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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ491.記者は焦り、


─ 本物だ。


そう思った瞬間、本気で目の前が白黒にバラバラ光った。

なんかティアラ様とレオン王子が色々話しているけど、焦るくらい頭に入ってこない。今喋った声に、レオン王子の横に並んでいた美女が本当に人間なんだと確信する。喋らないし美女だし人外の域だったから人形か幻覚かと本気で思った。

それくらい現実離れした美女だった。いやもう美人とかどうでも良い。本物を目の前にして本物の声をこんな距離で聞いた時点で心臓がバクバク内側から耳を鳴らした。

ティアラ様に話しかけられただけでも大分危うかった心臓が、プライド様の声を聞けた途端一瞬止まって危なかった。「偶然ね」って言った!!本当の声で言った!!本物が本物の声でしゃべった!!


副社長のジョセフさんが今にも転がりそうな目で俺に何かぶん投げた。ティアラ様から「お名前は⁇」と黄金みたいな目できらきら見つめられて、理解する前に「キース・ギルクリストと申します」とだけ答えた。

お会いできて嬉しいです、とそこまで言われた辺りからやっと社内の案内を俺が任されたんだと、聞いていた会話が薄く脳にまで沁み込み届いた。…………えっ、俺が???


ハッと息を飲んで、力をなんとか入れられるようになった顎で口を硬く閉じる。誰かに確認したくても他の皆は左右に分かれ離れてて、尋ねる隙もない。目の前できらきらと本当に光っているみたいに笑顔を輝かせるティアラ様に余計視界が狭くなる。プライド様が俺の方をずっと見ている気がして上手く目を逸らせない。いつもならペンを握る手に、指先から上手く力がはいらず顔だけが無性に熱い。


一体どうして俺が案内役に任されたのかまで頭が回らず、そこまで思考がいく前にとにかく案内をしないととそれだけに身体を動かした。

まだ視界の色は白とか赤とか黒とか金に光ってギラギラするし、王族相手にこの格好で良いのかもわからないけれど動くしかない。社内の案内自体はダチや兄貴にもしたことがあるし勝手はわかる。この仕事に就いてから自慢しまくっておいて良かったと今思う。


「じゃあ早速お願いしようかな」

先ずは仕事の風景が見たいなと言われても、こんな豪華布陣でいつもみたいに社員が仕事をできるわけがない。

王都の大商人とか社員何百何千いるような会社ならともかくうちみたいな弱小企業じゃ、王族の存在感に落ち着いてなんかいられない。今だって本当なら王族がどんな格好しているかとかそんな様子とか手帳に書き留める内容が百はあるのに、誰もペンをとれず固まっている。ペンが武器に入るからかより、単純に誰も動けていない。

王子だけでも凄まじいのに、王女様二人までは目にも心臓にも悪すぎる。レオン王子に至っては間近で見ても男か女かわからなくなる。中性的な美青年と取材で何度か聞いたことはあったけれど、本当に女が男装していると言われても驚かない。

間近にいる金色の王族が男性的な顔つきで際立っているから余計に女っぽくも見える。いやでもそれを上回るくらい王女二人が美人だった。

気が付けばまた見かけに頭がいく。王族の誰もが別世界だ。いや、もう、そりゃあ、普通に




こんな美男美女なら城下視察バレねぇようにするのも頷ける。




「こ、こちらにどうぞ……」

プライド様の声を聞いて、頭が火事になっていることを自覚しながらなんとかティアラ王女とレオン王子に時間をかけて視線を移す。

不敬にならないよなと頭で十回近く確認してから背中を向けたけど、振り返った先にプライド様がいると思うとそれだけで心臓が皮を蹴破りそうだった。

今までも「王族だから」仕方ないと思っていた掴めない足取りや経路の城下視察だけど今はもっと納得できる!こんな美男美女一人でも城下に降りればいくら変装しても絶対バレる!!場合によっては貴族に扮して城下に降りる王族もいると聞くけど、絶対この人達じゃ顔でバレる!!

