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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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そして受け取った。


「お誕生日おめでとうアーサー‼︎」


「あ、……りがとうございます……?……⁈」

朝食の後、ステイルとの稽古に行ってすぐのことだった。

ほぼ毎日俺らの稽古を見に来てくれるプライド様とティアラ様だけど、今日は最初からステイルと一緒に並んでた。てっきり俺が遅刻したのかとも思ったけど違って、二人揃って両手を背中に回して笑ってた。

ステイルの方は相変わらず無表情面だったけど、二人は明らかにいつもより機嫌の良い顔だ。


おはようございます、って挨拶したところで王女二人が背中に隠していたものを見せてくれれば多分、……っつーか絶対俺への誕生日祝いだ。

あまりに驚き過ぎて、すぐには上手く反応できなかった。まさかこっちでも祝って貰えるとは思わなかった。だってステイルには


「アーサー、今日誕生日で合ってた……わよね……⁇」


あの、もしかして、と。

両手に持った贈物を俺に差し出した形のまま、さっきと打って変わって恐る恐るとした声に目が覚める。

ハッ‼︎と息を呑めば、プライド様にティアラ様も上目のまま僅かに眉が不安げに下がってた。ちらっと姉妹揃って互いに目配せし合う瞬間に心臓がひっくり返る。やべぇ、驚き過ぎて固まってた。


「‼︎いや合ってるッます‼︎‼︎誕生日!です‼︎‼︎すげぇ嬉しい、です‼︎ありがとうございます‼︎‼︎」

すみません‼︎‼︎

大声で叫んで受け取る前に思いっきり頭を下げる。クソ馬鹿か俺死ね‼︎‼︎

王女様相手に二人揃って持たせたまま待たせた!普通すぐ受け取ンだろ‼︎

後ろの括った髪が跳ねるくらい勢いよく顔上げて、それから慌てて今度こそ受け取る。一度に両手で受け取ろうとしたら、プライド様が笑いながら「一個ずつで良いわよ」と言ってくれた。焦り過ぎたと気付いて、一旦手を引っ込める。


先にどうぞ、とプライド様がティアラ様へ微笑みかけて半歩引く。

両手いっぱい溢れそうなほどでかい花束を抱えてるティアラ様に多分気ぃ遣ったんだなと思う。小さな身体と細い腕に抱えられた花束は、……ぶっちゃけ背中に隠されてた時からはみ出して見えてた。

俺と四つ下のティアラ様のこういうところを見ると、姫様でもやっぱ子どもなンだなとわかる。ステイルとプライド様や、侍女の人達も誰も突っ込まなかったのかと頭の隅で考えればやっぱ可愛がられてンなと思う。姉兄がプライド様とステイルなんだから当然だけど。


「ありがとう、ございます。……すごい沢山詰めてくれたンだ、ですね」

未だ言葉を整えるのも板につかねぇけど、特にティアラ様相手だとうっかり崩れそうになる。

頭では王女様ってわかっててもやっぱ小せぇし、近所のガキとかこんぐらいもいる。何よりすげぇ可愛いしお姫様って感じはするけどプライド様と比べるとぽわぽわしてて、ステイルのこともあってか感覚が姫様よりも〝ダチの妹〟の方が強い。

今も俺の言葉に「お庭でたくさん摘みましたっ!」と自慢げに胸を張るティアラ様は可愛いらしい。金色の髪ごと頭を撫でてやりたくなる。いや王族相手にンなこと絶ッッ対しねぇけど。


ティアラ様のくれた花束は、すげぇ色とりどりだった。こんなに用意していくら掛かったンだと一瞬焦ったけど〝お庭〟って言葉に納得する。

城にある王居の庭園は花屋と段違いの量だった。俺でも片手じゃ足りず、腕ごと使って抱え持つ。青や紫、赤に桃色黄色とオレンジとバラバラの色が綺麗に並べ束ねられてる。「摘んだ」っつってるし、これ全部その小さい手でわざわざ俺の為に集めてくれたのかなと思う。

