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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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嘘吐き男は流され、


「お前ら鍋を間にじゃれるなよ。折角のヘレネちゃんと俺様の愛の結晶が零れちまうじゃねぇか」


気持ちの悪い言い方するな、しないで、と。同時にレイとクロイの言葉が重なった。

密かにライアーと同じく鍋の心配をしていたヘレネもほっと胸を両手で押さえて息を吐く。ライアーの言葉を聞くよりも今は美味しい夕食が零れてしまうことが勿体ないとばかり考える。

しかし仲裁するような台詞に、今度はディオスも「だってレイが!!」と声を上げて乱入した。安直にクロイの案が名案だと思ったディオスは、弟は悪くないと言わんばかりに眉を吊り上げ喉を張り上げる。


「別に特殊能力なんだから良いじゃんか!!最近怒ってばっかだし!意味もないのに燃やすんだからせめて鍋ぐらい煮てくれたって……‼︎」

「いやいや先ずそれが無理なんだよわかってねぇなぁ?超激不器用レイちゃんがそんな器用な火の制御できるわけねぇだろ。こいつはマッチと一緒で火を出すだけしかできねぇの。俺様みたいに火力や火量制御できるような天才じゃねぇんだよ」

「じゃあおじさんはできるの」

「俺様はおじさんじゃねぇっつってんだろ髪留め二本!!鍋抱えたまま火なんざ出したら今度は俺様の腕が鍋で焼けるっつーの!!」

「えっ駄目なの」

「レイちゃんが火出して服燃やすのに俺様がむき出しの腕で火傷しねぇわけねぇだろ!!ヘレネちゃんとの料理で俺様毎回んな面白びっくり料理したことあるか?!」

ヘレネと料理する際に、毎回調理用釜戸への火こそ提供するライアーだが直接触れて鍋や食材を熱してはいない。それはディオスもクロイも夕食の時に確かに目にはしていた。


あー、確かに!とクロイとディオスがそれぞれ感想を口にする中、ネル一人がぽかんと口を開けてしまう。思わず膝の上のドレスに刺繍糸ごと針を落としてしまうが今は気付かない。

レイの特殊能力はさっき知ったが、ライアーの特殊能力も見聞きするのは今が初めてだ。いつも調理時間は自室で縫物に没頭していた彼女はライアーとヘレネに料理も全て任したまま目にはしていない。

レイの火が黒かったこともそれなりには驚きだったが、一人ならず二人揃って火の特殊能力者が揃っていることの方が衝撃だった。特殊能力に血筋が関係するという説を聞いたことはあるが、実際自分の家ですら特殊能力者は兄一人。しかも目の前にいる二人も血がつながっていないことは、やり取りを聞けば察せられた。にも関わらず、共同生活をしている二人が同じ火の特殊能力者などそんな偶然があるのかしらと瞼がなくなるほど目を丸くした。


茫然とする彼女に、一人蚊帳の外にされたまま棒立つレイが視線に気付く。

ライアーへの釘差すような視線を見ながら、そういえばこの女にはまだライアーのことは話してなかったと思い出した。自分の特殊能力はバレたところで別に良いが、仮にも騎士の兄を持つこの女にまでライアーの特殊能力がバレたことに少なからず胸がざわつきを覚える。

良からぬことに利用しねぇだろうな、と瑠璃色の眼光を彼女へまっすぐ定めた。しかし目が合った途端、予想をしないまでにネルの目の奥が輝いていることに気付き瞼を開いた。

さっきまで茫然としていた彼女が、レイと目が合った途端前置きもなく彼へ言葉を掛ける。



「……せっかく同じ炎の特殊能力なら、お揃いの服も良いと思わない……?」



?!!!!と、予想だにしない投げかけに今度はレイもすぐには言葉が出なかった。

しかし冗談を言っているようには見えないネルは、口を覆っていた両手を下ろしたままに今度はぐっと拳を握る。このドレスが完成次第、次に取り掛かってみたい服へ標的を確定する。

ネルの呟きに隣で聞いたいたヘレネは「あらぁ」と声を漏らしながらも改めてレイとライアーを見比べた。自分の弟達もお揃いを着ることが珍しくないのだから、親子もしくは兄弟同然の仲だろう二人がお揃いを着るのも仲良しで良いわねと平和に思う。


