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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
支配少女とキョウダイ

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85/1000

〈コミカライズ七話更新・感謝話〉弱かりし騎士は立ち尽くす。

本日、コミカライズ第七話更新致しました。

感謝を込めて特別エピソードを書き下ろさせて頂きました。

時間軸は「外道王女と騎士団」と「支配少女とキョウダイ」です。

一部本編に繋がっております。


「ッ弾薬が切れました‼︎こちらに補充をお願いします!」

「駄目だ!もうこれ以上は撃てない‼︎‼︎」


……最悪だ。


「火薬は⁈」

「剣を持て‼︎先行部隊が間に合うまで持ち堪えるんだ!」

「そろそろ奴らが崖から降りてくるぞ‼︎」

錯綜する声の中で、盾や岩陰に潜んで銃撃をやり過ごす。

敵は敵国でもない、ただの野盗だ。それを相手に新兵とはいえ騎士達が皆ただただ受け身になるしかない。

最初は影に潜んでは反撃に引き金を引いていたのに弾薬がなくなり出した途端、形成は一気に不利へと傾いた。たった数時間の隣国遠征だからとはいえ、もっと武器を持っていればとどうしようもない後悔ばかり考える。

先行部隊がいつまで経っても来ず、俺達には逃げ場もない。頬から伝う血はいくら拭っても止まらない。足の傷も順調に内側から衣を赤く濡らす中、呼吸だけを必死に整えた。最後列で必死に命を繋ぎ止める仲間に包帯や止血道具も全て使い切った。まだこうして動ける俺達に使える物は何もない。

せめて重傷者だけでもここから逃したい。銃弾の雨からは免れても、落石にでも巻き込まれたら終わりだ。一度大きな落石攻撃を受けたここは地盤が緩いと騎士団長も先ほど仰っていた。

いくらか元来た道を後退したところに横道があった筈だけれど、今の俺達じゃそこまでも戻れない。盾の影から出た瞬間に蜂の巣だ。騎士団長の指示で生き延びた馬に乗せ、いつでも走らせて逃す準備だけでも最後尾の騎士達が進めている。いま、負傷した彼らの足は馬しかいない。


「ッ命令は覚えているな⁈連中が降りてきたら全員なるべく後方に退がれ!先行部隊が間に合うまで負傷者を守ることだけを第一に考えろ!」

こちらから牽制が鳴らせなくなった途端、騎士団長から指示が飛ぶ。

膠着状態になる前から言われたことの筈なのに、一度目と同じくらいに息が詰まった。その〝全員〟に騎士団長は入っていない。


「私がなるべく数を減らし、引き止める!残りの銃弾は最後まで取っておくように」

奴らは銃弾が全て尽きたと思っている。そう続けながら剣を構える騎士団長に動ける新兵全員が覚悟を決めて一声を返す中、俺だけが噛み締めたままだった。威厳のある騎士団長の顔よりどうしてもその足元に目がいってしまう。……瓦礫に埋もれ、挟まれた片足に。


─ 俺が、動けていたら。


そう思った瞬間に、身体がガタガタと震え出した。

とうとうこの時が来てしまったのだと思えば、奇襲を受けた時よりも身体が動かなくなる。あの時、騎士団長の一番近くに居たのは俺なのに。俺があの時、騎士団長を庇えていれば片足が埋まったままだったのは俺で済んだかもしれない。逃げられず、避けられず、降りてきた奇襲者の標的にされるのが騎士団長と新兵の俺とじゃ意味が違う。

呼吸の仕方がわからず、喉が干上がったままガサついた。騎士団長を置いて、負傷者が控える後方へと向かう新兵が俺に呼びかけるけど、反応する余裕もない。目が、まるで杭に打たれたように騎士団長の足元から離れない。いっそ自分だけでも無駄死にで良いからこの場に残りたい。俺の力不足で動けなくなった騎士団長を、どうして置いていかないといけないんだ。


「ッエリック‼︎今は考えるな!騎士団長の御命令に従うことだけ考えろ‼︎」

同期で入団した一人が、そう言って俺の腕を引っ張った。

震えてただでさえ力の入らない足は怪我をしてるわけでもないのに後ろ向きに転びかけた。もう一人先輩が「早くしろ‼︎」と更にもう片腕を捕まえて俺を引き摺る。こんなところでも足手纏いになるなんて何やってるんだと頭では思っても、呼吸の浅い身体は言うことを聞いてくれない。


「大丈夫だ!あのロデリック騎士団長だぞ⁈奇襲者なんかに簡単にやられるわけがあるか‼︎」

片足で、動けなくてもか?