花の香りが鼻先に届いて、でも甘ったるくはない良い香りだ。思わず深く吸い上げればほっと息も吐けた。


「すげぇ綺麗、です。家で大事に飾らせて貰います。すみません、俺ティアラ様の御誕生日には何にも……来年は絶対」

「⁇アーサーはお誕生日おめでとうって言ってくれましたよ!誰よりも一番にアーサーがお祝いしてくれましたっ」

いやそれは当日の二日も前に言ったからで。

でも、にこにこと本気で気にしてないように笑ってくれるティアラ様は本当に取り繕いの一つもない。続けて「アーサーにこうして仲良くなれたことが一番の贈り物でした!」と言われると、腰を低くして頭を掻くしかできなくなる。

今年は結局プライド様にしか贈らなかったし、来年は絶ッ対用意しよう。……まさかプライド様にだって贈り物することになるなんざ当時は思わなかった。


家で今も畑耕してるし、植物の扱いはそれなりに慣れてる。帰ったらすぐお袋に花瓶借りねぇと。

もともとステイルにも、お互いそういうのは無しっつー話でまとまってた。「言っておくが僕には不要だ」「代わりに僕も贈らない」って、俺もダチとはいえ王子が喜んでくれるようなモン思いつかなかったし正直助かった。

だからてっきりステイルと同じでプライド様やティアラ様からもそォいんのは無いと思ってた。多分ティアラ様が、摘んだ花にしてくれたのも俺が高いモンだと困ると思ったからだろう。……まだ小さいガキなのに、そういうこと考えられるのはやっば俺より大人っつーか教育受けた王族なんだなと今思う。それに、プライド様だって。


「私からはこっち。ティアラみたいに豪華ではないけれど、こっちはこっちで長持ちするから」

ふふっ、と少しおかしそうに笑いながらプライド様が差し出してくれたものを今度こそ受け取る。花束を腕で抱えて、空になった両手で落とさないよう慎重に。

ティアラ様がくれた花束も当然絶対落としちゃやべぇけど、こっちはこっちで緊張する。ありがとうございます、の言葉だけでもうっかり声が上擦った。

視界の隅でステイルの無表情がどこか取り繕ってて、ニヤ笑いでも堪えてるつもりなのかと一瞬過ぎる。

大事に持ってくれてるプライド様に、間違うと手が触れそうで指一本一本注意する。息まで止めて重ならねぇように慎重に受け取った。



鉢植えに植えられた、綺麗な青い花。



プライド様の両手に収まるくらいの小さな鉢植えは、持ってみたら想像よりもずっしりとしていた。

肥料も良いものを使ってる、庭師にお願いしたから間違いない、冬まで楽しめるから、と。そう説明してくれるプライド様の横でティアラ様が「愛情いっぱいで育ててあげてくださいっ」と声を跳ねさせた。

一本の茎から枝分かれするようにポンポンと小さくて綺麗な花が五つ咲いている。育て方も楽なのを選んだからと口頭だけじゃなく庭師の書いた説明書きまで最後に添えてくれた。

絶ッ対これは枯らしちゃ駄目だと今から決める。……今だけは、こんな特殊能力で良かったと都合良く思う。二人とも多分単純に俺が金目のモンだと受け取り辛いから花にしてくれたンだろォけど。

でも、この人達から貰えた花を大事にするには多分一番の能力だ。


「ありがとうござい……ます。すげぇ、すごく、嬉しいです。すみません、王族の方々にまで俺なんざが気ィ遣わせちまって」

「何言ってるの!アーサーだって私とティアラの誕生日を祝ってくれたじゃない!アーサーなら貰ってもらえる花も幸せだもの」

ティアラ様には目を合わせられたのに、プライド様には未だ上手く合わせられない。

気付けば顔じゃなくてプライド様の手元や足元ばっか目に行っちまう。たったそれだけの身体の端なのに、それでもやっぱ綺麗な人だなと思う。白くて長い指に整えられた爪とか、細い足に踵の低い靴とか爪先の向きとか佇まいとか全部。

