Ⅱ484.本隊騎士は省み、
─ 〝憧れてしまったものは仕方がない〟……まるで子どもの言い訳だ。
『兄ちゃんそこもっと詳しく!!アーサー隊長は塔から無事に着地できたの⁈城の塔ってすごい高いんでしょ?』
『そりゃあ高いさ!!森向こうの崖よりも遥かに‼︎着地ッ……については言えないし僕もこの目では見ていない。だが!アーサー隊長は落ちて自分も無事では済まないと知った上で‼︎それでも王族を救うべく躊躇いなく塔から飛び降りたんだ‼︎しかもその場に駆け付けたのも本当に奇跡的で』
『王族ってそれ絶対人質に取られていたっていうプライド様でしょ⁈なにそれ格好良い‼︎兄ちゃん本当に盛ってない⁈』
『のん兄達うるさーーーーーい!!いっつも同じ話ばっかでライラつまんない!やっと〝ぼうえいせん〟の話もしなくなったと思ったのに!!』
本隊に入隊してからまもなく、本隊騎士の僕にとって初めての大きな任務だったハナズオ連合王国防衛戦。
それを終えてから守秘義務内容以外は何度も繰り返しブラッドに話して聞かせた。ライラが耳を塞いで怒り出すようになった頃には、もうすっかりブラッドもアーサー隊長に憧れていた。
僕が帰ってくる度に二言三言目にはアーサー隊長の話を聞かせてとせがまれた。
奪還戦の余波は村までは響かず、僕が長い空白を空けて収束後に帰ってきた時にはもう話したいことがあり過ぎて何があったかを語りきるのにも通算で一週間以上掛かった。
その頃はブラッドからおかえりの後の言葉は「この前の続き」が多かった。村の人達もブラッドと僕への態度の差は相変わらずだったが、僕が本隊騎士になってからは寛大な態度が比較的に多くなり、ブラッドも笑顔を見せてくれることが増えていた。
家にい続ける生活も馴染んでいて、ライラもブラッドと母さんのお陰で手がかからない良い子に育った。
ハナズオの防衛戦も凄まじかった。
当時副隊長になったばかりのアーサー隊長は単身で騎士団長の窮地を救い、そして最終決戦でも大活躍をして一躍騎士団で時の人になった。
銃弾を叩き落した、踏み台もなく跳躍力だけで崖の頂まで飛び上がった、空から舞い降りたと。どの話を聞いても興奮したし、そのどれもこの目にできなかったことが死ぬほど悔しかった。
せっかくアーサー隊長と同じ防衛戦に参じられたのに、個人判断が許されていた僕は北の最前線ではなくプライド第一王女が居られる筈だった塔の護衛にいた。その後は急ぎサーシス王国の逃げ遅れた民救援に走っていて、事実を知ったのも全部防衛戦を終えた後だった。
個人判断が許されたのであればやはりそこは我が国の代表が居られるプライド様のお力になりたいと思っ…………、いや別にプライド様が居られるところにアーサー隊長は絶対現れると思ったなんて邪な想いなどなく。
確かにそのお陰でアーサー隊長が剣を投げて見事敵の気球を落とすところはこの目にできたがそうではなく!!プライド様の御身を僕も御守りしたいと思ったのも嘘ではない。
あのアーサー隊長が命を懸けて守ると誓ったと噂に名高く、騎士団長も含めた騎士に支持が非常に高く、更には騎士が一目惚れするに納得できる美しさと強さを持ったあの人を守りたいと僕も微力ながら思った。
レオン王子との婚約騒ぎの時はあんな美人な王女なら騎士が憧れるのも当然だろうな程度にしか新兵だった僕は思わなかったが、その後の防衛戦でよぉおおくわかった!!
何故あの人があそこまで騎士からの人気が異常に高いのかもアーサー隊長が心酔と言って良いほどお慕いしているのかも!!あの日から他にも武勇伝の一つや二つはあるのではないかと何度無意味に騎士の飲み会の場や食堂で聞き耳を立てたか!!アラン隊長は特に声が大きい上にプライド様か殲滅戦の〝ジャンヌ〟という少女の話ばかりだから助かった。
プライド様が数年前に騎士団奇襲事件で予知をし崖に飲まれる筈だった新兵や騎士団長を市の運命から救ったことが皮切りだったと知った時は驚いた。
当時プライド様はたった十一歳なのに、予知という形の助力とはいえそんな子どもの頃から騎士団に助力し慕われたのだから。ッいや!王族にしか授からない特別な〝予知〟を騎士団へ報せて下さったことがどれほど特別な行為なのかは僕もわかっているが!!