鼓舞するように言ってくれた言葉すら今は耳を通り抜ける。先行部隊はまだ到着しないのかと思っても、そもそも銃で持ち堪えられた時間がみじかかった。

瓦礫に補給も武器も物資の多くが下敷きにされ、装備の薄い俺達に崖上からの奇襲に抵抗する力なんて無い。特殊能力者だって、崖上に登れても奇襲者から狙い撃ちされたら終わりだし、遠距離の攻撃も崖上までは届かない。それでも騎士団長の援護に回りますと後衛の中でも前に出る特殊能力者の新兵を見ると、……やっぱり特殊能力もない自分が入団したのがそもそもの間違いだったんだと後悔する。

せっかく騎士になれたのに、俺じゃできることなんて重傷者と殆ど変わらない。武器を握って、ただ本隊騎士が助けに来ることを待つだけだ。

こちらの読み通りに奇襲者が何人も降りてきた後も、俺達新兵のできることは少なかった。一番前線で、一番不利な状況で敵を引き付けている騎士団長が一人で殆どの敵を無力化していった。距離を取って撃てと連中が言い出してから、銃の代わりに特殊能力者が反撃をしたけれど騎士団長を巻き込まないように中途半端な攻撃しか叶わない。奴らが騎士団長に位置が近ければ近いほど狙えない。避けられない味方の存在は、後衛にも影響すると演習で指導されたのを頭の隅で思い出す。だから避ける技能や撤退の法則も段取りも新兵の俺達は身に刻まれた。各自が身を守る術を俺達に自ら指導してくれたのは騎士団長だった。


「‼︎来たぞ!見ろ!崖上に先行部隊が‼︎」

「本当だ!間に合った‼︎」

「ッこっちには一人も来ないぞ⁈どうしてだ⁈」

「こっちの状況は作戦会議室に伝わっている筈だろ⁈なんで誰も騎士団長や負傷者を助けに来ないんだ⁈」

騎士団長が血塗れになるのを眺めながら、待ち続けて暫くしてからだった。

時間の感覚を失っていた俺より先に周囲の新兵が崖上へと視線を上げる。本隊騎士の登場に歓声と、そして同時に騒めきも混ざった。敵の掃討は重要なのはわかる。けれどここに動けない騎士団長が戦っているのに一体どうして、先行部隊は、副団長は、本部は何を考えているんだ。

まるで騎士団長まで見捨てられたような感覚に血が凍る。確認しようにも向こうからの通信は奇襲者が降りてきた時点でとっくに切られている。

津波のようにあっという間に先行部隊が崖上の奇襲者を掃討していくのを眺めれば、崖下で騎士団長を襲っていた連中も振り返って顔色を変えた。逃げるか、戦うかと武器を持つ手に迷いが生じた瞬間に騎士団長がまた一人を斬り捨てる。助けがこない理由はわからないけれど、これなら全員助かるかもしれないと一筋の希望が見えたその時。


ガガガガガガガガガガガガカッ‼︎‼︎


視界が、世界が揺れた。

なんだ⁈これは‼︎崩れるぞ‼︎先行部隊が!と頭上や崖上を指して誰もが叫ぶ中、全てが崩れ出す。さっきまで希望の塊だった先行部隊が、奇襲者と一緒に落ちていく。

それに声を上げられたのも一瞬だった。まるでそこから呼水のように、俺達のいる場所にまで崩壊の欠片が落ちてくる。今度はわざと落とされたんじゃない、本物だ。

撤退しろ、今すぐ全員崖から離れろ、怪我人を連れて後退し横道にと騎士団長が叫ぶのも微かにしか聞こえない。それよりも、殆ど同時に



瓦礫音と阿鼻叫喚が鳴り響いた。



グシャアッ、と潰れる音も聞こえた気がした。

反応が遅かった俺よりも、隣に並んでいた同期の方が叫ぶのは先だった。振り返れば、重傷で動けなかった新兵達がいた場所に大岩が落ちた後だ。

一体何が起こったのかわからないまま放心した目で、岩の隙間から潰れ損なった手足が見える。仲間が潰れる瞬間を完全に見てしまったのだらう同期は腰を抜かした。……また、気付かない内に助け損なった。