今も、両手を合わせて明るい声をかけてくれるプライド様に、きっと視線を上げたら花のような笑顔で笑ってくれてるンだろうなと思う。この人はそォいう人だ。


「花も幸せ」って言葉に、やっぱ俺の特殊能力のことも考えて贈ってくれたのかもなと小さく思う。この人もティアラ様も、俺の特殊能力もそれが俺にとってどんなモンかも知っている。……ンな俺に、俺の特殊能力に意味をくれたンならきっとそれも優しさだ。


〝植物を元気にする能力〟

ガキの頃、特殊能力に目覚めた時は嬉しくてお袋も何度も俺に弱った植物を出しては頼んで、ンで思い切り褒めてくれたなと思う。……逆に嫌になってからは、俺から断っちまうことも増えて頼まれなくなったけど。でも取り敢えず、この花だけは毎日触れておこう。

ありがとうございます、ってまた言って自然と頬が緩んだのがわかった。


「……はい。ちゃんと、毎日触れるようにします……」

「?ええ。あとね、触れるよりも話しかけてあげるともっと良いらしいわ。庭師が教えてくれたの」

歌でも良いらしいんだけど、と。

俺へ首を傾けてから、楽しげな声でそう言った。

触れるより⁇って、よく分からず瞬きしてから顔をあげればうっかり満面の笑顔が直撃した。「歌は恥ずかしいわよね」って、小さな笑い声と一緒に言われて、たぶん今顔が熱ってるンだろうなと思う。いや歌とか話し掛けるとかっつーか、なンか話が上手く噛み合ってねぇ気がすンだけど。

ぽかんと口が力なく空いたままになる俺に、プライド様の眩しい笑顔は続く。


「アーサーなら絶対植物も大事にして世話もしてくれる人ってわかるから、私も安心してこの子を託せるわ」


そう言って。

花を、この子とそう言いながらフフッと口元を隠して笑う音に全身が擽られるようだった。

陰りも誤魔化しも、取り繕いもなく真っ直ぐ俺を見て微笑んでくれるプライド様に、……嗚呼最初から俺の特殊能力とか関係なくだったンだなとわかった。


ただ、〝俺なら〟って思って、花を贈ってくれた。

花が幸せも、最初から〝俺〟を見てくれただけの意味だった。そうだ、出会った時からずっとこの人はそういう人だ。

もう気にしてないつもりでも、やっぱ頭のどっかでは勝手に気にして生き苦しくしちまってたンだなと馬鹿みてぇに思う。

小さな鉢植えを片手で一度掴んで持って、空いた手で頭を掻く。「ありがとうございます」って今度は肩の力を抜いたまま言えた。


「話し、……かけます。畑じゃやったことねぇけど、貰えた花には両方。……すげぇ絶対大切にします」


甘い香りが鼻を擽るせいか、なんか足元までふわふわした気分になる。

良かったわ、とプライド様が笑ってくれてまた気付けば視線が逃げて落ちた。口の中を噛んで、それでもどうしようもなく口の端が緩む。格好わりぃ。


花に話しかけるとか歌うとかガラじゃねぇけど、それで元気に育つならちゃんとしたい。……流石に見られンのは恥ずかしいから、自分の部屋に置こう。

そう考えながら頬を指先で掻いて、また両手で持ち直す。取り敢えずこれからは稽古だから一回置かねぇとと、いつも荷物を置く場所に目を向ける。すると、控えていたプライド様とティアラ様の侍女さん達が両手を空けて歩み寄ってきてくれた。

稽古中は私共が預かります、とその言葉に俺も甘えることにする。王族でもねぇ俺が城の侍女さんの手ぇ煩わせンのは引っかかるけど、大事な品を床に置くのも、だからって高さのある場所に置くのもちょっと気になった。


