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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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そして優等生は送る。


─フィリップ・エフロン様。


「いらっしゃいパウエル!ごめんね、今朝は兄さんが付き合わせちゃったみたいで……」

「いや俺こそ待たせてすまねぇ。あと、リネットさんからこれ。誕生日会までには来るけど先にって。ちょうど今日は休みだったから」

「おおおおおおおぉぉぉおおっ‼︎ブリオッシュ‼︎すげぇご馳走‼︎‼︎流石リネットさん‼︎‼︎」


─ いつも私を支えてくれてありがとう。父さんと母さんの代わりに私を育ててくれた兄さんにはずっと感謝しています。

子どもの頃から私を守ってくれたのも、助けてくれたのも、一緒にいてくれたのも兄さんです。美味しい料理も、服もボタンも縫いつけてくれて、本当はとても感謝しています。


「嬉しい。リネットさんのパンは寮でも人気だけど、私これも凄い好き。蜂蜜入りで、優しい味で」

「俺もだ。……!すげぇ。アムレット飾り付けこれ全部一人でやったのか?」


─ 父さん母さんの顔も思い出せないけれど、眠れない夜にいつだって背中を叩いて優しい言葉で寝かしつけてくれた兄さんのことは一生忘れません。


「そうなんだよアムレットが頑張ってくれて‼︎‼︎もう昨日から本当に最高で」

「兄さんちょっと静かにして‼︎もう、一人で全部は食べちゃわないでね。私とパウエルは料理作ってるから」


─ 兄さんのお陰で今まで寂しいと思ったことはありません。ちょっと騒がしくて、どんなことがあっても笑って乗り越えてくれる。

いつだって私のことばかり考えてくれて、今の私では想像できないくらい小さい頃から私を育ててくれた兄さんを一番尊敬しています。


「本当に大丈夫か二人とも⁇何かわかんないことあったら兄ちゃんに何でも聞けよ⁇食材足りないならもうひとっ走り買ってくるからな」

「良いから兄さんは休んでて‼︎今朝だって本当は私が買いに行く筈だったのに……」


─がんばってくれてるのに、いつも「休んで」ばかり言ってごめんなさい。兄さんが私の為に休まず仕事をしてくれていることは知っています。

本当は兄さんも、もっとやりたいことやなりたいものがあったかもしれないと。数年前に気付いてしまってから、どうしても兄さんにはその言葉しか言えません。


「いやだってアムレットわざわざ学校休んでまで朝から時間空けてくれたから……せめて朝の買い物くらい兄ちゃんがやりたくて」

「そうやって私やパウエルが見張ってないと兄さん隙を付いて忙しくしちゃうからわざわざ朝から休んだの!」

「去年も俺とアムレットが買い出し行ってる間に近所の井戸汲みして回っただろ」


─私がまだ子どもの頃、兄さんがパウエルを連れて来た日のことを今でもはっきり覚えています。


「兄ちゃんは動くのが慣れてるから良いんだって。あんまりぐだぐだしてると眠くなるし」

「じゃあ寝てろよ部屋で」


─どんな事情があるかもわからないパウエルを連れ帰って、夜中まで瓦礫拾いでお腹が空いていた筈なのに自分の分のパンをあげて、非常用だった薪を迷わず暖炉にいれて火を点けて、自分だって寒かった筈なのに一番温かい席をパウエルに座らせて、背が伸びたら着るんだって楽しみにしていた服をパウエルにあげて、すごく疲れていた筈なのに夜はパウエルが寝付くまで優しい言葉をかけて寝かしつけてあげていたことも知っています。


「いや居る!アムレットとパウエルが俺の為に料理してくれてるんだからちゃんと目に焼き付けねぇと‼︎」


─仕事で忙しいのに毎日合間を縫っては街の人達の家一件一件訪問して、パウエルが良い人なのもこれから優しくしてあげて欲しいことも頭を下げて回っていたことも。

あのままパウエルの面倒を本気でずっとみるつもりだったよね。


「もう……。パウエルこっち、取り敢えずスープから作ろうと思うんだけど」

「⁇アムレットー、ケーキ焼くって言ってなかったか?スープより時間かかるからそっち先にやった方が……それともやっぱり兄ちゃんが」

「⁈ちゃっ、ちゃんと考えてるから‼︎兄さんは気にしないで‼︎ごめんねパウエル、やっぱり先に生地から……」


─パウエルが、きっと逃げて来たんだと。

そう私に教えてくれて、本人が打ち明けるまで絶対こっちからは聞かないようにと口留めしてくれた兄さんは、パウエルの知らないところでたくさん動いてあげていて。

きっと私のこともこうやって守ってくれたんだなとあの時思いました。




彼の知らないところで救われる世界を作り上げた兄さんは、あの日から私の憧れでした。




「大丈夫か⁇兄ちゃんに遠慮するなよ⁇料理してくれるだけで充分嬉しいからな⁇」

「もう兄さん‼︎‼︎〜〜っ……もうっ‼︎これ読んで静かにしてて‼︎」


─ パウエルは、たぶんまだそのことを知らないと思う。兄さんも知らなくて良いと思っているんでしょ?


「おおおおおおおおぉぉ⁈アムレットこれ‼︎これっ‼︎兄ちゃんにか⁈アムレットから‼︎‼︎」

「⁇手紙……あ、もしかして女子の」

「パウエル!しーっ‼︎‼︎お願い!……本当は料理食べる時に渡そうと思ってたのに。兄さんってばいつも予定狂わすんだから」


─でもパウエルは間違いなく兄さんに感謝していて、きっと兄さんがあの時パウエルにあそこまでしてあげていなかったら今のパウエルはいないと思う。 


「‼︎兄さん‼︎‼︎なんでもう泣くの⁈まだ読みきってないでしょ⁈」

「いやなんかアムレットから改まって宛名に俺の名前書かれてたから……本当に大きくなったんだなぁ……」

「お前宛名書きで泣いたのか⁈」


─手紙でまでごめんなさい。だけど、やっぱり私は城で働きたいです。

兄さんのように私も、誰かを助けたい。

フリージア王国の人達へ、私にとってのフィリップ兄さんになりたいです。

ステイル様のような優秀な補佐になって、一人でも多くの人達が救われる環境を作りたいです。

私達みたいにお金がない民にも教育が受けられる学校を作ってくれたプライド様をステイル様が支えているように、私もそういう人の補佐になって実現へ少しでも早く近づけたいと思っています。


「……やばい、一行目から読めねぇ。すげぇ読みたいのに目が霞む」

「そんなに泣いてたら読めるもんも読めねぇだろ……ほらタオル」

「パウエルは絶対に読まないでね⁈もう兄さんはほっといて良いから!……早くケーキ作ろっ」


─私のことばかりでごめんなさい。

それくらい、本当に私にとって兄さんは見本です。それはパウエルに会うよりもずっと前から。

将来がどうなるとしても、これからも私は勉強を頑張ります。大人になっていつか立派な仕事につくことができ、たらその時は、今度は兄さんが私に甘えて下さい。



大切な兄さんのお願いなら、私が何だって叶えてみせるから。



親愛なる家族で自慢のお兄ちゃんへ、大好きを込めて。

アムレット・エフロン



いま、パウエルとリネット、エフロン兄妹は幸せです。


Ⅱ437-2

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