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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ540.騎士は歓迎する。


「お疲れ様です、お先に失礼しますッ‼︎」


夜も暮れて演習を終え、隊に解散を命じたアーサーは誰よりも速くその場を後にする。

最高速で駆ける先は、他でもない騎士館にある自分の部屋だ。他の騎士からすれ違いざまに声を掛けられてしまうが、「すみませんちょっと部屋に‼︎」とどれも早口で切り上げてしまう。騎士達と話したい気持ちはあるが、それ以上に今は速く部屋に戻りたい。

今朝ステイルにより瞬間移動されたプライド達からの贈り物が待っている、だけではない。



……先輩達来る前に部屋片付けねぇと……‼︎



この後、間もなく自分の部屋は宴会場になるのだから。

アランや騎士の仲間が部屋を訪れることは珍しくない。もともとアーサーの部屋は騎士団の中でも片付いている。

しかしそれでも尊敬する騎士の先輩が大勢訪れることに落ち着いていられるわけがなかった。いくら片付いているからとはいえ、アーサーにも壊されたくないものも見られたくないものも多少はある。

第一王女から貰った鉢植えは毎回高い場所へと避難させなければ永遠に落ち着かない。大事な箱は、うっかりでも中身を見られたら誤魔化せない手紙や高級品まで入っている。他にも無くしたくない品は多く、だからこそ騎士達で溢れる前の片付けは必須だった。

他の飲み会の日であれば、急がなくとも休息時間に部屋へ戻ることも多かったが、誕生日だけはその休息時間も確実に予定が埋まっている。



……ステイルとの手合わせは絶ッ対削りたくねぇし



そう思いながら、アーサーは見えてきた騎士館を前に口の中を飲み込む。

本当ならば休息時間に部屋を片付ければここまで急がずに済んだ。しかしやはりあの時間だけは削りたくない。

騎士になる前から毎年ステイルとの手合わせを続けていたアーサーにとって、誕生日のそれは習慣にも近くそして楽しみでもあった。

誕生日以外にも手合わせはしてくれるステイルだが、お互いに予定を合わせにくくなった今でもこの日だけはきっかり確約されたように手合わせしてくれる。子どもの頃から手合わせを繰り返し、お互いの技も癖も把握しきった中で本気の勝負ができる相手はアーサーにとっても特別だ。

そんな相棒が誕生日には必ず相手をしてくれるのだから感謝しかない。


今日も手合わせすれば、瞬間移動もありの戦闘は何度も苦戦しつつ楽しかった。

相手が王族だということも気にせず話せる稽古場で、互いに知れた会話を交わしながらの戦闘できる。今もステイルには勝ち越しのアーサーだが、本気で戦り合えば危うい時もやはりある。それに勝てるのも、相棒がそれだけ強くなっていることを実感できるのも両方嬉しい。

そんな時間を不要に一秒も削りたくなかった。


「……ッし!間に合った‼︎」

部屋に飛び込み、後ろ手で習慣的に鍵を閉めながら声に出る。

全速力で走った為僅かに息を弾ませたが、荒くはならない。ぷはっ!と一度大きく吐くままに最初に鉢植えへと手を伸ばす。

ステイルの手により棚の上へきちんと置かれたそれを両手で持ち、さらに安全な場所へと避難させる。基本、家具を揺らし壊すほどの馬鹿騒ぎはないが、それでも念には念をいれてなるべく壊れにくい場所に置く。花束も同じく安全な場所に隠すようにしまい、花瓶に飾るのは後にする。せっかく綺麗に飾ったところでひっくり返されたら堪らない。


本来ならば他の騎士の部屋に預けるのが一番確実だが、そう気軽に頼めるものでもない。

ステイルの瞬間移動のお陰で今まで近衛騎士以外には、自分が何を貰っているかも騎士達に知られず済んでいる。しかしここで特別自分が部屋の外へ何かを避難させれば、文字通りそれが特別だという証拠だ。プライドやティアラから貰った花など、注目されないわけがない。