その事実が大きくて悲鳴すら上がらないまま固まる俺に、先輩であるベンさんが腕を引く。逃げるぞ!とそのまま腰を抜かした同期へも手を差し出そうとした瞬間、今度は先輩の目の前で同期が瓦礫に飲まれた。寸前のところで飛び退いたベンさんが彼の名前を叫ぶ。悪夢が過ぎて俺は未だに感情が追いつかなくて理解できない。

大柄な身体つきのベンさんに腕を引かれ逃げる中、潰された仲間の痕から今度は騎士団長へと目が移った。遠退いていく騎士団長の姿に足が踏み留まりかける。逃げる俺達に向かって何かを叫んでいるそれは、「置いていくな」や「助けてくれ」じゃないことはすぐにわかった。

そう思っている間に、急激に俺を引くベンさんの足が止まる。転びかけ、振り返れば落ちてきた瓦礫が頭に直撃した先輩が倒れ込む瞬間だった。ベンさん⁈とやっと頭が追いつき叫んでも、倒れ込んだベンさんは頭から血を流してピクリとも動かない。首が変な方向に向いている。誰か、と大柄な先輩を俺一人で運べる自信もなく前方へ助けを求めれば、……ガラガラと雪崩落ちる瓦礫に先へ逃げた全員が埋められていくところだった。阿鼻叫喚と断末魔の直後にはまたそこに大岩が落ちてきて、大量の血飛沫の破片が俺まで飛んだ。もう、立っている新兵は俺しかいない。

訳もわからず置いていった筈の騎士団長に身体が勝手に助けを求めて振り返る。もう退路も塞がれた今、何処へ逃げれば良いのかもわからない。そして


騎士団長もまた、潰された。


視点に向けてか、何かを伝えようとするように手を伸ばした騎士団長が次の瞬間には逃げ場もない大岩に真っ直ぐ潰された。

何度も聞いた人の潰れる音が、頭の中だけで聞こえるようだった。

ぽつんと残されたそこには俺だけだ。騎士団長も、本隊騎士も、先輩も、特殊能力者も、新兵全員が死んだ。騎士団長の死を目の当たりにした瞬間、俺の中でも何かが崩れ、褪せていく。

もし騎士団長が足が動けば、単身でも大岩を避けられたんじゃないか。騎士団長自ら指揮を取れば、今この場に立っていた新兵は多かったんじゃないかと思考だけが高速で回り出す。

不意に自分の居るところに影ができて、見上げればまた大岩だ。さっきみたいな瓦礫の雪崩でもなければ、落ちてくる前に気づけた。身を守る術は演習で叩き込まれている。今なら間に合う、足も負傷はしていない、頭でそうとはわかっても




─ グチャッ




もう、動けなかった。












……







「ハァ……。…………いるんだろうなぁ」


一人、重い息を吐きながら足が重く、肩が丸くなる。

中級層の市場。騎士団演習場から向かうなら、家からの道よりここを通る方が早い。人通りが多過ぎて歩くのに人とぶつかりやすくもあるけれど、活気のある空気は見ていて飽きない。

四方から商売人の声がする。特にこの辺は屋台が多いから声を張り上げないと客にも聞き取れない。ここから下校時間後には、生徒やその迎えの保護者で余計にごった返すんだろうと思う。俺も任務中じゃなかったら帰りがけに家に買い物くらいはしたんだけど。


