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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ496.双子は謎解きし、


「え、えっと……つまりジャンヌ達は学校がちゃんとしてるか生徒として潜入して調べてたってこと??」


ええそうよ。

そう言葉を返すプライドも、今は先ほどのように自然にはディオスに笑えない。

口角が引き攣る感覚を覚えながら、ぎこちない笑みと中腰姿勢でディオスに応える彼女は両膝に手を添えながら今は二歩ほど離れた位置だった。

自分が王族とわかっても普段通りに話してくれるディオスには心から嬉しいが、今は物理的距離が少しある。さらにディオスが寛ぎ話をしているのはソファーでも椅子でもなければ、大広間の床だ。

町の地面よりも遥かに綺麗に磨かれた床に座ることにディオスは抵抗もない。しかも今は動けない理由がそこにあった。プライドを始めに先輩となる使用人達やステイル、ティアラ、セドリック達に囲まれる彼の背後には




小さく蹲ったまま兄の背中にへばりつく双子の弟がいるのだから。




ひぐっ……と涙を啜る音が落ち着いてきて、かれこれ五分以上経過している。

一方的に兄へ掴みかかったクロイだが、セドリック達に引きはがされてから今は逆にディオスにくっついて離れない。足腰に力が入らないまま動けず、最初はディオスの背中に隠れるというよりもしがみついているかのようだった。

涙に濡れた恥ずかしい赤ら顔を隠すように顔を兄の背中にくっつけ、そのまま床に座り込んで動けない弟にディオスも珍しいとは思いながら今は文句も言わずプライドとの壁になってあげていた。

セドリックから別室に移るかと提案されたが、クロイが大きく首を横に振った為現状維持のままだ。


耳打ちを受けたディオスから「クロイが「僕に気にせず話してて」だって」と代理発言を放たれ、プライドも今はできるだけクロイに触れずディオスとの会話で現状の説明を進めることにした。

ファーナム兄弟を知っている側から見れば、いつもとまるで正反対の立場の二人に本当にこっちがディオスでクロイかと首を捻りたくなる。

クロイの狼狽姿に一番冷静なのがディオスなのを見ると、プライドも話しながらも「流石お兄ちゃんだなぁ」と心の中で感心してしまう。


「すごいなぁ、だからセドリック様とも仲が良かったんだ。!あっ、そうだエリック副隊長とアラン隊長ももしかして……」

ここにいるってことは……!と、若葉色の瞳を丸くしながらディオスはプライドの背後に一度視線を投げた。

彼女が訪れた時から視界には入っていたが、遥かにプライド王女がジャンヌという事実が衝撃過ぎて思考に入りきらなかった。しかしこうして一度落ち着いてみれば、プライドの背後に佇む二人ともディオスのよく知る騎士二人だ。自分の家に訪れたこともある。


「よっ」と軽い笑みで手を振り笑いかけるアランと、そして同じようにヒラヒラ手を振って苦笑気味の表情を双子に向けるエリックに、プライドも一度振り返ってから肯定で返した。

やっぱり!!と予想が当たったと無邪気な笑みで目を輝かせるディオスに、ステイルもプライドの隣から静かに補足する。


「お二人はプライド第一王女の〝近衛騎士〟だ。あと三人いるが、全員が学校で姉君を陰ながら護衛し続けてくれた」

「三人⁇じゃああとは……あっ!カラム先生は?!あの人も騎士だしー……え⁇クロイ、うん、…………あっ」

まるで物当てゲームのように早速もう一人を上げるディオスに、クロイがこそこそと耳元で口を動かし囁いた。

うんうんと首を動かしながらまだ顔を上げられない弟の話を聞くディオスと、兄にだけ口が利けるクロイを眺めながら思わず笑ってしまう。ディオス越しとはいえ、会話に参加してくれる様子のクロイにほっとした。

言い終わると再び唇を紡ぎ、自分と同じ肩幅のディオスの背中に隠れるが、〝ジャンヌ達〟とその事情を詳しく理解したいと思うのはディオスと同じだった。


「クロイが、アラン隊長がそうならセドリック様と一緒にいるもう一人の黒髪の人も?だって。あと、まだジャックがいないけどジャックはどこにいる⁇」

弟の代弁を受けながら、途中からは自分も同じ疑問の口調で首を傾ける。

察しの良い二人にプライド達も笑顔を向けながら「流石」の言葉が頭に浮かぶ。まだアーサーについては半分未定の状態だが、すんなりと近衛騎士全員の存在が上げられた。


問いかけてから再びぐるぐるとジャックを見回し探すディオスに、ステイルは上がりそうな口角を制御しながら「〝ジャック〟ならこちらの近衛兵の名前ですよ」ともったいぶる。

