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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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憧れ、


「そういえばさ。俺もう受かったし、モーズリー家に報告ついでに紹介してやるよ。多分衛兵一人くらいなら、今俺が頼めば雇ってくれると思う」

本当か?!と、次の瞬間パウエルの目が輝いた。


モーズリー家。以前フィリップが従者として働いていた職場の一つであり、ジルベールが介した貴族だ。

天然物の顔の良いパウエルならきっと採用して貰えるだろうと、もともとは自分と同じ従者として以前から誘っていたフィリップだがその時は人と関わる仕事はと断られていた。

しかし、改めてパウエルから衛兵の仕事をと求められればやはり自分の持つ伝手で一番パウエルへの扱いも良く、そして融通もきかせてくれそうなのはそこだった。もともと顔の良い男には甘い奥様がパウエルを断る方がフィリップにも想像できない。しかも、今回はこれ以上ない手土産もある。


「大丈夫か?頼んでおいてだけど、俺今まで衛兵どころか見張りとかそういう仕事も全然で……」

「多分大丈夫だと思う。明日、……おう、報告に……行かねぇとだから……その時に……」

フィリップにしては歯切れが悪い言葉に、パウエルも不思議で首を捻る。

大丈夫こそはっきり言ったのに、その後に言葉を続けるごとに視線が遠くなっていく。まるで虫でも齧ったのかと言いたくなるほどに苦そうな顔をするフィリップはそこで肩が動くほどの大きなため息を溢した。

決して奥様やモーズリー家が嫌いなのではない。しかし、段階を一つ一つ踏んでいくことに現実味が増していくことに身体が重くなった。きっと報告すれば喜ぶ。ジルベール宰相のお眼鏡に叶ったことをよくやったと旦那様も褒めてくれると思う。そしてその有頂天なままに、自分からパウエルを紹介すればきっと両手を広げて迎え入れてくれる。

まさか城に住む貴族の従者どころか第一王子の専属従者とは言えない。「口留めをされていますので」と言えば良いだけの話だが、こうも一気に自分に言えない話が増えるのはお喋りなフィリップには少しばかり疲労だった。


しかし大事な友人であり家族同然のパウエルの為ならば、やはり報告も兼ねて紹介へ足を運ぶしかない。

自分としても、せっかくやりたいことを見つけてくれたパウエルの背中を押してやりたいのが本心だった。今までのパウエルは「昔の恩人にいつか会いたい」以外、将来の展望など殆ど無に等しかった。リネットに任されてからは「家を守る」も目標になったが、それでも将来については「人を傷つけず食うのに困らなけりゃ良い」「あまり大勢の人と関わりたくはないけど」ぐらいだったのだから。


「……そういやパウエルはどうして衛兵になりたくなったんだ?俺てっきり街のどっかか近所で働くんだと思った」

「あ、それは、……。~~っ……」

ふと過った疑問を口にされ、パウエルは思い切り唇を結んで目を伏せてしまう。

ステイルとのやり取りについては口留めをされている。しかし、それを無くして自分が突然衛兵を目指すなんておかしいに決まっている。現に今も、その理由付けをそれらしく考えれない内はとアムレットやリネットにも将来の展望を打ち明けられていない。

まさかやっと会えた恩人を追って城で働きたいからそれに一番可能性があるのが衛兵だったなど言えない。ついこの前まで、アムレットとフィリップがどういう喧嘩をしているかを何度も目にしていた身としては特に。


すぐには答えられず言葉を詰まらせ目を自分から外すパウエルに、フィリップも直角近くまで首を傾ける。一緒に住むリネットのことが大好きで、今は住んでいる家を守りたいと言っていたパウエルなら絶対学校卒業後は手に職を付けて街の近くで働くのだと思っていた。

今は何の技術も宛ても対人も得意ではないからこそ小間物行商の荷物持ちなど肉体労働ばかりを選んでいるパウエルだが、学校で何かしら技術やできる仕事を見つけたら家の近くでそれを役立てるのだろうと。

学校が始まる前から既に特殊能力と人との関わりも得意だったお陰で割のいい仕事にいくつもありつけた自分は、アムレットが学校に行ければそれで満足だった。だが、パウエルにはこれからできるようになることが多いし可能性もその分ある。だが、まさか衛兵になりたいなど当時は想像もしなかった。

腕を組み、自分なりにパウエルの衛兵を目指す理由を考えたがやはり思いつかない。うーん、と思わず唸ってしまえば言及されていると感じたパウエルの肩が微弱に震えた。

その反応に、フィリップも考えることを諦め腕を解く。スゥーーっ……と息を鼻から吸い上げ、次の瞬間には両手をばしりとパウエルの両肩へと叩きつけるように置いた。


「でも!ま!!格好良いよな衛兵も!!騎士とかみたいに敷居が高いわけじゃねぇけど服とかも格好良いし!!パウエルならガタイも良いし背もでかいから強そうだし向いてるよな!!!!」

