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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ538.騎士達ははしゃぐ。


「届いた物資については()()()()()手の空いている者で取り分けるように」


おおおおおぉぉぉ……。

早朝演習後、父上の号令に騎士団全体が騒めいた。

もう今じゃこれぐらいの盛り上がりだけど、当時はもっとすげぇ騒然としてたなと思い出す。父上の前だからそのまま騒ぎ出すことはなく、皆すぐに騒めきも収まったけれどそれでもさっきみたいな緊張感が今は少し浮ついて感じた。特に、一番隊の方向が。副団長のクラークも父上の隣で壇上からもう気付いてるみたいに少し口元が笑っていた。


最後に父上が解散を命じれば、一度閉まった沈黙もまた広がる。

いつもは朝食に食堂へ流れる人の足が一斉に別方向へ流れた。飲み会とか行事にも参加しない八番隊も結構な数が流れる。飯食うのは興味がねぇハリソンさんまでそっちの方向に消えた。他にも特殊能力使ってまで急ぐ騎士がちらちら見えて、相変わらずすげぇなと思う。

俺も同じ方向に歩いていたら、同期に「お前は急げ!」って叫ばれた。確かにそうだよなと思って、やっと足に力を入れて俺も駆け出した。


騎士団演習場には、色々な物資が届く。食堂用の食材は勿論、遠征用の道具に薬や包帯、保存食とかの必要物資をや武器、団服や生活物資だけじゃなく定期的な新調が必要になる特殊能力者製の武器もそうだ。

王国騎士団は給料とは別に、衣食住が保証されている上にこういうのも全部国に賄われている。低賃金の新兵でもやっていけるのはこういうののお陰もある。しかもフリージア王国を守る騎士団が色々と優遇されているのはフリージア王国にだけじゃない。


同盟国と和平国、ンで近年は周辺諸国。そういう国から友好の証とかで城に献上される品は、王族宛てだけじゃない。

昔から戦で負けなしのフリージア王国騎士団にそういうのが届くことは昔から多い。基本はフリージア王国の為の組織だけど、同盟国やそういう国同士の結びつきの為に騎士団が援軍として動くことはある。ンで、騎士団に助力された国からとか、もしくはいつか来るときはよろしくと色々物資を送ってくれることがある。

事前報告や城門と演習場の門と両方の検閲を通ってから騎士団の元に届けられる品なのは変わりねぇけど、他国からの贈り物に近いそれは定期的な城からの物資とは違っている物も多くて結構面白い。俺も新兵の頃は、届いた品を確認するのがわりと楽しかった。


けど、結局は騎士団への物資だし騎士団長を通してどう割り当てられるか決めるのが基本だ。

銃関連だったら五番隊六番隊に優遇されたり、補給系だとちょうど遠征予定がある隊や班へ多めに振り分けられる。

城からでも他国からでも、届いた物資内容を確認して運んで、副団長に報告するまでは基本的に新兵の仕事だ。いくら手が空いてても急な事態じゃなければ本隊騎士がと言われることはない。

数年前から新兵の仕事量が減って本隊騎士が自分で賄う作業が増えたらしいけど、それでもこれは新兵の仕事のままなくらいだ。……けど。




レオン王子からの物資だけは別だ。




「!!来た来た‼︎アーサー早く来いもっと走れ!!アラン隊長に全部取られるぞ⁈」

いや流石に全部は……。言いながら手招きされるままもう少し本気で走る。

既に荷車には大勢の騎士が集まっていた。物資を積んだ荷車を中心にぐるりと取り囲む中、もう乗り上げてる人もいる。荷車の規模から、今回もすげぇ量送ってくれたんだなとわかる。

アネモネ王国の馬車で届けられるようになった物資。もともと隣国でもあるアネモネ王国からは同盟を結ぶ前から色々贈られてくることがあったけど、プライド様とレオン王子との件からは一層増えた。……ンで、一年くらい前からは更に増えた。



「おおおおおおおおおおぉぉおぉおおおお来たああああああああああああああ!!!!!」



よっしゃああああああああああああ!!!!!!と雄叫びみたいな声に思わず肩が上下する。アラン隊長だ。

まだ最後尾列に近い俺のところまでビリビリ来るすげぇ声だ、アラン隊長は特殊能力者じゃねぇ筈だけど、拡声の特殊能力者じゃねぇのかなとこういう時マジで思う。新しく入った新兵とかは本気で勘違いしてる時がある。


視線を向けてみれば、積荷の中から一番でかい包みを右手に掲げていた。……反対の左は小脇にもう一個だ。

俺が近づいた時点で、他の騎士もわかっててくれてて前に優先的に押し込んでくれる。「今日はアーサーか」「アラン隊長ではないのですか⁈」「アーサーだと⁈」「おいアラン自重しろ‼︎」って半分くらいアラン隊長の話が混ざる。

