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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ539.騎士は受け取り、


「アーサー!お誕生日おめでとう‼︎」

「お誕生日おめでとうございますっアーサー!」


ありがとうございます。毎年と同じ返しをしながら、やっぱ嬉しくて口元が緩む。

近衛騎士の先輩達の前で言われるのも最初は恥ずかしくて肩が狭まったけど、今は平気になった。両手いっぱいの花束をくれるティアラの頭を撫でて受け取れば、今はカラム隊長の前でも普通に力を抜いて笑える。

毎年城の庭園に咲いてる花を摘んでくれた花束はすげぇ綺麗で、どこの花屋よりも豪華で何より庭園中を歩き回ってくれたのがわかった。鼻先に行く前からぶわりと香水と間違うくらいに良い匂いがする。

昔っからティアラは花を選ぶのとか上手いと思う。今じゃティアラも王妹の業務覚えたりとかで忙しいのに、今年もやっぱり自分の手で摘んでくれたらしい。「大好きなアーサーの為にがんばりましたっ!」って弾んだ声で言われると、歯を見せて笑っちまう。本当に今じゃ妹みたいだ。


俺や近衛騎士の誕生日になると、ティアラは毎回プライド様の部屋に前もって花束を隠して……つーか預けてくれている。

さっきも俺らとステイルと一緒にプライド様の部屋に入った途端、ガサゴソと専属侍女のマリーさんから後ろ手に隠しながら受け取っていた。自分の身体の幅よりでかく作った花束はガキの頃と変わらず今も一人の背中ではみ出すから、プライド様とぴったり肩をくっつけ合って隠してる。

ロッテさんが一度花束を預かってくれて、今度はプライド様からの品を両手で受け取る。毎年と同じように両手で受け取る準備をすれば、そっと背中に隠していたそれを差し出してくれた。



鉢植えに入った、綺麗な花だ。



「またちょっと長持ちしやすい花を見つけたの。肥料もしっかりしているから安心して」

そう言って差し出してくれる今年は青い花だ。細い花弁がくるりと一周丸く並んだ花だった。中央のオレンジがかった黄色が映えている。……青色のを貰うのは、最初に祝ってもらった誕生日以来だなと思う。その時のとは違う花だけど、色合いはどっちも綺麗だ。


昔、初めての頃もこうして花を送ってくれたプライド様達だけど翌年は色々あってプライド様は別のをくれて、……本隊騎士になって翌年にはまた鉢植え付きの花をくれた。

今まで貰った花も全部、今も毎年枯れては新しく咲いてが繰り返されてる。いくつか植え替えして、もともと作物しか育ててなかった畑は端の方だけ結構鮮やかな色になった。

古いのから最後は畑に植え替えで、一年前と二年前のは太陽浴びて水も与えやすいように店前に飾って、……一番新しい花は騎士館の自分の部屋に置いている。


本当は全部部屋に置いておきたいくらいだけど、ちょっとした任務ならともかく遠征で長い間空ける時はその度に実家にいる母上に預けるから、持ち運びも考えて一個だけにした。お陰で毎年、一年ごとに違う花が部屋に咲いている。もともと物が少ない俺の部屋で、今じゃ一番華やかな私物かもしれない。……今も、あの時の知恵の輪は一緒に置いたままだけど。


ティアラは城の庭園の花を摘んでくれるけど、プライド様は城どころかフリージアじゃなかなか見ないような花を贈ってくれるようになってきた。

もともとプライド様みてぇに花にも詳しくねぇけど、知らない花を貰えるのは少し楽しみだった。母上や父上も翌年に実家持って帰ると喜ぶし興味持つし、客も気付く人は気付く。育て方も、毎回庭師からのメモまで用意してくれてるお陰で今のところどの花もちゃんと咲いている。


「?アーサー、ちょっと後ろ向いてくれる⁇」

「?アーサーいま青いの……」

ぱちりと、突然丸く目を開いたプライド様とティアラに肩が揺れる。

ありがとうございますと思い切り頭を下げた時に気付いたのか、首だけ横に傾けるようにして俺の背後を覗こうとするプライド様と一緒にティアラも同じ角度に傾けた。姉妹揃った動きに、プライド様の隣に立っていたステイルも少しつま先を立てるように覗いてきた。