新兵だけでなく、今の本隊騎士の、僕にとっては先輩である名高い騎士も騎士団長もプライド様の予知がなければ生きていなかったと思えば感謝しかない。そんな相手を騎士団が尊ぶのも当然だと思う。
そして防衛戦。あの演説も、そしてハナズオ連合王国で自らの命を天秤にかけてまでチャイネンシス王国を奮い立たせ騎士隊を率いて援軍に赴いたなどそのどれを聞いても尊敬せずにいられるわけがない。
一介の王女が簡単にできることじゃない。足を折っても悠然と僕らの前で語らい笑顔を見せてくれた姿も気高かった。王女というよりも戦士に近かったと思う。
僕だけじゃない、あの防衛戦を終えて騎士団での支持と名を高めたプライド第一王女は間違いなく騎士団の憧れと尊敬の的だった。
そして、……奪還戦。
正直、今でこそブラッドに胸を弾ませ語ることができた僕だったけれど、奪還戦〝まで〟が一番長く、深海の底のように苦しかった。
プライド王女が倒れたと聞いただけでも現実を疑ったのに、その後に続けてアーサー隊長の騎士称号一時剥奪、瀕死の意識不明の重体で運び込まれ右腕の損失。…………最初耳にした時はどうしても頭が拒絶して信じられなかった。
事実を受け入れた後は目が開いているのに真っ暗で、この先どこへ向かって歩けばわからなくなるほど喪失感が酷く、正直プライド様が倒れたことを知った時よりも僕には衝撃だった。父さんが殉職したと聞いた日と似ていた。
奪還戦では城内の警備、アネモネ王国のレオン王子が重傷で運び込まれた後はその救護棟での護衛に移された僕は正気に戻られたプライド様をいち早くこの目にすることはできたが、その間の奇跡を詳しくは知らない。
最初にプライド様を目にした時は目を零しそうになったし、「ありがとう」と言葉を貰えた瞬間には思わず込み上げた。あの人が帰ってきて下さった事実と、同時にアーサー隊長の全てが本当に報われたのだと思った。……その後、そのアーサー隊長までまさか右腕ごと復活してプライド様の窮地に駆け付け活躍したと聞いた時は都合の良い夢かと本気で暫く自分を疑った。
祝勝会までアーサー隊長を直視できなかった。僕があれだけアーサー隊長に対して言葉数が少なかったのは初めてだろう。
それほどアーサー隊長の復活が奇跡で、何日経っても考えれば泣きそうになって顔ごと逸らして逃げた。
騎士団長子息、最年少入団入隊副隊長昇進に続き防衛戦の活躍を経て騎士隊長昇進。最速飛び級を果たしたハリソン隊長を一日の死闘を超えて下したまさに実力主義の頂点。
奪還戦前にラジヤ帝国の情報を命からがら掴み、その情報が国を救い、右腕を損失しても変わらず僕らを鼓舞してくれた。
アーサー隊長の瀕死と右腕損失にどうしようもなくなりかけていた僕も、アーサー隊長の犠牲を意義あるものにと決意を胸に立ち上がれた。騎士の命である腕を失った尚あんな強い目をできる人間なんて聞いたこともない。
しかもその後には腕も傷も回復してプライド王女の窮地に颯爽と駆けつけるなんてアーサー隊長は本当に現実離れした生きる伝説だと思う。
子どもの頃に読んだ不死鳥を彷彿とさせられてからは、何度も胸の中では呼んでしまった。
その後に聖騎士の称号まで与えられた時なんて本当にこの人は現実の人間なのだろうかと思ったくらい驚いた。歴史上二人としかいない聖騎士がこの時代にまた存在し、それが僕の憧れたアーサー隊長で、やっぱりこの人は本当に僕が思った通りの素晴らしい騎士なんだと何度も何度も思って見上げる高さが離れても全く虚しさも嫉妬も覚えずただただその部下であることが誇らしかった。そして僕は
そんなアーサー隊長の部下として、醜態を晒すしかできなかった。
Ⅰ577
明日土曜日も更新致します。その分、次の更新は13日火曜日です。
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