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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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そして案内される。


「三番隊‼︎四番隊に後れを取るな!二班と三十二班が全滅するぞ‼︎第一小隊と第三小隊を中心にもう一度各小隊で纏まり、どう動くべきか再検討だ‼︎」


馬上訓練中の三番隊に指示を飛ばすカラムの姿にディオスもクロイも目を丸くする。

騎士が馬を扱う姿にも圧倒されたがそれ以上に、その鋭い声張りに驚いた。選択授業で自分達に指示してくれた時とは別物の鋭さに、やっぱり騎士の授業は自分達生徒に合わせてくれていたのだと理解する。

はっ‼︎と一声で騎士達が躊躇いなく返事を放つ。副隊長が各班を小隊ごとにまとめる中、アランが「お前らアイツなら知ってるだろ」とカラムを示し笑いかければ、二人も頷いた。選択授業だけでなく、一度は姉を家まで送ってきてくれた騎士だ。

学校で会った時は講師という印象が強かったが、こうやってみると本物の騎士だったんだなと再認識する。」

思わず知り合いを見つけた喜びのまま案内役の騎士団長より前に飛び出てしまいたくなるディオスを、クロイが止めた。


「カラム隊長!」

ディオスの気持ちを汲み、代わりにプライドが大きく手を振り呼びかける。

その途端、カラムだけでなく一度小隊を組み直すべく動きを緩めていた三番隊騎士達も顔ごと振り返った。騎士団長と副団長の存在に身体ごと向けて背筋を伸ばす。

お疲れ様です!ともうディオスとクロイも聞きなれた騎士から騎士団長への挨拶だが、今回はほとんどが馬の上だった為に片膝は付かれることはなかった。

他の演習所では王族に気がつく度に騎士から片膝を付かれることも多くその度に庶民であるファーナム兄弟は居心地が悪かった。自分達まで一緒に片膝つかないといけない気持ちになってしまう。


直後には「プライド様が」「プライド様がおられるぞ」と他の演習所と同じように騎士達がプライドへと目を輝かせ、一定距離空けて接近してくる。

ここでもジャンヌは人気なんだなと、五回目からはクロイも若干落ち着き過ぎた眼差しでその事実を眺められるようになった。ジャンヌ、と思うと呆れてしまうが、王女のプライドが騎士にも支持を得ているのは有名な話だ。

実際に騎士団とプライドを見てみれば、自分達が想像している以上に人気なのだと最初はディオスまでも目を皿にした。他にも王族がいるというのに、騎士達が最も興味を示し視線を注ぐにのは必ずプライドなのだから。

ステイルやティアラ、セドリックにも尊敬の眼差しや敬意は示すがプライド一人への熱量は圧倒的に異なることは誰の目にも明らかだった。


「カラム隊長こんにちは!!」

お邪魔しています!と元気良く挨拶するディオスに、クロイも続き歩み寄るまま頭を下げた。

君達か、と。既に早朝に知らされていたカラムも驚くことはなく二人を迎えた。部下達には引き続き再編成から考察をと指示を投げながら軽く双子へ手を振れば、学校でも見た穏やかな騎士隊長講師がそこに立っていた。


「よく来てくれた。プライド様とステイル様の件は驚いただろう」

「「はい‼︎」」

カラム隊長格好良かったです!馬上訓練って何やるんですか、と親しみのある騎士へディオスもクロイも直接カラムへと問いを投げる。


その中、自分への興味が薄れたことにロデリックは気付かれないように息を吐いた。

カラムと彼らが顔見知りの可能性は知っていたが、アランからカラムへ興味が振られて助かったと思う。ファーナム兄弟の方も騎士団長である自分に対してよりも明らかにカラムに対しての方が質問もしやすそうだった。

これは、あれはと突如としてさっきまで案内の説明を聞くだけに徹していた二人が興味を質問にし始める姿に、やはり案内役は自分ではなくクラークに一任するべきだったかとも考える。副団長という立場ではあるクラークだが、少なくとも自分より遥かにそういうことに長けている。


「カラム隊長!さっき何やっていたんですか⁈班とかあんなにあるのにどうやって見分けてますか?」

「ディオス。元気が良いのは何よりだが、城内では常に見られている意識を持つことも忘れないように」

わいわいと燥ぐファーナム兄弟と、丁寧に質問へ言葉を返すカラムの様子を敢えてそのまま様子を見ることにする。

本来ならばカラムに一言掛けて三番隊の指導に戻って良いと伝えるところだったロデリックだが、今は自分より遥かに少年達が質問しやすそうな状況に時間を取った方が良さそうだと考える。

あくまで上の立場として案内中に問いを投げてくる王族貴族とも、そしてこれから騎士団へ入団すべく威厳を交えて接するべく新兵達とも彼らは違う。


そんなことを考え腕を組んでしまうと、クラークに今度は肩を叩かれた。口からうっかり出てはいない筈にも関わらず、タイミングよく労ってくるその手にまた頭の中を覗いたなと思う。