プライド様達が何に気付いたかは俺もすぐにわかって、口を絞りながら背中を向ける。その途端、プライド様だけでなくティアラからも声が漏れた。だからなんで皆そんなあっさり気付くンだ。


「アーサー髪留め変えたのですねっ!すっごくお似合いです!」

「今ちらっと青いのが見えたから……素敵ね!アーサーが髪紐の色変えてるの初めて見たわ!」

ぱたぱたと小さな足で駆け寄ってくるティアラにプライド様も続く。

やっぱり!と楽しそうな声に思わず軽く振り向くと、揃ってきらきらとした目でこっちを見てた。まさか背中見せる前にそんな一瞬で気付いて貰えるとは思わなかった。

髪留めぐらい、騎士団どころかプライド様達も気付かねぇって思ったのに‼︎今まで自分がどんだけ飾ることに興味なかったのかすっっげぇ思い知る。


「どうしたアーサー、誰からかの贈り物か?」

ぐいっと、言いながら気軽に髪束を掴んでくるステイルのせいで、引っ張られるまま喉が反る。

引っ張るのは良いけどプライド様がくれた植木落としたらどうすんだと思わず声を上げる。慌てたように専属侍女のロッテさんが今度は両手で受け取り預かってくれた。手が自由になったところで、俺からも自分で髪束を掴んで引っ張り返す。


「うちの実家ン家で働くことになった人とそのお兄さんでくれたンだよ‼︎」

弟が世話になってるからって‼︎‼︎

勢いで言いながら、うっかりノーマンさんとブラッドってバレるように言ってないか後から心配になる。……ぶっちゃけ、ノーマンさんから貰ったと自慢してぇくらいだけど仕方ない。

まさかこんな気付かれたり聞かれるとは思わなかったし、ノーマンさんにも昨日貰った時に口止めされたままだ。

ブラッドが俺ン家で働くことになったこと自体は別に口止めされてねぇけど、……これ言っちまった時点でもうそれも言えなくなったなと思う。ここでブラッドが働いてるっつったら、そのまま髪留めくれた人もわかる。

良かったわね、とぱちんと両手を合わせたプライド様にティアラも明るい声を重ねた。「お前にしては趣味が良いと思った」と言うステイルも口元が性格悪く笑ってる。


「贈り主とは趣味が合いそうだ。今年は鏡を贈った方が良かったか?」

「ぶわっか!わかってンだろ」

楽しげに揶揄ってくるステイルにうっかりそのまま悪態つく。

プライド様の部屋にいるとつい普段の調子で話しちまう。今はいつもの人らしかいねぇから良いけど、その内廊下でもこんな話し方するようになっちまったらやべぇなと今から思う。

意識的に口の中を一回飲み込んで、それから今度は睨むだけで返せば悪い笑みのままにステイルが一度瞬間移動で消えた。コイツは毎年毎年勿体ぶる。俺も俺でステイルが戻ってくる前に団服のポケットへ手を突っ込んだ。

手探りで掴んだ時にはステイルも戻ってきた。さっきまでは持ってなかった包みをその手に。


「ん」

「おう。……ありがとな」

一音で差し出してくるステイルに、やっぱ両手で受け取る。

俺が本隊騎士になって、ステイルの誕生日を祝うようになってから、俺もステイルから貰うようになった。プライド様やティアラみてぇな花と違って、明らかに品な包みだ。開ける前から絶対すげぇ額だろと……最初は戸惑ったけど。



『なら代金も貰ってやる』



「ン」

「どうも」

いつものように俺からも、ポケットから出してた銀貨を渡す。

騎士の格好でも、最低限の金は常備してる。その中でもステイルに用意してたのは価値としても大したことはない、古ぼけた一枚の銀貨だ。

最初に贈られた時、戸惑った俺にステイルが提案したのがたった一枚のそれだった。最初は意味がわからなかったし、絶対銀貨一枚なんて何の足しにもならねぇだろと思った。代金ならいっそ金貨くらい用意しようとしたら、ステイルに「本気で支払うな」って低い声で睨まれた。じゃあどうしてぇンだっつったらやっと包みを開かされて一緒に説明してくれた。

今も、指の間に移しては銀貨で手遊びしてるステイルは機嫌が良い。

やっぱ今年もくれたもんは期待した通りで良かったんだなと包みを開ける前から思う。それでも中身は気になるから箱を開いた。



銀色に光る、小ぶりのナイフだ。



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