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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
虐遇王女と受容

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960/1000

探り、


第三作目の登場人物は、その後の作品シリーズの攻略対象者に一人は関わっている。


私も嵌った第三作目。キミヒカで初めてアニメ化もされ大ヒットさせたシリーズ。

ただ第三作目は、前作二作目どころか第一作目の攻略対象者すら出てこない。

何故なら、第三作目はキミヒカシリーズ新体制として大ヒットさせる為に一新したシリーズだから。

第二作目では、第一作目の登場人物が全員ちらっと出て来た。その結果、第一作目ファンから嬉しい声もあれば、……前作便りの印象やむしろそのまま第一作目の続編や学パロを作れという声も多かった。

けれど、恐らく第一作目のティアラと攻略対象者との恋愛続編を作るつもりはなかったのだろう製作スタッフ。そこで渾身の力を込めてキミヒカシリーズ第三作という枠は外さずに作られたのが第三作目だ。結果、超絶大ヒットしてアニメ化もしてそしてユーザーも一気に増えてキミヒカシリーズは生存権を得た。


ただ、アニメ化で大ヒットしまくった第三作目の続編に何が起こったかとなれば、……今度は第三作目の登場人物も一人は新シリーズに絡める手法に出た。第一作目みたいなチラ見せだけじゃない、誰かの多かれ少なかれ関係者という特別待遇だ。

第二作目と似たような方法だ。ただし、第二作目は大盤振る舞いで第一作目の登場人物全員がティアラの学校潜入という理由でチラ見せ出番があったけれど、アニメ化大ヒット様の第三作目は各シリーズに関わるのは全員じゃない。

だからこそ第三作目にハマった乙女ゲームユーザーは必ず続編を買って、自分の推しの気配を期待し続けた。キミヒカの世界観は引き継ぎながらも完全新章としてキャラ一新に加え第二作目みたいに過去作の攻略対象者全員出さないチラ見せも功を評した。…第三作目ヒットしたらまたチラ見せ商法出したけど。


そして当然ながら、レナードもその一人だ。パウエルは、………まぁ、ここは仕方ない。ステイルの活躍により彼は他作品への関連フラグはポッキリ折られている。もしパウエルがステイルに助けて貰えなければ、ゲーム通りの生き方をさせられたパウエルを見つけ出して話を聞けば何かしら情報も聞けたかもしれない。けれど、それは惜しいとか残念とは全く思わない。

レナードだってかなり重い過去の登場人物だし、既にその過去を背負っているのは正直嬉しくない。その前に間に合っていればと後悔してもし足りない。けれど、まだ彼にもできることはちゃんとある。

そして今急ぐべきはレナードが関わった他シリーズの子達だ。

しかも、………サーカス編。


ハァ……、と音には出さず静かに息を吐く。シリーズ何番目かは忘れたけれど、正直「いやだなぁ」という気持ちもある。

登場人物達に関わるのが嫌、というわけじゃない。ただあのシリーズもこの世界では現実として存在するという事実自体がすごく嫌だ。だってあのシリーズ暗いんだもの。

何作目からは思い出せなくても、サーカス編としては大まかな流れだけは覚えている。

第二作目と同じく登場人物や各ルートはまだしも、何度も全クリする為に繰り返した大まかな流れは思い出せた。………すっごく陰鬱な気持ちになったのも。確かレビューでもわりと辛口に




〝第三作目からの御新規さんは要注意〟




………あれ?

過った記憶に、あと少しで声が出かけた。ジルベール宰相が沈黙を貫く中、私も私で頭の中が忙しくなってくる。いま、今なんか聞き捨てならないレビューを思い出したような。


確か、うん、私もこれを呼んでちょっと覚悟した一文だ。私も漏れなく第三作目のアニメから嵌った御新規さんだったから。………………あれ、つまり。

〝アニメ化もされた第三作目とは全くの別物〟〝レナード目当てだったから良かったけど……〟〝無印に嵌ってからずっとこういうのを待ってた〟〝隠しキャラルート以外無理しんどい〟〝全シリーズ全キャラ攻略済みです。前作の第三作目とは全く異なるテーマで〟…………前作の第三作目????

ぽわぽわと、さっき思い出したばかりの記憶に更に新たな記憶が蘇る。まさかのゲームのルート内容でも攻略対象者でもなく、ゲームのレビューだ。当時第三作目で嵌った後に続編を買うか悩んでがっつりレビューを呼んで買うか買わないか葛藤したのがこんなところで活用されるなんて!……って‼︎ならやっぱりサーカス編って第四作目⁈


うわぁぁぁぁ………、と急激に記憶の齟齬がしっくり落ち着いた途端、ジルベール宰相の返事待ち中にも関わらず深く背凭れに体重をかけてしまう。

別に第何作目かと番号で何が変わるわけでも決まるわけでもないのだろうけれど、なんだか続々と続編続きで関わっているのがすごく怖い。ゲームの強制力に背中を押されているような感覚だ。


そうだ、レナード関連のサーカス編は第四作目。そして私もまた、第三作目のちらっとでもレナードの気配を聞いたから、第三作目の登場人物が全く出ない第二作目や第一作目よりも先に第四作目から優先してやり込み始めた。……予告PVにもチラッと出たレナード、もう背中だけで格好良かった。

