表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
嘲り少女と拝辞

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

703/1000

Ⅱ461.嘲り少女はお礼し、


「本当に、本当にお世話になりました」


ギルクリストさん、と。

エリック副隊長と共にギルクリスト家へ戻った私達は、改めて感謝を伝えた。

女子寮で最後の用事を終え、校門前のエリック副隊長と合流した私達は無事に学校を後にすることができた。校門前にはいつもの面々に加えて今回はカラム隊長まで待っていてくれた。


用事が色々重なって随分待たせてしまったなと申し訳なかったけれど、駆け足で私達が合流した時には四人で楽し気に談義中だった。むしろ白熱中だったようにも思える。

王族騎士の中心には、見覚えのあるリュックが開かれていて一瞬ネイトが最後の最後にまた没収でもされたんじゃないかとも思ったけれど。まさかのリュック丸ごと大盤振る舞いプレゼントだと聞いた時は驚いた。

ネイトがカラム隊長に懐いていたことはわかっていたけれど、あんなリュックいっぱいになるほどの発明を贈りたかったなんて本当に大好きだったんだなぁと思う。まるで卒業式に第二ボタンどころか制服ワンセット贈るような思い切りの良さだ。


私もちょっと覗かせて貰ったけれど、使い方が想定できる物やゲームで登場したグッズのみならず全く用途が想像できないものも詰まっていた。これにはアーサーもステイルも目を見張っていた。……今後、レオンとの商売が始まったらきっと価値も跳ね上がるのだろうなぁと思う。

ネイトにとっては金銭的価値よりも単に自分のできる精一杯のお返しと気持ちを贈りたかっただけなのだろうけれども。

帰り際にはネイトのリュックだけでなく、エリック副隊長が持つのを手伝っていた花束や教職員からの贈り物の数々を抱える背中はもう人望の塊だった。

それに何より、単にお世話になって大好きなだけではなくてカラム隊長だからこそ自分の大事な発明を託せたのだろう。

セドリック達と別れてから道途中まで私達と一緒に帰ってくれたカラム隊長の話を聞けばそう思えた。


今度家に使い方を聞きに行ってみるとカラム隊長と笑い混じりに言っていたし、もしかしたら騎士の職務中に役立つこともあるかもしれない。何せ作ったのは第二作目攻略対象者でもあるチート級発明家ネイトだ。

ステイルも帰路中は少し放心していたのか少し反応が気になったけれど、玄関前でアーサーがばしんと叩いたら目が覚めたように姿勢が伸びた。

アラン隊長も校門で何故か目が丸いままポカンとしていたけれど。視線がこちらに……というか私の方に向いていたから多分ネルの刺繍に見惚れたのだろうと思う。心なしか顔が紅潮してみえたけれど、男性の目にもすっごく素敵な刺繍とワンピースだからきっと間違いない。一度グッと言葉の変わりに親指を立てて見せてくれたし。

アラン隊長だし多分、似合うよの意味だと思いたい。見回りの時は他の生徒が陰で刺繍や服まではみえにくいもの。


それから道途中で城方向へと帰る隊長とも分かれて、無事エリック副隊長の家へ最後の帰還を果たして後は挨拶して城に帰るだけ、……だったのだけれども。

玄関を開けたエリック副隊長に続く私達を迎えてくれたのは、エリック副隊長のお母様とそして仕事をわざわざ休んでくれたキースさん。更には仕事を抜け出してきてくれたお父様までいらっしゃった。お爺様おばあ様は奥で休んでいるそうだけれども、まさかの私達が最初にご挨拶した時と殆ど同じ面々で迎えてくれたことにも驚いた。


特にお父様、仕事を抜け出したにしては私達もいつもの時間より帰りが遅れてしまったし大丈夫だったのかしらと思ってやんわりとお尋ねしたら「間に合って良かった良かった」と逆に笑ってくれた。話によるとお父様が一時帰宅してきたのもつい十分ほど前だったらしい。

そんな間に合うかわからなかったにも関わらずそれでも貴重な時間にわざわざ挨拶に来てくれたなんてと、もうそれだけで感激してしまった。流石はエリック副隊長とキースさんのお父様。

こんな素敵なご両親ならきっと真ん中の弟さんもすごく良い人に違いない。


「寂しくなるなぁジャンヌ、ジャック、フィリップ。今度こそ城と城下見物に行こうな」

またいつでも来いよ、と。

キースさんが私達の頭を順番にうりうりと回すように撫でてくれた。本当に最後まで優し過ぎる上に温かな扱いに胸が温かくなって顔が緩んでしまう。……横でエリック副隊長はまた青い顔をしていたけれど。

アーサーにならともかく、王族相手に身内が頭を撫でるというイベントに心臓が悪いのは仕方がない。だけれど今はあくまで庶民だし、と今日まで何回も思ったことをまた私は頭に浮かべてエリック副隊長に顔を向けて返す。

気にしていないし寧ろ擽ったいような嬉しいようなと気持ちが伝わるように笑みを見せれば、途端きエリック副隊長の肩が小刻みに上下した。

ステイルも私達の様子を見て、同じようにキースさんへ笑みを浮かべてみせた後そのままエリック副隊長に視線を送っていた。ウインクまでぱちりと送ったところでステイルからの合図にエリック副隊長の肩が降りて見えた。


