そしてたずねる。
「俺達は全員セドリック様の御屋敷に住み込んでいるが、君達はこの道を往復して貰うことになる。セドリック様は馬車を用意させようかとも仰られたんだが、使用人に毎回馬車を派遣するわけにもいかないからな……」
「「歩きで良いです!!!!」」
まさかの特別待遇に、双子の言葉がぴったり揃う。
馬車で送り迎えされる使用人なんて聞いたことがない。そう思いながらも、セドリックらしいと納得もしてしまう。
ディオスが「こうやって外の景色見れるのも嬉しいですし!歩くのは好きです!!」と一生懸命に声を張れば、衛兵のバイロンも正面を向いたまま笑い声を零した。
その台詞はきっと後でセドリックにもう一度言うことになるのだろうと考えながら、予想していた以上に子どもらしい子達が来たなと思う。
彼らがちゃんと自分の足並みについてこれているかを時折首だけで振り返って確認しながら「この左右の道を行けばそれぞれ使用人達の住居だ」と案内がてらに説明した。
衛兵の駐屯所もある、道に迷ったらあの建物が目印だと説明をするバイロンの話に二人も真剣に頷きながら耳を傾けた。
「せっ、セドリック様って王居に住んでるんですよね!」
「その通りだ。セドリック様から聞いたのか?それとも学校で習ったか」
「習いました。王族は皆王居っていう特別な場所でそれぞれ宮殿や館を構えていると」
「本当に僕らみたいなのが入っても良いんですか?!」
「そりゃあ使用人が入れないと誰も王族のお世話ができないし御守りできないだろう⁇」
ははっ、と顔の揃った二人へ振り返る。
髪留めの数以外そっくりそのままの双子だが、性格はわかりやすいほど違う。双子と聞いた時は、今後一緒に働く上で見分けがつけるかと不安だったが、これなら問題なさそうだとバイロンは思う。
「どっちがディオスでクロイだ?」と尋ねれば、手をピンと伸ばして声を張るディオスと顔の横まで上げて名乗るクロイですぐに覚えられた。
これから宜しくな、と声を掛ければ今度は二人揃って元気な返事が空気を響かせた。ここはまだ使用人達の区画だから良いが、王居に入ったら静かにするようにと注意しながら足を進ませる。
「騎士様もいるんですよね!あの、アラン隊長とエリック副隊長とカラム先せ……騎士団って皆同じところに住んでいるんですか?」
「ディオス。質問し過ぎ。もうちょっと落ち着きなよ」
「いるぞー。王国騎士団はもっと王居に近づいてからの分かれ道だな。何せ国を守る最強の軍だから、なるべく王族に有事の時には駆けつけられるようになっている」
それでも馬車で移動する距離だけど。と、クロイに注意されたディオスにも気にせず言葉を返す。まだ十四歳の少年の質問はどれも初々しく微笑ましかった。
むしろその後に「でも城門から離れていると今度は民の方に駆け付けるのが遅れませんか」というクロイの真っ当な問いの方がなかなか挑戦的な言い方だと思う。その為に騎士も城下を見回りしている、国内各地へ遠征にも回っていると説明すれば納得したように一言返ってきたが、こっそりバイロンはクロイの方が少し心配になった。
クロイ本人にとっては純粋な疑問だったが、聞いた上級層の人間によっては目をつけられかねない。
城内の案内もそうだが、彼らの人となりについても少し確認してみようかとバイロンは城とは関係ない話題を投げかけた。
「セドリック様から聞いている。二人揃って若く優秀な兄弟達だと。確か件の学校で特待生だったか?」
「いえ!あっ、はい‼︎特待生だけど僕らそんな褒められるほどじゃ……!!」
「王族の方々と比べれば大したことありません。セドリック様なんて僕らと同じくらいの年からもっと優秀だったのでしょうし」
「…………………………………………………」
うっかり固まるバイロンは、笑いかけた表情のまま瞬時には返せなかった。
