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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
誘引王女と不浄

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Ⅱ573.不浄少女は聞き、


「ほんっとよ~俺様も連れ出して貰えりゃあ良かったんだが、生憎現場が違って素通りだ」


重大情報をどうでも良さそうに話すライアーに、むしろ意識的に呼吸を止める。

本音を言えばこの場でテーブルを飛び越えて「そこ詳しく!!」と叫びたい。まさか、こんな形でレナードの情報を得るなんて想像もしなかった。しかもなかなかの最悪エピソードで。


無言を貫く私へ、知り合いかもと判断したライアーがありがたいことに当時のことを話してくれ、心から感謝する。

聞けば聞くほどゲームで語られた過去そのまま過ぎて、心臓が痛い。ピキピキと内側から口の端に亀裂が入りそうなくらい力が入っているのが自分でわかる。


ライアー曰く、その焼き印の彼を見たのは檻の中。商品とされるべく市場へ搬送中にちょうどその騒ぎが起きたらしい。

結構な規模の騒ぎになっていて、檻の中からでも聞こえて来たと。集団逃走の中、自分の檻の前を走り去っていった少年の顔はあまり覚えていないけれど、明らかに主犯が若い少年だったこともあり特徴的だから印象に残ったそうだ。

「美女の顔なら覚えてたんだけどなぁ」と冗談交じりに言う彼に、取り合えず焼き印でもなんでも覚えてくれてありがとうしかない。

それ以外はもうわからない。取り敢えず自分の知る限りはその犯人が捕まったとも処分されたとも聞いていないから、逃げきっただろうと言葉を選びながら気を遣ってくれるライアーにやっと「そうですか」と声が出た。ええそりゃもう当然逃げおおせたでしょうとも。私の行動が何らかの形で彼へと影響していない限り絶対に。


レナードが六年も前に無事逃げおおせた後だという事実に、安堵とそしてできることなら〝そう〟なってしまう前に力を貸したかったという罪悪感が均等に混ざる。けど、とにかくもう逃げた後というのなら一先ずは安心ということは変わらない。……あとは、ラスボスにさえ会っていなければ。

レナード、レナードと心の中で唱えながら、絶対ご本人を前にしたらそんな軽々しく呼べる気がしない。というか卒倒したらどうしよう私の方が。だってレナードは



第三作目の登場人物なのだから。



私が大好きな、大嵌りしたきっかけでありキミヒカでも唯一何度もプレイした作品。

彼がもう逃げおおせているのなら、居場所もわかる。だけど、そこにいるのなら一先ず今は安全だ。ならばやはりレナードよりも今は〝こっち〟の方がと。私は胸を押さえながら四回深呼吸を繰り返す。

ジャンヌ、なんだ、知り合い?と彼らがそれぞれ呼びかけてくれる中、あくまで今は〝ジャンヌ〟であることを自分に言い聞かす。この場で余計なことは話せない。

城に帰ったらまずは理由付けから考えないとと思いながら、それでももう一つ絶対聞きたい情報をライアーへと確かめるべく問いを捻る。

何でもないことのように話してはいても、彼にとって忌むべき過去だと理解しながら言葉を選ぶ。


「……。ライアー、貴方がその人を見たという……国の名、か……その、地の手がかりになるような情報はありますか……?」

「?俺様が流出された国?あー-----ちょっと待て、ここまで出かかってる。いやお持ち帰りしたのはラジヤのおっさんなんだが俺様を売ってた市場自体はー------……」

うー-----んと大きく首を捻り、腕を組み眉間に皺を寄せるライアーは、全く過去の商品として扱われたこと自体は気にも留めないように記憶を絞り出そうとしてくれる。

大体の人には結構心的外傷の筈なのだけれど、それどころか「いや俺様も油漬けにされてたからから興味ねぇことまでは」とかとんでもないことまで言い出す。そんな食材の保存方法みたいな気軽さで言わないで欲しい。


不意打ちに背筋が冷たくなって肩が上がれば、ずっと顔を顰めて話を聞いていたレイの周囲にボワリと黒い炎を灯り出した。

まずい、と思えばすかさず気付いたライアー本人がコップの水をびしゃりとレイの頭に掛けた。「昔のことだっつの」と言いながらの攻撃に、レイも目を絞りながらも同時に炎を消滅させる。


