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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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解き、


「すまねぇアムレット、学校ではいちいち会いに来るなって言ってたのに。でも今日は用事が」

「⁈ち、違う!「わざわざ様子を見に来なくても」って言っただけで……!!」


片手で頭を掻きながら申し訳なさそうに眉を垂らすパウエルに、いきなり誤解を言われて首を横に振る。違う!本当に違う!

確かに学校初日に言ったけど!でもあれは、兄さんに私のことを頼まれたパウエルが毎日様子を見にくるつもりだって言ったから断っただけで……‼︎

妹扱いしないで欲しいからそう言っただけで、用事がなくても会いに来てくれること自体はちゃんと嬉しいのに!!

相変わらず兄さんの言った通りにばかりするパウエルは、私の訂正にも「そうなのか?」と丸い目で聞き返す。そう、全然迷惑でもないから!ってもう一度言い直せばやっと「良かった」とほっとした顔で笑ってくれた。


「そ、それでパウエルどうしたの?何か忘れ物とか⁇」

「いや、実はこれフィリップから預かって……」

アムレットに渡してくれって、と。そう言いながらパウエルがリュックの中から何かを取り出した。

いつもは手探りで出すのに今回はわざわざリュックを開いて目でも確認しながら取り出したそれは、一枚の封筒だった。……兄さんからの手紙なんて、それこそもっと不思議。家に帰れば毎日でも会えるのに、なんでわざわざ手紙なんか。


蝋燭一本でも自分の為に使うのは勿体ないと思う兄さんが、私宛とはいえ手紙を書くなんてとちょっと胸の中に嫌なもやりを感じた。

どくどくと心臓が鳴る音が身体の中心から妙に大きく聞こえてきて、左手で押さえつけながら手紙を受け取った。大丈夫、パウエルを通したんだから悪い内容なわけないと受け取った手紙を手に取れば、……兄さんの字じゃなかった。



「…………!ジャンヌ!?」



えっ、と。

手紙をひっくり返した先に書かれた差出人の名前に、うっかり声が出る。さっきみたいな大声にはならなかったけれど、それでも結構な声になっちゃった所為で見回す前から凄い数の視線を感じた。

う、と肩が強張って狭くなる。多分いま首を左右に回したら皆がこっちを見てるだろう。視界の隅だけでも、わざわざ教室から顔を出した子達が何人もいる。目の前に立つパウエルが、私の代わりにぐるりと周囲を見回しては口をぽかりと開けていた。


その場から一歩も動けないまま、視線だけをもう一度手紙に落とす。そこにはやっぱり見覚えのある綺麗な字で〝ジャンヌ・バーナーズ〟という名前が記されていた。それを確認してから服の中に仕舞う。

ジャンヌ・バーナーズ。ちょっと前までこの同じ教室の生徒だった女の子だ。

凄く頭が良くて、それを鼻に掛けたりしない優しい子。すごく大人っぽくて、山育ちと言っていたけれどまるで王都のお姉さんみたいに上品な言葉遣いのジャンヌは、みんなの憧れだった。

この教室だけじゃなくて、きっとジャンヌを知る子みんながそうだったと思う。


校内の貴族と付き合っていたとか言い寄られていたとか、高等部の不良生徒をやっつけたとか、居たのはほんの一か月程度だったのに短期間ですごく話題に尽きない子だったなと思う。

ジャンヌの親戚のフィリップも頭は良いし大人びていて女子に人気で、ジャックなんて強くて運動もできて格好良いと女子だけじゃなくて男子にも大人気だった。

でも、やっぱり私が一番大好きで一番の友達はジャンヌだ。

あんなに人気者なのに、殆ど初対面の私に快く勉強を教えてくれて、一緒の勉強は凄く楽しかった。


「フィリップがアランさんって騎士に会って預かったらしい。アムレット宛だし少しでも早い方が良いだろうからって」

「そ、そうなんだ……。?ということは、その騎士様うちに来たの?兄さんが会ったって……もうやっぱりジャンヌは山に」

「ッす、すまねぇ。それは俺の口からは……細かい説明は今度会った時話すらしいから」

フィリップに直接聞いてくれ。そう急に縮こまるように首を窄めるパウエルは、すごく言いにくそうだった。何か兄さんに口留めされてるのかな、とその反応を見て思う。


周りの視線が減るどころか「ジャンヌ?」「廊下にジャンヌ来てるのか?」「誰あの背の高い人?」「高等部??」って注目されるのが視線の熱だけじゃなくて耳からも感じられて、私まで居心地が悪くなる。

ジャンヌから手紙貰ったなんてみんな羨ましがるだろうし、何より女の子達にこれ以上パウエルが見られるのもちょっと落ち着かない。街でもパウエルはすっごく人気者だったのに。

「アムレットの恋人⁇」ってそんな言葉が聞こえた途端、口の中が急激にくすぐったくなる。パウエルには聞こえていませんように!と思いながら今度はわざとちょっと大きい声を張る。


「じゃ、じゃあ今日帰って聞くね!夜には帰ってるだろうし……ありがとう、わざわざ届けに来てくれて」

「なら一緒に会いに行くか?今日、俺フィリップと放課後に待ち合わせしてるから。早く会えた方が良いだろ?」

えっ。

一音が漏れるより先に、心臓がひと際どきんと鳴った。パウエルとのお出かけなんて久しぶりだ。一緒のお出かけだと十回に八回は絶対兄さん付いてきたし。

子どもの頃から一緒に出掛けることは珍しくないけれど、何度でもやっぱりパウエルから誘って貰えるのは嬉しい。出会った頃は私と兄さんで誘っても外に出たがらなかったパウエルが、自分からお出かけしようって言ってくれるんだもん。

