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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
虐遇王女と受容

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Ⅱ581.三と七は歓迎を受け、


「えっ!なにこれ、なにこれ!?ちょっと?!」

「わっわっ!どうして皆いるんですか!?」


ヴァル!!と直後にはセフェクとケメトの声が重なった。

うるせぇ、と耳を指で塞ぐヴァルは不機嫌に顔を顰める。プライド達から口留めを受けていた以上どちらにせよ自分には言えなかったが、ここで言い訳をするのも面倒だった。

振り返る二人から裾や腕にしがみ付かれながら、ぐらりと身体を左右に揺らされる。振り払うよりも先に一直線に彼らを迎えに駆ける王女二人と少女が飛び込み、中断された。

満面の笑みで迎える第一王女と共に、第二王女から今日の趣向について知らされる。


「今日はケメトの特待生とセフェクの入学お祝いパーティーですっ!」

「セフェクおねーちゃんケメトおにーちゃん!おひさしぶり、でっす!」

ティアラに続き、ステラが最初にセフェクへ抱き着いた。

ぎゅっと両腕で受け止められればすぐ離れ、次にはケメトへと抱き着くステラはほくほくとした満面の笑みだった。


ステラ・バトラー。もうすぐ四歳になる少女は、宰相であるジルベールとその妻マリアンヌの愛娘である。薄桃色の髪を母親から受け継いだ彼女は、父親似の薄水色の瞳をきらきらと輝かせていた。

行きましょうっ!とティアラが二人の手を取れば、自分も手を繋ぎたいと言わんばかりにステラも手を伸ばす。


ティアラから「じゃあ私はセフェクと」「ステラはケメトとお手てを繋ぎましょうか」と提案されればすんなりと四人で一列になり、更に広間の奥へと歩き出す。

未だ状況の整理がしっくり頭に追いついていないセフェクもケメトも瞬きを繰り返し目を白黒させるが、今は友人達に促されるまま足を動かした。歩きながら一度首だけで振り返れば、入った扉の前からまだ一歩も動かず大欠伸を零すヴァルと、そして手を繋ぎそびれたことにこっそり肩を落としているプライドが目に移った。


ケメトとセフェクのお祝い。


以前ケメトが特待生に、そしてセフェクも検討したことを聞いてからお祝い会をしようと決めていたプライド達だが、極秘視察を終え一区切りついた今やっとそれを実現できた。

プライド達にとっては待ちに待ったお祝いイベントだが、当の祝われる本人達には〝そんなこともあったかな〟という印象も強い。既に特待生試験からひと月以上経っている今、催促しようとも思わなければ期待どころか殆ど忘れていたお祝いだった。

こんなパーティーまで開かれずとも、自分達は既にその日の内にヴァルに祝って貰えたところで満足した後だったのだから。


しかし、広間の奥へ奥へと進めば見回す必要もなく大勢の来賓に目が丸くなる。

全員揃うことは珍しい近衛騎士や、未だ自分達に拍手を送ってくれる王子達にそしてマリアンヌもいる。自分達の誕生祝いよりも盛大かもしれないお祝いで、なのに主役が自分達である衝撃はすぐに受けとめきれるわけもなかった。

じんわりとステラと手を繋ぐ手も、お互いに繋ぐ手も、ティアラと繋ぐ手もその平が湿っていく。


「セフェクおねーちゃん、ケメトおにーちゃんもおめでとー!お勉強頑張ったね」

「あ……ありがとう……。私は別に特待生にもなれては」

「ありがとうございます!セフェクは頭が良い人が多い中等部三年生で上位だったんですよ!」

にこにこと、大好きなお姉ちゃんお兄ちゃんに会えたステラからの言葉に、セフェクは少しだけ気まずそうに言葉を濁した。しかしそれも直後にはケメトが満面の笑顔で胸を張る。

セフェクが特待生になれなかったことを気にしていることは知っているが、初等部の自分と違って中等部で優秀成績の姉が誇らしい。こういう時はステラに嘘を言いにくくするセフェクは可愛いと思う。

