表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

829/1000

盛り上げ、


「先輩方もどうっすか?マイクとか足りてます??」

「あっじゃあ俺!!」


アーサーからの手探りの投げ掛けに、アランが大きく手を挙げた。

乗り気でマイクを握ってくれたアランにプライドとティアラも早くも歓迎を拍手を叩く中、既に決まっていた彼はすぐにタブレットを操作した。


カラオケにくること自体が初めてのステイル達には、当然騎士部の彼らがどんな歌を歌うのか情報が何もない。わくわくしながら画面を注視する中タイトルが出た瞬間、目を輝かせていたプライドの顔が再び固まった。


バッ!!と思わず一度自分の手元を確かめてしまう。

まさかうっかり無意識に自分が送信してしまったのではないかと疑ったが、今自分が見ていたタブレットを使っているのはティアラの方だ。ドリンクや食べ物を注文する時はアランが使っていたタブレットでお願いしたが、その後は自分はティアラとのタブレットしか触れていない。

どちらかというと、自分が曲目を眺めている時にアランの方が「あーこれとか」「これ知ってる」と手を伸ばすことがあった程度である。間違い無く、今画面に表示され流れた曲はアランが自分とそしてカラムと共有しているタブレットで送信した




─ 待ってこれ覇権アニメ二期!!!!!!!




「アラン先輩っこの歌ご存じなのですか?」

「おーっ、ティアラ知ってるのか?」

確か……と、姉とたまに一緒に見ているそのアニメの名前をティアラが口にすれば、アランも「へーー」と大して戸惑う様子もなく声を漏らした。前奏がある為、のんびりと構えていたアランだがそこで画面をみればとうとうアニメ映像まで流れてきた。

「おっこれか!」と楽しげに笑うアランは全く恥ずかしがってもいないが、同時に恐らくそのアニメを観ているわけではないらしいとプライドは前世のオタク心に確信する。


流れた映像はアニメで使われるOP映像であることは明らかだが、アランは「これ主人公?」「これどういうシーンだろうな」と楽しそうに声に出している。完全に一見さんの感想だった。

てっきりアランもそれを観ているのかと思ったプライドも、そこで少しクラクラする頭をなんとか照準を保った。しかし、知っている自分の方がちょっぴりこの面々の前だと恥ずかしくなってしまう。

もしかしてさっき曲目を観ていた時にアランに歌いたいの気付かれたのかとも思ってしまう。


しかし実際歌ってみれば、カラオケで歌い慣れた様子な上に歌自体もしっかり上手い。

丸々一曲詰まることもなくフルバージョンを歌いきったアランに、プライドは興奮を通り越してちょっぴり感動してしまう。自分がこっそり好きなアニメの一つだった為、まさか男の人の声でその生歌を聴けたことが凄まじく嬉しい。


見事完璧にノリノリで歌いきったアランに、拍手を送りながら騎士部達は大して戸惑いもない。

まさかよりにもよって一曲目にそれを選ぶかと、カラムは若干言いたくなったがお陰でハードルも下がったことも事実である。最初にティアラに言った、歌を楽しめれば良いという言い分にも合っている。


「あ……アラン先輩どこでこの歌を………?」

「ネットで。今日めっちゃ楽しみでさー取り敢えず盛り上がる系の歌めちゃくちゃ聞いてきた!」

便利だよなー。と、あっけらかんと言うアランの選曲の仕方はエリック達は既に知っているものだ。

基本アランは歌や流行に興味はない。鍛錬中も音楽を聴くわけでもなく、家でじっとしているよりも外に出ていることが多いアランだ。しかし打ち上げなどでカラオケに行く機会は多いアランは、結局自分が歌うものはネットで聞き流すことが多い。

ジャンルは全く気にせず「カラオケで盛り上がる歌」の歌集を調べてはリスト化されているものをカラオケの日までひたすら聞いている。もともと興味がないだけで、聞くのも歌うのもノリの良い曲であればなんでも好きである。

