表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

788/1000

そして絶句する。


「〝彼〟は最年少で騎士団に入団と入隊を果たし、隊長格を除く勝ち抜き戦で見事歴戦の騎士を制し頂きへ立ったプライド第一王女最初の近衛騎士です」


当時はまだ十五歳だったでしょうか、とせせらぎのような口調で言うステイルの言葉が、二番隊副隊長の剣が宙に舞うと同時に放たれた。


自分達と殆ど変わらない年齢の時、そして〝最初〟の近衛騎士という言葉に今度はクロイも息が止まった。

ステイルのお陰で既に彼がアーサーであることも、心の準備もいくらかできていたがそれでも経歴を語られれば思考まで止まる。宙に上がる金属の輝きがゆっくりと目に焼き付くようだった。

どこかでそんな噂話を聞いたことがある気がすると思ったが、それ以上は思い出せない。


代わりに今度は声もでないほど顔を驚愕に強張らせたのはディオスだった。

学校の友達から噂話なら色々聞いている。特に〝その〟騎士についての噂はいくつも聞いた。どれが本当か嘘かもわからないままに、伝説だけが足を広げ枝を伸ばしていたのだから。


相手が空中に飛んだ剣を手元へ回収する間も与えず、八番隊隊長が首へ剣を突き付ける。

それを受け、二番隊副隊長が軽く両手を上げて敗北を認めれば、その瞬間他の誰でもなく剣を突き付ける本人から「第一防衛成功ッ‼︎」と隊員へ呼びかけた。勝敗に盛り上がることのない八番隊では、意図的に声にしなければ全体まで行き届かない。

騎士同士だけの空気勘だけである程度は察せられたが、言葉にはなかなか出されない。


続けて隊長から「全体に通達してください!」と騎士達へと命じればやっと八番隊内にも拡散された。

副隊長への援軍叶わず苦戦を強いられる二番隊班もそれを受け、無理に押し進むことなく一時撤退が決断された。


未だ戦闘は続いているが、敵戦力を削り本陣死守を叶えたことで全体の動きがまた大きく変わっていく。

再び本陣を守るべく八番達騎士の編成に囲まれ、八番隊隊長が人波に隠されたところでクロイもひと息吐くべく口から大きく呼吸を音にした。


「……そりゃあこんな強かったら近衛騎士にもなれるよね。二番隊副隊長を今も倒しちゃったし」

「ケレイブも相当強いんだけどなぁ。何度か特殊能力も使ってたのに結構早く決着着いたな?あいつも気合入ってたかぁ」

「ハリソン副隊長との手合わせをするようになってからは隊長格への勝率も確実に以前より上がってますね。自分も何度か負かされましたし」

クロイのつぶやきに、アランとエリックもあくまで実力の結果と笑う。

毎日のように実践演習を行う中で、この勝敗も決して珍しいものではない。


更には未だ隊同士の決着はついていない。このまま制限時間内に八番隊が守り切るか、もしくはどちらかの大将が敗北するまでは継続される。

しかし副隊長の特攻を失った二番隊の方が今は形勢としても押されているのだと、エリックから説明が続けられる。その途中で、クロイはあることに気が付いた。


さっきまでぺちゃくちゃと話しては大盛り上がりに燥いでいたディオスがいつの間にか無言になっている。

違和感に視線を向ければ、未だにディオスは手すりに噛り付いたままだった。首を伸ばし、今は八番達騎士に覆われた方向にいる隊長へと凝視し続けている。


どうしたの、とクロイが投げかるが返事はすぐではなかった。

あわあわと唇を震わせたディオスが勢いよく振り返りながら「ジャックって!!」と、ディアスの顔を覗こうと近づけていたクロイの耳を壊さんばかりに叫び出す。

思わず両耳を押さえて背中を倒れそうなほど反らすクロイは、一気に顔を顰めた。なんなの、と眉をこれ以上なく寄せるが同時にディオスの尋常ではない顔色に気が付いた。


初めてステイルの正体に気が付いた時と同じような顔色に、何故ジャックでそんなに焦るのかわからない。

確かに王国騎士団の隊長だったこともあの強さも驚きだが、王族だったジャンヌとフィリップと比べればまだ許容範囲で納得もできる。しかし頬から顎に落ちるほどの冷や汗まで溢れさせたディオスの驚愕はどう見てもクロイと同程度のものではなかった。