「……ん?」

ふと、一際騒がしくなった方向に目を向ける。

並ぶ屋台を挟んで一つその裏側。「待て」と叫ぶ複数の声と悲鳴に、いくつかの想像はつく。

すみません、と屋台と屋台の間を通り、騒ぎの聞こえる通りに出る。見ればちょうど衛兵が鞄を抱えて逃げる男三人を追いかけているところだった。

遠くからでもわかる俺の団服に男達が目を剥くよりも先に衛兵から「騎士だ‼︎」「盗人です!」と叫ばれる。人混みが避けるように左右へ分かれる中で見れば、一番前方を走る男がナイフを前方に突き出している。確かにそれじゃあこの人混みでも止められない。

ハァ、とまた息を吐き、突き出す男を正面に捉えた。

「どけぇ‼︎」とむやみやたらにナイフを振り乱す男に、ここじゃ銃も危ないなと思う。刃先が当たる直前で半歩下がり、足を引っ掛ける。重心がずれた腕をナイフごと手前に引っ張り込めば、捻り上げるのも簡単だった。

ドサァッと地面の擦れる音と一緒に、男を関節で押さえつける。同時に反対の足で鞄を抱えた男の懐を追う衛兵へと蹴り上げ、残った腕で最後の一人に剣を突きつけた。


「動くな!」

喉を反らしながら歯を食い縛る男に警告する。

直後には駆けつけてきた衛兵達が蹴り込まれた一人の次に、男を背後から捕まえ捕縛した。最後に俺が押さえ込んでいる男も手に縄が掛けられる。

御協力感謝致しますと敬礼をしてくれる衛兵に返した後、今度は少し駆け足で学校へ向かった。

あれくらいの男達なら衛兵にも逮捕は時間の問題だっただろうけれど、協力できたのは運が良かったな。特にナイフを振り乱した男は被害も出しかねない。


しみじみと王都の市場と比べたら治安も悪いなと思う。……いやでも、数年前と比べたらずっと良くなった。昔はもっと裏稼業らしい風貌の男達も見られたし、盗人どころか人混みを利用した誘拐や恐喝も珍しくなかった。下級層の物乞いの数も今の比じゃない。けど、今は十二歳以下の子どもは学校で衣食住を保証されているから子どもの物乞いも激減した。学校創設の影響は既に目に見えている。

駆け足で市場を抜け、生徒が使うことの多い道に出る。遠目で確認しても、まだ下校している生徒はいないことにほっとする。校門に集まっているのは背丈から考えても迎えの保護者だろう。

そんなことを考えながら近づいていくと、……気付く。


「お、兄貴。なんだよ帰りは俺が来るって言ったろ」


「キース……」

はぁぁあぁぁ……と、息を吐きながら肩を落とす。

思った通り、校門前には末の弟のキースが既に佇んでいた。以前からジャンヌ達を寄り道させたいと話していたキースは、未だに諦めていない。何度言っても正論で打ち返してくる弟に、まさかこの年で頭を痛ませられるとは思わなかった。

ぐったりと足を止めて立ち尽くす俺に構わず「今からでも俺に任せて仕事に戻れ」「今日ちょうど広場で大道芸が」と言い続ける弟に、本当のことを言ってしまいたくなる。けど、そんな事をしたら確実に今より百倍大変になることもわかっている。

下校時間前に間に合ったお陰で、今のところ生徒が出てくる様子はない。いつも比較的のんびり下校されるプライド様なら、まだ時間はあるだろう。


「キース、ちょっとこっち来い」

「あ⁈ちょっ、待てって!力勝負で兄貴に勝てるわけないだろ‼︎」

キースの腕を掴み、構わず校門から離れた場所まで引き摺り込む。

踵に力を込めて地面を削りながら抵抗する弟を、構わず力尽くで校門から引き離す。流石に騎士が校門前で兄弟喧嘩は民に見せられない。

しかも今日の校門を守衛する騎士はベンだ。少し面白そうに首だけで振り返って俺を見る彼は、一応後輩にはなるけれど新兵時代は先輩だった人だ。顔を向ければ、弟を引き摺る俺と目を合わせて笑いかけてきた。これ以上は彼にも情けない兄弟喧嘩は見せられない。しかも、ベンだってまさか俺が王族の送迎とは思っていない。