音楽感覚も悪くない為、繰り返し聞いていれば歌詞を覚えるまでいかなくとも曲調さえ頭に入れば後は本人の歌が上手い分それでなんとかなっている。


既に何度かアランとカラオケの経験があるカラムとエリック、そしてアーサーもアランがよくこうして盛り上げているのを目にしている。

これがカラオケの正しい楽しみ方かと思うと少しずれている気も否めない。しかし歌に興味がなくてもカラオケで毎回盛り上げ楽しめているアランはある意味尊敬に値すると思う。結果としては誰もが知っていてかつ盛り上がる歌ばかりを見事に歌いのけているのだから。


「あのっ……因みにこの辺の歌とかは……?」

「聞いた聞いた。おっ、一緒に歌うか?」

「アラン‼︎」

おずおずとプライドからタブレットを見せられた途端、あっさりデュエットを提案するアランに思わずカラムが声を上げる。

アランとプライドが歌うこと自体は良いと思うが、あまりに距離が近すぎる。隣に座っている上に、同じタブレットを手に頬が触れそうなほど顔が近付いている。プライドは曲に夢中で気付いていないが、アランは気づいている上で気にしていないから困る。今は監督役のジルベールもいる前である。

アランの肩を掴み引っ張り自分の方へと引っ張り健全な距離まで空けさせた。


カラムとアランとそんな攻防にも気付かず、プライドは目が若干ギラついていた。

アニメの歌は恥ずかしくて今回は歌わないでおこうと思っていたプライドだが、仲間がいるならばと少し欲を出してしまった。本音を言えば自分が歌うよりもひたすら人が歌うのを聞いていたいとこっそり思う。

しかしデュエットという名目でアランが歌ってくれるならばと、本気でいくつ歌おうか考え出した。一人では恥ずかしいが二人ならこの面々の前で歌うのも良いかと思えてくる。歌うのは恥ずかしくても自分がアニメが好きなのは全員知っている。


カラムにぐぐぐっと一定距離分顔を離されたアランは、思い出したようにそこでマイクを浮かす。

カラムに渡そうとしたが、カラム本人が文字通り目も手も離せない為ぽんと軽く投げるようにしてその隣のエリックへとマイクをパスした。

突然投げ渡されたマイクに目を丸くしつつも両手で受け取ったエリックは、一度軽く全体を見回してからタブレットを取った。まだセフェクとケメトも曲目検索に夢中のままだ。


全員歌が上手いあまり気後れの部分も否めないが、幸いにもジルベールとアランで選曲のハードルは下がったところである。

今までも歌ったことがある中からの曲を入れれば、タイトルが出た時点で殆ど全員が理解した。ティアラが「これ知ってます!」と嬉しそうに手を叩く。


「これ私も好きですっ!音楽ゲームでも絶対選びますっ!」

「良かったです。カラオケでも結構定番でみんなよく歌っていますよ」

あはは……とティアラからの好反応に胸を撫で下ろしながらエリックは笑う。

エリックが選んだのはヒットしてから年月が経過した歌だ。今では誰でも知っている上に、アプリゲームやゲームセンターの音楽ゲームでもほぼ必ず選択肢にある。流行りが過ぎて今では聞き飽きたくらいの有名でもあり、カラオケでは誰もが定番の有名男性ロックバンドの歌だ。


流行りの歌も普通に好むし聞くエリックだが、基本的にカラオケでは聞き慣れた定番を歌うことが多い。それが一番外さないし何より歌いやすい。

自分が好きな歌であることは変わらない。カラオケでは自分の番だと緊張もすることもある為、最近気に入ったばかりの歌よりも聞き慣れた歌い慣れたものが一番だった。


ほぼ全員が注目する中では特に緊張が胸の内では凄まじかったが、慣れている歌はそれだけで歌い出しさえ乗り越えれば問題なく済んだ。

プライドもタブレットの手を止めてアラン達とわくわくと聞き入ってしまう。上手い!と思えばプライドにとっても好きな有名どころの男性バンドだからこそ好きな歌を聴けるのは嬉しい。

