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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り王女と結合

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Ⅱ468.嘲り王女は尋ね、


「おはようございます、プライド様」


おはよう、と。続けられる朝の挨拶にいつも通り私は言葉を返した。

朝の支度を手伝う専属侍女のマリーとロッテから始まり、扉を開けば近衛兵のジャック、ティアラ、ステイル、そして近衛騎士のアラン隊長とエリック副隊長へと笑いかける。


極秘視察を終えて元の王女としての平日は少しだけ新しい気持ちになる。

視察中も式典の合間にはこうしていた筈なのに、もう明日も明後日も勿論学校はないという感覚にほっとして、少しだけ残念に思ってしまう。アムレットに会えないのが寂しい。……そうだ、アムレットと言えば。

そう思い出すと、まるで私の寂しさを感知したように「お姉様っ」と満面の笑みで両手を広げてティアラが抱き着いてきた。

アムレットには会えないけれど、愛と癒し成分の塊であるティアラに癒されながらその柔らかなウェーブがかった髪を撫でる。


「アラン隊長、エリック副隊長、ステイル。昨晩はよく眠れた?」

昨日まで本当にお疲れ様、とティアラを撫でながら彼らに投げかける。

私はぐっすりだったけれど、彼らも一か月間の極秘視察の緊張が取れた頃だろうか。アラン隊長はセドリックへのファンレター対応で忙しそうだったし、エリック副隊長は一か月も家族に秘密を通していて、そしてステイルは。


「俺も問題ありません。夜も〝滞りなく〟過ごすことができました」

大丈夫です!と答えてくれるアラン隊長とエリック副隊長に続いて笑んでくれるステイルは、私の目から見てもいつもの調子だった。

本当によく眠れたのかすっきりした表情にも見えるステイルに心からほっとする。昨日はお母様と再会しただけでなく私の所為ですごく責任を感じさせてしまったし、夕食の時にもまだ気落ちしていたのか挙動も落ち着きがなくて本調子じゃない様子がちょっと心配だった。こういう責任を抱えちゃいやすい性格とかやっぱり心優し過ぎるティアラのお兄ちゃんなだけあるなぁとこっそり思う。まぁそういうところもステイルの素敵なところなのだけれども。

最後に私にわかるように伏せて報告してくれた言葉に、どうやら無事昨晩の内にエリック副隊長の家に訪問は叶ったらしいと理解する。


『今晩、その……エリック副隊長のお爺さんお婆さんにこっそりお会いしたくて』


そこまで聞いた時点でアーサーが何を考えてくれているかはわかった。

初日にエリック副隊長のお爺様お婆様に会った時からお二人の身体の調子が悪いのは聞いていたし、私もステイルも一度は過ったことだ。

流石にジャックがアーサーだと正体を知っているエリック副隊長もいる状態で触れてうっかり特殊能力がバレても大変だし、少なくとも極秘視察中は無理だろうと思った。でも最終日の夜に早速行ってくれるとは思わなかった。

しかもアーサーが自分からの希望だ。忍び込むことは難しいからと、一度お爺様お婆様の部屋に入ったことのあるステイルに協力して欲しいと私にも打ち明けて貰ったけれどこちらからも願ったりのことだった。

ギルクリスト家には本当にお世話になったし、この後のお願いを置いてもお礼としてこれ以上のものはないと思う。何よりアーサー個人が自分から望んでくれたことを私が止めることもない。

アーサー自身が特殊能力を誰かの為に使いたいと思ったのだから。……まぁ、第一王子であるステイルに協力して貰う事に謙虚なアーサーが遠慮してくれる気持ちもわかったけれど。


ステイルの様子だと、どうやらアーサーの特殊能力も効果があったようだ。

肺が悪いお婆様はともかく、足の悪いお爺様も回復に近づいたのだろうか。そのあたりも後でこっそり聞いてみたい。エリック副隊長本人は、まだどうやら知らない様子だもの。

きっと昨日は御実家に帰っていないのだろう。今まで私達の為に頻繁に帰っていただけで、それまでは休みの日くらいだったようだし。


良かったわ、とステイルに言葉を返しながら視線をエリック副隊長へと滑らせる。

いつもと同じ柔らかな笑顔を向けてくれるエリック副隊長へ「そういえば」と言葉を繋げた。本当は昨日お家の下校時に相談したかったのだけれど、帰りの道もギルクリスト家に帰還後も言える状況じゃなかった。

午後からはそのまま近衛騎士も交代してしまったし、機会は今が最短だ。


「エリック副隊長、実はその、少しご相談があって……」

何でしょうか、とエリック副隊長の目が僅かに丸くなる。

隣でアラン隊長も興味深そうにする中、ステイルはもう察しが付いたように私の向かいからそっと位置を背後へと回ってきてくれた。

ティアラが腕の中でぱちくり大きな目を丸くする中で、私は言う前から少し口が苦くなる。だけど相談するのならなるべく早く、そして断られやすい時にしないと。

レイとの約束までは余裕もあるけれど、駄目だったら断りの手紙も用意しないといけない。


「勿論断ってくれて大丈夫です」とはっきりと前置いてから、私は順を追ってエリック副隊長に打ち明ける。昨日、ちょっとしたきっかけで複数人から〝ジャンヌ達〟への文通が希望されたことを。

