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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ523.嘲り王女は確認し、


「ステイル様、荷が届いております」


予定通りか。

そう思いながら、公務補佐を終えた王子は報告に来た従者へ言葉を返す。

早朝に支度を終えた身で、それを受け取った。いつもならば部屋に置かせ後回しにしたが、今回は大事な品だ。


第一王女の部屋へ向かう前に一度、荷の確認を優先した。






……






「本当にお疲れさまでした、カラム隊長。ネイトも喜んでいて私まで嬉しいわ」


ティアラとステイルとの朝食を終え部屋に戻った私は、近衛騎士でアーサーと一緒のカラム隊長から話を聞きパチンと手を合わせて笑う。

昨日午前の近衛騎士任を終えた後にネイトの家へ任務として訪問してくれたカラム隊長は、無事にネイトとの再会を果たせた。カラム隊長が待っていた時はなかなかのびっくりした様子だったけれど、今後は自分がアネモネ王国との交易で間に立つと伝えたら最終的には機嫌良く受け止めてくれたらしい。


カラム隊長曰く「やはりある程度気心が知れている相手と思ってか、安心しているようでもありました」という言葉には私もアーサーも一緒に大きく頷いてしまった。そりゃあネイトにとってカラム隊長以上に信頼できる相手なんてそうはいないだろう。むしろ大好きくらいだと思うし、恐らく現時点で王族のレオンよりも信頼されているもの。

私からの言葉に深々と礼をして返してくれるカラム隊長は、両手を後ろで組んだまま微笑んでくれた。


「恐縮です。ネイトも一度目の試験は問題なく回答できており、手紙に関しても私を介す方向で了承してくれました」

本当にありがとうございます!と、至れり尽くせりに頭を思い切り下げたくなってしまう。ティアラと公務補佐へ向かったステイルも聞いたらきっと喜ぶだろう。


取り敢えずレオンからの第一試練も乗り越えられたのも良かった。カラム隊長へ託したその問題用紙の中身を私は見ていない。けれど完璧王子様レオンからの問題が常軌を逸した玄人問題だったわけでも、そしてネイトもネイトでちゃんと意欲を持って学校での学びを真剣に取り組んでいることもカラム隊長の話からで察せられた。


ネイトとレオンとのやり取りをカラム隊長にお願いしてみたらどうかと提案してくれたのは、ステイルだった。カラム隊長なら騎士だしネイトとの信頼関係も築いている。もともと伯父に陥れられていた彼にとっても、知らない大人よりも信頼できる大人をなるべく介した方が良いというのは私も同意見だった。アネモネ王国の騎士や使者は信頼もできるけれど、ネイトにとっては知らない大人だもの。

レオンへ提案する前にステイルから相談された時も、大賛成だった。カラム隊長の業務をこれ以上増やさせることは申し訳なかったけれど、ステイルから「勿論お忙しいと思いますので断って頂いても結構です」と提案を受けたカラム隊長もその場で頷いてくれた。

騎士として命じて頂けるのであれば喜んで、と。もともとネイトには休息日にでも近々会いに行こうと考えてもいたらしく、講師を止めた後もこうしてネイトの力になれることも嬉しいと言ってくれた。


この前の定期訪問に相談すれば、レオンもすんなり快諾してくれた。本当こういう時に各方面で信頼関係を築いてくれているカラム隊長が心からありがたい。流石としかいいようがない。


これで手紙もエリック副隊長のご家族へご迷惑をかけずに済む。

ファーナム兄弟も解決した今、あと手紙についてやり取りが必要かもなのはアムレットくらいだろうか。いや、エフロンお兄様のことがあるしもしかしたら彼女への手紙もステイルが何か考えてくれている可能性は大いにある。

今はまだエフロンお兄様が城の使用人になったという情報が入らないから、お互いに触れずだけれども。ステイル自身、アムレットの夢についての兄妹諍い問題解消さえできれば半ば満足な部分もあるもの。それに、エフロンお兄様はまだジャンヌ達の正体を知らない。


「発明も今頃レオンの元に届いているかしら」

昨晩の内に届いている可能性もあるけれど。続けながら窓の外へ視線を変えれば、カラム隊長が一言返してくれた。

ネイトから回収してくれた発明品と試験回答用紙。それを携えたカラム隊長が城に戻る前には、アネモネ王国の使者が我が城の王居で待っていた。受け取った品を大事に梱包し、カラム隊長からネイトについての報告を受けてから慎重に馬車を動かして去っていったと。

王族の馬車で数時間のアネモネ王国だけれど、大事な発明品輸送ならば移動も時間をかけてゆっくりだろう。真夜中にレオンを叩き起こしてはいどうぞもないだろうし、そうなると早朝かもしくは朝食を終えてから他の郵送物と纏めて報告ということになるかなと考える。あとはレオンに任せるだけだ。