王族と知らなくてもこんな綺麗な顔がいたら嫌でも注目を浴びるに決まってる。しかもティアラ様以外はプライド様も含めて背まで高いし、仮に顔を隠していても目立つこと請け合いだ。プライド様に至っては顔隠してもこうっ…………胸……ッ身体つき全体が本当に色々すげぇ目立つ!!!

レオン王子も素顔見せたら絶対目立つし噂通り女性卒倒させるだろうしセドリック王弟に至ってはなんだあのキラキラギラギラ!!全身光って見えるあの人は頭からフードでも被らないと絶対目立つ。煌めく黄金色に男とは思えない艶めいた髪だけでも間違いなく。

こんなんじゃ城下視察したら人が集まってこないようにする方が不可能だしお忍びなんて難しい。美形で比較まともなのはステイル王子くらいかもしれない。いやあの人も同じ人類かって思うくらいすっっげぇ顔整い過ぎてるけど‼︎ティアラ様も女性らしさの固まり過ぎて顔隠しても美少女って絶対わかるんじゃないかと思う。少なくとも鈴の音のような声は、男なら絶対顔を見てみたいと思うくらいの愛らしさだ。


この国の宰相が有能で良かったと、今まで城下視察を取材できたことがない俺がそれでも思う。

じゃないと絶対追っかけとか出てくるだろこの王族面々。王族の血統って全員美形になるようにできてるのかと聞きたくなる。ステイル様とか養子だけどまさか顔採用込みとかねぇよな⁇


背後でティアラ様が「楽しみですねっ」と鈴の音ような声をあげれば、相手が誰かと想像するだけで緊張が波を付けて戻ってくる。

職場の連中に助けを求める暇もない。今まで通り、普通に他の奴らにも案内したようにと意識しながら足を前後に動かして最初の案内場所へ段階通りに向かう。一瞬、王族相手だと知ってる頭が記事構成の為の作業部屋よりも先に社長や裏金がない証拠に経理のところへ連れて行かなくていいのかと考えた。

でも社長はまだ戻ってないしこの人達は俺達を捕まえに来たわけでも裁きにきたわけでもない。多分。あの社長がそういう小細工をするとと思わない。俺だってそんな職場にいたら騎士になったエリックの兄貴と貴族の屋敷に住まわされているロベルトの兄貴に顔向けができない。


そういえば今この場にも騎士が二人いたっけと思い出す。

プライド様の発案した近衛騎士、確か今まで取材で聞いた限りだと城下視察では毎回二人の近衛騎士を連れている。その時によって連れている近衛騎士もバラバラで、噂だと隊長格が多いらしい。こんな状況じゃなかったら近衛騎士にも目がいった。特に史上三人目の聖騎士として認められた騎士〝アーサー〟も、広くは知られてないけど確かプライド様の近衛騎士だ。……兄貴にアーサー騎士について尋ねても「どのアーサーだ?」「騎士は大勢いる」「まぁ良い騎士なのは間違いない」と毎回はぐらかされた。

同じ騎士として身内相手でも軽率にそういう情報を流出するわけにはいかない。アーサー本人も目立ちだかる性格じゃないとそう言って断られた。兄貴は俺の仕事は応援してくれるけど、仕事の手柄や情報は自分で掴めとそこだけ手厳しい。


「……なので、まだ歴史の浅い会社になります。あくまで民営の組織なので情報も全て市井で一般の民から取材をして事実確認をしたものになります。不定期刊行ですが、社長の意向でなるべく毎日に近い頻度で販売しています」

販売数も少ないし。そう言葉を飲みながら、取材の流れを説明して階段を登る。

吹き抜けの階段は埃もけっこう溜まっていて、その度に心臓に悪い。足音が確実に王族と護衛だけのものじゃなくて、振り返ったら確実に王族達の後には副社長達も付いてきているんだろうなと思う。居てくれるのは心強いけど、同時に副社長の前で下手なこと言ったら最悪首が飛ぶと喉が妙な圧迫感に襲われる。