騒ぎに乗って聞こえたらしいアラン隊長が俺の方を向く。でかい任務を終えた後みたいなやりきった笑顔だ。アーサー!って名前を呼びながら大振りに手を振ってくる。


「お前誕生日だろ⁈俺貰うけどお前もいるか⁈」

まだ残ってるぞ‼︎と、力いっぱい言いながら、足元に並べられたでかい包みを軽く蹴って示した。

蹴られたもんだけじゃない、荷車全部アラン隊長の足下にずらりと並べられたもんもアネモネ王国のレオン王子からの物資だ。アネモネ王国からじゃなく〝レオン王子〟からの物資だけは「友好の証なので騎士達で好きに持って行って欲しい」と書状が付けられて、騎士達の早い者勝ちにされていた。……〝何故か〟近衛騎士の誕生日になると贈られるそれの意味を騎士達はみんな察してる。

近づいて、積荷の中身を改めて確認するとやっぱり今年〝も〟これなんだなと思う。去年も俺の誕生日にレオン王子から騎士団全体に贈られたのと同じだ。


大量の武器。刃物から火薬物も銃に弾薬、武器と呼べるもん全部が積まれてる。この荷車一つでも量だけで言えば遠征の武器全部賄える。……今年はあんまり使い方がわからなそうなもんも多いけど。ハナズオの防衛戦を思い出す。あの時も珍しい武器とか使ったことないもんが山のようだった。


去年の俺の誕生日にも、こういう風にレオン王子から馬車ごと騎士団全体に積荷が届いた。

すげぇ量だし俺だけじゃなく騎士全員への贈り物だけど、その後もアラン隊長達近衛騎士の誕生日がくる度にこうやって物資を早い者勝ちで贈ってくれる。

プライド様の近衛騎士ならそれぐらい自分で欲しいもん捥ぎ取れて当たり前っていう意味なのか、……本気で騎士団全員分に振舞ってくれようと思っただけなのかはわからない。ただ、あの時はマジで悪い気ししかしなかった。だってレオン王子が近衛騎士の誕生日にこんな送ってくれるようになったのは。



『君達もきっと喜んでくれる人だと思うから』



俺がうっかり口滑らしたのが原因だ。

あそこでレオン王子の意図に気付いて遠慮しときゃあ良かったのに、聞かれるままに誕生日を教えた。ンなそこで誕生日教えたら話の流れで祝ってくれることも考えるべきだった。あんなの催促しちまったのと同じだ。

それから、近衛騎士の俺達の誕生日には毎回騎士団全体へ大量の物資を手配してくれている。そして俺の誕生日に送られてきたのは去年と同じ武器だ。


去年は騎士団にもともと卸してくれてた扱い方も知れた系統の武器が詰め込まれてたのに、今年は何故か知らない武器が多く含まれている。

ハナズオの防衛戦へ向かう前の物資でも多くそういうのが揃えられていたけど、去年の時は今までフリージアに定期供給してくれてたのとほとんど同じ物資だったし少し意外だ。本当に武器って新しいもんが年々増えていくなと思う。

去年も、その時は単純に「誕生日だから先選んで良いぞ」って流れで良いもん選ばせて貰えたけど、そっからアラン隊長やエリック副隊長あたりでもその日に物資が届くようになったから他の騎士も段々察した。

お陰でレオン王子から物資が届く度、途中からそれが近衛騎士の誕生日の合図みたいになってる。


「いえ自分は今年も剣の手入れ道具貰えれば……。あ、でも銃もなんか使いやすいのとかありますかね」

「普段使うんならやっぱ手慣れた奴そのままが良いって。俺なんかまだ同じ銃じゃねぇと撃ちにくくなるし」

そうこうしてる間にも俺達の以外も騎士が次々と物色していく。なんか五番隊と六番隊の騎士がいつもより目の色が違う気がする。

短く風が吹いたと思ったら、ナイフが詰められた箱が丸ごとニ箱消えてた。多分ハリソンさんだろう。去年は一箱だったのに、今年は二箱ってことは結構気に入ったんだなと思う。


笑いながら言うアラン隊長だけど、銃も成績伸ばしてるらしい。

もう隊長なのに未だに苦手なもん減らして鍛錬は減らさないアラン隊長は本当すげぇと思う。銃とか苦手って昔は言ってたけど、この人はその分接近が飛び抜けてるしそれで一番隊の隊長なのに。……つーか。


「つーか、アラン隊長。アラン隊長がお持ちのそれが一番使い慣れてない気がするンすけど……」

取り敢えず閃光弾と煙幕弾も数個選びながら、アラン隊長が両脇に抱えるてるのをみる。あからさまにでかい武器は、布に包まれたまま姿は見えないけど絶対騎士団で使ったことがない物だってことはわかる。

他にもいくつかあったそれを俺が目で指した途端、でかい包みを抱えていたアラン隊長がにやぁと笑った。脇に抱えていたうちの一個を手に取ると「こっちがレオン王子のかなー」とその包みを巻き外した。