「色々軌道に乗ってきていて安心だわ。ネイトの商談も滞りなさそうだし、プラデストの奨学生も進んで、近衛騎士についても明日にはー……」

勿論全てが完遂したわけじゃないけれど。そう思いながらも指折り数えて視線を今度はアーサーへとずらす。

近衛騎士、という言葉から既に察してくれたらしいアーサーはびしりと背中を伸ばし直したと思えば次の瞬間には身体が直角になるほどがっちり頭を下げてきた。「お時間頂いています……‼︎」と大きさに反して絞り出すような声色に、私も少し笑ってしまう。別にそんな意味ではなかったのだけれど。

カラム隊長も少し口元が笑っていて、束ねた銀髪が跳ねる勢いで下げたアーサーの背中をポンと無言で叩いた。私から「そんな意味じゃないわよ」と両手を振りながら改めて言い直す。


「明日が楽しみねって話よ。ほら、まだ私からは女王付き近衛騎士に一人も挨拶ができていないから……。アーサー達こそもう大変だったわよね?」

「とんッでもねぇです……!カラム隊長達はすげぇ他の騎士の方々に囲まれてましたけど、俺はその、ノーマンさん本人が居なかったですし……。…………自分が、休みを取れっつったんで……」

「私も大した数ではない。アランも「楽しかった」と話していただろう。ハリソンに至ってはいつもと変わらない。それにノーマンについては必要な判断だったと私も思う」

更に下げて直角から丸くなり始める背中のアーサーに、カラム隊長から優しいフォローが入る。なにげにフォローの中にエリック副隊長のことだけ外されているのが気になる。


昨日、女王付き近衛騎士が決定されてから正式に騎士団へと通達と公表が許された。近衛騎士について将来的に第一王位継承者である私以外にも取り入れることは初期の近衛騎士発案時から法案協議会から決まっていたし、奪還戦での事件がまだ爪痕の深い今ステイルとジルベール宰相による後押しに上層部も全員同意で動いてくれた。


ステイルが提案してくれた候補者の騎士はノーマンも入れての四名。その中で私が変更したい騎士がいれば外すでも加えるでもと、母上達へ提出前に確認を取ってくれたけれど私もその四人を是非にと頷いた。

全員私個人としても頼れると判断した騎士ばかりだったし、アーサー達近衛騎士達の意見も聞いた上での人選と聞けば文句の言うところがあるわけもなかった。……ハリソン副隊長からの推薦が当然のようになかったことは苦笑いしてしまったけれど。

ステイル曰く、秘密裏にアーサーが確認は取ってくれたけれどハリソン副隊長からの返答は「ない」だったらしい。……当時なかなか苦しそうに私達に言ってくれたアーサーと、後日近衛騎士に付いてくれたハリソン副隊長へ再確認した際に「ありません」の一言を思い出すとと、異議なしや候補者がないというよりも〝興味がない〟の方がハリソン副隊長にはしっくりくるかなぁと思ってしまう。一緒にいたエリック副隊長もなんとも言えない表情だったもの。


そうして昨日正式発表された結果、朝から騎士団はなかなかの大騒ぎだったらしい。

我が国の最高権力者である女王付きの近衛騎士が選ばれたのだから無理もない。我が国でこれ以上の大物はいないもの。私の近衛騎士に選ばれた以上のプレッシャーだろうし、同時の羨みの姿も目に浮かぶ。


本当はそのまま昨日の内に顔合わせも含めた母上への謁見を行っても良かったのだけれど、……その一名が急遽休暇を得ていた為に二日先延ばしになった。それこそがノーマンだ。


村襲撃事件後、色々と心労過労の加わった彼をアーサーが半ば強引に休みを取らせたらしい。結果、ノーマンが復帰する明日まで見送りということになった。

母上からしてもせっかくなら纏めて全員と挨拶をしたいし、急いでいるわけではないから騎士団長からの報告もすんなり了解してくれた。

ただ、アーサーからすれば自分がお休みごり押しした所為で王族や騎士達を待たせてしまったこともノーマンを知らず内に騎士や王族を待たせていた状況に追いやってしまったことも両方申し訳ないらしく、知った時はなかなかの顔色だった。

別にアーサーも公表の時期を知っていたわけではないし、ただただお互いタイミングがかみ合わなかった偶然の事故なのだけれども。


少なくとも現時点でまさかの女王付き近衛任命を知らないだろうノーマン以外の騎士三名は、任命にそれぞれ意思を持って請け負ってくれようとはしていると昨日アラン隊長達からも聞いた。

その際、エリック副隊長だけ珍しく疲れた笑顔だったのが未だ気にかかる。隊長格とはいえ、やはり温厚で優しい印象だから騎士達からの言及に一番遭ったのだろうか。


「ノーマンも元気になって戻ってきてくれると良いわね。ほら、ブラッドも家族水入らずで過ごせて気持ちが落ち着けば特殊能力も安定しやすいでしょうし。……はやく特殊能力が安定すれば、それだけ踏み出せることも増えるもの」


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