目の色を変えて一度言葉を切ったディオスに、周囲も大して意外そうにする様子はない。目だけを丸く開いて返す者もその表情は「気付いたか?」と言わんばかりの眼差しだ。

プライドから苦笑が交える中で、楽しそうに笑うエリックとアラン、そしてクラークへ自慢げに微笑むステイルとティアラ。一人表情を変えないロデリックと全員がディオスの言いたいことは察せられた。


代表としてステイルから軽く頭の横まで手を挙げる仕草で全員へ示した後、一歩ディオスへ身体を更に近づけた。

意地の悪さも今はない、ただただ相棒の活躍を理想通りに彼らへも見せつけられた満足感の笑顔のままその口が余裕の間も持って開かれる。


「ケレイブ副隊長の実力は本物です。他国の騎士隊長、大将相手でも勝てる実力者だと言えます。……が、その二番隊副隊長に彼が勝つのも何ら不思議なことではありませんよ」

とんでもないことを、単なる客観的な口調として放つステイルに流石のクロイも心臓が跳ねた。

それだけ凄い人相手にあっという間に買ったジャックが、八番隊の騎士隊長が凄まじい強さかのだと理解する。

周囲の反応から見ても、ケレイブ副隊長という騎士もそしてジャックの実力も何の過言もない事実だとわかる。だが同時に、そんな凄い騎士がいる騎士団で二番隊より格上とされる目の前の一番隊の騎士隊長や副隊長、その全隊を束ねる騎士団長と副団長はどれだけの実力者なのだろうかとクロイは想像するだけで皮膚が震える感覚に沸いた。そしてもう一人、少し前から噂とされていた今最も有名な





「彼は〝聖騎士〟ですから」





……直後、すぐには二人の声は出なかった。


そこまで予見していなかったクロイと違い、学校で〝聖騎士〟の噂を聞いていたディオスは既に予感はしていたがそれでも反応できなかった。


フリージア王国史上三人目の〝聖騎士〟と語られる騎士は、今や国中の誰もが知っている。

王女を救った、当時最年少で入団した、王女の近衛騎士、最年少入隊、隊長格、という噂の他にも貴族だとエリートだとサラブレッドだと王族だと様々な憶測や尾ひれも交えた噂が語られた彼の名も、やはり〝噂〟だけは知っていた。


友人同士での他愛もない話題で、いっそ王族よりも現実味のない存在だ。現れたということは広まっていても、どんな人物でどんな経歴かも噂だけが独り歩きして実体は掴めない。


ただでさえ大規模組織である騎士団で、たった一人の騎士を断定することは難しい。

名こそ聞いても、同名の騎士かと疑える。凡庸な名でもなければ、希少な名でもないあくまで一般的な名前の騎士は今や国中で最も〝特別な〟騎士だった。

信じられない事実に言葉を失うクロイと共に、ディオスも今は言葉が出ない。ぱくぱくと口を開けては閉じてを繰り返す彼は、今だけはプライドに腰を抜かしたクロイの気持ちが少しわかった。


「いやーでもアーサーも作戦指揮、前より大分できるようになったよな」

「カラム隊長から〝も〟師事を受けていますから。教わる度に毎回実践しては反省点も反復していますしー……」

ステイル様にも教わっていたでしょうから。

その言葉だけはエリックも敢えて言わずに止めた。ステイルとアーサーとの友人関係は騎士団の中では今や周知の事実だが、目の前の二人にまで大っぴらに言うのは二人に刺激が強く、そして多すぎると思う。

今まで当然のように語らっていた相手が自国の王族と、そして伝説の聖騎士であった事実に揃って人形のように固まってしまった少年二人には。




〝アーサー聖騎士〟……噂だけで聞いたそれがジャックの本名だと。




双子の脳処理が追いつくのは、ハリソンが敵大将に敗北を認めさせたことが八番隊陣営まで届いてからのことだった。


明日ラス為書籍7巻発売します。宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