最後に大事な物や引き出しが開け放しになっていないか最終確認する。早々に全ての安全を確保したアーサーだが、そこでひと息吐くわけもない。散らかっていないか、埃っぽくないか拭いといた方が良いかと考えたところで、ちらりと鏡に写る自分の横顔に足が止まった。

自分の髪を括る青の髪紐が、一瞬でもしっかりと目に付いた。髪の束ごと掴み、するりと手の中をくぐらせる。今朝は気になるのも自分だけだと思ったが、今は倍以上気になった。


……結構な数の人、気付いてくれたな……。


そう思いながらアーサーは唇を結んでしまう。

本当に、気付かれるとは思っていなかった。部下からの贈り物にはしゃいでいた自分だけの楽しみの筈が、まさかの大勢に気付かれた。貰ったから早速使いたかっただけだが、まるで誕生日だからめかし込んでしまったようで気恥ずかしい。こんなことになるのなら、せめて明日に日付をずらせば良かったと思う。そうすれば、少なくとも誕生日を強調したようなお披露目にはならなかった。

唯一指摘もしなかったのはハリソンを含む八番隊だけだ。特にハリソンに至っては指摘どころか未だに髪紐の変化に気付いていない。八番隊騎士には気付いた者もいるが、一言でもアーサーに指摘をしようと思った者はいなかった。


本隊には「プライド様から頂いたのか」「ティアラ様か」と直球で聞いてくる騎士もいた。

違いますと否定すれば途中から「アーサーに彼女ができた」と言われた為、余計に焦って全力でまた「実家で働き始めた子が」と言い訳しなければならなくなった。しかも男だと言わないと、そのまま彼女疑惑へ広がる為、男だということも丁寧に説明しなければならなくなった。


途中、たまたま通り過ぎようとしたノーマンに見つかり頭抱えられたのも未だ引っかかっている。

赤面を抑え、その分「だから言ったのに‼︎」の焦燥も込めてノーマルが睨んだ為、安易に付けてきたの怒ってるのかな程度にはアーサーも察した。

もともと隠すことでもなかったブラッドが実家で働くことが言えなくなったことも予定外の痛手だった。今ならばノーマンが遠回しに普段使いするなと言った意図も半分はわかる気もする。



『?アーサー、ちょっと後ろ向いてくれる⁇』



「…………」

ぱさり、と。また意味もなくさっきと同じように髪の束を掴み、抜けさせる。

誰に気付かれるわけも、気付かれたいとも思わなかった筈だが、やはりプライドに気付いて貰えたことは思い返すと胸がぽかりと温かくなるような嬉しさだった。

耳がうっすらと熱を持つ感覚に下唇を噛み、抑えた。視線が落ちながら、残りの髪紐をどうしようかに思考を逸らす。


しかしそこで今度は残りの色を思い返せば、また別の羞恥感に舌が痺れかかった。

取り敢えずあの赤色を使うのはまだ熱りが冷めるまではやめておこうと思う。取っておきの時に使おうとは思っていたが、今この時に使うのは誤解が想像でき過ぎる。

暫くはこの青色を大事に使おう、と考えたところで顔を上げれば鏡に写る自分が恥ずかしい顔をしていた。気付いた瞬間、今度は両頬を叩いて引き締める。バチン‼︎‼︎と響く音に今度は頬の方が赤くなったが、大きく深呼吸を二度繰り返して落ち着けられた。


コンコン、と軽やかなノックが鳴る。

アーサー!と気軽な様子でかけられる太い声の数々に、アーサーもすぐにハッと我に返った。すみません今行きます!と声を張り、一度頬を手の甲で擦ってから扉を開けた。

すみません、どうぞ入って下さいと腰を低くしながら招きいれる。昔から親しくしてくれている先輩騎士から同期に後輩と、ずらずらと部屋に入ってくる騎士達を扉脇で眺めながら今年は妙に数が多いなと思う。隊長格である自分の部屋ですら手狭になりそうだと一人不安に眉を寄せてしまう。

