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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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和気藹々とし、


「僕らって凄い人とたくさん仲良くなれたんだねクロイ!」

「いや僕らっていうか……。それに、ネル先生はともかくレイ達とは知り合いにすらなりたくなかったし」


ディオスからの陽気な投げかけに、クロイも顔の角度だけ変えて返した。

凄い人とたくさんというよりも、単純にプライド王女という存在と知り合った結果色々と奇妙な縁が結ばれただけな気がしてならない。特に今回自分達を雇ってくれた王弟に関しては、プライドの紹介でなければお近づきになることどころか会話すらも難しい。


ディオスがクロイと少し離れた距離のまま二人で会話をすることに、ティアラもセドリックも少しだけ目の行き場に悩んだ、

しかし互いも互いに話したい気持ちもあれば、その場を離れる気にもなれないまま膠着する。

クロイの発言に、ステイルとプライドも思い出したようにお互い半笑いで目を合わせた。レイ、とある意味自分達が関わった所為で最もファーナム姉弟に迷惑をかけてしまった存在を思い出せばクロイの発言も遠回りな嫌味にも聞こえた。

半笑いが次第に苦くなっていく二人の背後で、話を聞いていたアランの方が「あー……」と少し楽し気に声を漏らした。彼らが近所に住んでいることは知っているが、あの後も上手くやっているのかなと腕を組んで想像を膨らませた。

ステイルから「レイはあれから相変わらずですか」と投げかければ、ディオスとクロイも今度は揃って「全く全然」と言葉を意図せず揃えた。


「相変わらずずっと俺様で偉そうで!!昨日なんて急に魚じゃなくて肉が食べたいとか食材まで変えてくるし‼︎ライアーは相変わらず姉さんに馴れ馴れしいし!!」

「最近特に機嫌が悪いっていうかめんどくさい……、です。ネル先生も明日には引っ越してくれる予定だし早く来て欲しい……引っ越しにはその副団長?さんも来てくれるって話だし」

両手に拳をつくりぶんぶん振りながら腹立たしさを証言するディオスに続き、クロイも目は合わせれずともステイルに返す。

二人の話を聞きながら今度はエリックの口が笑ってしまう。そういえば明日副団長が急遽休日を取ることになったとは知っていたが、そういうことかと納得した。ハリソンが何やら副団長に張り付きそして断られていたのも目撃している。


副団長と妹さんの会話、となると自分も少し聞いてみたい気持ちにはなる。アランからすかさず「気になるな」と小声で投げかけられれば思わず素直に頷いてしまった。

明日が休みだったら自分達も手伝うという大義名分で同行してみたい。明日休みのハリソンも何か進言してたのだろうかと考える。


た、大変ね……と半分自分達の所為な気もして言葉をぎこちなく濁すプライドにステイルも眼鏡の黒縁を押さえつけた。

自分達が学校潜入したことで一番人脈が凄まじくなったのは彼らかもしれないと考えながら「何か申告な問題が生じたら僕らかセドリック王弟にご相談下さい」とだけ返した。

今は問題を起こせない立場にいるレイがまさかとは思うが、あの性格なら充分あり得るとも思う。


「でぃっ、ディオスもお食事して下さいっ。こちらのお料理とか初めてではありませんか?」

「!そ、そうだなクロイ。お前も遠慮せず食べろ。どうだ、ディオスにさっきの料理を紹介してやってくれ」

プンスカと眉間に皺を寄せるディオスとクロイに、ティアラが料理へと話を変えればセドリックも慌ててクロイの肩を叩いた。

ディオスの背中に押しながらちょこちょこと続くティアラに反し、セドリックは一歩も動かずクロイの背をそっと押しやる。彼女がきっとクロイとも話したがる筈、と配慮のもとに手放せばディオスもクロイも素直に促されるまま足を動かした。

さっきまで互いに別の王族と話していたが、勧められれば乗らないわけにもいかない。まだ何も手に付けていないディオスが最初に「クロイなにその料理!」と目を輝かせれば、すぐにクロイも皿とフォークごとそれをディオスに押しやった。

