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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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そして省みる。


「……結局またガキはべらしてんじゃねぇか」


あらかたこちらの事情を話し終えた後、結局ヴァルからの結論は一緒だった。

どこをどう聞けばそうなるのか。相変わらず誤解を生む言い方はをやめて欲しい。折角高等部にお邪魔した理由を説明したのにこれでは全く意味がない。

今度は返事の代わりに溜息を吐いてしまう。もう良いからこのまま話を進めてしまおうと諦めた私は一度肩を落とし、それから再び真っ直ぐ彼を見返した。


「……なので、選択授業以外で高等部に訪れるのも今日くらいだと思います」

高等部には攻略対象者は居ないし、来週の特待生試験に向けて学力確認の為に高等部で勉強する必要も今日だけだ。

次の昼休みは試験本番だから、その時には高等部のお姉様の元よりも中等部にいるディオス達にエールを送るので時間的にも精一杯だろう。楽観的に考えさせて貰えるならこのまま高等部に行かなくなればその内私達の噂も風化してくれる。それに人の噂も七十五日というけれど、ひと月後には私達は学校にもいない。後から変な中等部の二年が居たなー、くらいの感覚でいてくれればそれ以上のことはない。


「また姉君の噂で不審なものを聞いたら報告しろ。週末前でなくても、必要ならばその為に城に来ても良い」

ステイルからの言葉にヴァルは面倒そうに生返事を返した。

ヴァルはこの一週間任せた配達物を毎日少しずつ分けて各国へ配達してくれている。今までは出した書状の返事を貰うためにそのまま何日か配達先の国に滞在したり一つ配達が終わっても国と国を跨いで全て配達してから帰ってきてくれることの方が多かったけれど、今は毎日学校の為に帰国してないといけないから一、二国くらいが限界らしい。……といっても、ヴァルとケメトの特殊能力がなかったら放課後に配達に向かって翌朝に帰国なんて一国でも難しいけれど。隣国でもギリギリで可能なのはアネモネ王国くらいだろうか。

だからこそ今日を含めた三日間は、一番彼らも自由で且つ忙しい。遠方の国や、数を一気に片付けて貰うにはこの時しかない。今日もこの一週間で受け取った分の書状を纏めて私達に提出してくれた。数日前に生徒を突き落とした件でステイルに強制召喚された時に手渡してくれた分を差し引いても、なかなかの量だ。そしてまた私から倍くらいの書状や配達物をお願いすることになる。

同盟共同政策が軌道に乗ってからは配達も数が落ち着いてきてたのだけれど、学校が始まってからはまた忙しくなってしまった。こちらもこちらで一週間分の学校の進捗状況や父上が許可した改善策や導入策をジルベール宰相が纏め、その内容をヴェスト叔父様や母上が各国に報告しなければならない。プラデストは我が国の独自機関だけれど、この学校がそのまま同盟共同政策の学園づくりの基盤にもなる。だからこそ良い結果に繋がったものや改善点は今からどんどん更新して取り入れていかないといけない。

同盟国にも学校がどんなものになっているか、具体的な結果を伝えた方がわかりやすい。前世の記憶で学校経験がある私と違って、彼らは一人も学校経験がない。各国による学校見学もその内順次可能にしていくつもりだけど、一気に全国解禁は難しい今は書類による情報が全てだ。

ステイルが用意させてくれた次の配達物と、そして今回の届け終えてくれた分の報酬を彼に手渡す。いつものように片手で受け取ってくれたけれど、色々と嵩張るのが面倒そうに顔を一瞬顰めると、嵩張る報酬は砂の入った荷袋に放り込んでしまった。奪還戦での報酬を受け取ってから、もう彼の懐に収まりきる量じゃなくなってしまったらしい。……今更ながら、もしかしたらもう一生働かなくてもセフェクとケメトを養えるくらい稼いでいるんじゃないかと思う。まぁ彼らのお金の消費量はわからないし……貯金するタイプにも見えないけれど。

書状や配達物の方は命令でも丁重に扱うように命じていることもあっていつものように懐にしまってくれた。大事な書状を砂塗れにされたら大変だ。


「……学校の方はあれから問題はありませんか」

ふと心配になって尋ねてしまう。

もともと彼を巻き込んだのも私だ。授業も年下の生徒達との集団活動も肌に合わないであろう彼は、少なくともあれからは一度も問題行動を起こしたとは聞いていない。パウエルからも、教師側にいるカラム隊長からも、高等部の特別教室にいるセドリックからもだ。

以前のこともあるし、もしそれこそ私達より先に報復とかと縁がありそうだもの。ヴァルもヴァルで、もし万が一生徒にボコボコにされても私達は疎かセフェクやケメトにも隠したがるだろうし。まぁその為の例の〝許可〟ではあるのだけれども。

そう思ったまま小さく「報復とか……」と付け足し呟く私の問いに、ヴァルはアァ?と軽く唸った後今度はどうでも良さそうに手を振り、顔ごと逸らした。


「問題ねぇ。寝てるだけじゃ問題の起こしようもねぇだろ」

ガキ共もからんでこねぇ、と続けるヴァルの言葉にそっと胸を撫で下ろす。

私達王族に彼は嘘はつけないし、話すあしらい方から見ても本当に平気そうだと思う。ただ、寝てるだけ発言から判断すると本当にこの人授業中も休み時間中も爆睡してるのかなと考える。まぁ意外ではないし、私もそれで良いと許可したけれども。ある意味、配達人の仕事の休憩として扱っているのかもしれない。