ケメトの背中を押すようにティアラからも「本当に二人とも偉いんですっ!」と力いっぱいの賞賛を掛ければ、セフェクも唇を結んだまま頬が緩んだ。


「ステラもねー、学校に行けるようになったら特待生なるの!」

「?ステラは特別教室でしょ??そっちは特待生じゃないんじゃないの」

「なんで~?」

「特待生は僕らみたいな庶民用なんですよ」

「じゃあステラも庶民で良いー」

「ステラにはまだちょっと難しいお話ですよねっ。大丈夫ですよ、お祝いの機会はたくさんありますから!」

今後プラデストへ入学する予定のステラだが、宰相の娘であり金銭的に余裕のある立場でもある彼女は特別教室の枠である。

しかし、その貴族と庶民の差を本当の意味で理解できるほどステラは大きくもない。来月には四歳になるステラは、まだ子どもであることに変わりはない。

あくまで否定するのではなくやんわりと返すティアラの言葉に、やはりステラは首を捻る。貴族と庶民で貴族の方が偉いらしいのはわかるが、自分は大好きなセフェクとケメトと一緒に通ってケメトと同じ特待生になれるなら別に庶民になっても良いと思う。少なくとも、貴族も庶民もお金持ちでも貧しくても同じ人間であることは両親の教育により理解できている。

人より偉そうにしたいと思ったことのない純粋な少女には、「偉い」ことよりも「仲良しの人と一緒」の方が大切だった。

首を捻ったまま納得はできないステラへ、続いてケメトからも「ステラが入学していっぱい友達作れたらお祝いしましょう!」と第二の案が投げられた。途端にきらっと目が輝くステラだが、直後に一瞬だけ顔が顰められる。


「その時はケメトおにいちゃんとセフェクおねーちゃんだけで良いー!ヴァル意地悪だもん!!」

口をわかりやすく「い」の形にするステラの言葉に、今度は三人揃って笑ってしまう。

小さい頃から時折遊びに来てくれるセフェクとケメトのことは本当の姉や兄のように慕っているステラだが、しかし同じ数会っているヴァルに対しては未だに好きではない。

今も視界にすら入れず、セフェクとケメトだけを攫って行ったステラは小さくヴァルの方に振り返ってはつんと前を向き直した。

実際はヴァルに「意地悪」と言えるほどのことをされたわけではない。会う回数に比例し、今ではヴァルの顔を見ても泣きはしない。しかし優しいセフェクやケメトと違って、何を言っても構ってくれず「うぜぇ」「来んな」「セフェクケメトなんとかしろ」としか言わずに自分を邪険に扱うヴァルは、ステラにとっては充分に意地悪の分類だった。


本来、子どもが好きではないどころか嫌いに入るヴァルにとって、ステラも例に漏れない。彼女がもっと幼い頃には泣かれて騒音で大変だった時のことも若干根にも持っている。

ステラに嫌われても、泣かないでいるのならむしろ近づいてこなくなって都合も良い。ただでさえステラはあのジルベールの娘なのだから。

嫌そうにするステラの言葉も慣れているセフェクとケメトも、彼女にヴァルが悪く言われることは大して気にしない。「そういう奴なの!」「ヴァルは意地悪のつもりはないんですよ」と言いながら、むしろちょこっと胸に湧いてしまう優越感を隠した。


「なぁ、そういやもうステラって学校行くのか?」

その光景を眺めながら、アーサーは思い出したように親友に投げかける。

今日のセフェクとケメトのパーティーに合わせて休息時間を得た彼は、今はあくまで来賓として立っている。今はプライドの護衛は他の近衛騎士の為、ステイルの隣に立っていたアーサーは会場が城ではなく宰相の屋敷であることもあり、気も楽だった。