アーサーが「ありがとうございます!」と行儀良くキースさんへ最後に声を張る中、テーブル脇に立っていたお母様が今度は長方形の包みを両手に歩み寄ってきた。

綺麗な包みとこのタイミングに、まさか!と思えばエリック副隊長もハラハラとした表情で唇を結び私達とお母様を凝視していた。

テーブル前に座るお父様とキースさんはもう知っていたように笑顔でこちらに視線を合わせる中、アーサーとステイルの真ん中に立つ私へお母様が箱を差し出してくれた。


「ジャンヌちゃんとジャック君とフィリップ君三人に。城下の土産品だけど記念にね」

持ってみれば重さは大して感じられない箱だけど、両手で受け取った瞬間重量とは別の重みで身体が強張りそうになる。

お世話になっただけでなく贈り物まで!!

続けて話してくれるお母様によると、出費がお父様でキースさんがお店提案でお母様が買いに行ってくれたらしい。家のことでお忙しいのにわざわざ!ともうそれだけで抱きつきたくなるくらいに嬉しい。


エリック副隊長だけは知らなかったらしいけれど、ギルクリスト家からの贈り物だ。

中を開けても良いか確認を取り、早速包みから小箱を開いた。アーサーが箱を持ち、ステイルが包装を綺麗に畳んで回収してくれる。エリック副隊長も中身が気になるように上から首を伸ばして覗き込む中、蓋を開ければそこには可愛らしい人形が三つ収められていた。とても可愛らしい作りの小さなお人形に一瞬胸が弾み、……直後に背中がヒヤリと冷たくなった。


ステイルから細く息を引く音と、アーサーから「ン゛」と詰まるような音が殆ど同時に聞こえる中、笑顔が強張らないように意識して箱の蓋を取る。

ギルクリスト家の方々へ顔を上げられない中、一緒に覗き込んでいるエリック副隊長からも絶句するように言葉がない。多分三人とも私と考えていることは一緒だろう。

人形自体に問題があるわけじゃない。別に五寸釘が刺さっているわけでも、趣味が悪いというような変わったものでもない、手編みで作られた可愛らしい手のひらサイズの人形だ。

フリージア王国へ訪れた旅客への土産にもなれば普通にインテリアや我が国の子どもがお人形遊びにも使えそうな本当に本当にただただ可愛らしい人形三つだ。…………そう、とても可愛らしい




我が国の騎士、王子、王女のお人形だ。




「ちょっと子どもっぽ過ぎるかしらとも思ったけれど、まぁお土産だし家のどこかにでも飾って」

そう笑いながら軽く言うギルクリスト家お母様の言葉、そこでやっと息を吐く。

良かった、本当に他意はないらしいと胸の中で安堵する。

てっきり最後の最後に正体がバレていました展開かと思って本気で焦った。社交界で鍛えられた表情筋を維持しつつ「ありがとうございます」と自然な声で返した。

ステイルに続き、アーサーだけがまだ動揺を隠せていないようにカタコト混じりだったけれど、それでも恐ろしいネタバラシ展開はなかったことは何よりだった。


小箱にいれられたお人形は、フリージア王国の雑貨屋さんで売られていたものらしい。他にも木彫りに着色した人形とかいろいろあったけれどこれが一番手軽で三人らしかったからと言いながら、お母様が一つ一つ指してどれが誰宛てかを説明してくれる。


先ず最初にジャック宛なのが、〝騎士〟の人形。我が国でも憧れの的である騎士団の団服にも似せた格好をさせられたお人形だ。顔は騎士らしくキリッと眉を寄せて剣を構えていて、確実にどの人形よりもアーサーにぴったり過ぎるお人形だった。親戚設定のアラン隊長が騎士だからその繋がりで選んでくれたのか、それとも男の子一番人気キャラだからか、それともジャックが騎士を目指しているという設定故か。取り敢えずアーサーが騎士だとバレたわけではないらしい。

そして〝王子〟がフィリップで〝王女〟が私なのだけれど、この人形どう見ても。


「こっちが我が国のステイル第一王子で、こっちがプライド第一王女。どっちも二人にもよく似ているわよね」


ありがとうございます本人です!!

そう叫び出したい気持ちを堪えて、私は笑顔を意識したままステイルと目を合わせた。

「本当、ですね。……」と、ステイルから絞り出すような声が返される中で、もう心臓が氷に浸されたみたいにキンキンに冷えて縮こまる。

そう、似ているどころか正真正銘私達をモデルにしたお人形だ。


フリージア王国はチャイネンシスほどの強い宗教がないから、代わりに王族が民の信仰対象にも近い。だから王族を模した人形とかのグッズ……いや、偶像化もある。

私やステイルに似せた人形があること自体は全然驚かない。だけどまさかこのタイミングで私達が贈られることになるなんて!!

騎士の格好をした人形のアーサーと違って私とステイルの人形は服装は王族っぽい格好なだけだけれど、髪色と目の色が見事同じ色で再現されている。


顔の絵自体はお人形らしい簡易なものだけれども、それでも王女にこの髪と目は間違いなく私だ。…………どうしよう、同じ店でティアラのお人形もあるかしら。ものすっっごい欲しい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