今回は王族の訪問だからこそ騎士団長であるロデリックが案内役も担ったが、本来であればクラークが案内役を変わっても問題はなかった。

初対面から早速アーサーに似ていると子どもの噂の標的にされるロデリックに、クラークも上手く変わってやるべきかと考えなかったわけではない。……しかし


「……すまないなロデリック」

「?何故謝る」

いや、なんでもないんだ。と、ぼそりと呟いた言葉をクラークは自ら切った。

単純に子ども相手に困っているロデリックが面白かったと言われれば否定はできないが、それ以上に自分もまた無駄に前に出れば標的にされるとクラークはわかっていた。最初の挨拶で「副団長」と呼ばれたその時から。



『ネル先生のお兄さんですか⁈』



そう、ディオスに尋ねられたのだから。

もう知られている以上、別段妹の話題を避ける必要はないと思うクラークだが、同時にディオスの落ち着きのなさと興味の多さを見ると自分もあのままだとネルとのことを色々勘繰り根掘り葉掘り聞かれそうだと考えた。

今も目の前でカラムに対していくつも質問を繰り返し重ねる双子を見ると余計にそれは確信に変わる。ネルのことを話したくないわけではない。しかし質問まみれにされたら余計なことまで探られかねない。しかも今は騎士達やプライド達の前だ。


あまりそういった話題については妹の為にも触れ回りたくないクラークは、ディオス達に対しても早速「ああそうだ。まぁ私のことはどうでも良い」と初対面の時点ですんなり笑顔で流してしまった。

そして今もあまり彼らに興味を持たれまいとロデリックへの興味を逸らす手伝いもせず黙認し続けてしまった。

いっそこのままカラムにも同行を命じようかと考えるクラークだが、今既に案内に適した騎士がいたことを思い出す。あくまでプライドの護衛として、そして上官である自分達の手前発言を控えていた騎士二人へと軽く首を向けた。さっきの親し気な話しかけ方からしても間違いない。


「アラン、エリック。そういえばお前達も彼らとは顔見知りだったな。私達がプライド様達のお傍にいる間は護衛の心配はない。遠慮せず彼らの相手もしてくれて良いぞ」

彼らもお前達の方が話しやすいだろう、と笑いながら敢えてわかりやすくロデリックの肩をポンポンと繰り返し叩いて見せた。

言葉にせずとも「ロデリックより遥かに」と言いたいのが伝わるそれに、プライドとティアラも思わず苦笑いしてしまう。確かにプライド達の目でもロデリックは子ども相手に向いていない。貴族ならばまだしも、今回は庶民の子どもだ。

アランやエリックの方が遥かに子ども相手が慣れているのは明らかだった。

続けて眉間の皺が深くなっている友人に向け「いっそ任せてみてはどうだ?」と提案すれば、ロデリックも静かに振り返った。

ちょうどカラムへの質問に夢中の彼らにも区切りが良いと考える。


「お前達、後の案内は任せよう。私とクラークで護衛と先導は担う」


低い声ではっきりと告げたロデリックの命令に、アランとエリックも間髪入れず返した。

突然の勢いの良い近衛騎士の発声にディオスとクロイも振り返ったが、すぐにまたカラムへ向き直った。

コソコソと「カラム隊長、ジャ……プライド様すごく美人でした!」「ジャックを探しているんですけど一目でとわかりやすいですか」ととうとうどうでも良い質問まで繰り出す二人に、カラムも丁寧に応対していく。そろそろ演習に戻るべきとも考えたが、騎士団長達が何か話し合っているのを見ればその間だけでも彼らの相手に徹するべきだろうと判断した。


「セドリック王弟殿下。……恐れながら彼らは本当に王族の使用人、ということでお間違いないでしょうか」

「はい。……今は至らぬ点ばかりですが、私の元で教育させます」

ぼそりと姿勢を低くし声を潜めるロデリックに、セドリックも僅かに緊張を姿勢に反映させる。

先ほどまで案内役を担ってくれた騎士団長が部下に任せたのも、気分を害させたのではないか思えば申し訳もなくなった。

「気に障りましたならば謝罪致します」と今にも頭を下げそうなセドリックに、王族に謝罪させるわけにもいかないとロデリックの方が早々に謝罪を返した。

出過ぎた発言でした、と言えばセドリックも謝罪より許すしかなくなる。

敬意を示す見学者ばかりではなく、貴族令息令嬢の中にも物見遊山で訪れる態度の者もいる。双子の態度は尊敬の眼差しがある分微笑ましさもある。

しかしロデリックの目には彼らを王族が友人として招いただけならばまだしも、使用人として雇うに充分とは思えない。これが関係の長いプライドやステイル、ティアラ相手にならばロデリックと「何故彼らを」と言えたが、ハナズオの王弟には言えるわけもない。


