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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ502.双子は解説され、


「右翼ッ流れ入ってます!!ケレイブ班優先して潰して下さい!!!」


見れば今度こそ防衛方向である八番隊本陣側からだ。

ひと際大きな声に、ファーナム兄弟は首ごと向けて注目した。「今の声……」とディオスが小さく呟けばプライド達もとうとう気付いたらしいと敢えて何も言わずに唇を結ぶ。

各自判断が許されている八番隊の中で、唯一ひと目でそこにいるのかわかる場所を維持している人物にそれだけで口が勝手に笑ってしまいそうになる。


ファーナム兄弟にとって聞きなれた気がする声がしたと同時に、応じるように防衛側陣形の動きが大きく変わったことだけは二人にも何となく目でわかった。

ともに見ていたアラン達には、命令と共に複数の八番隊騎士達が一声に右翼側へ飛び出し覇気を漲らせたのまで伝わった。

彼の命令通りに八番隊が各自行動を変えていくのをみると、流石だとプライドとティアラも感心して少し上体を前のめりに覗いてしまう。彼女達もまた、タイミングよくこの演習中に彼を見れることは珍しい。


ステイルが見るまでもないと言わんばかりに眼鏡の黒縁に指先で触れながら、そろそろかなと口を僅かに開き出す。言葉を放つ前から優越の笑みが意図せず零れ落ちた。

八番隊方向へ注目する双子へ、アランとエリックが今は二番隊の班がハリソンが防衛陣から抜けている間に八番隊へ気付かれないよう奇襲を測っているのだと説明する。


「ほら、あそこあそこ」

アランが手袋の嵌められた指で指し示せば、八番隊と逆方向へ向け突き進むひと班に気が付いた。

更にその班へ向けて八番隊騎士達がなんとか押し止めようと集中するが、一人一人の騎士による攻撃を班による連携で上手く弾き押さえ突き進んでいる。

ぐいぐいと防衛側で攻撃を食い込ませていく班の穴へ、更に続いて他の複数犯も背中を守るように続き攻撃の道を広げていった。


どちらを応援というわけでもない筈のディオスまで、大勢へ突入する二番隊のケレイブ班に向け思わず「いけー!がんばれ!!」と応援してしまう。

もう少しで本陣である大将に届くと、手に汗握り目を凝らしている中でまたあの声が二人の耳まで届いた。


「ッケレイブさん迎え撃ちます‼︎他の班員へ一斉に!!ッ他ァ開けて左右防御集めて下さいッ!!!」

ハリソンさん来るまで持ちません!!と張り上げられた声に、一瞬で奇襲班への道が開かれた。

攻撃をしている側へ逆に道を明け渡す動きに思わず間の抜けた声を上げるディオスとクロイだが、次の瞬間にはその意味も説明される前に理解できた。


班で先頭で剣を手に率いる騎士以外、他の班員が一斉に八番隊騎士へ囲まれるように攻撃を受けだした。先ほどまでは敵の奥へと貫き進んでいた班だが、逆を言えば囲まれるのも容易になる。

さっきまで八番隊騎士一人に二人以上の連携で封じていた二番隊騎士が、大勢の八番隊から一対一の勝負へと持ち込むように責められ一気に形勢が崩されかける。

背後に続く二番隊班をもこれ以上の追撃は許さないと言わんばかりに八番隊騎士が左右から攻撃を繰り出す中、唯一率いていた騎士ケレイブ一人が敢えて放置されたままだ。


しかし気を抜くどころか一層張り詰め構える彼には、その先の道も開けられている。

本陣へ続く一本道、邪魔をする者など誰もいないそこに二番隊騎士一人を待つようにたった一人の騎士が最奥で佇んでいた。

銀色に輝く長いを一つに括る、長身の騎士が。


「あれ……?ねぇクロイあの人?!!」

「うわぁ…………」


ディオスの言葉に、今度はクロイも止めなかった。

遠目では八番隊の最奥で迎え撃とうとするその騎士の目の色まではわからない。ただ、遠目でもわかる高身長と何より一つに束ねられた長い髪は三つ編みでなくとも遠目でははっきりと良く知る一人と重なった。


