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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ559.兄は落ち着く。


「っつーか顔が良い男なら俺じゃ話になンねぇし別に居ンだろォが!じっ……ジルベール宰相とか」

「俺が却下する。あの男と同じ顔に四六時中傍に居られるなど息が詰まる」

「あの、それでもアーサーはやめた方が良いと思います。一応今は名も知れ渡っている騎士なので、今後ステイル様の従者だと何らかの誤解を招く可能性は……」

「……そうですね。よくよく考えればこの顔に下手に出られるのも腹が立つ」

「ッなら最初ッから言うンじゃねぇよ」

「パウエルとかはどうかしら?」

「いえ、彼の将来的展望の為にもそれはやめておきます」


言い合いを始めるステイルとアーサーに、エリックがやんわりと緩衝材を置くように間に入れば、プライドもまた別案を提示そしてまたステイルに断られる。

文字通り一丸となって会議を躍らせている彼らを前に、フィリップは開いた口をそのままに茫然と顔全体の力も抜けてしまう。

さらさらと当然のように目の前が衝撃の発言続き過ぎて、従者の仮面ではとうてい反応が追い付かない。しかも今彼らが言い合っているのは国の方針でも国際問題でもなくただの自分の顔問題だ。この人は、いやだから王族は、騎士の顔もやめた方が良い、顔が変わり過ぎたら周りに特殊能力がと。今日一番くだらない議題で頭を捻らせている様子はあまりにも平和そのものだ。

最終的に〝そのままで顔は変えない方向に変更しよう〟で話がまとまった時には、部屋に入った時の緊張の糸は大分緩んでいた。


「取り合えずステイルみたいに伊達眼鏡をかけてみるのはどうかしら。レオンも眼鏡は掛けないしそれだけでも顔の印象は変わると思うの」

「良いですね。早速いくつか用意させましょう」

「髪の色も変えられるのでしたら、もっとレオン王子と違う印象の色にされると良いのではないかと」

今の黒色も異なってはいますが……、とエリックが今までの会話から意見を出せば、更にステイルは頷いた。

扉の前に控える近衛兵のジャックに手で合図し、廊下に控えている従者達へと早速いくつか用意させるように命じる。エリックと違い、フィリップの特殊能力の詳細も把握しているジャックはフィリップが髪色の自在だということも知っている。


プライドもフィリップが自分達の目の前で特殊能力を見せてくれた時を思い出せば、確かに色を変えるのは手だと思う。既にレオンと髪型は異なる。だがレオンの蒼い髪と、今のフィリップの黒髪は周囲の明暗によっては似てしまう。

何色が良いかしら、と投げかければすかさずステイルが「ならば銀色で」とプライドへ返し、それもアーサーのいい加減にしろの一言で止められた。ステイルとしては馬鹿にしているつもりもなく、寧ろ本当に格好良いと思った髪色の一つだっただけだが、アーサーにはまだ自分に似させるつもりなのかとからかわれている気しかしない。

アーサーに怒られ、少し顔を顰めたステイルは仕方なく腕を組む。レオンの髪色に反しているという意味でも銀色はちょうど良いと考えたが、アーサーが嫌がることもしたくない。


「……俺の従者なのだから別に容姿などどうでも良いというのに」

「いえ、寧ろステイル殿下の従者でしたらそれ相応の顔立ちでないと自信が持てません」

少しだけさっきより熱の落ちたステイルのくぐもった声に、しかしそれでもフィリップは頑として拒む。

両手の平を揃えてステイルに見せながら、今は従者としての口調を徹する。自分の容姿などどうでも良いと言ってくれるのは純粋に嬉しいが、元の自分の顔や今の美男子用の顔より少しでも崩して第一王子と並ぶのは想像するだけで眉の間が狭まった。

両親譲りとアムレットとも共通点のある自分の顔は間違いなく好きだが、今までの経験が蓄積されてどうしても従者としては顔が良くしないと落ち着かないのも本音だ。

ステイルの顔が良いこともあるが、第一王子の従者としてなら余計に〝顔が良い〟はフィリップにとっては飾り立てというよりも正装同然だ。王族の従者なのに私服を着て胸を張れるほど常識外れでもない。

