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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ519.騎士達はざわつく。


「……以上。よって、我らが王国騎士団から任命されることが決まった」


ビリリと低く通る声が轟く。

騎士団演習場で早朝演習を終えた後、朝礼と共に告げられた通告に騎士達の誰もが姿勢を直立不動に正す。

プライド直々の訪問による極秘視察の公表、そして王族三姉妹弟と王弟セドリックによる演習場見学とが短期間の間に起こった彼らは、またしても騎士団長の言葉に息を飲むことになった。


最初こそ、以前より噂にはなっていたプラデストへの特別講師派遣。

本隊騎士の内隊長格を除く者から定期的に交代制で一人ずつ講師として派遣されるというものだった。もともと隊長格であるカラムが特別講師として派遣されていることが周知の事実だ。その引継ぎとして騎士が派遣されることに関しても何ら不満はない。

あのエリート騎士の後任をできるものなのかという不安はそれぞれあれど、教える相手はあくまで一般人でありいつかは自分達と同じく騎士団の門を叩くかもしれない未来ある子ども達だ。中には是非にと思う者も少なくない。


事実、負担だけで言えば本隊騎士どころか新兵でも充分担える職務だと騎士団長のロデリックも副団長のクラークも思う。あくまで特別講師として技術指南なのだから。

しかし、新兵は単なる控え要員ではない。本隊騎士へといつかは昇格すべく精進の最中である彼らに、現状の業務や演習以外に負担を課すことは得策ではなかった。

本隊騎士から一名、最初の一人は前任であった三番隊騎士隊長の推薦により指名された。あくまで本来の任務や演習量に差し障りがないように短期間での交代任務になると補足された後、次の声明こそが彼らへ緊張を走らせた。



〝女王付き近衛騎士〟



もともと現第一王女であるプライドの提案により発足された近衛騎士。

五年以上前に一人の騎士から始まったそれを付けていたのは提案した本人であるプライドのみ。しかし数々の実績を積み重ねた結果、とうとう他の王族へも実用されることが決定された。


第一王女へ近衛任務を始めた時と同じくように、女王近衛騎士に関してはまだ四六時中共にいるわけではない。あくまで来客などの有事や外出など特別な時に必ずその傍で守ることが任じられる立場となる。

今までもその度に複数の騎士や騎士隊、場合によっては騎士団長副団長までも参じてきたその場に〝必ず呼ばれる固定の〟騎士だ。そのような場を任されることに鼓動が耳の奥まで高まった騎士は多い。


王族で最も騎士に人気が高いのは第一王女であるプライドである。

しかし、現女王であるローザの近衛騎士など騎士にとっての譽れに違いはなかった。現段階でいえばプライドの近衛騎士よりも遥かに高位任務ですらある。

現女王であるローザの近衛騎士としての四名も既に選出された後だと知らされれば、一度は騎士達もざわついた。高台に佇むロデリックの傍らには副団長のクラークしかいない。

当時三名の近衛騎士公表と同様に、この場で名が公表されるのだと僅かを両肩を上げながら「これより発表する」と告げられる名を彼らは待つ。


既に任命を告げられている騎士、そして第一王女近衛騎士達はあくまで発表前までは気取られないようにと口の中を飲み込み、騎士団長を見上げ続けた。ハリソン以外彼らもまた、選抜の関係者だ。任命を受けた騎士は、自分を推薦した騎士の名と共に全て把握している。


『近衛騎士に関してもそろそろ次の段階へ移すべきだろう。二度とアダムのような輩に女王である母上が襲われることがないよう、有事の際は必ず固定の近衛騎士を付けるべきだと進言した』


ロデリックの言葉を待ちながら、アラン、カラム、エリック、アーサーは学校視察開始前のステイルとの会話を思い出した。

プライドの護衛や奪還戦での活躍から近衛騎士の功績は火を見るよりも明らか。次期女王であるプライドだけでなく、現女王にも近衛騎士を付ける意味があると訴えたステイルとジルベールに最上層部も頷いた。