姿を現したのはでかい大筒で、それを見た途端他にも物色していた騎士達が「おおおおおお」と声を漏らした。ギラッ太陽の光で反射する感じは、銃というよりも大砲に近かった。

更には一個じゃ満足しなかったのか、小脇に抱えていた方の包みを開けばまた大筒だ。だけどこっちの方がひと回り以上でかい。最初に包みを開いたのによりもそっちのが気に入ったらしく、早速軽々と肩に掛けて構え出した。初めてみるし使い方もわからねぇけど、アラン隊長の構えがすげぇしっくりして見えるからそれで良いんだろう。……でも、でかさから見てもそれ二人とかで担ぐんじゃねぇのかなと少し思う。アラン隊長だから持てるンだろうけど。


「やっぱこっちだなー!でかいのあるならそっち撃ちてえし‼︎」

聞くと、最初の比較小ぶりのが奪還戦でレオン王子が使っていた武器らしい。

パンパンと大筒を叩きながら機嫌良さそうに笑うアラン隊長の背後で、次々と同じような大筒が早々に他の騎士達に回収されてあっという間に一番で無くなった。見るとやっぱ殆どが一番隊と二番隊だ。銃主要じゃねぇ隊なのに。

そんなに人気なら俺も一個くらい取っとくべきだったかなと思うけどもう遅い。他の騎士達も乗り上げて来ては「クッソ取り遅れた‼︎」って頭抱えて嘆いてた。

荷馬車の脇でカラム隊長が「欲しい武器を選んだらすぐ降りるように‼︎」って騎士達に呼びかけてるし、俺も早く降りねぇとと剣の手入れ道具を取った、その時。


「アラン隊長、そちらの弾はもう取りましたか?」

あっちにありましたが、と。

人混みを掻き分けてエリック副隊長が歩み寄ってきた。その途端、アラン隊長がまた耳に響く声で「え‼︎‼︎」と叫ぶ。風を切る勢いでエリック副隊長が指差した方向を振り返ったけど、もう全部空っぽだった。

大筒の方が全部はけたんだから弾が無くなるのも当然だ。「やっぱり気付いておられなかったんですね……」と半笑いのエリック副隊長は、肩に掛けてた二つの布袋の内一つをアラン隊長へと持ち直して見せた。


「こちらに大小それぞれ専用の弾がありますが、宜しければどちらかの大筒と交換しませんか?」

するする‼︎と、アラン隊長の笑顔が輝く。

迷うことなく比較小さい方の大筒をエリック副隊長に渡してエリック副隊長が持ってた大弾と交換した。「やはりそちらですよね」と少しおかしそうに笑いながらエリック副隊長は、その言い方だと多分アラン隊長が両方手に入れるのも、その後でかい方を選ぶのも読めてたのかなと思う。

小脇には銃弾の詰まった箱を三箱も抱えてて、そういやエリック副隊長も最近狙撃の演習所とか爆発物の演習所に行く事が多いと思い出す。


「アーサー!アラン‼︎お前達も欲しいものを取ったら降りろ‼︎」

やべぇ、やっぱ長過ぎた。

すみません、とカラム隊長に声を上げながら慌てて降りる。結局銃は見なかったけど、取り敢えず欲しいものは取れたしいっかと思う。

俺も両手いっぱいになるまで貰っちまった。閃光弾も煙幕弾も騎士団じゃ滅多に使えないし大事に使おう。


「あの、カラム隊長は良いンすか?色々良さそうな武器たくさんありましたけど……」

「私は良い。今日はお前の誕生日なのだから私のことは気にするな」

無事選べたか、と。前髪を指先で払いながら聞いてくれる。

自分の誕生日の時は色々選んでたけど、今回はあんま取る気がないらしい。一瞬俺も他の人の誕生日ぐらいは遠慮した方が良いかなと思ったけど「遠慮が必要なわけではない、アランを見ろ」ってカラム隊長に肩を叩かれた。確かに。アラン隊長は寧ろ自分の誕生日の時よりも盛り上がってる。

今も荷車から飛び降りた途端、大筒と弾を手に爆発物用の演習所へ一直線に走っていった。エリック副隊長が「朝食入りますか?」と背中に投げかけたら手だけ振り返してした。多分またエリック副隊長はアラン隊長に飯届けに行くのかなと思う。他にも大筒抱えた騎士が同じ方向に駆けていってるのが見える。

今日は午前の近衛は俺とカラム隊長だしその分時間もあるから、きっとアラン隊長達は演習の時間ギリギリまでやるんだろう。


取り敢えず貰った物資を一度騎士館に預けてから飯に行こう。ハリソンさんを待たせ過ぎねぇように、今から駆け足で向かった。


それに、……こっからがまた大事な時だ。


Ⅰ397

Ⅰ369-1

Ⅰ535

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