その為にもし可能であればギルクリスト家の住所を貸して欲しい、勿論私達が通うわけではなくその手紙をエリック副隊長に中継させて欲しい、恐らくご自宅に私達の友人が手紙だけ届けに来るかと思うと。そう説明と一緒にお願いすれば、ティアラが「素敵ですねっ!」と目を輝かせた。……けれど途中ですぐエリック副隊長が断れるための余地の必要性に気付いたらしく、自分で口を両手で覆ってそれ以上は黙した。


アラン隊長が半笑い状態で説明する私とエリック副隊長を見比べる中、当本人も顔が間違いなく強張っていた。たらりと額から汗も伝っていて、もう断られられる気しかしない。

エリック副隊長の反応に半ば諦めながら、決めていた言葉を重ねる。


「勿論断って頂いて結構です。アムレット達にもそういう断りは一応伝えていますし、ディオスとクロイも今後我が城に来ますからなんとか理由を作って彼らに手紙のやり取りを手伝って貰えないかも考えますし……」

その場合は何故ディオスとクロイが私とやり取りできるのかの理由作りが難しいのだろうけれども!!

二人ともセドリックに雇われたことは表沙汰にはしないようだし、「城で働くときにジャンヌ達の親戚のアラン隊長に渡す」という言い訳も使えない。

ならばクラーク副団長の妹さんであるネル伝てという理由も考えたけれど、先生と双子が同居していることもアムレット以外は知らされていないし……ネルに正体はまだ隠したい。


まさか表から裏から手を回して貴方の技術が欲しくて囲い込み戦法で暗躍しちゃいましたなんて言ったらストーカーを見る目でドン引かれてしまうかもしれない。

今度ディオスとクロイにバラすのも今から考えるだけで緊張するのにネルまでは、せめてもうちょっと……もう暫く時間が欲しい。


とにかく今は命令にならないようにだけ気を払う。

エリック副隊長もやはり断りにくいのか、冷や汗を流しながら口が僅かに空いて動かないようだった。視線も落ち着かない様子で微弱に栗色の瞳が揺れている。

多分断りたいけれど私達側の事情を考えて物凄く葛藤してくれているのだなとわかる。これはもう私から上手く引き下がるしかないと、返事を促す前に決める。

このまま沈黙戦になったらエリック副隊長が折れてくれるのは目に見えて


「プライド。それについて、俺からも一つ別案があるのですが」


不意に背後に位置を変えたステイルから投げかけられ、私の右肩がぴくくっと揺れる。

ティアラも丸くした目をステイルへと上げる中、私も一緒に背後へと振り返る。眼鏡の黒縁を指先で押さえながらにっこりと笑いかけてくれるステイルは、見慣れた何か企んだ時の笑みだ。

別案?と目を合わせれば「プライドの案で問題なしであれば俺から言うこともないと思っていたのですが」と前置いた。どうやらエリック副隊長の返事を確認してから言おうとしてくれていたらしい。昨日までは別案なんて聞いていなかったのに、と思いながら身体ごと振り返る。

別案が出てからもエリック副隊長から異議がないところからも、やっぱりこちらの方向の方が現時点では有力だろう。


「先にお断りしておくと、どこからもまだ同意を頂いていませんし今日ヴェスト叔父様に確認を取って可能そうであればお願いする形にしようと思います。ただ、エリック副隊長のご実家を経由するのと同様に理由のつく経由路にはなるかと」


そう言ってステイルが考えてくれた案に、……今度は私が空いた口が塞がらない。

口端が変に上がったまま、改めてステイルの天才策士ぶりを確認する。確かにそれならエリック副隊長とご家族にご迷惑はかからない上に、〝彼〟にとっても嬉しい展開且つ自然だ。繋げようもいくらでもある。

ちゃんとアムレット達へ言う建前まで丁寧に用意されてくれたステイルの別案は、上手く私達の手紙往復を組み込んでくれていた。

背後からアラン隊長の笑い混じりの声が聞こえる。ティアラも今度は声には出さず目だけきらりと輝かせれば、ステイルも「いかがでしょうか?」と早速私の意見を尋ねてくれた。


「プライドさえ宜しければ今日から早速動かさせて頂きます。ヴェスト叔父様の許可があれば、こちらの方が引き受けて頂きやすい条件だと思いますし」

「ええ、とても……とても素敵な案だと思うわ。ヴェスト叔父様からご許可を取れたら私にも教えてくれる?お願いする時は私も同席したいわ」

勿論です。と、笑ってくれたステイルはなんだか満足げだった。…………一体いつから考えていたのだろう。

もしかしてこれも手紙の有無はさておき本当は私にもこっそりぎりぎりまで秘密で動こうとしていたのかなと考えれば、やっぱり昨日のうちに話して良かったと思う。

私の表情で気が付いたのか、ステイルから「昨日までは俺一人で承諾まで締結しようかとも思っていたのですが」と肩を竦められてしまう。もう今度こそ「やっぱり!」とうっかり声が漏れた。

その途端、ステイルが少しだけフフッと笑いを零した。今はこの私の反応も織り込み済みだったらしい。


「ということで、申し訳ありませんエリック副隊長。こちらからお願いしておいて大変恐縮ですが、一度保留させて頂きます。場合によってはこのまま僕からの別案で進ませて頂くことになるかと思いますが、お許しいただけますか?」

「ッは、い。勿論、です……こちらこそ本当に申し訳ありません……」


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