第一の目的は女王の安全確保の為。他者と接触する際、今までの護衛に加え必ず本隊騎士が付いていればそれだけでもローザの守りは確かなものになる。更には学校の校門対策と同じく、その裏では



『一人は温度感知の特殊能力者を母上の傍に置きたい』



「九番隊、ケネス・オルドリッジ」

一拍の呼吸後、ロデリックは響く声で一人目の名を団員達の前で告げた。

直立不動で佇む九番隊騎士に、騎士達も視線が届く者は皆注目した。九番隊の隊長を任じられている彼が選抜されたことは、誰もが胸の内で納得する。

本人は額を汗で湿らせ口の中を何度も飲み込んだが、異議を唱えたい者はいない。

温度感知の特殊能力者としては優秀といえない彼だが、間違いなく騎士としての実力者ではあるのだから。

当時提案した際、温度感知の特殊能力者はステイルにとっては外せない人選だった。プライドの身の周りこそ特殊能力ではなく〝信頼〟で固めたかったが、女王である母親を守るのは鉄壁が必須。

更には式典等でも欠かせない存在である女王ローザの近衛として温度感知の特殊能力者が一人でも常置してくれれば、それは王族全員を守ることにも繋がる。


『その特殊能力者を含め、三、四人ほど選出できればと考えている。有事の時のみの出動だから隊長格が複数含まれても問題ない。……因みに、御意見は』

そう言ってステイルはアーサー以外の近衛騎士達にも意見を求めた。


今まではアーサーが信頼する騎士をと考えていたステイルだが、彼ら近衛騎士の目も間違いないだろうと判断した。

プライドと同じく、ローザーも今は自分の大事な母親の一人である。しっかりと実力も人格も含めて信頼に足る人物に任せたいと考えるのは当然だった。

まさかの女王近衛騎士の選出という重大な一投権利を向けられた近衛騎士達は、一度は目配せもなく沈黙で返した。簡単に言えるわけがない。

しかしそれでも沈黙の中名前を待ち続けるステイルへ、最初に口を開いたのはアランだった。


『温度感知で隊長格、ってんならやっぱり先ずはケネスですね。温度感知自体は騎士団の中でそこまでじゃありませんけど至近距離の相手を守る分は問題ありませんし、隊長格で騎士としての実力も確かです』

安易とも言える人選。温度感知の特殊能力者、そして女王に相応しい騎士から隊長格をと考えれば、最初に浮かび上がったのが彼だった。

別に隊長格でなければならないわけでもない、人格共に信頼できる人物をと最初こそ言おうとしたステイルだったがすぐに口を閉じた。

ステイル自身、その名前と九番隊隊長には覚えがあった。防衛戦にも九番隊隊長として参じ、そして奪還戦ではプライド奪還の為に拷問塔へ向かう際に自分と行動を共にした騎士だ。

当時のことを思い返せば、確かに信頼に足るかもしれないとステイル自身も頷けた。続けてアランから「王族に対して俺よりも忠儀厚いですし」とついでのように言われれば、間違いない人選とも判断した。


「二番隊、ブライス・アッカーマン」

次に呼ばれた騎士隊長の名と流れに、誰もが納得した。

近衛騎士の有用性が実証された今、やはり女王の護衛を任せられるのは隊長格であると。

一番隊の隊長格二人が既にプライドの近衛騎士である今、当然の流れとも思える。しかし、呼ばれた本人は強く口の中を噛みながらじりじりと視線の量に耐えた。注目を浴びることには隊長格という立場上慣れてはいるが、未だ女王近衛という役職に思う所がある。

女王付き近衛騎士として呼ばれた中、自分は人選間違いだろと一番思っていたのは彼だった。


ロデリックが次の騎士名を告げるべく「次に」と再び周囲の騎士達の注目を集めたタイミングで、一度ギロリと未だ許してない眼差しで一番隊の副隊長を睨む。

今朝早朝演習前にロデリックに呼び出された為、まだエリックにその件では気を済ませていない。

それを受け、エリックは思わず肩が強張ったが今は頭を下げることすらできないと、気付かない振りに徹し続けた。

既に数日前、未だ近衛騎士候補と知らされる前から別任務について「エリック!!お前何考えてる⁈」と掴みかかられ勢い任せに殴られていた。


『その流れですと、二番隊のブライス隊長も適任かと……。戦闘も勿論ですが、判断力にも非常に長けて騎士歴も経験も豊富な隊長です。やはり陛下の急事があった際を考えると、二番隊隊長も外せないと思います』