時間に余裕をみて待ち合わせをしているって聞いて、なら兄さんと合流する前にちょっと二人でいられるかなって思う。


「確か近くに市場もあったよね。兄さん来るまでちょっと見て回ろうよ。市場も楽しいと思うから」

「本当か?助かる。やっぱまだ人通り多いと落ち着かねえし、アムレットと一緒なら俺も落ち着く」

気付けば両指を交差させながら提案したら、パウエルも空色の目を優しく笑ませてくれた。

ちょっとパウエルの力になれるのかなと、それだけで胸がぽかっと温かくなる。学生寮に住むようになってから、昔みたいにパウエルと毎日会える機会もなくなったから力になれると嬉しい。ただ、……「落ち着く」って〝家族として〟なんだろうなぁと思う。


ふぅ……と、少しだけ溜息が零れた。

パウエルに気付かれないように唇の隙間から吐き出して、今は落ち込まないようにする。帰る家がないって話していたパウエルが私や兄さんを、リネットさんと同じように家族と思ってくれるのは嬉しい。でも、こういうパウエルからの嬉しい言葉に自分が素直に喜べなくなったのはちょっと悲しい。

パウエルは悪くないのに、なんだか私だけそれ以上特別になれないのが不満なんて。


……良いなぁ、ジャンヌ。


「正直、どう時間潰そうかと思ってたから。アムレットはあの辺り行ったことあるか?」

「この前、ララ達と一度だけ。パウエルにも見せてあげたいなと思ってたから嬉しい」

毎回そんなことを思うと、ちょこっとだけジャンヌが眩しくなる。

ジャンヌはあっという間にパウエルとも友達になって、昼休みには毎回一緒にお昼を食べていたらしい。この前はお勉強を教わったってパウエルも言ってた。

それに、ジャンヌはパウエルの過去だって知ってる。

自分から言えないって言ってて、多分パウエルに内緒にして欲しいって言われてるのかなと思う。でも、絶対私が知らないパウエルをジャンヌは知っていて、……パウエルの恩人はジャンヌじゃないかなと今でもちょっと思う。

ジャンヌも、パウエルも言いたがらないし、私も無理には聞き出したくはない。

でも、たった一か月でもジャンヌを頼ってきた男の子達はたくさんいるから。きっとあんな風にパウエルも助けてもらったのかなって、何度か思った。私の知らないパウエルを知ってることが素直に羨ましい。


「じゃあ楽しみだな。俺まだそういう都会らしいところは行き慣れてねぇから、行くならフィリップかアムレットとが良い」

「ジャンヌ達も居たら誘えたのにね。……パウエルも、良かったらジャンヌと文通する?」

私ばっかりジャンヌと手紙交換できるのもずるいから。

そう思って首を傾げて誘うと、パウエルは肩がぎくりと上下した。もしかしたらもうジャンヌとか、それとも兄さんにお願いした後なのかな。

パウエルは昔たぶん奴隷か下級層か、裏稼業かのどれかだった人。

だけどすごく優しくて寂しがり屋で、女の子や子どもも大事にしてくれる。

だから、パウエルがこうやって街以外にも仲が良い子が増えるのは嬉しい。


「いや良い。俺はフィリッ、……バーナーズのフィリップに送るから」

「バーナーズの方に⁇」

フィリップ、と。兄さんと同じ名前の男の子を思い出す。

あんまり話す機会はなかったけれど、ジャックと同じくらいジャンヌとも仲良しだった子だ。

恩人に会えたとか、お互いジャンヌが友達って知ってからは会ってもジャンヌの話ばっかりだったから、てっきりパウエルの一番仲良しはジャンヌだと思っていた。バーナーズは兄さんとも性格が全然違うし、髪の色や雰囲気がリネットさんに似てるから話しやすかったのかな。

でも、ならどうして今までそんなに仲良しなのにバーナーズの話はなかったんだろ。私はあまり接点なかったし、兄さんと同じ名前の子の話をするのも恥ずかしかったからだけどパウエルはー……、……あれ?

「あの、……パウエル、もしかしてあの、前に言ってた恩人って」



「おはようアムレット‼︎それにパウエルも‼︎‼︎」



パタパタタ!と足音と一緒に大きな声が真横から掛けられた。

びっくりして頭が真っ白になって何を言おうとしたのかも忘れる。身体ごと振り返れば、ディオスがこっちに手を振りながら駆け寄ってきていた。多分さっきまで一緒に歩いていたのだろうクロイも、ずっと後ろの方でこっちを見てる。


おはよう、とディオスに笑いかければ至近距離に来たところで止まらずぎゅっと抱きつかれた。ディオスは純粋で可愛くて時々子どもみたいだけど、学年で一番頭が良い男の子。

私からも抱きつき返しながら、もう一回おはようも言ったらパウエルはちょっとびっくりしたみたいに丸い目をしていた。そういえばさっきディオス、パウエルの名前を呼んでたけど友達なのかな。


「ディオス。何度も言ってるでしょ、いきなり抱きつくのやめなって」

「あっ、ごめん」

まだ少し遠い位置からのんびり歩くクロイに呼びかけられて、ディオスもすぐに両手を開いて大きくぴょんと一歩下がる。

私はもう慣れちゃったけど、他の女の子はやっぱりびっくりしちゃうだろうなと思う。


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