正直、レナードにも会いたい。けれど、彼はもう急を要する状況ではない。レイで言えばもうライアーが行方不明になった後の状況だ。

なら、ここは急ぎ手を差し伸べるべき第四作目の彼らへ先に動くべきだ。……それに、レナードには恐らく今後会うのもそこまで難しくない。ゲームの設定を覚えている私だからそう言える。


「ケルメシアナは、……確かにステイル様の仰る通り首都に値する地域名です」


ぽそりと、静かな声を放ったジルベール宰相に一気に意識が引き戻る。

未だ思考を巡らすように視線を私達の誰にも向けず斜め下へと浮かせているジルベール宰相はさっきよりも額に汗が湿っていた。

首都、ということは私達の同盟国ではないのだろうと先にそれだけは推測する。流石に我が国の友好国の首都、つまり王都名くらいは私も頭に入っている。同盟国でも友好国でも和平国でも、それくらい言えないと社交も外交も話にならない。

まぁ王都ではなくその他の街や地名までは網羅できているのは我がフリージア王国くらいだけれども。他の国は王都や後は各名所くらいだろうか。アネモネ王国はわりと勉強したけれど、ハナズオ連合王国なんて殆どわからない。

そしてジルベール宰相が教えてくれた国名を聞けば、……うん。躊躇っていた理由がよくわかった。

ステイルもやっと記憶と照合できたのか、舌打ちを短く溢した。


「サーカスというのならば、やはりこの首都もしくはその周辺地域発祥と考えるのが妥当でしょう。まぁ移動型の場合もありますし、必ずしもこちらに滞在しているとは断言はできませんが。……プライド様?」

ぎくっ。

ジルベール宰相の探るような声色にそれだけで肩が正直に跳ねる。わかっている。ジルベール宰相のことだ、ここまで私が話せばこの先も読んでいるに違いない。そして恐らく、いや確実にステイルも察している。

じわじわとジルベール宰相以上に額も手のひらも湿っていくのを感じながら緊張で奥歯を噛み締める。

切れ長な薄水色の眼差しが再び私を捉える。私もここは逸らさないようにと意識して目を合わせるけれど、同時に息が上手くできなくなる。「まさか」と言われたところでもう次の言葉は確信した。




「この〝ラジヤ帝国の属州〟へ行きたいとお考えでしょうか……?」




予知した人物を救う為に。そう締めくくられた問いに、私は当然否定できなかった。

ラジヤ帝国。本国は我が国から王族専用馬車でも一か月はかかる距離にある。けれどもともと侵略と奴隷売買で領土を広げ、奴隷生産国としては一番の大国だ。ラジヤは大陸中に自分達の支配下国を所持している。

そして今回ジルベール宰相が思い出してくれたケルメシアナという首都を持つ地は、今では元の国名も失ったラジヤの属州だ。ラジヤ本国と異なり我が国からかなり近場に位置している。

正直、この私が行く許可を得るのは不可能に近い。ただでさえ、今は王女自粛期間中。しかもラジヤ帝国とはつい最近奪還戦を行った後で、アダムとティペットの生存の可能性も存在する。

プラデストでは無事バレることも会うこともなく済んだけれど、ラジヤ帝国にわざわざ足を運ぶなんて地雷どころの話じゃない。……それでも。


「………………はい」


やっぱり、それでも見捨てられない。

これだけは譲れないと、枯れた喉で答えれば次の瞬間にはステイルが顔を深く俯けてしまった。息を吐く音まで漏れ、若干黒い覇気まで溢れ出してくる。怒っている、……といっても多分この怒りに近い殺意の矛先は私ではないのだろう。

ジルベール宰相も片手で口を覆いながら、細い眉が限界まで中心に寄った。

二人が難色を示すのも当然だ。きっとここで背後を振り返れば近衛騎士達からも似たような表情を浮かべさせてしまっているだろう。

私だって馬鹿じゃない。ちゃんとわかっている。城から出ることすら厳しく制限されている私が、城どころか国を出てラジヤの属州へ行こうだなんて笑顔で手を振ってもらえるわけがない。怒鳴らないだけ二人とも優しさだ。ここにティアラが居たらきっと顔を真っ青にしただろう。


「……入国すること自体は、そう難しいことではありません。ラジヤの中でも極小の属州ですし、今はフリージア王国にその権利があります」

水から上がるような悠然とした声で返された言葉に一瞬耳を疑う。

てっきり諦めるように解かれると思ったのに、予想をはるかに上回る肯定的な返答だった。何故だろう、ジルベール宰相なら絶対反対すると思ったのに。

入国するのが難しくないのも、ジルベール宰相が言わんとしていることも意味はわかる。

私も釣られるように低めた声で返し、続きを待った。ステイルも気になるように一度俯けた顔を小さくジルベール宰相へと向ける。


私達からの視線を受け、ジルベール宰相は一度細い喉を鳴らした後に結んだ両指をテーブルに置いて身体を前のめりにこちらへ傾けた。


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