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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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答え、


「親って騎士団長さんですか⁈聖騎士のお父さんが騎士団長って噂本当だったんだ!!!」


すごい!!と、どうやらアーサーのお父様のことまで噂されていたらしい。

流石学校でも噂に通じていたディオスだ。学校の子に聞いたのだろう。

アーサーへ向ける眼差しがどこか覚えがあるなと思えばひと月ほど前のノーマンと似た、憧れスポーツ選手を見る少年の眼差しだ。

ただでさえ騎士という立場は憧れの的だけれど、セドリックと関わる中で騎士には少し慣れてきた二人にも聖騎士はまた別の特別感があったらしい。

噂の真偽を直接確認できるのが嬉しいらしく、文字通り手に汗握ってアーサーを見上げるディオスの熱に引っ張られるようにとうとうクロスもこそこそとセドリックの背中から現れた。

「ディオス声大き過ぎ」と言いながらも歩み寄れば、ディオスが「クロイ!!」と誘うように手を引っ張り込んだ。


「やっぱり騎士団長さんとそっくりだった!だって親だもん!!ほらな⁈やっぱりジャックとそっくりなのはあってただろ⁈」

「でもジャックじゃなかったでしょ。……騎士団長さんとは雰囲気全然違うけど」

ンぐっ、とクロイからの言葉にアーサーが一度唇を固く結ぶと喉を反らした。

それからがっくし目に見えてわかるくらい肩を落とすと「まぁ威厳とか色々……」と十四歳二人相手に落ち込んでしまう。

確かに騎士団長の威厳は凄まじいけれど、アーサーだって威厳がないわけではないしさっきだってしっかり部下の騎士達に指示を出せていたからそこまで気を落とす必要もないのに。

そんな落ち込むアーサーにディオスはクロイの手を掴み握ったまま、また質問を怒涛に投げかける。


「お父さんからどんなこと教わって聖騎士になったんですか⁈ハリソン副隊長もだけど髪伸ばしたら強くなるんですか⁈八番隊は伸ばす決まりとか‼︎」

「いえ、……父上、からは聖騎士関連のことはその、……。普通に剣とか稽古つけてもらっただけで。髪伸ばしてるのも全然八番隊に関係ないですし、ハリソンさんが長いのも偶然っつーか……」

どこかの神話みたいな扱いで質問してくるディオスにアーサーが自分の前髪を軽く摘みながら言葉を所々濁した。

実際はハリソン副隊長の髪が長いのは偶然というわけでもないのだけれど、それを知らないアーサーはすんなりと長髪ルールを否定する。予想斜め上な質問にちょっと眉が寄って困惑気味だ。こうやって見ている分は微笑ましいけれども。

そう思っていると、今度はクロイがディオスと手を繋いだままに一度喉を上下させ自分から口を開いた。


「特殊能力がすごいって本当ですか。なんか手から光が溢れ出るとか、翼が生えるとか無敵になれるとか色々聞きましたけれど……」

「あと巨大化できるとか‼︎」

「いや、特殊能力は植物元気にするだけ、……で。戦闘には全然関係ないっす」

鳥になるなら俺よりも、とアーサーが他の騎士の特殊能力を言いかけてそこで止まった。

一応機密事項というわけでもないけれど自分以外の騎士の特殊能力は部外者にまで気軽に言って良い情報ではない。それこそ異国へ入国する時くらいだ。


あくまで本当の特殊能力は伏せて表向きの能力を言うアーサーに、ディオスはそれでも「植物を元気に⁈」と声を跳ねさせた。更には「今度お花持ってきて良いですか⁈」とリクエストまでする大技だ。

アーサーもその反応には目を丸くしてから「弱ってるのいるなら」と一言肯定を返した。まぁ植物を元気にすることもアーサーなら簡単だから嘘がバレる心配もない。


やったぁ!と今度は物理的にその場で飛び跳ねるディオスに、クロイが腕を自分の方に引っ張るようにして飛び跳ねを制御した。……あ、ちょっとアーサーの特殊能力披露私も見てみたい。