確かに、優秀と言われれば間違いなくセドリックは現国王どころか歴代の誰よりも優秀な王子だった。幼い頃から神子と呼ばれ、求められた学びを全て一度で習得してしまう天才として上層部にも目をかけられていた。次期国王にと推していた者も多く、目の前にいる少年達よりも優秀な頭脳を持っていた。しかし。
「バイロンさんは昔からセドリック様の元にいた人ですか⁈セドリック様の子どもの頃とかも知ってたり……‼︎」
その制服もハナズオ連合王国の衛兵だからですか⁈と、鋭く指摘まで重ねるディオスにバイロンは足並みが急激に鈍った。
ディオスの推理通り、自分はフリージア王国の衛兵ではない。ハナズオ連合王国、サーシス王国の衛兵だ。セドリックのことも四歳の頃から知っている。
口の中を飲み込み、まだ夢いっぱいの彼らにその現実は言うまいと決める。
「……。私の口からは何とも言えませんが、セドリック様は幼少の頃より極めて優秀な頭脳をお持ちの方でおられました」
セドリック様が四歳の頃から存じております。……と、急に口調が変わりまるで決められている言葉を読み上げているようなバイロンに、二人は同じ角度で首を傾けた。
ゴホンと咳払いをし、この話はここまでだと示すバイロンは額が湿るのを感じながら口を固く結んだ。ファーナム兄弟の人となりを確認する筈が、まさか自分の仕える主の恥を晒す恐れを招くとは考えもしなかった。
すごい、やっぱり、良いなぁ、と口々に言う二人の会話を聞きながら、純粋にあっさり信じてしまった様子にこのまま暫くは夢を壊さないでおこうと考える。実際、嘘は言っていない。
「……今ではハナズオ連合王国の王弟として立派に成長され、我らが祖国とフリージア王国、そして世界の架け橋となるべく国際郵便機関を任された御方だ。日々懸命にフリージア王国にも馴染もうとされておられる」
「!そういえば昨日城下視察に降りられたって噂本当ですか⁈新聞社……?とかいう所に行って、公布を出されたとか」
「公布じゃなくて新聞でしょ。下校中に噂で聞いて走ったけど全部売り切れだった」
「せっかくセドリック様のこと読めると思ったのに……しかも昨日売ってたのはプライド様の独占取材って噂だったし」
欲しかったなぁ、と会話を続ける二人にバイロンは振り向かずとも顔が緩ぶ。少なくともこの二人がセドリックやプライドを慕っていることはよくわかった。
その後も口を結んだまま会話の雲行きを確認すれば、今日発売予定と噂されたティアラ王女の記事も欲しかった、明日のステイル様の記事は朝から並ぼう、と話している。
未来の最上層部二人を慕っているのならきっと大丈夫だろうと一人音もなく息を吐いた。少なくとも、この後の屋敷で失言をするとは思わない。
意図せずとも柔らかな口調で、新聞ならセドリック様が買い取っているから君達なら読ませて貰えるかもしれないぞと言えば、揃って二人の視線が自分へ釘刺さった。
本当ですか⁈良いんですか、と言葉こそ違うが若葉色の瞳の奥の輝きは全く同じだった。
流石セドリック様だと口を合わせ、たった三日振りの相手へ会えることに気持ちも弾み隠せない様子の二人へバイロンはやはり彼らには言えないと改めて思う。
この後屋敷で誰が合流するのかもだが、それ以上に彼が慕い使用人として仕えることを心から望む王弟が
─ 君達と同じくらいの年頃には毎日夥しい数の装飾品で着飾って鏡見ては現国王のお二人の傍を殻がついた雛のようにくっついて離れなかったんだよ……。
そう、言うのは控えることにする。
知らないことは時に残酷で幸せなことだなぁ、と。他人事のように思いながら、セドリックの兄ランスの元護衛の一人であったバイロンは遠い目で屋敷に着くまでの城の案内を再開した。
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