特に好きなサビが始まる時には自然と手拍子も鳴らしてしまった。それにうっかり気付いた途端エリックは声が詰まりかけたが、なんとか乗り越えた。

歌い終えた後には照れ笑いを浮かべながらも、片手で軽く顔を仰ぐ。


「エリック先輩お上手でしたけど、カラオケよく行かれるのですか?」

「あ、いえ、騎士部や友人や弟とくらいです。外すのが恥ずかしくて結局同じのばかり歌っちゃいますね」

わかる……‼︎とプライドはエリックからの返答に心の中で叫ぶ。

前世では自分もオタク友達とのカラオケでない限り、そちらの部類である。歌いやすくてかつ比較上手く歌えたものを多用する。しかも前世の自分はエリックのように特出して上手くもなかったから死活問題だった。

エリックなら歌い慣れてない歌でも上手く歌えるのではと、頭には過ったが言葉には出さず自重する。それよりもエリックがマイクを持ってくれる数が減らない方が嬉しい。


どうぞ、と拍手が終わるよりも先にエリックはカラムへ渡す。

歌が始まったところで一度選曲相談も終えたアランから手を離したカラムも、今度はすぐに受け取った。流れとしてもここは一巡はすべきなのだろうと判断する。


「私はあまり有名どころに通じてはいないのですが……」

「好きな歌にしろって!お前上手いんだからなんでも聞ける聞ける!」

知らない歌聞くのも楽しいし、と。背中を叩くアランに、カラムは指先で前髪を整えながら軽く見返す。

カラオケの度によく言われる言葉だが、「上手い」などハードルを、よりにもよってプライド達がいる前で上げるなと思う。実際、今もプライドやティアラからの期待の眼差しが熱く刺さりだしたのを視界の隅で自覚する。


歌はよく聞くカラムだが、あまり流行ものに興味はない。もちろん良い歌なら聞くが、流行だからという理由で気にしたことはない。クラシックの方が聴くことが多いくらいだ。

カラオケで全員が知っている歌を歌わなければならないというマナーはない。あくまで歌うことか歌を聴くのを楽しむ場だ。

しかしここまで全てカラム自身も聞いたことがある歌ばかりが並ぶ為、いつものように選ぶのは少し躊躇った。騎士部ではもう気にしないが、クラスの打ち上げでも悩むほどである。


「カラム先輩のお好きな歌、私も気になります」

「私もです!普段どのような歌を聞かれるのでしょう?」

しかしカラオケ初体験の王女二人からも、無難な曲よりも自分の好きな歌をと言われれば仕方がない。

「恐らくご存知ないと思うのですが」と断りながらも、カラムは騎士部でのカラオケでもよく歌う方の曲を入れた。画面にタイトルが出ても、わかるのはジルベールだけだった。聞いたことがある騎士部のアランとエリック、アーサーも音楽が流れればどの歌かは思い出す。


プライドとティアラ、ステイルも心して耳を立てたが、やはり聞いたことのない歌だ。しかしタイトルと共に出た歌手名はきちんと覚えのあるものだった。

歌い出しの手前、歌詞が出ればそこでやっと合点がいく。フリージアでもその近隣国でもない、海外の世界的アーティストの歌である。

フリージアで使われている言語ではない歌だが、王族としていくつかの共通言語も取得しているプライド達にはしっかりと歌詞の意味も理解できた。そして何よりも、歌は勿論のこと発音までも完璧だった。


おおおぉぉぉぉぉ……と、カラムの歌を初めて聞くプライド達は声を漏らしてしまう。ジルベールも完璧な発音には感心し小さく手を叩いた。

何度か世界的映画の主題歌にも使われたことがある歌手だが、カラムが特に気に入っているのはその歌手のCDに収録されているだけの歌でもある。その歌手を知っていても、CDやライブに行く等歌手本人の歌を追いかけていないと知り得ない。

女性歌手のキーが高い歌にも関わらず見事に歌いのけたカラムに、もう知ってるか知らないかなど全員どうでも良くなった。


歌い終わり拍手を巻き起こす中、ステイルとプライドの首が前のめる。


「カラム先輩、ライブとかは行かれますか?ご興味は」

「あの、カラム先輩。このアーティストさん、去年のミュージカル映画に出演されていたのご存知ですか……?」

カラムの選曲までは知らずとも、そのアーティストの曲をいくつか気に入っているステイルと、自分の好きな映画の挿入歌もカラムなら歌えるのではないかと期待する二人が同時に目を光らせた。