こっちがハナズオの国の料理、こっちは、と。小さな皿の料理二つを指差し説明するが、ディオスが早速フォークで頬張る方が早かった。


「!美味しい‼︎えっこれなんの肉⁈ウサギ⁈鳥⁇」

「いや魚。アネモネの海だって」

「そちらの料理私も頂いたことがありますっ。私もすごく好きなお料理なんですよ」

美味しいですよねっ。と、両手を合わせて笑いかけてくるティアラに今度はクロイも少し口を噤んだがすぐに真正面から頷けた。

防衛戦でハナズオ連合王国への滞在歴もあれば、セドリックの誕生日パーティーにも出席したことのあるティアラは既にハナズオ連合王国の代表料理もいくらかは記憶している。


親し気に味の共感をしてくれるティアラにクロイも「とても美味しかったです」と、ディオス越しとはいえ直接自分の口で返せたことにほっとする。

自分の中でほんの僅かではあるが、ティアラとステイル相手にはセドリックの次に慣れたような気がしながら金色の瞳と目を合わせる。

木漏れ日のような温かく柔らかい微笑みに、学校中で噂されるのも納得できた。男子生徒だけでなく女子生徒からも「また一目見たい」と叫ばれるほど、年下の自分からみても可愛くそして綺麗な女性だ。

金色の光に熱されるように頬がまた火照るのを感じながら、自分なりに少しずつ心と身体を慣れさせていく。何度も一方的にでも自分へ話しかけ、兄のディオスの無遠慮な言葉にも優しく応じてくれるティアラに今度こそ会話らしい会話で返したい。


「セドリック様も、その料理がとてもお気に入りと仰っていました。やっぱり王族の方って味覚とか好みもー……、⁇」

似ているんですね。そう言おうとした口がふと止まる。

美味しそうに自分が渡した皿を倍速で平らげていくディオスの傍らで、自分の話に耳を傾けてくれていたティアラの表情が突然張り詰めるように固まった。

耳から始めになんだか自分より赤いんじゃないかと思えば、そこで言葉を止めたクロイは大きく瞬きを返してしまう。にっこりと微笑んだ表情のまま不自然に固まるティアラを前に何か失礼なことを言っただろうかと考えるが、少なくともディオスより失礼なことを言ったとは思わない。

ぷるぷると僅かに唇を震わせるティアラに、料理を飲み込んだディオスも気付き「?どうかなさったんですか」と首を傾けた。


「!ティアラどうした?まさか体調でも……」

「~なんでもありませんっ!わ、わたっ私はその、あちらのお料理を取ってきますね。ディオスもクロイもゆっくりお食事してください」

それでは、と優雅な足取りを少しだけ早めながらプライドの方へと去っていくティアラの背中にディオスとクロイも見送り、互いに顔を見合わせた。


心配して声をかけたセドリックも行き場のない腕を伸ばしたままそこでがっくしと首を垂らす。つい先ほどまではティアラがハナズオの料理を好んでくれた上自分と同じ料理が好きだと言ってくれたことに胸が躍ったセドリックだったが、やはり嫌う自分と同じ味覚なのは彼女なりに不快だったのだろうかと項垂れてしまう。

様子を眺めていたプライドも、火照る顔を俯けながら速足で自分の元へ駆け寄るティアラを両腕で抱き止めたが、セドリックと同じ思考のまま宥めるように妹の金色の髪を撫でた。確かにあの料理はティアラも前に食べた時に美味しいと話していたなと思い出したが、美味しいものは国境を超えるものだから仕方がないと思う。

実際自分やステイルも口にして美味しいという意見は同じだった。


まさか双子の前でもティアラに振られてしまったセドリックに申し訳ない気持ちになりながら眉の垂れた視線を向けるが、振られた本人はティアラの背を目で追う余力もない。

「またやってしまった」と心の中で反省しつつ、自分が結果として追い払ってしまった所為でティアラとクロイとの交流の時間を奪ってしまったことがガンガンと頭に響いた。

三人の和やかな会話を聞くだけで満足していた筈なのに、ついティアラの顔色が変わったらいてもたってもいられなかった。せっかく好きだといってくれたハナズオの料理も、まさか今の一瞬で嫌いになってしまったのではないかとまで考えれば余計に落ち込みたくなる。


急激に姿勢が悪くなるセドリックに、今度は伝染するようにディオスが「大丈夫ですか⁈」と慌てて呼びかけた。

更にクロイも兄の背に続く中、セドリックは「いや気にしないでくれ」とその言葉しか絞り出せない。せっかくディオス達が訪れてくれたのに、しかも初めてティアラが公的抜きで自分の城へ訪れてくれたのにこんなことになるとはともう一時間くらい落ち込みたくなった。しかし今は主賓の二人を気落ちさせるわけにはいかな



「…………やっぱりセドリック様って王族相手でも人気なんですね」



ん??と、突然ぼそりと呟かれた声にセドリックは丸い目で顔を向けたが、クロイは肩を竦めたまま今は彼らを見ていなかった。


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