わずかに眉間へ皺を深くするロデリックの表情に、セドリックは少しだけその意図を汲んだ。

マナーと教養を網羅した今は、彼らの行動が公的な場では無礼であることもわかっている。「マナーは執事に徹底的に教育させます」「基本的には客の前に出すことはなく」と付け足せば、ロデリックも肯定は返した。……ならば城内の使用人達から王弟の宮殿へ派遣させた方が手間も間違いもないのではと口にはせずに考える。しかし


「教養と礼節は誰の手でもこれから叩きあげられますが〝信頼〟は私自身の努力が必要となります」

フ、一瞬だけ遠い目になったセドリックの整った顔をロデリック達だけでなくプライドも見逃さなかった。ゲームの人間不信の彼が過れば、顔が僅かに引き攣った。思ったよりもファーナム兄弟への教育は真剣に考えなければならないと、仲介した身として考える。

そしてロデリックも、意図を少なからず汲み取った。この国へ移住した彼が〝祖国から連れた以外の〟部下を傍に置くのは簡単な話ではない。


ロデリック達とのやり取りが終わり、改めて自分達の方へ全員の視線が向けられたことを確認してからカラムは「ではそろそろ君たちは次があるだろう」と切り上げた。

カラムの促しに、プライド達を待たせていたかもしれないとディオスとクロイも慌てて振り返り戻った。



……




「んで、あっちが武器庫。絶対入るなよ~、最近は結構新型の武器とかもアネモネ王国のお陰で揃っててさ」

「アラン隊長、中身まで話すと興味持っちゃいますよ……」

「いやいや大丈夫だって!流石にそれくらい我慢できるだろ!」


なっ⁈と楽し気に双子へ笑いかけるアランに今はエリック以外誰も咎めない。

三番隊四番隊の馬上演習見学を終えてから、案内役を交代したプライド達はすこぶる順調に演習場内の見学を進めていた。

さっきまでは説明のある各所以外では興味が別方向にも向いて囁き合う双子が、今はその暇もなくぐるぐると首を回してはすぐに「あれは」と声を張っている。

騎士団演習場見学という重々しさが完全になくなり緊張感もなくなったが、騎士団長に迷惑がかかっていない分良いとステイルもティアラも口には出さず安堵した。

プライドも一人胸を撫でおろしながら、大学のキャンパスツアーをこっそり思い出す。さっきまでは重要機関の説明案内だったのに、アランとエリックが説明を担うようになってから一気に彼ら向きのツアーになっていた。

しかも初めてのツアーであるファーナム兄弟だけでなく、今はセドリックまで楽しそうに耳を傾けている。既に騎士団演習場での案内も見学も重ね完璧に記憶しているにも関わらず、アランとエリックの話はまた別の興味深さに胸を弾ませられた。


「あ!さっきの騎士団の食堂ってどんなものが出るんですか⁈やっぱり強くなる秘密とかっ」

「いや普通の食事だ。栄養面がしっかり考えられているだけで……あ。でも量は多いですよね?」

「多い多い。それに美味いしな。でもプラデストの方が色々選べるし日替わりとかあるのは良いかもなぁ。取り敢えず騎士団の食堂だとお前らじゃ絶対一人で一皿食いきれねぇぞ」

そんなに?!とまたディオスだけでなく双子揃ってアランの言葉に大きく食いつく。

説明を終えた後も気軽に質問を上げては話題が広がり続ける集団を、ロデリックも先導だけしながらも荷が降りたのを自覚する。

最初に自分の話題になったのは事故みたいなものだが、それだけ暇を彼らに与えてしまったのは間違いなく自分の責任だと考える。今まで自分が騎士団に入団してから、騎士団長自ら貴族でも王族でもない庶民の子ども相手に案内役を担うことなどなかったからこその穴だった。

今は自分の話題どころか脱線する暇もないほどに、ファーナム兄弟は演習場内の全てに興味を示している。


「気にするな、ロデリック。少なくとも一度は子ども相手にも飽きさせず案内できたことがあるじゃないか」

「……あれは騎士団長としてではなかったからな……」

また自分の頭を覗いて気遣ってくるクラークに肩を叩かれながら、ロデリックは遠い昔のことを思い出し長く深い息を吐き出した。

やはりクラークに任せるべきだったか、とも思うがあくまで王族訪問という点から騎士団長である自分が出るべきだという判断は間違っていない。

今更ながら、プライドの極秘視察にも万が一講師役が自分になっていたらわりと苦労したかもしれないと密かに思う。


若干落ち込んでいるようにも疲労しているようにも見えるロデリックに、クラークも喉で笑いながら叩いて労った。

昔からロデリックがそういったことが不得意であることはよく知っている。


騎士団長としての任は完璧にやり通している彼が、まさか子ども相手に苦戦させられるなどそれ自体が珍事だった。


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