ジルベール宰相にお願いすれば、ライアーのことについてもラジヤへ問い質すことはできるかもしれない。でも、特上とはいえ奴隷だった彼の経歴をちゃんと記録されているかは怪しい。ただでさえ相手は奴隷を無数に携え取り扱う奴隷生産国最大手ラジヤ帝国だ。世界中で彼らは奴隷の輸出も輸入も行ってい

「確かー……サーカス。サーカスがあったな?いや俺様は見ても出されてもいねぇんだが、売られるまで檻の中まで聞こえるくらいそりゃあもう毎日おっさんの宣伝文句がうるせぇわうるせぇわで」




「〝ケルメシアナサーカス〟……」




ガチャリ、と。……記憶の鍵が一つまた開かれた。

〝サーカス〟と聞いた途端に怖いくらい鮮明に浮かんだその名前が口から零れた。

次の瞬間にはライアーが「そう!それ!!」と丸い目で私を指差す。バクバクと心臓が鳴り出して止まらない。瞬きの仕方も忘れて目まぐるしい記憶に放心する中、不意に私の肩に何かが触れた。

急な刺激に思わず心臓が止まって身体ごと振り返る。一瞬本当に嫌な予感がして身構えてしまえば、……ステイルが立っていた。

アーサーの隣席からいつの間にか私の隣に立ってくれていたステイルが、そっと私の肩に触れて顔を近づける。ステイルだけじゃない、アーサーもアラン隊長も両隣の席から今は私と肩が触れるくらい傍に立ってくれていた。

自分でも信じられないくらい視野が狭くなっていたことに気付きながら、急に呼吸の音が耳の奥に響いた。触れたのがアダムでもティペットでもなくステイルだということに安心した途端、まるで水中から顔を出したような感覚だった。

胸を押さえ、意識的に呼吸をしながら耳元に近付くステイルへ集中する。


「……ケルメシアナという名は地名で覚えがあります。恐らくそのサーカス所縁の地かと。調べればすぐにどの国か、市場の場所も推測できるでしょう」

ふっと息に近い声で話すステイルの言葉に、心臓が鈍く鳴る。

まだ何も言っていない内から、私の反応に〝予知〟だと判断してくれたらしい。同じ王族である私も記憶にないその地名を記憶してくれているステイルに流石だと思えば、息が身体の芯まで通った。

眼鏡の黒縁を押さえるステイルから「帰ってすぐに」とその一言だけで理解し私も頷いた。


ぼそぼそと話し合う私達にライアーが「どうした?」と尋ねる中、レイとグレシルの視線も私達に集中している。

彼らはあくまで私達の正体を知らない。ここで〝予知〟だなんて言えるわけもなく、口の中を二度繰り返し飲み込んでから私は笑みで返す。


「ありがとうございます。確証が持てました。とても助かりました。折角のお茶会に空気を壊してごめんなさい」

急に深刻な空気を作ってしまったことを申し訳なく思いつつ、ジャンヌとして頭を下げる。

途端にライアーの方からは「いやジャンヌちゃんのお役に立てたならそりゃあ何より!!」と明るい声で払ってくれた。今はその話し方と吹き飛ばし方に本当に助けられる。

そのまま「ジャンヌちゃんの為ならなんでも協力しちゃうぜ」と笑いながらつらつらと話す彼に、レイが「おい」と低めた声で一度上塗った。

たった一言に怒りが不満が込められたことがわかる音に、思わず口を結ぶ。見れば、腕を組んでいたレイは一度髪を耳にかけるとそこで足を組み直した。


「ジャンヌ、その男はお前の知り合いか?」

「いえ、……私のではなく、知人の。ですが逃げたのならば一先ず安心ですので気にしないで下さい」

「馬鹿が。奴隷で行方不明のどこが安心だ。そのサーカスの名前は何故知ってる?」


うぐっ。

痛いところを突いてくるレイの口の悪さに、今は上手く返す手が出てこない。……いや、当然だ。レイだって現に同じような条件の行方不明者をずっと生きた心地もせず探していたのだから。


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