友人として家に招くのとはわけが違う。ただでさえ、今まで雇われた屋敷でも顔採用で上手く行けたところが多い。


「銀色が駄目なら……金色系統はどうかしら。あまり目立ちたくないのなら、オレンジ色くらいで」

話の軌道を戻そうと、真面目にフィリップの髪色を検討していたプライドが今度は意見を出す。

レオン似の整った顔なら金髪でも充分似合うと思うが、彼本人が目立ちたいどころか人目に浮きたくないと考えればの選択だった。レオンの蒼と異なるなら自分と同じ髪色でもと一度は考えたが、それもやはり目立ちやすい。一目が気になり目立ちたくないと思う気持ちはプライド自身今回の学校潜入のお陰で痛いほど理解できた。


プライドの意見に、フィリップも丸く口の形を変えながら確かにそれくらいならと思う。

ステイルからも合意を得たところで、試しに髪の色を特殊能力で弄ってみる。漆黒の髪色からオレンジへとグラデーションのように変わってしまえば確かに最初よりもレオンの印象はガラリと変わった。ライラやブラッドの柿色よりも明るみのある色合いだ。

フィリップの中身を知るプライド達にとっても、こちらの方が遥かにフィリップのイメージにも合っていた。


おおおぉ……と、それを見ていた全員がそれぞれ声を漏らす中、あまりに良い反応にフィリップも少し素に近い笑みで半分笑う。くるりと身体の向きを変え、部屋の鏡へ自分でも確認する。

仕事の為に顔の使い分けを決めてからはあまり弄ったことはなかったが、やはり髪色だけで大分雰囲気も変わったと思う。ここにアムレットがいれば「どうだ兄ちゃん格好良いか⁈」とはしゃぎたくなったが、ここではとやはり自重が勝った。

アムレットに仕事の詳細を隠すにも、これからの姿は城の外では封印した方がより安全だと思う。ただでさえ今の顔はアムレットも見慣れている。


とても良いわ!決まりだな、とプライドとステイルからも合格が告げられる中、そこで扉が鳴った。

コンコンコンと、ノックに一言返せばそこで侍女が両手に抱える大きさの箱を手に現れた。「こちらになります」と、一礼と共にテーブルへと置き退室した侍女もそこで一瞬フィリップの髪の色を目の動きだけで二度見したが何も言わなかった。

一瞬、侍女の目が大きく見開かれるのをしっかりと確認してしまったフィリップもこれには苦笑いしてしまう。


「フィリップの特殊能力は、表向き髪の色を変える特殊能力にでもしましょうか」

使用人同士あとで質問攻めにされるであろうフィリップを想定し提案するステイルに、プライドはなんだかティアラがすごく喜びそうな能力だなと思う。

信用できる妹であり、将来王妹であるティアラにもフィリップの特殊能力を隠す必要はないが、髪でも姿でもどちらにしてもこの能力はティアラも目を輝かせるだろうと考える。今後、弟妹の休息時間が重なったら、ティアラに「今度はこの色にしてみてくださいっ!」と自分の髪の毛の色を七変化させるフィリップが容易に想像できた。


「今後俺の専属従者として社交の場に出たら聞かれることも多いでしょうし、その方があらぬ疑いを掛けられる恐れもなくなる」

専属侍女と違い、従者であれば影ではなく傍に立つ場合もある。ステイル自身、社交の場では王子としてだけでなくプライドの補佐として振舞い動く場合も多い。

そう考えれば、フィリップの主張通り顔立ちに拘るのは悪くない策でもあるとステイルは思考の中だけで改める。容姿で判断するなどとは常識として考えるが、しかしそれなりの武装にはなる。自分自身幼少の頃からそれで得したことも利用したことも自覚している。


腰を少し上げ、置かれた箱の蓋へ手をかけ開く。中にはずらりと様々な形状の眼鏡が収められていた。城でならばある程度の装飾品はすぐに揃えられる。そして今回は以前自分用に用意されたこともある分、すぐに用意ができた。