さっきまで大勢の騎士に囲まれていた一名の周囲に、今は誰も居ない為浮き立って見えた。

戦闘の邪魔になるのを避けるべく、むしろ大きく距離を離れた八番隊騎士はその分を他の二番隊騎士への防御の壁へ厚みを加えていく。


八番隊に足止めを受ける二番隊騎士達が口々に「対一にさせるな!!」「手が空いたらすぐにケレイブ副隊長に!!」と掛け合う中、副隊長と呼ばれる騎士一人がゆっくりと間合いを取りながら最奥へと距離を詰めた。


今は正々堂々の順次戦ではなく、本格的な模擬戦闘。二対一でも百対一でも優位に本陣を取ることが最優先だ。

わざわざ隊長格同士の一対一にする必要など皆無。しかし、その対一以外を防衛側の八番隊騎士が許さない。自分達がここまでの追撃を敵に許してしまった以上、〝大将〟の戦闘だけは決してを邪魔させることは許されない。

現状で大将一人の戦いやすい状況を作ることは、八番隊にとって本陣を守ることと同義なのだから。


二番隊副隊長が近づくごとに、双方の全身から覇気が溢れるのをディオスとクロイはわからないままに鳥肌だけが全身に及び身が強張った。

一歩、また一歩と距離が詰まる度、まるで心臓に銃口を当てられているような緊張感に自分達は関係ないのに心臓が遅く響いた。

そしてあと一歩、八番隊大将の射程範囲の三十センチ手前に入った瞬間、状況が雪崩れ変わる。


タンッ、と八番隊騎士が地面を蹴る音が間近にいれば遅れて聞こえていた。

それほどの飛び込みに、気付けば瞬きをしていたか疑うほど一瞬で二番隊副隊長の懐まで距離を詰めた。金属音が鋭く響き高台まで届く。

ギリギリと鬩ぎ合う剣が両者とも一歩も引かず膠着したと思うのもあっという間だった。ディオスから銀髪の騎士がもしかしてと確認を取ろうか口を開くよりも先に、今度はいくつもの剣の連撃攻防が目でも留まらない速さで交わされる。

遠目では捉えきれない速度での真剣斬り合いに、ディオスとクロイは騎士二人の剣が腕ごと消えて見えた。


えっ、えっ、えっ、と声を一音だけ漏らす中、振り返る余裕もなく騎士同士の戦闘に目を見張る。

他の騎士達の戦闘音に混ざり、剣の音も耳で特定できない中で目に見えない連撃の姿に一体何が起こっているのかもわからない。

エリック達が感嘆の声や楽し気な声を漏らす中、双子の背後へとこの時を待ちに待ち続けていたステイルの声がゆっくりと掛けられた。



「二番隊副隊長へ今戦闘を繰り広げているのは、八番隊の騎士隊長になります」



隊長⁈と、声が若干ずれながらも二人揃う。

対峙している片方が二番隊の副隊長であることは聞いていたが、もう片方がその上である隊長と冷静に言われれば二人も聞き返さずにはいられなかった。

先に気付いたディオスから「じゃあさっきのハリソン副隊長より上⁈」と溜まらずステイルと振り返れば、にっこりとこの上ない満足げな笑みと共に頷きが返された。


ファーナム兄弟もハリソンの実力を正しくは知らないが、それでも今も敵本陣へ単身で攻め入っている彼を見ればその実力の凄まじさは想像に難くない。

既に八番隊の騎士隊長が何者かは想像できたディオスだが、まさか二番隊の副隊長相手に〝拮抗している〟なんてと信じられない。


確かに強かったけど、と思うがそんなに強いとは思ってもみなかった。

ついさっきアランから二番隊は特攻や先行に特化した前衛部隊だと説明された。

一番隊に続く攻撃特化の二番隊の副隊長。そして相対する八番隊は各自判断が許された戦闘における特殊部隊。その隊長がと、驚きが二乗になったまま流石のディオスも言葉にならない。

ぽかんと口を開けながら零れ落ちそうな目で見返せば、ステイルからの自慢げな笑みだけが目に入る。フィリップがジャックを自慢している時と同じ笑みだ、とわかれば疑いようもなかった。


少なからず顔色まで青ざめだすディオスを、振り向かないままのクロイが「ちょっとディオス!」と腕だけを引っ張った。

たったほんの間、ディオスが振り向き言葉を確認しているだけの間に形勢が大きく変わっている。


クロイに腕を引っ張られるままに再び胸上以上まで手すりに乗り上げ見れば、ちょうど銀髪の騎士が二番隊の副隊長の剣を弾く直前だった。


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