特殊能力と隊長格で選んだアランに乗じるようにエリックも遅れて口を開いた。

今までの隊長格を除いた勝ち抜き戦や、ステイルにとって無二の友であるアーサーの信頼に足りた騎士という流れから今回は女王の近衛騎士。

プライドの近衛騎士よりもさらに責任重大な任務に、やはりエリックも絞り出せるのは騎士隊長だった。

二番隊は一番隊の次に特攻や前衛に特化した部隊だが、一番隊副隊長のエリックの目でも二番隊隊長副隊長は間違いなく実力者だった。

ケネスに続きもう一人隊長格をと考えるならば一番隊副隊長として冷静に選定した結果、彼が相応しいと考えた。……ただしケネスと違い、元々は王族への忠儀へ程遠かった人物であることを覗けば。


エリック自身、実家から騎士団演習場へ帰った翌日ブライスから「エリック取り合えず殴らせろ!!」と掴みかかられた時も半分は最初から諦めていた。

彼がそういった扱いを周囲から受けるのが嫌いなことも知っている。

しかし人選としては間違っていないからこそステイルに提案したエリックは、今も後悔はしていない。たとえその所為で今、拳を受けた前腕がじりじりと痛んでも。


「八番隊、ノーマン・ゲイル」

ざわっっ!!と今度は流石に全体が騒めいた。

ノーマンを知る騎士全員が戸惑いを隠せない。視線だけでなく身体や首ごと振り返ってしまう者も現れる。明らかに今までの流れでは異色でしかなかった。

以前、アーサーと共に目を腫らした状態で食堂に現れたのもこれが原因かと推測した騎士も少なくない。

今、この場にノーマン本人はいない。騎士団長により休暇を言い渡された彼はその日から騎士団演習場に帰ってきていない。彼が騎士団へ戻ってきた後にこの話を聞いたところで素直に受けるのかと危惧する者もいる。

しかし騒然とする中で、選出した本人は全く気負いも後悔する様子もなく堂々で姿勢を伸ばしていた。既にノーマンへ打ち明け話し合いを終えた今、アーサーには何も引け目はない。


『俺は、……ノーマンさんとか。八番隊の。…………個人判断でいったら騎士団でもすげぇ適格で間違いなくて、それに絶対正しいことを選べる人ですし』

ノーマン??あいつかぁ、理由は?と名前を出した直後からステイルだけでなくエリック、アラン、カラムにも言及された。

アーサーの見立てであればとステイルも最初は候補の一番に記憶したが、その後一度は絶対に近衛騎士にはしてやるものかと評価が落ち、そして今はやはり相応しいだろうと判断された。

アーサーが彼の見立てを語った時も、近衛騎士達は否定していなかった。

何より、ステイルも人間性だけならば意図せずに充分今は知ってしまっている。大事に想っている弟と村への救出でも、あくまで騎士としての立ち位置を守り続け指示系統を乱さず、最後まで出張らなかった彼は尊敬に値するとも思う。

ステイルにとって今では好意的に思える騎士の一人だ。


「十番隊、ローランド・ファース」

そして最後に呼ばれた騎士に、騎士団全体が静かに視線が動く。

続き隊長格ではない騎士の名は意外でもあったが、ノーマンの後に呼ばれた為に騎士達からも衝撃が弱まった。エリート騎士でもある彼ならば、女王の近衛騎士に選ばれたことも納得できる要因を持ち合わせている。

名指しされた騎士の中では比較落ち着いた態度で佇む騎士は、周囲に気付かれないように深く呼吸を一巡させた。既に覚悟は決まっていたが、実力派が多い近衛騎士四人の中で自身が選ばれた理由を間違われないようにだけ願う。

