Ⅱ443.嘲り少女は恥じる。
「ネイトも納得してくれて何よりでした。パウエルとも今後は問題はなさそうです」
ヘレネさんには助けられました。そう続けるステイルに、プライドとアーサーもそれぞれ肯定を返した。
昼休みが終わり、それぞれと別れたプライド達は階段を昇りきる。
下の階でネイトとも分かれ、中等部二年の階にまで上がりながら最初に出た話題は当然彼らのことだった。最初こそネイトへ打ち明けることに少なからず不安を抱いていたプライド達だが、結果としてヘレネとパウエルに助けられたと思う。流石はあの双子が慕う姉だと思いつつ、今後も昼食の約束を取り付けた三人の姿を思い出した。惜しみなく褒めてくれるヘレネとパウエルに挟まれたネイトは、まるで二人の弟のようだったと思う。
彼らとの別れは惜しいが、自分達がいなくなっても円滑に関係を築いてくれることは嬉しい。
「ファーナム兄弟とアムレットには挨拶も終えていますし、残すところはネル先生と……彼にも挨拶をするのですよね」
「ええ、ネル先生には三限が終わったら行こうと思うわ。レイもー……、……」
今朝話したにも関わらず、再度確認するステイルから尋ねられた言葉にプライドも途中で言葉を濁す。
今まで挨拶を重ねてきた相手と違い、レイにはとてつもなく挨拶しにくい。ステイルとアーサーもその一点においては同意見だ。
先ず、レイがいる中等部三年にはセフェクがいる。ネイトのゴーグルを使えばセフェクに気付かれる心配はないが、傍にステイルとアーサーがいれば確実に気付かれてしまう。
ゴーグルの特殊能力効果はあくまで単独で気付かれなくするだけ、傍にいる人物から結びつけばプライドにも気付いてしまう。殲滅戦でセフェクにジャンヌという呼び名も顔も覚えられているプライドは特に接触するわけにもいかない。予知した生徒もとい攻略対象者を見つけた今、そんな危険を負いたくもないことも事実だった。
そして何よりも、プライド自身別れを告げたからといってレイが惜しんでくれる姿が想像もできない。
「だから何だ」もしくは「俺様に何の関係がある」だとプライドは思う。しかもレイにはもう一度学校外で会う約束も取り付けていれば、その時に打ち明けるのでも問題はないかしらと思ってしまう。ライアーと再会できた今、自分がいてもいなくても彼にはどうでも良いことだろうと本気で考える。
ステイルとアーサーにとってはむしろ反対の意味での〝あまり伝えたくない〟だったが、どちらにせよ学校で小火騒ぎを起こされる恐れがある今はここで黙して後日にレイの家でやり取りした方が良いのではないかと思う。
前回のファーナム家訪問を考えても、できればライアーがいる時が最善である。
「……やっぱり、断り程度は伝えたいわ。突然知り合いがいなくなったら流石にびっくりするだろうし、あの子はそういうのは嫌いでしょうから」
二人がレイの言動を良く思っていないことも心配してくれていることも分かっている。
プライド自身、本音を言えば「びっくり」すらしないと思う。だが、やはりレイの過去を考えると少しでも関わりが深くなってしまった立場として最善は尽くしたい。ライアーにも目の前で消えられて長年探し続けていた彼だ。なんだかんだ、自分のクラスメイトよりも深く関わってしまった相手でもある。
肩を竦めて笑うプライドに、ステイルとアーサーも目配せもなくそこで諦めた。
わかりました、とそれぞれ答えるステイルとアーサーに感謝を伝え、教室の前で立ち止まった。
既に三限に向けて教室に戻ってきた教室は大勢の生徒で賑わっていた。その話題の大部分は、ここに来るまですれ違った生徒達と同じくセドリック一点である。
「一目見れて嬉しい‼︎いいなぁ、名前呼んでもらえた子……」
「あの手紙の山見た?流石王族‼︎」
「王族の人に手紙なんてと思ったけど、セドリック様はやっぱり受け取ってくれたのが流石は」
「なぁあの手紙全部持ち帰ると思うか?昼休み終わり二袋以上になって双子と騎士も抱えてたぞ……」
「馬車なんだから平気だろ。ほら、いつも校門前辺に停まってる」
「ねぇ今度こそ渡したいから校門前で待ち伏せして良い⁇」
「授業終わったら走ろう!!」
昼休みにセドリックを目にした生徒から手紙を渡せた生徒に再挑戦を目論む生徒、殆どの生徒が食堂前の集中した昼休みに話題を独占したのは当然のことだった。
教室に入っても変わらぬ話題に、プライド達も笑いそうな口を押さえながら自分達の席へ向かう。習慣的にいつもと同じ席に座ろうとした彼らだが、途中で今日は席順が違うことを思い出す。
今日に限ってプライドと隣同士ではないと思いつつ、賑わうクラスメイトとすれ違いながら席へと向かう三人だが、教室に入った途端先ほどまで会話に夢中だってクラスメイトが何人か盗み見るように視線を向けてくることに気が付いた。