椅子に掛け寛ぐステイルの肩へ肘を乗せながら尋ねるアーサーに、ステイルも「そうだな」と軽く視線を投げてからステラ達へ注視した。

幼等部は貴族の数も比較少ない為いつでもステラを入学させることは可能なジルベールだが、あくまでプライド達の極秘視察の一件が落ち着くまではと決めていた。

そして今、無事にプライドの極秘視察は終えている。特別教室では早々に入れ替えを行っている生徒もいる。


「近々入学させるつもりではあるらしい。例の件でまた延期にと考え直そうともしたらしいが……」

「いや、ンなこと言ったらいつまで経ってもステラ入学できねぇだろ」

例の件、という言葉にすぐプライドの予知の件に理解したアーサーだが、流石にそれで延期という言葉に顔をぐるりとステイルへ向けた。

もともとはプライドの正体がバレることがない為だが、心安らかに心配なく娘の入学を見守りたいという理由もあった。しかし、予知で今後も忙しなくなるからと後回しにすれば、今後も一生ステラが入学できる機会は奪われるかもしれない。今回の予知は置いても、宰相である以上多忙でない時期の方が少ないのだから。

アーサーの言い分に、ステイルも「その通りだ」と深く頷いた。当時も、王配であるアルバートに尋ねられそう答えたジルベールが似たような言葉で咎められていたことを思い出す。

王配補佐であるティアラも、そしてジルベール補佐を行っていたステイルもまた気持ちは同じだった。


「ジルベール曰く、幼等部から初等部程度の年齢の間は特別教室も定員超えの心配はないからいつでも問題ないとは言っていたがな」

「?なんでだよ。貴族でそれぐらいの子どもなんていくらでもいるだろ」

「一度入れ替えを終えたら再度体験入学するのはかなり後になる。だから今も中等部と高等部ばかりが定員越えなんだ」

あー……、と。ステイルの説明にアーサーも納得の声を漏らす。

当然幼い時から我が子を話題のプラデストに入学させたいと思う貴族もいる。しかし、自分の子を入学させたいと思う理由はそれだけではない。自分の子を通して学校の仕組みや内観など詳細情報を調査させたいと考える親も当然多い。

しかし、幼初等部に適応する生徒では正確に細かく説明できるかもわからない。そうなるのであれば、自分の子達が満足に内観調査を可能になる中等部以降になってから初見入学へと望む方が確実だった。再度入学者よりも、初見入学者の方が優先して体験入学の順を回されるのは周知の事実だ。

そしてだからこそ中等部高等部と異なり、ステラは幼等部や初等部に入学しても定員超えを起こさない限りはそのまま学校へ通い続けることができる。


「まぁ幼初等部への入学も出し惜しむようでは結局機会を逃し続けるのが目に見えている。宰相である奴もそれをよくわかっている筈だ」

だから結局入学を決めた、とそう告げるステイルの言葉に、アーサーは苦く笑う。

なんだかんだ言ってもステイル自身が、プライドを気遣ってジルベールとマリア、そしてなによりステラが学校にいく機会を失って欲しくないんだなと頭の中で結論付ける。体験入学がいくら長くなろうとも、結局入学時期がずれればそれだけ学校生活できる期間も短くなってしまうのだから。

将来的に近々学校は世界だけでなく、フリージア国内でもプラデストのみではなくなる。貴族専用の学校が各地で設立されれば、その時は幼等部初等部に在学していたプラデストの生徒はそのまま新たな貴族用の学校へ通うことになる。上級貴族であれば特に、貴族学校を設立する側の立場やもしくは同盟共同政策の学園へと入学する者も当然現れる。

プラデストは学校機関を理解させる為の特別教室はあっても、結局は下級層中級層の民の為の機関なのだから。一定期間しか上級層は体験入学しか認められない学校へいつまでも子どもを出し惜しみしている間と、時間は等しく過ぎていく。


「ステラも入学かぁ。ジルベール宰相、寮は絶対行かせたくないっつってたよな」

「ああ言っていた。「私と妻とお腹の子が寂しくて死にます」と年甲斐もなく。まぁ、可愛い盛りだから離れたくないのもわかってやらないでもないが」


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