これだけの数であれば自分の部屋よりも食堂や外でテーブルを出した方がと考えたところで、騎士の中に同じ近衛騎士であるカラムやエリック、アランに



「ッ?!は、ハリソンさん⁈」



でぇ?!と、アーサーは思わず声をひっくり返してしまう。

まさかの近衛騎士の面々の中に、いつもは絶対いない騎士が紛れていることに一目で気が付いた。

いつもの憮然とした表情を浮かべながら自分と紫色の目を合わす騎士は間違いなく自分の知るハリソンだ。しかし、この場に最も居ることが想像もできなかった人物でもあった。


アランが「よぉアーサー」と楽しそうに笑いながら手を振ってくる傍では、カラムとエリックがアーサーの動揺を察するように半分だけの曖昧な笑みを浮かべていた。

二人のその表情と、珍しく後方での登場をしたアランにアーサーも目を皿にしながらハリソンだけでなく近衛騎士全員へと説明を求める。


「ど、どうしてハリソンさんまで……⁈いやすっげぇ嬉しいですけどいつもこういうのには来ないンで……⁈」

「近衛騎士であれば参加が必要なのだろう」

はい????と、ハリソンからの説明不足この上ない返答に、気の抜けた声で聞き返す。

ハリソン一人が当然と言わんばかりの表情で返すがアーサーからすれば意味がわからない。その間にもハリソン一人はスタスタと部屋の隅へと歩を進めてしまう。

相変わらずの言葉足らずな一言にアーサーは首を捻る余裕もなかった。ハリソンが来てくれたことは普通に嬉しいとは思う。だが、今まで自分どころか騎士団長副団長以外誰の誕生日祝いにも飲み会にも参加をしなかったハリソンが、よりにもよって自分の飲み会で重い腰を上げてくれた理由が説明しきれていない。先ず、近衛騎士だからといってわざわざ誕生日祝いの飲み会に参列しなければならないという規則など存在しない。

訳もわからずあんぐり口を開けてしまうアーサーに、アランは楽し気に笑いながら手を振り歩み寄る。


「いやーちょうどハリソン見かけてさー。今はアーサーと同じ近衛騎士だし来るのも普通じゃね?って言ったらわりとあっさり」

流石アーサー、と軽くその背中を叩くアランだが当の本人は未だに蒼い目を白黒するばかりだった。

いつもは飲み会で先陣に立つことが多いアランが珍しく後方にいたことには納得できたが、しかしハリソンが来てくれた理由が未だ納得できない。

見かけたハリソンへアランが飲み会に誘うことは想像も固くないが、そこでハリソンが頷くことなど基本ない。


「普通ってなんすか……?」

空っぽの喉で遅れて尋ねたアーサーだが、それに対しての返答はなかった。ただ楽しそうにアランからは笑い声しか返されない。

「よし飲むぞー」と抱えてきた酒瓶を手狭なテーブルは諦め床に並べれば、他の騎士達も床へ足を組んで寛ぎだした。


本来飲み会に必要以上参加すらしないハリソンは、アーサーの誕生日すら今まで気にしたことがない。祝いたい気持ちがないわけではなかったが、そこにわざわざ自分が参加する必要性は感じなかった。

別に自分がいちいち祝わずともアーサーを祝う騎士は当初から大勢いたのだから。騎士団長と副団長の誕生日祝いの飲み会にはどちらも副団長のクラークから誘われたことをきっかけにいまも毎回参列しているが、基本的に飲み会を親睦の場とする認識自体がない。

今日もアランから参加するかどうかについて「必要ない」と答えたハリソンだったが、その後に「でもよ」と続けられた言葉に、去ろうとした足も止めた。



『アーサーも近衛騎士全員揃ってた方が絶対嬉しいだろ?』



そういうものなのか。と、そこまで納得すれば、ハリソンも予定を改めた。

続けてアランから「今は同じ近衛騎士だし誘われなくても行くのは普通じゃねぇ?」と言われれば、アーサーから無許可で訪問することも問題ないと判断した。

今までもアーサーに一言呼ばれれば疑問もなく参列していた飲み会に、ただ呼ばれなかった命じられなかったから参列しなかっただけなのだから。


そして進行方向を変えたハリソンの後に続く形でアーサーの部屋へ訪れたアランに、同行していたエリックと行道途中で合流したカラムも並んだ。

今まで飲み会になど必要以上参加しなかったハリソンに足を運ばせるなど、流石アーサーとしか言いようがないとカラムも心の中で思う。たとえ同じ理由と誘い文句であろうとも、決して自分達近衛騎士の誕生日祝いの飲み会に参加しない男が動いた事実に。