二人からの問い掛けに、カラムもそれぞれ肯定で返す。途端に「宜しければ」とうっかりアイビー姉弟の言葉が重なった。

意外なところで趣味が合うと知った第一王子のステイルは、今まで何度かそのアーティストのライブへ招待される機会はあった。しかし世界的大規模なライブに自分一人で行くほどではなければ、ライブに行くほどは興味のない姉妹や友人を誘う気にもならない。

ステイルからもし次に機会があればご一緒にと、改めて誘いをかけられればカラムも恐縮ながら是非と返した。カラムもライブには行ったことはあるが、チケットの倍率が高過ぎてなかなか手に入らない。


更にプライドのリクエストにも、はにかみながらも返した。

当然そのミュージカル映画も知っていれば、寧ろ騎士部以外の相手とカラオケに行く時は歌うこともある。同じアーティストのそういった海外映画主題歌がクラスの打ち上げではカラムの定番でもある。アランを含めた騎士部の定番の歌も今はいくらか歌うことはできる。


騎士部四人が歌い終えたところで、カラムはマイクを手にちらりとハリソンを見る。

先ほどから拍手こそ淡々と全員に合わせて鳴らすが、表情も殆ど変えずタブレットに触れようともしないハリソンは今も無言のままだ。カラオケには行ったことがなくとも騎士部全体のカラオケ大会に出席をしたことはあるハリソンだが、彼の歌を今まで誰も聞いたことがない。唯一歌うのは騎士科の必須授業だけである。


カラムだけでなく、騎士部の歌の流れに全員が自然とハリソンを見てしまう中、本人は広告が流れ始めた画面を憮然と眺めるだけである。

最初から自分が歌うことが選択肢にない。あまりにも無言で有無を言わないハリソンに、アーサーが少し腰を上げて呼び掛ける。ここで本人の意思も聞かずマイクを回さないのも空気が悪い。


「あの、ハリソン先輩は歌とか……歌えるのありますか……?」

「国歌と校歌だ」

いやそれは……‼︎と、ハリソンのあまりの選曲にアーサーも両手で待ったの構えを取る。

フリージア王国の国家も、そして有名学園騎士科の校歌も曲揃え豊富なカラオケにならばあるとは思う。騎士部や騎士科でのカラオケならば、一度はふざけてあるかどうか検索する曲目だ。しかし実際に歌う勇者はなかなかいない。


「一応聞くがハリソン、歌う気はあるか?」

「ない」

カラムからの単刀直入な問いに、ハリソンもまた直球だった。

今までも必要な時以外歌いたいと思ったこともなければ、そもそもその二曲以外の歌には興味もない。先ほどアーサーが話していた騎士団長ロデリックと副団長クラークが親しんでいた歌が今は気になる程度である。今度クラークに会えたら聞いてみようかと考えていれば、いつの間にかこの場の半数以上が歌い終わっていたのが現状だった。


ハリソンの音楽感覚や歌唱力が悪くないのは、同じ大学部騎士科の三人は知っている。寡黙なことが多いハリソンだが、国歌や騎士科校歌では寧ろはっきりとした発声であることも珍しくない。初めて聞いた生徒は誰もが二度見するほどである。

歌が嫌いなのでも人前が苦手なわけでも、ましてや下手どころか選曲さえすれば上手い部類だと思う。

しかし、本人に歌う意欲と選択肢がなければ意味はない。ここで例えプライド達が頼んでも、次にはカラオケボックスで校歌か国家が鳴り響くだけだ。

それではハリソンは置いて、と確認するカラムに意義を立てる者はいなかった。


コンコンとノックが鳴り、ちょうどそこで料理が運ばれてきた。

扉傍に立っていたジルベールが立ち上がり、配膳役を手伝う。プライド達もテーブルの上に置いていたタブレット類を一度ソファーへ引っ込めた。

騎士部部員も小皿や箸、手拭きなどを配り回す中、料理の存在に気付いたセフェクが「あっ!」と声を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