振り返り、視線の矢にプライドの肩がわずかに上がる。まさか自主退学がバレたのかしら、と思いながら視線に気づかないふりをするプライドにステイルとアーサーもわずかにぴりりと警戒を強めた。しかし、直後にはそれが取り越し苦労だったと気づく。
「?あれ……なんすか」
一番最初にアーサーが違和感に眉を寄せた。
一瞬の差でステイルとプライドも気付き、二度見したが見間違いではない。自分達の席にと足を動かしながら、教室を出ていく時とは明らかな変化にアーサーは首を傾げてしまう。
意見を求めるようにステイルとプライドに視線を向ければステイルは敢えての無表情を作り、プライドは今度こそ苦笑いが隠せていなかった。アーサーと違い、二人は視界に入った瞬間に察しがついていた。
こそこそと、さっきまで気にせず話していた生徒も何割かが声を潜め出す。
窓際最後列に位置するプライドの席、ではない。彼女の席だけがむしろ不変だった。変化が起こったのはその周囲、一つ前のアーサーの席と二つ隣のステイルの席に
複数の〝封筒〟が重ね積まれていた。
「なんか、セドリック王弟に渡されてたのと似てますね」
「ジャック。気づけ、似てるじゃなく同じものだ」
一番手前にあるステイルの席で手紙を目前にしてもまだ呆けているアーサーにステイルが肘で突く。
思い出せ、と昼休みにどうしてセドリック宛ての手紙が山積みになっていたのかを指して言うがどうにもアーサーは首を捻ってしまう。「いやお前はそうだろうけどよ」と言いながら、ステイルの机の山を横切り今度は自分の席へ歩み寄った。
昼休みでのヘレネ達との会話は覚えているが、ステイルになら未だしも自分に恋文という現象に全く現実味が沸かない。
ステイルの山と同じくアーサーの山も気になったプライドだが、二人の見事な功績に今は棒立ちだった。前世の漫画でしか見たことがない、机にラブレターの数々である。
山、というほどの数ではない。二人とも枚数は殆ど変わらず、十枚にも満たない。
本来ならもっと貰っても良い筈だが、やはり女子の大半はセドリックへ向かったのだろうとプライドは静かに思考する。二限で恋文と言われた時点で、こうなることは予想できていた。大半がセドリックへのラブレターならぬファンレターを嬉々として書いたとはいえ同年代のステイルとアーサーにも絶対書く子は現れるであろうことも。
もし今朝に教師から今日で最後だと発表されていれば、女子全員が二人のどちらかに書いていたのではないかとまでプライドは考える。
「…………封筒には差出人が書いてありませんね。なら、中身でしょうか。まぁ恐らく全員この教室の誰かでしょう」
ぼそりと注目する視線の根源には届かないよう、隣にいるプライドにのみ聞こえる声量でステイルは呟く。
封筒一枚一枚を丁寧に手に取ると、差出人が書かれていないことを確認してからまとめて自分のリュックへ仕舞った。こうなるのなら人目につく前に早めに教室に戻るべきだったと考えながらも、その動作は落ち着いたものだった。
平然とするステイルに「流石」と心の中で叫びながら、プライドはリュックに消えるまで手紙の束を見送った。自分自身、社交界や式典でステイルが女性にモテ慣れていることは知っているが、恋文に対して平然としているのを見るとやはりそういった物も貰っているのだなと思う。
第一王女である自分宛の手紙はチェックしてくれているステイルだが、ステイル宛てにはどれだけ手紙が来ているのかはプライドも把握していない。
ステイル自身からも全く話題に出されなければ、彼の部屋に訪れることも殆どない為一日何枚かもどんな女性から受けているかも全く知らない。しかし、アーサーと違い中身が恋文と察しがついた上でここまで平静なステイルを見るとやはり貰いなれているのだろうと確信する。
そこまで考えてから、今度は視線をステイルからアーサーに向ける。ステイルと違い、中身をまだ認めていなさそうな彼の反応はと確認すれば
「……えっ⁈ちょっと、ジャック⁈こっここで開くの⁈」
待って!!?と、思わず今度は抑えきれない悲鳴が上がる。
プライドと共に視線を合わせたステイルもこれには目を剥いた。見ればリュックにしまったステイルと違い、アーサーは既に一枚目の封筒を開け始めていた。三人の動向をちらちら確認していたクラスの生徒達もこれには意図せず声を漏らしてしまう。
普通であれば恋文など人目を避けて読むにも関わらず、堂々と開き出したのだから。平然とした様子でリュックにしまうフィリップも目は引いたが、堂々と読み始めるジャックの行動はどの生徒にも完全に衝撃そのものだった。
飛び出すプライドと続くステイルに、慌てて手紙の文面だけは流石に隠すアーサーだが二人の反応に目を丸くしてしまう。自分宛の手紙を確認しただけなのに何故駄目なのかと、その目が妙実に語っていた。