一応校門からは見えない位置まで移動し、文句を言う弟に向き直る。あのなぁ、と言いながら今朝も言った筈の言葉を繰り返す。


「彼らは俺がアラン隊長に任されているんだ。だからお前の休みとかは関係ない」

「いやだから任されてるってただの送迎だろ?俺が代わっても問題ないだろ。別に裏通りや路地を歩かせるつもりはねぇよ」

ああもう。

確かに、確かにただの子どもだったら正論だ。けれど、彼女達はただの子どもじゃない。この国の第一王女殿下と第一王子殿下だ。しかもキースはその王族に城や王都も案内しようとしている。不敬に問われても文句は言えない。


「とにかく、俺があの子達は責任持って送るからお前は先に家へ」

「いや、ここまで来たら一緒だろ?」

「良いから!先に帰れ。今朝もゆっくりジャンヌ達と話せたからもう良いだろ」

「だから俺は城下の案内もしたいんだって。兄貴こそもう充分一緒にいるのに過保護過ぎだろ。俺やロベルトの兄貴の時は買い物も寄り道も構わず付き合ったくせに」

「お前達は弟で、彼女らは違う。アラン隊長の大事な御親戚だ」


不毛過ぎるやり取りがいつまでも続く。

昔からキースは若干聞き分けが悪い。というか、自分のやりたいことに関しては何度ぶつかっても突き進む。頼むからその推進力はここで発揮しないで欲しい。

そうしている間に下校時間になり、生徒がとうとう校門から抜けてくる。俺としてもプライド様達が来るまでにはキースを追い返したいのに、全くこいつは頑として聞こうとしない。……ある意味、こういう粘りの強さが仕事でも買われたんだろうなとは思う。


「今朝も余計なことをジャンヌ達に言おうとしただろ」

「ちょっと兄貴の話をしようとしただけだろ。別に悪口とかまずいことを言う気はなかったよ」

いや、充分にまずいことを言われかけた。

まさかプライド様のことや今更になって八年前を蒸し返されることになるとは思わなかった。

あの頃の俺は本当に情けないくらいに弱くて、新兵になれただけでも奇跡だった。今と比べて志も低かったし、きっと覚悟も足りていなかった。


『騎士団長…、っ…本当に、本当に良かったです……‼︎』


騎士団奇襲事件の日から変わると決めたけど、本当に思い起こせば起こすほどあの時がなかったら今の俺はあり得ない。……まぁ、プライド様が居られなければそれ以前に俺は瓦礫の下敷きで死んでいたんだろうけれど。

あれから鍛錬も増やしたし妥協もしなくなって、当時勉強と仕事で忙しかった次男のロベルトと違って、まだ子どもだったキースには折角実家に帰ってきても相手をしてやることも減ったのは悪かったとも思ってる。…………けど。

「送り迎えだけじゃなく、楽しませてやることも親切だろ?遥々山奥から来たんだから」

「彼らには彼らの都合があるんだ。お前も大人なら」

「ジャンヌ達の都合ってんなら、本人達に聞いてみようぜ。あの子らが行きたいって言うなら別に良いよな?」



「だから!お前は家に帰れ‼︎いい年なんだからこれくらい聞き分けろ!」



せめて駄々を捏ねるのは別の時にしてくれ‼︎‼︎

もうプライド様を巻き込む以外なら酒でも食事でも遠出でも仕事でも談義でも自慢でもなんでも付き合ってやるから‼︎

本音を言えない歯痒さに耐えながら、キースの両肩を鷲掴む。その途端、応戦するようにキースからも俺の腕を掴み返してきた。こんなところで弟と取っ組み合いなんて絶対にごめんだ。正直、野盗百人相手にする方がマシだった。


……新兵時代とは別の情けなさが身に染みながら、また弟への説得を続けた。


31

Ⅱ41.45



ゼロサムオンライン様(http://online.ichijinsha.co.jp/zerosum)より第七話無料公開中です。

作者の中で一番の見てほしい所は、プライドの鮮やかな戦闘シーンです。

本当に格好良く、あんなに素晴らしく描いて下さった松浦ぶんこ先生には感謝と尊敬しかありません。

またクラークやカラムとアーサーを始めに人物一人一人の様々な表情を見ることも出来るので、是非お楽しみください。本当に今回も楽しいです。

エリックのゲームとの差別も確認して頂ければ嬉しいです。

よろしくお願いします。

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