そういえば私も私でアーサーが植物に使っているのをちゃんと見たことがない。城の庭園は治してもらう必要なく全部庭師のお陰でぴかぴかだ。


更には「握手して下さい!!」とディオスが手をピンとアーサーへと伸ばした。

困惑を隠しきれないままにその手をアーサーが握ると、今度はクロイまで便乗するように無言で後に続いて手を伸ばしてきた。やっぱり噂の聖騎士様は今や国民的ヒーローだ。

王族よりはずっと親しみやすいのも要因かもしれない。ディオスが嬉しそうに握手してもらった手を開いて閉じるを繰り返す中、次にアーサーと握手を交わしたクロイから「あと」と握ったままに目が合わされる。


「噂で聖騎士が王族の婚約者候補って聞きましたけど。ティアラ様が王妹になったのは実は聖騎士を王族の一員にする為だとか、あの戦から救い出したのをきっかけにプライド様との間に」

「全部面白半分の創作話ですよ。アーサー隊長が聖騎士になったのもティアラが王妹になったのも正真正面本人達の実力です」

クロイの台詞を途中でステイルが大きめの声で遮った。……うん、いろいろ助かった。


もうクロイから「婚約者候補」の台詞が出た瞬間、アーサーの肩が若干反応したし表情も引き攣り出していた。

人の噂は当てにもならないけど馬鹿にできないなとこっそり胸の中で思い知る。しかもティアラまで巻き込み事故を受けている。

流石に自分までアーサーの話題に入っているとは思っていなかったのか、ティアラ本人も名前が出た瞬間「えっ⁉︎」と声を上げていた。セドリックに至れば「その可能性もあったか!」と言わんばかりに未だに顔色が悪くなっている。


「社交界でもたまに噂されているのは僕も把握しています。ですが、貴方方は今後安易に口にしないようにお願いします。特にこれからは本格的に城へ出入りするのですから、城で働いている人間の口からそんな噂が流れれば信じてしまう者も現れます。セドリック王弟のご迷惑になりたくなければ今後たとえ推測や期待でも言動には充分留意してください」

本当にその通りだ。今のクロイの噂は全部捏造だけれど、私の婚約者候補ということ自体は奇しくも事実だ。

嘘が苦手なアーサーがうっかり他の人達にも顔色で悟られない内に杭を打ってくれたステイルに心から感謝する。……そして、二人がこくこくと発言の重みを理解し頷いている間にも既にセドリックが噂に安易に引っ張られかかっている。

青ざめかけた顔でアーサーとティアラを交互に何度も見比べていた。


まさかとは思いたいけれど、今の双子の噂を鵜呑みにしているんじゃ。というか!ティアラが王妹になるのはアーサーは関係なくセドリックが間に立ってくれたからでしょうが!

記憶力に間違いない彼が自分の功績をぽっかり忘れているとも思えない。


すると、一度双子へのお説教を区切って口を閉じたステイルが、流れるように若干細めた視線をセドリックへと向けた。

どこか冷ややかにも見える漆黒の視線の冷たさに肌寒さでも感じたか、セドリックもすぐに気付くとびくりと肩を震わせた。……お姑さんに怒られたお嫁さんじゃないんだから。


セドリックの視線が自分に釘付いたのを確認するように二秒近く無言のまま見つめ合うステイルが、そこで口だけを動かす。

ぱくぱくと、声には出さないステイルだけど言い終えてすぐにニヤリと笑ったから、多分セドリックに何か言ったのだろう。その証拠にセドリックを見れば、胸を押さえて大きく息を吐き出していた。更にはステイルへ深々頭を下げたいからもう確定だ。

きっと「ティアラとアーサーはないから安心しろ」とでも言ってくれたのだろう。まぁ実際、私の婚約者候補になっているアーサーがティアラの婚約者候補にまでなっている可能性は絶対ない。そんな泥沼ゴシップを母上達が許すとも思えない。


「そういやぁ俺には言葉改めなくても良いですよ。プライド様やステイル様はともかく俺はあくまで庶民ですし。普通に今まで通り呼んでくれればそれで」

そんなことを考えている間に、質問コーナーを再開させたディオス達にアーサーが自分を指差しながら提案を投げた。

あっずるいと、反射的にちょこっと思いながら身体ごと彼らの方に向ければディオスから「良いんですか⁈」と声が上がった。


更にはディオスだけでなくクロイまで「貴族じゃないんだ……」と言いながら今回は否定や遠慮する様子もない。

アーサーから「はい」と一言二人へ同時の返事を告げながら、少しだけ姿勢を二人の目線に合わせるようにさらに屈めた。


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