きつくもない筈の首元を指で軽く引っ張って空白をつくれば、早くも服が汗で冷たく湿っていた。


階段に段差をかけた途端、俺の後に続く方向から「ティアラ、良かったら」「ありがとうございますレオン王子っ」「姉君、どうぞ」「ありがとう」とそれぞれ声が聞こえて、遠目だったら確実に今のやり取りだけで手帳一枚二枚は黒塗りできた。……ていうか、すかさずもっと背後からいくつも紙の擦れる音やペンの引っ掻く音が聞こえたから絶対王族の背後に付いてきてる奴ら皆が今になってメモ取っているなと確信する。くっそ、俺も背後だったら絶対書きまくってた。

王族の顔を見ずに目が合う心配も少ない上に至近距離の背後はある意味特等席かもしれない。まぁ王族との間には騎士が守ってるだろうし直接背後じゃないだろうけど。


ていうか今「ありがとう」ってプライド様だよな⁈と思えば、階段を登る足がギシリと緊張で固まりかけた。

声からしてティアラ王女の手を隣にいたレオン王子が、そしてプライド様の手を義弟のステイル様が貸して階段を登っている。その図だけでも振り返りたい欲求に駆られたけど、絶対足は止まるから意識的に首を正面へ固定し進む。「足元にお気を付けください」がどういう音で聞こえてるかもわからない。


取材した後の情報を纏めて記事用に紙面へ書き記す作業部屋、そこからどの情報を使うかどこに乗せるかの構築の話し合いを説明すると、途中で背後から「一回の完成までにどれほどの時間がかかるのでしょうか」と声が聞こえてきた。

聞き覚えのない声の質問に振り返れば、今度はセドリック王弟だ。ティアラ様とは違った黄金色のギラギラ感に一瞬目が眩む。言葉は丁寧だけど、頭の先から足先までの雄々しさの情報が凄まじい。特に顔から王族の圧に当てられて、一瞬困る質問でもないのに言葉に詰まった。

基本的には一日から二日かかるペースが多いけど、大きな記事の時は社員全員で取り掛かって即日で印刷までもっていくこともある。特に目立つ事件や出来事は噂が熱い時の方が圧倒的に売れるし客の食いつきも違うと説明すれば、目の焔をきらきらさせながら「素晴らしい!」と声を上げるセドリック王弟と、……ティアラ王女の「素晴らしいですっ」が重なった。

その瞬間にさっきまで満面の笑顔だったティアラ王女の表情が一秒固まってから微弱に肩を震わせているのが気になった。顔色も表情もにっこりとした社交的な王女らしい落ち着きに戻っているけど、セドリック王弟は心配そうにティアラ王女へ一方的に視線を向けている。もしかして王族で同じ感想が被るのってそれなりに不敬なのか?そうだったら結構不味い空気かなと俺まで胃が縮む。


「……さ、最近だと学校開校は即日に刊行しましたし、ステイル第一王子殿下、セドリック王弟殿下の御誕生日は当日に合わせて全面記事を取り上げさせて頂きました」

空気を変えようと反射的に口が先に動く。

正直に言えば、一番即日刊行で大量に刷って売れたのはプライド様の奪還公表だけどそれを言うとまたまずい空気になる。プライド様を取り戻せたのは良い知らせだったけれど、それまでラジヤに奇襲された上に病床に伏していたという話だ。

当時活躍した王子に、この場にいるレオン王子とセドリック王弟も紹介されていたしここでそれを振れない。……いや、記事にするなら言った方が良いんだろうけど、流石に不敬罪で首を物理的に跳ねられたくはない。

でも案内や説明で口を動かしていると大分緊張もほぐれるなと思う。まだプライド様を視界に入れるまでの準備は心臓ができていないけど、こうして形式的に説明する分は言葉遣い以外は慣れた感覚だ。


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