壁際に座っているだけらしい。

最初の頃は現れる度にステラも泣いていたから、それと比べれば泣かれなくなっただけ前進しているといっても良いかもしれない。


ねっ、と嬉しそうに微笑みかけてくれるティアラに私も一言返す。

マリアに手を振り返しながら、また後で今日のパーティーのお礼も言わなきゃなと思う。会場を貸してくれただけでなく、私とティアラの料理の仕上げだけでなく他にも素敵な料理まで用意してくれたのだから。


「まさか皆で持ち寄り会になるとは思いませんでしたっ!レオン王子が用意して下さった果物もすっごく美味しいです!」

「あ、ティアラが食べてるそれ私も好き。熟れてない林檎みたいだけど林檎じゃないやつ」

「きっとセフェクの為に用意してくれたんだと思いますよ!」

きっとそうです!とヴァルの元からセフェクへと合流したケメトの言葉に、ティアラも全力で同意する。うん、きっとそうだろう。

ティアラが皿に盛った梨も含め、珍しい果物は全部レオンがパーティーに持ち寄ってくれたものだ。私達も定期訪問でレオンに会いに行く時に時々出して貰ったことはあるけれど、今回はセフェク達の好きな果物を用意してくれた可能性は高い。

ただでさえ今まで食べ物の持ち寄りなんてしたことがないレオンが持ってきてくれた瑞々しい果物達だ。今回のパーティーを一緒に企画してくれたのもレオンだし、会場をジルベール宰相の御屋敷と伝えた時点で私達が手製料理を用意することも読んでいたのかもしれない。

私達が一直線に突入したデザートエリアに並べられた果物は、どれも宝石のようにきらきら輝いていた。そして持ち寄ってくれたのはレオンとヴァルだけではない。


「はいケメト。これ食べたことないでしょ?」

あーん、とケメトがセフェクからフォークに刺して差し出される雪玉菓子に大きく口を開けてパクついた。セドリックが持参してくれたお菓子だ。

クッキー菓子に粉砂糖がこれでもかというほど振られているお菓子は、ハナズオ連合王国サーシス王国の伝統菓子らしい。セドリックが移住で連れて来た元祖サーシスの料理人が作ってくれた本物の味だ。

「ケメト殿とセフェク殿の祝いと聞き……」と是非ハナズオの菓子の味を楽しんで欲しいと持ってきてくれた。ハナズオの防衛戦でもヴァルと一緒に活躍してくれた二人のことを、当然セドリックは今も忘れず感謝している。


私とティアラもハナズオやセドリックの宮殿でもご馳走になったこともあるお菓子で、大好きな一品でもある。正直、持ってきてくれた時かなり嬉しかった。

ティアラもちょっとだけ目がきらきらしていたもの。ハナズオへ初めて訪問した防衛戦後に出された時にすっごく気に入っていたから、こっそり楽しみな菓子なのかもしれない。

今も、レオンの果物は一種類一個ずつなのに雪玉菓子は三個も盛っている。小食のティアラにしては珍しい量盛りだ。


「セフェクも好きなの食べてくださいね!主達の料理もですけど、このパンもセフェク好きでしたよね」

そう言いながらケメトが手で摘まんでセフェクに差し出したのはミニメロンだ。好きでしたよね発言に、こっそり私は心の中でガッツポーズをする。すっごく嬉しい!!


前回二人に出したのは、同じジルベール宰相の御屋敷でのパーティーだ。あの時からミニメロンパンの存在を覚えていてくれたのも嬉しいけれど、気に入ってくれてた発言はもっと嬉しい。

ケメトの発言にセフェクも否定する様子はなく、ぱっくりとケメトの手からパクついた。「一個どうぞ」と言うケメトの前にだけは皿が三枚も並べられている。三分の一はヴァルが食べた後だから多分集約すれば二枚に収まるのだろうけれど、それなりに広いテーブルだし問題ない。

今回は人数が増えたこともあり、立食ではなく椅子とテーブルも複数用意して貰えて良かった。……恐らく、お嬢様且つ子どものステラに立ち食いは本人もそしてマリアの負担もあるからだろう。

セフェク達と違ってステラは床や立ったまま食べるのは慣れていないもの。


「ステラもあとでティアラちゃんとプライドさん作ったお菓子食べるー」

大好きなセフェクとケメトが食べているのを見て羨ましくなったのか、ステラが雪玉菓子を齧る前にむにゅっと唇をタコさんにするのが可愛い。

ステラも最初に食べると決めたのは見かけからして可愛らしいセドリックのお菓子だ。流石にハナズオの菓子はステラも初めてらしく、もう最初の一口から完全にメロメロになっていた。唇を結んで「ん~!!」と頬を落とさないように両手で押さえる姿はもう天使そのものだ。毎日食べさせたくなる笑顔だ。


ケメトが「一口いりますか?」と自分の分のメロンパンを差し出すとステラまで迷わず口を開けていた。貴族とはいえ可愛らしい甘え姿……、とも思うけれど多分これケメトとセフェク相手だからかなと思う。

親や侍女達からなら未だしも、社交界の為にもしっかり教育されているステラは私達にはあーんなんてせがまないもの。

初めて会った時は名前も付ける前の赤ちゃんだったステラちゃんはあれから本当に大きくなったなと感慨にふけってしまう。

ケメトからメロンパンを一口もらって、ちゃんと飲み込んでから「ありがとー」と喜ぶステラにはこちらもちゃんと好評でほっとする。セフェクが「ステラもそれ好き?」と聞くと、大きく頷いてくれた。


「あとねーステラ、ケーキもすっごい好き。とーさまが買ってくれるこのケーキがいっちばん好きなの」

自慢げにステラが自分の皿からフォークを刺すケーキは、フルーツいっぱいの一切れだ。

今回マリアの屋敷が用意してくれたご馳走の一つ。マリアには前もって私とティアラが持ち寄るから最後の調理だけ使用人と厨房を借りたいと話はしていたけれど、その際にケーキとサラダ類を自ら請け負ってくれた。

流石に私とティアラもケーキを焼くほどの手の余裕はなかったからありがたかった。ジルベール宰相の御用達のお店で今日の為に用意させてくれたケーキは、まるでウエディングケーキのような大きさに最初セフェクも目をまん丸にしていた。


「誕生日でもないのに良いの……?!」と確認まで私達にしたセフェクは、乾杯直後には一番に皿へ乗せていた。

ステラも一番に見せたがったケーキだ。大好物のケーキにセフェクも最初の一切れを取るのも少し緊張気味だったのがまた可愛かった。一度に二切れと、果物に雪玉菓子と一つの皿に所せましと並べているセフェクは、一番スイーツバイキングを楽しんでいる様子だった。

ちょこちょこ味が混ざるのも気にせずたまにケメトからクッキーやメロンパンだけでなく揚げ物も食べているのが彼女らしい。ケメトも一緒だ。やっぱり好きな食べ物は違ってもこういう食べ方とかは姉弟は似るものなんだなと思う。微笑ましい。


「セフェクおねーちゃん学校はおいしいのある?」

「まぁね。けど今日の方が全部美味しいわ。ステラやティアラみたいに毎日美味しいもの食べてる人だと違うかも」


首を捻りながら学校について尋ねるステラに、セフェクもいつにも増してちょっとお姉さんらしくみえる。


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