「レイ君はたくさんお着換えを持ってきてるのよね?なら、ライアーさんも着たりはしない⁇その方がライアーさんも火を出しやすくて安心じゃないかしら」

「待てヘレネちゃん。俺様とレイちゃんじゃ身体も足の長さも全然違うだろ⁇流石に俺様ガキの服は着れねぇよ」

「ほざけ。足は俺様の方が長い」

おいこら待て、と。ライアーが聞き逃せない言葉に歯を剥くが、レイは目も合わせない。それよりも今さっきのネルの発言の真意の方が気になってならない。


ライアー自身、レイと同じく火を表出させる種類の特殊能力者だ。しかし身体の周りに灯し黒い火を溢れさせるレイと違い、ライアーは基本的に手のひらから生じさせ調整もできるさせる分あまり衣服に関しての苦労はない。

しかも外ではいまだに自身が特殊能力者であること自体隠している為、使うこともない。ヘレネに対して火の特殊能力を見せるようになったのも、ジャンヌの知り合いと知ったからだ。

既に自分の特殊能力どころかそれ以外にも弱みをがっつり握っているジャンヌの知り合いであればと、特殊能力を明かしただけ。本来ならばたとえヘレネがマッチを切らせて困っていると話しても、自己保身の為に火なんて見せないし教えない。ネルに関しても、ジャンヌの紹介かこの家の住民にならなければ例え口説くつもりだったとしても簡単には見せなかった。

ディオスとクロイが無言で三歩離れ、レイとライアーの足の長さを見比べる中。ネルは一度もレイから目を離さない。


「もし良かったら余っている服を一、二着くれれば私が繕い直すわよ。防火性の布なんて針を通したこともないから手間取るかもしれないけれど、折角お揃いの特殊能力なら揃えるのも素敵だと思うの」

「いや俺様別に外じゃ使わねぇし……ていうかネルちゃん。頼むから俺様達が特殊能力者なことはあのお兄様にも誰にも言わねぇでくれよ?」

「……布の方なら店も知っている」

別段お揃いにまで今は必要を感じないライアーを無視し、続けて王都にある店名を語ったレイは腕を組んだ。

自分と目を合わせなかった当時の服飾職人だが、布の商人の方は毎回見せにくる度「どうぞ今後も御贔屓に」と繰り返し名乗っていた所為で覚えていた。服飾職人と違い防火性の布など大して需要がなければ他の布より値段も高い為、きっと自分が貴重な顧客ならびにカモだったのだろうとレイは思う。

ネルもその店名を聞けば、意外にも自分も帰国してから二度ほど足を運んだことのある店だった。今までは女性用の布地や糸ばかりに気を取られていたが、次行った時はちゃんと確認してみようと決める。


ありがとう、と素直に感謝を口にするネルは、ふふっと思わず口元を隠して笑いを零した。

さっきまでは非協力的だったレイが突然乗り気になってくれたことが嬉しい。自分の提案を良く思っていなければこんなことにはならないのだから。

感謝の言葉には何も返さず、憮然とした態度で睨み返すレイだが同時に悪態もそれ以上は出てこなかった。取り敢えず当面の衣服の代えは確保できるようだと自分を自分で誤魔化す。

既に成長しきったライアーと違い、自分は今後も背を伸ばす予定がある。


「良いのかネルちゃん。こういう布って結構値が張るもんだろ?そりゃ俺様はネルちゃんのお手製なら喜んで着るけどよ」

「服飾の方は趣味だし、その範疇なら構いませんよ。仕事と並行でのんびりやるから。私もこうして毎日二人の食材込みで夕食を分けて貰えていますし、そのお礼ってことで良いかしら?」

そりゃ勿論?と、無言のレイに代わりライアーが答えた。大鍋を一度台所に避難させながら、視線はネル達へと固定する。

ネルのわくわくとした眼差しに、ここで断る方が悪い気がする。まさかこの年で「お揃い」なんかを着ることになるとはと思うが、既に髪もレイとお揃いにしてしまった手前今更だと気付く。


無意味に短髪をまた掻きあげ、溜息を吐きながらこっそり肩を落とした。


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