エリックに至れば未だにハリソンが大人しく飲み会会場であるアーサーの部屋に飲み込まれた現象にアーサー同様衝撃も強い。

ハリソンがアーサーには比較従順に振舞っていることは何度も目にしているエリックだが、まさかアーサーが「嬉しい」という理由だけで動くのかと失礼とわかりながらも驚きが隠せない。

まさかハリソンも隊長格になるまでは当時の上官騎士にもこれくらい従順だったのかと考えたが、それも可能性は低いとすぐに思い直す。少なくとも自分が新兵の頃、ほんの数か月だけだったが同じ新兵だったハリソンは上官どころか本隊騎士にも刃を向けて怒鳴られる危険人物だった。

本隊騎士になってからは副団長クラークの指導によって少しずつ改善していったと聞いたが、当時まだ新兵だった自分はその詳細までは知らない。そして、自分が本隊騎士になれた時にはもう今の騎士隊長ハリソンが形成されていた。


当時のハリソンを知る騎士の一人であるエリックとしては、わざわざハリソンが入隊後に何が合ったかなど探ろうとも思わない。同じ近衛騎士になることがなければ、関わることも正直怖い相手だったのだから。

当時、新兵だった身にも関わらず本隊騎士にすら敵意を向き出したハリソンは本当に野生動物よりも手がつけられなかったとエリックは密かに思う。そんな彼が、今は上官とはいえ元後輩であるアーサーの為に好きでもない祝いの飲み会席にも足を運ぶなど、こうして目にしても信じられない。

やはり尊敬する騎士団長の息子だからだろうか、とまでは考えが及ぶがそれ以上は謎に包まれたままだった。

いまも口が閉じられないアーサーに、一番共感しながら「驚くよなぁ」と並んで肩を叩いた。カラムからもすかさず「ハリソンにも祝いたい気持ちはあるのだろう」とフォローが入る。


「ハリソンさん……も驚きっすけど、……それでもなんか、今年すげぇ数が多いような……?」

「あー、それは〝聖騎士〟の誕生日祝いだから」

「聖騎士になってから初めての誕生日だろう。もう五人増えたら食堂か外に場所を移した方が良い」

ぽかんとした口をおもむろに動かすアーサーに、エリックとカラムが挟みながら答えを返す。

今までも騎士達に慕われていたアーサーではあったが、今年はまた違う。歴史上三人目になる聖騎士の誕生祝いなど同じ騎士である彼らには王族の〝誕生祭〟にも近い祝い事だった。

アーサーの称号への祝いも並行しつつ、三人の聖騎士が生まれた日を同じ時代に生きる騎士として祝わないわけがない。その為、例年にも勝りアーサーの誕生日を祝いたい騎士が増えることは当然の流れだった。騎士達にとっては歴史的な日にもなりえる記念日である。


部屋に密集し引き詰まる騎士を眺めながら、前髪を指先で払うカラムに、エリックが「外か食堂開いているか確認してきます」と足早に身を引いた。まだ乾杯を始める前からこの人数では、この後に溢れるほど増えることは目に見えている。

「いえ自分が……!」とアーサーが慌てて声を上げたが、良いから良いからと手を振って笑うエリックが駆ける方が一足早かった。もとはと言えば飲み会の場をアーサーの部屋に密集させようと提案したのは自分の隊長でもある。

そしてその主犯である隊長はもう家主のアーサーよりも寛いで騎士達に酒を注いで注がれて笑っていればもうエリック自身が動くしかなかった。


エリックの計らいにより急遽会場がアーサーの自室から騎士館の外へと変更されることになったのは、それからたった三十分後のことだった。


公的な場所に会場が移ったことにより途中参加の騎士達の数が倍増することを、アーサーはまだ知らない。


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