手で示された近衛兵のジャックは、近衛騎士達のさらに一歩下がった位置で微弱に肩を揺らした。まさか名前を貸しただけの自分まで話題に巻き込まれるとは思わなかった。

基本的に寡黙な彼は、こういう時の冗談にどう乗れば良いのか返せば良いのかもわからない。

大きく開いた目でステイルを見返せば、すかさず「ジャック⁈」と弾んだ声と共に若葉色の純粋無垢な眼差しが同時に視界から突き刺さる。


「えっ!あの人がジャック⁈じゃあジャックは近衛兵だったんだ!えっすごいジャックだけ別人みたい!!」

みたいじゃなくて別人でしょ、と。同じく視線だけはジャックに向けたクロイが頭の中では呟いたが、囁き以外で声に出すほどの余力はなかった。代わりに今にも立ち上がり駆け寄ろうとしそうなディオスの背中の服をぎゅっと握り、手綱を握る。

うっかり騙されかけているディオスへの制止もあるが、同時にここでプライドとの壁がいなくなってしまえば今度こそ心臓が爆発すると思う。いまだ滲んだ視界をもう一度ディオスの湿らせた背中で擦り付けながら上目でステイルを覗く。


そのまま信じているディオスを見て笑んでいるステイルに、やっぱりフィリップだと思う。

口元を手の側面で軽く押さえつけ楽し気な笑いを隠していてもはっきり意地の悪い笑みがわかる。さらに隣に立つ第二王女が「もう!兄様っ!」と頬を膨らませながら腕を突くのを見ると、少しだけ肩の力が抜けた。

ステイル王子もティアラ王女も美男美女の王族であることには変わらないが、しかしそのやり取りは自分もよく知る〝兄妹〟の人間らしいやり取りだった。


…………今は王族でセドリック様が一番落ち着くけど。


そう思いながら、プライド達よりも近距離から自分達を心配そうに見つめてくれているもう一人の王族をちらりと盗み見た。

その瞬間すぐにばちりと赤い瞳と目が合ってしまい「どうした?」と言われれば、ぺこぺこと頭を下げるしかできない。決してセドリックがこの王族の中で比較して目に優しいというわけではない。ただただ中身がジャンヌとフィリップとわかっていても、やはり自分達にとっては一番心を傾けられる王族がセドリックだったというだけだ。

さっきも頭が真っ白のまま訳も分からずディオスに飛び掛かり喚き散らしてしまった時に、一番頭に通ったのはセドリックの声だった。

しかしだからといってディオスのように縋りつくなんて恥ずかしくて畏れ多くて絶対できない。


「でもジャック強かったもんね!近衛兵ならあんなに強いのもわかるしすごく格好良い!!髪とか目の色とかどうやって変装したの?!特殊能力?!」

完全にジャックと思い込んだままその場で呼びかける少年に、近衛兵ジャックは唇を絞ったまま思わず視線を泳がせた。

彼らが〝ジャック〟と呼ぶのが誰なのかはわかっている。しかし銀髪長髪に蒼眼のアーサーと異なり、ぱっつり切った麦藁色の短髪と瞳の自分を何処をどう見ればそのまま納得できるのかと混乱する。

特殊能力と言われれば確かに可能かもしれないが、少なくとも王族二人が髪も目も顔つきも大して変わっていないのにも関わらずそのまま信じる少年の純心さに軽く後ずさった。

珍しく困惑している様子のジャックと、そしていつもの制止役停止中のディオスを見比べながらとうとうプライドが細い声で間に入る。


「あのねディオス?彼はジャックという名前だけれど、名前を貸してくれただけなの。貴方の知るジャックとは別人よ」

「えっ⁈ご、ごごごごごごめんなさい!!!」

やんわりと説明するプライドの言葉に、一気にディオスの顔色が変わる。

てっきりジャックと思ったが、全く違う大人、しかも近衛兵相手に気安くしてしまったと血の気が引いて謝るディオスにジャックも小さく安堵の息を吐きながら礼をする動きで応えた。

フフッ……と、ディオスの反応に笑いを零す兄の耳をティアラがぎゅっと引っ張る。

クロイから呟く声で「見ればわかるでしょ」と言われた途端、身体ごと振り返り「わかってたなら教えてよ!!」と真っ赤な顔で叫ぶディオスは、若干泣きそうな顔になっていた。


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