すると今度はステイルも少し気になったのか「セフェクとケメトは」と尋ねてくれた。口をぐったり開いた後、ヴァルは溜息混じりに答え出す。


「ガキ共は毎日尽きねぇ程度には楽しんでやがる。特待生ってのも受けるとよ」

どうでも良さそうに話すヴァルの発言に思わず「えっ」と声を上げてしまう。

まさかの二人も受けるのか。確かに受けるか否かは自由だし、ティアラから勉強も四年前から見て貰っている二人なら受かる可能性はある。私は勉強を見たことがないから具体的に二人がどれくらいの学力かはわからないけれど、少なくとも授業は全部受けているのだし文字の読み書きさえできれば可能性は平等だ。


「合格できそうなのか?」

「知らねぇ、どうでも良い」

ステイルからの投げ掛けをヴァルが一蹴する。

まぁ、確かにセフェクもケメトも特待生にならなくてもお金には困ってない。既に寮にも住んでいる二人なら、生活に変わりはない。ヴァルからしても二人が特待生になろうがなるまいがどちらでも良いというのは本命だろう。むしろ二人がわざわざどうして受けたがるのか、……個人的にはお金に困っている子優先にしたい欲はあるけれど。でも可愛い二人にも頑張って欲しいとも思ってしまう。


「因みに……二人は初日の実力試験はどうだったの?」

私からも聞いてしまう。

ヴァルはそれに顔を顰めると視線を泳がせた。多分思い出そうとしているのだろう。

覚えていない、と一蹴できない程度には記憶に残っているらしい。それでも即答できないのは彼らしい。

十秒以上低い声を漏らした後、ヴァルは続きを出してくれた。話によると二人ともわりと学年の中では良い成績だったらしい。中等部のセフェクよりも初等部のケメトの方が点数が良かったというのは少し驚いた。ヴァル本人はあまり意外でもないようだけれど、実はケメトって結構優秀なんじゃないかと思う。だって初等部から高等部まで試験内容は一緒なのだから。

私だけでなく、その話にはステイルやアーサー、カラム隊長も感心していた。ヴァルの試験結果は確実に白紙どころか名前を書いたかも怪しいから聞かないけれど、二人の学校での成長がこの先楽しみだ。

するとヴァルはこれ以上根掘り葉掘り聞かれるのが嫌になったのか、居心地悪そうに頭をガシガシ掻くと とうとう立ち上がった。


「用事はこれで終わりだな?王女の部屋に行くぜ」

「あっ、私も行きます!二人ともお話ししたいもの」

去ろうとするヴァルに私もソファーから立ち上がる。

まだセフェクとケメトと話をしてないし、さっきだってせっかく私に学校の話をしようとしてくれたのだから直接聞きたい。そう思って言うと、ヴァルは荷袋を背負い直すのを途中でやめた。立ち上がったまま背中を壁に預け、腕を組んで私を睨む。


「ならガキ共を呼びつけろ。間違ってもボロ出すんじゃねぇぞ?」

ボロ、というのは私達が学校に通ってることをバレないようにということだろう。

まさかのヴァルに釘を打たれてしまった。もうさっきまでの噂の的且つ話題炎上案件を起こしてしまった側として言い返すこともできず「はい……」とそれだけしか出なかった。ヴァルとしても、二人が私達が学校にいるのは知っていても探し出せるような詳しい情報は与えたくないらしい。中等部なんて知られたら確実にセフェクには簡単に見つかってしまう。

ステイルが扉の向こうにいる衛兵に命じてくれて、ティアラの部屋に使いを出してくれた。再び廊下から近衛兵のジャックが扉を閉めてくれたところで、ヴァルもまた床に腰を下ろす。


「取り敢えずは気を付けるんだな、主。正体はバレてねぇが、それはそれで面倒だ。…………王族でもねぇ生意気なガキ相手になら、〝やりようは〟いくらでもある」

低めた声で私に鋭い眼を向けたヴァルは、そのまま視線をアーサーとステイル、そしてカラム隊長にまで向けた。

その途端、喉を鳴らす音が三つ殆ど同時に聞こえた。ステイルすら、今度はヴァルに言い返さない。

つまりは王族の権威を持ってない私は誰を敵に回してもおかしくない、という意味なのだろう。でも正直、高等部生徒に実力行使に出られても、最悪ある程度は私一人でも何とかなるとは思う。いやでも上履きの中に虫みたいな嫌がらせとかは流石に……いや、この世界に上履きも下駄箱もないか。


「既に下級層の連中に呼び出しをかけてるガキ共もいやがる。裏稼業にしかみえねぇガキも高等部にはチラチラ居る。俺以外にも立ち入り禁止区域に入り浸る連中もな」

本当に裏事情には耳が早い。

ナンパ行為といい、ヴァルのやらかし以外でも高等部はそんなに治安が悪いのかと思う。教師も色々対策しているのだろうけれどこれもきっちりジルベール宰相に報告しよう。

ヴァルはそこまで言った後はもう何も言わなかった。疲れたように後頭部に両手を回すと、壁にもたれたまま仮眠と言わんばかりに目を閉じる。今日はあまり眠れてないのだろうか。もしかして噂が広がってからはずっと聞き耳を立ててくれていたのかもしれない。

それからセフェクとケメトがティアラと一緒に戻ってきてくれるまで、誰一人何とも言えずに黙したままだった。ステイルも、アーサーも、カラム隊長も、それぞれ何かを考えるように眉を中央に寄せたまま視線を落とし続け、私もまたそれを考えた。


〝やりよう〟という名の可能性を。


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