どれが良いかと、つい主観でそのまま選んでしまいそうなところでステイルは姿勢をもとの位置へと戻す。振り返り、フィリップへ「好きなのを選べ」と選択を託した。


「因みにフィリップ、お前視力は?もし悪いなら度入りで用意するが」

「至って万全です」

測ったことはありませんが、と。断言するフィリップを見ながら、さっきよりも少し口調の固さが和らいできたなとステイルは思う。

目の前に並べられた明らかに高級そうな眼鏡を前に、目をチカチカさせているフィリップの注意が向いていることもある。どれも高級感に溢れ、装飾が施されているものもあれば、指で触れることも躊躇い寸前で引っ込めてしまう。

今まで健康と体力には絶対的な自信があったフィリップだが、視力に関しても困ったことは一度もなかった。真っ暗闇の中でもある程度は目が慣れて歩ける上、遠目でもアムレットやパウエルを見つめられる。蝋燭を浪費したくないあまり暗闇で鍛えられている部分もあると思う。そんな自分がまさか眼鏡を選ぶ日が来るなんてとこっそり思いながら、フィリップは端から端まで眺めてから一つを選び、指で指し示した。


「これとか、……。とても興味深く、感じます」

うっかり口が滑りかけたところを起動補正したフィリップの示した眼鏡に、プライドも前のめりに覗き込んだ。

木の幹のような色の茶の縁に、丁番部分には赤の結晶が埋め込まれている。もともとステイルの為に用意された眼鏡だったこともあり全体的に落ち着きのある色合いのものが多かったが、それでも比較飾り気の抑えられたものだった。

それを見ながらプライドの頭には一瞬で、彼が溺愛する妹の髪と瞳の色を思い起こしたが敢えて口には出さなかった。やっぱりエフロンお兄様なんだなぁと腑に落ちながら、笑ってしまいそうな口を内側から噛んだ。

胡桃色と言うには暗く、朱色というには赤に近いがそれでも間違いなく彼らしい選択だった。


フィリップに示されたそれをステイルは二本の指で摘まみ上げ、そのまま軽い仕草でフィリップへと手渡した。

暗に「かけてみろ」と言われずとも伝わったフィリップも、両手で慎重にそれを掛けた。硝子越しの視界は違和感こそあるが、初めて掛ける眼鏡にしてはあまりにも上等なそれは付け心地も悪くなかった。


眼鏡をかけたフィリップに、プライドも小さく拍手のように手を叩いた。

選んだ理由は別だろうが、結果として茶色淵の眼鏡はオレンジの髪にも合っている。これならば顔立ちがいくらレオンに似ていても、彼と見間違うことはないだろうと安心できた。


「なるほど、よく似合っている。これで変装は問題なさそうだな」

「変装……と申しましても、もともとがアレなのですが……」

満足げに顎を高くしてから頷くステイルに、フィリップも苦笑いを溢した。

慣れない眼鏡の両端を中指で押さえながら、もう一度さっきと同じ鏡へ目を向ける。自分で見ても、確かに顔を弄らずとも最初と別人の印象の人物がそこにいた。もともと特殊能力で別人に見せている自分だが、こういう変装も少し楽しいと思ってしまう。


決まりだと言わんばかりにステイルが残された眼鏡の箱を閉じたところで、一拍遅れ気付き「こちらは頂けるのでしょうか?」と少し上擦りかけた声で尋ねれば即答が返された。

専用のケースも後で持ってこさせてやる、と言いきったところで完全にステイルの機嫌も直った。組んでいた足を下ろし、もう一度改めて顔ごと向けてフィリップの姿を上から下まで眺めてからまた視線を変える。

フッ、と楽し気な笑みと共に。


「どうだアーサー?俺の従者は。仲良くできそうか」

「……散々遊んだ後に振ンな」

ハァ、と。大きな溜息で返す騎士に、フィリップは顔が今度こそ引き攣った。

さっきから、最初の第一声を聞いた時からずっと姿も発言も全てが気になっていた騎士に。


『ッぶわっかステイル!!ンでその話の流れで俺になンだよ?!』


騎士にも関わらず、第一声で王子相手とは思えない発言を放った青年に。

聞き覚えと見覚えしかない銀髪蒼眼の青年に。


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