自分にとってせめてもの救いは、推薦してくれた人物が安易な思いつきを言いそうなアランではなく、思慮深いカラムであったことだ。


『私から一人上げるのであれば、……十番隊のローランド・ファースはいかがでしょうか。何より優秀な騎士ですし、貴族出身で式典の空気にも慣れているので些細な違和感にも気付きやすいかと。透明の特殊能力者ですから何かあった時には陛下を第一に隠し、御守りすることも可能です。王族に強く畏敬を抱いている彼ならば喜んで近衛も受けるかと』

お前と違ってな、と耳元でぼそりとアランに悪戯気分で言われた時はカラムも手の甲を振るいたくなった。

騎士団全体の騎士一人一人と深く関わることの多いカラムは、三番四番隊以外の騎士もしっかり把握していた。

特にローランドは家柄も実力も特殊能力も全てが王族護衛に相応しいと、カラムは考えた。

実際、プライドの近衛騎士になってから最初の内は式典へ参列に自分はともかくエリックは緊張した様子だった。そしてアーサーも当時「式典は特に、近衛騎士が二人になってくれてすげぇ今心強いです」と語り、アランは緊張はせずとも落ち着きがなかった。ハリソンに至れば高速の足を持つ彼が貴族相手に何分も足を止めさせられていた。

五人目のプライドの近衛騎士にアーサーがハリソンを指名していなければ、カラムは彼の名前を出していた。

そして女王を守るという条件下でも間違いない。透明化の特殊能力者を敵が未だ味方につけているのであれば、ステイルが温度感知の特殊能力者を求めると同じようにこちらも同様の特殊能力者で応じるべきだと考えた。


「以上四名には今日から有事の際、最低二名以上でローザ女王陛下の護衛に付いてもらう。正式な御目通りは来週だ。今までのプライド第一王女殿下の近衛騎士同様、騎士団全体で補助に務めるように」

以上だ。そう、最後に強い声で切られ解散を命じられる。

口を開く許可を得た途端、二秒以上の沈黙後にはざわざわと小波のような音から次第に騒ぎは新生近衛騎士達を中心に広がっていった。


おいブライス!!流石ですケネス隊長!ローランドやったな!と声を掛けられる中、人混みをかき分け泳ぐ二番隊隊長ブライスは「待てもう一発殴らせろ!!」と怒声を上げ、全速力で食堂へと逃亡するエリックを追い他の騎士達からの呼び止めも無視して駆け抜けていく。

結果、大勢の騎士達の人波に完全に飲み込まれたのは二名のみだった。

「ケネス隊長!おめでとうございます!!やはり奪還戦でのご活躍が……!!」

「ローランド!!どうやって近衛騎士に⁈近衛騎士からの推薦か?!誰の!!?」



「「……………………」」



近衛騎士の推薦。

その事実を身をもって知るケネスとローランドはそれぞれ別々の場所にいながらも、同じように口を閉ざした。

まさか第一王子自らが近衛騎士達に尋ねたとまでは本人達にも知られてはいない。その後の試練に関しても、ロデリックに任命された時点でしっかりと口止めを受けている。


しかし近衛騎士の推薦を受けたこととそれが具体的に誰なのか自体は任務時に暗にステイルから視線で示され、更には口留めも受けてはいない。

推薦者本人から許可を得て、ケネスはアラン、ブライスはエリック、ノーマンはアーサー、そしてローランドはカラムとステイルから極秘任務時から伝えている。

しかし、それを本人へ言及こそしても、周囲へ自慢しようとは思わない。そして特に



『宜しくお願いしますね。ブライス・アッカーマン隊長、ケネス・オルドリッジ隊長、ローランド・ファース殿』




きっかりと、そう言われた第一王子の姿が記憶に強く残ったままだ。

数日前にこっそり知らされたノーマンと異なり、彼らはその前に機密任務を受けていたのだから。


Ⅱ5-1、324


明日は更新お休みし、

明後日22時半からその分も更新致します。


明日とうとうアニメ第12話です。

よろしくお願いします。

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