宜しくお願いします。と、頭を思いっきり下げて慎重に手渡す。お任せ下さいと笑ってくれる侍女さんが、全員なんだかすげぇ微笑ましいものを見る目だった。

両手が空いて、俺も急いで稽古の準備をと荷物をいつもの場所に置く。するともう稽古着に着替えも終えてるステイルが無言のまま隣に並んできた。何か言いたいことでもあるのかと視線をなげれば、わざとらしく口元だけ上げてきた。


「来年からはやっぱり僕からも贈ろうか?」

「いンや良い。……本隊騎士になったら、考える」

っつーかこんなすげぇ稽古場も借りてンのにそれ以上要るかよ。

もともとは俺より誕生日の早いステイルの方から気ぃ遣ってくれたからだけど、本当に今の俺じゃステイルに喜ばれる品なんざ思いつかない。せめて本隊騎士になれれば給料も跳ね上がるしまともな物買えるかもしんねぇけど、それまではやっぱ互いになくて良い。

プライド様にだって、未だにあんなので良かったのか不安だった。……つーか、贈り物で俺が毎回頭抱えたのを知ってるからこそ、そォいってくれた可能性もある。


そうか、と。俺からの返事も読めてたように言うステイルは、そこで腕を組んだ。俺がいつも通り動きにくいシャツを脱ごうとしたら「今日は着替え室にした方が良い」と言われる。一瞬なんでかわからなかったけど、顔を向ければ今日は最初からプライド様達がいることに気付く。

いつもは最初はステイルだけの時が多いから着替え室も面倒でその場で上の服でも着替えてたけど、今日は最初から皆いる。

一度置いた着替えと荷物を両手に抱え、俺は急いで着替え室に戻った。


家に帰ったら最初に鉢植えへ水をやんねぇとと、今から考えた。







……







「……えっ」


騎士団の休息時間を得た後、いつもの手合わせと稽古を終えた。

今は〝新兵〟になって親父からの稽古は断ってるから、俺にとって貴重な手合わせの時間だ。新兵同士も手合わせはするけど休息時間まで付き合わせるわけにもいかねぇし、やっぱステイルとの手合わせは一番しっくりくる。


途中から見学に来てくれたプライド様とティアラと話していた時だった。

ふと今朝あったことを思い出して話題にしたらプライド様の肩がぴくりと揺れた。ティアラもきょときょととプライド様に目配せしては「それは良かったですね!」て違和感のある笑顔で言うし、ンなびっくりすること言ったかなと思う。


〝去年貰った鉢植えに芽が出ましたよ〟くらいで。


「で!でも!アーサーは畑をお持ちですしお花がいくらあっても嬉しいですよねっ!」

「?あ、おう。もともと花自体は畑の周りに咲いてる。……けど、プライド様から頂いた花はあれだけなンで嬉しいです」

何か一生懸命な口調で言うティアラに言いながら、最後は頬をかく。今年もまたあの花が見れるんだと思うと今から楽しみだ。


一年前、誕生日にプライド様が贈ってくれた鉢植え付きの花。


あるから毎日世話して長持ちしたけど、冬になったら当然枯れた。俺の特殊能力も植物を元気にはするけど別に寿命までは伸ばさない。

けどそろそろ一年経って昨日実家に帰ったら芽が出てた。多分枯れてから種もつけてたんだろう。植物の相手は慣れてたしもしかしてと思って気にしてたのが正解だった。

「今年も楽しんで貰えるなら嬉しいわ」「アーサーが大事に育ててくれたからね」とプライド様も遅れて喜んでくれたけど、まだ若干額に汗が滲みていた。


その後、俺の入隊試験に備えてもう少し手合わせと稽古の数増やせないかステイルに頼むとか話題も変わったけど、その間もプライド様の戸惑ってた理由はわからないままだった。


Ⅱ149

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