いけるいける!!と大声で笑いながらパウエルを鼓舞する方向に切り替える。

突然の大声にパウエルも目を皿にしながらも「お、おう?!」と反射的に同じだけの声を張り返した。ばしんばしん叩かれるのはそこまで痛くないが、いくら聞きなれていてもフィリップの声の方は耳に痛い。

しかし同時に、フィリップがわざと聞き流してくれたのかなと思えばほっと息を吐けた。まだそれらしい理由も思いつかないが、しかしフィリップの言う通り「格好良い」も理由としては悪くないと思う。特に国に雇われる衛兵の格好はひと際上等な制服だ。自分は腕っぷしが自慢だからと言えば、それだけでもらしい理由になるかもしれない。


一瞬、自分が衛兵をと打ち明けたらアムレットやリネットは「危ない」と反対するかなと過った。

いつも自分のことを見守って応援してくれる二人だが、衛兵が仕事上危険も伴うことはパウエルもわかっている。兵士が衛兵を兼ねているような国と違いフリージア王国は騎士団がいる分、衛兵に課せられる危険の度合いは低いがそれでも危険から対象を守ることが仕事だ。

この前の奪還戦でも自分達民を避難させるべく誘導をしてくれていた衛兵の姿はよく覚えている。


「それにパウエルは特殊能力もピカピカすんだろ?!夜も見つけやすくて良いよな!!逆に救援も呼びやすいし!」

特殊能力、と言われてうっかり身体が強張ったが、直後にはまた緩んだ。

フィリップが言ってくれるのが自分の特殊能力の攻撃性ではなく、光るというその一点を見てくれるのが何度聞いても嬉しくて胸が温くなる。うん、そうだなと会話の端端ではにかんだまま口が動いたがそれも全てフィリップの大声に塗り潰される。しかしそれでも居心地は決して悪くない。

ばしんばしんと肩を叩き、一方的に大声で話すフィリップは決して相手を否定するようなことは言わないと知っている。


「良いよなー!!格好良いよな!!昔はあんな弱気だったパウエルがさ!誰か助けてやるんだろ?!ピカピカの衛兵服着て!あ、いっそパウエルも城で働く衛兵目指すのどうだ?!そしたらさ、城で俺とも一緒に働けるかもしれねぇし」

最初から、最終目標は城の衛兵だ。

しかし、それを自分が口にする前に提案されたのはパウエルとしてもありがたかった。そうだな、と蚊のなくような声で言いながらもしかしたら未来にはステイルだけじゃなくフィリップとも一緒に働けるのかと理想図が浮かんだ。

フィリップが城の使用人でどういう立場にその頃なっているかわからない。だが、アムレットとの家を守る為に城に住まず家から通うつもりのフィリップと同じく自分もまたリネットの家からきっと仕事へ行くのだろう。


「一緒にパウエルと同じ職場通ってさ!時間とか合わせて行こうぜ!!俺もパウエルも早起き慣れてるし!!」

今よりもっと大人になった自分が、家を出て、まだ当然のようにフィリップやアムレットと笑っている。

今はお互い別々の仕事で休みの日やこうして仕事の後に会うくらいだが、むしろもっと一緒に会って話せる時間が当たり前になるかもしれない。もし本当に城で働けたら、その時は今よりももっと自分はこのフィリップとも肩を並べて歩いている。


「アムレットも城で働けるようになったら三人だな!!すげぇなこの街で三人も城で働くんだぜ?!そしたら絶対街の自慢だよな!!」

子どもにも大人気だぞ!!と叫ばれながら、そっかアムレットともとまた一人肩を並べられる相手を想像する。

昔から大事な存在になった三人で、同じ方向に向かって毎朝歩いていく。城門を潜り、そして働きながらお互いにどこかですれ違っては目を合わす。働きながら、自分もアムレットやフィリップが頑張っているところを見れるなんて最高だなと思えばそれだけで胸が浮き立った。

アムレットが本当に補佐官になってたら、城でもアムレットの評判とかを聞けるかもしれない。その度にフィリップが妹自慢して胸を張る。そんな日々、絶対楽しいに決まっている。

きっとリネットさんも喜んでくれるだろうと笑ってくれる顔まで想像できた。


「城じゃなくても城下の治安維持も格好良いよな!!一緒の職場じゃないけど代わりに城下中の人守るんだろ?!俺が子どもだったら絶対パウエルに守られたら憧れるぞ!!パウエルは子どもに絶対好かれるし名前とかも覚えられたりして!」


女と子どもは絶対守れよ!と念を押されればフィリップの言葉に引きずられるように、自分もまた思い描く。

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