「いえその……要件見ないと急ぎの用事の場合もありますし……」
「せめて隠れて読みましょう⁇ほら、その、手紙の内容がもしかしないでも……~っ」
差出人の女心も考えて‼︎と心で叫びながらも、それ以上を明確に言うことにプライドの方が顔が熱くなる。
既にいまアーサーが読もうとしている手紙の差出人が高確率でこの場で見ている可能性がある。その本人の前で読むなんて鉄の心臓かしらと思うプライドに、ステイルも同意の眼差しでアーサーを見つめた。恋文ということも全く認めないアーサーが、この後にそんな手紙を読んだらどうなるかも想像できる。
「すみません。……ですが、授業中に読むのも悪いですし三限後の予定も考えると今しか……」
「もう良い、読んで一回思い知れ」
そこまで待ちきれないのかと、アーサーにしては意外過ぎる反応にステイルが溜息混じりに息を吐く。
ここまで確証が出ているのに、まだただの手紙だと思い込んでいるアーサーに眉を寄せ気味に腕を組む。自分達からは読めないようにと、プライドと共に一歩分アーサーから距離を取った。
こういうのを人に見せびらかす人間ではないとわかっているが、手紙一つに夢中になるアーサーには少し飽きれて半分腹立たしい。本人は気付いていないとはいえ、個人的な恋文である。本当に単なる手紙なら未だしも、恋心を書き綴ったそれを平然と人前で読むのは情緒がなさすぎる。
機嫌の悪くなったステイルに押されつつ、それでも一応了承を得たアーサーは改めて封筒から出した手紙に目を通す。
ハラハラと、ステイル同様アーサーの反応が予想できるプライドも胸を両手で押さえる。気づけば自分達だけでなく、教室中の生徒が先ほどまでの騒々しさが嘘のように静まり返っていた。
「…………?…………⁇…………あッ⁈」
ガキン。と、思わずの声が上がった瞬間に背中からでもわかりやすくアーサー全身が強張った。
机の前に佇んだまま両肩に力が入るアーサーに、プライドも苦笑いしてしまう。きゃあきゃあと小さくどこからか囃し声が聞こえるが、今はアーサーの方が心配である。
手紙自体はそれぞれ封筒にたったの一枚、アーサーが読み終えるのも数十秒だった。最後まで読み終え、慌ててかつ丁寧に封筒に仕舞うアーサーにプライドも凄まじく声を掛けたくなる。まさか本当に恋文を貰うのは初めてなのかしら……?と邪推してしまいながら、どう言葉を掛ければ良いかわからない。
アーサーの背中に向かい「ほら見ろ」と冷ややかに浴びせるステイルと違い、不用意さを窘めれば良いか「モテモテね!」と褒めれば良いか「本当に気付かなかったのよね」と慰めれば良いかもわからない。
恋文自体は相手の好意の塊なのだからありがたいものに違いない。しかし、アーサーは明らかにそれを想定していなかった。そして一枚で今度こそ自分に積まれた手紙の内容を思い知ったアーサーは、
慌てて二枚目の封筒に手を伸ばす。
ジャック⁈と、今度は綺麗にステイルとプライドの声が重なった。
今度こそ残りの手紙は大人しく仕舞うと思っていたアーサーに、まさかの事態である。まだ両肩が強張り上がり切った状態で、それでも躊躇うどころか急いで次の封筒の中身を確認しようとする彼にとうとうステイルが止めに入る。「何やってるんだお前は」と混乱しているのかも思いつつ、背後からアーサーの右肩を鷲掴む。
今だけはステイルの不意打ちにも頭がついていかなかったアーサーは慌ててまた手紙がステイルに見えないように一度閉じた。
プライドも一歩近づいたが、うっかり読んでしまったらと思うとステイルの背中に隠れてしまう。そんなに初めての恋文が嬉しかったのかしら、と自分まで半分混乱気味に思いつつ視線を泳がせてしまう。
くるくると周囲の注目を確認すれば、何人かの女子が口を両手で覆うか明らかに顔色が変わっていた。やっぱり恥ずかしいわよね⁈と心の中で差出人容疑者へ共感を叫びながら息を引く。普通のカードや手紙だって自分の目の前で読まれるのが恥ずかしくて耐えられなかったプライドにとって、恋文を目の前で読まれるなど堪らない。
「お前!中身を確認したのだろう⁈言っておくが十中八九他の手紙も要件は同じだぞ!!?」
「だァから今読まねぇといけねぇんだろォが!時間ねぇンだから放っとけ!!」
「何故それほど急ぐんだお前は!!情緒を知れ!!」
や・め・ろ!と、反省もなく読み続けようとするアーサーをステイルがとうとう実力行使で止めに入る。相手がアーサーにとって未成年の子どもとはいえ、書いた女性の気持ちも考えろ!!とその言葉を飲み込んで腕を強引に伸ばす。
しかしアーサーも決死で抗う。未だ混乱気味で身体がいつもより動かないと自覚しつつも、伸ばすステイルの手を身体ごと避けて手紙を守る。
そこまで自分宛の恋文に執心するのか‼︎とステイルも本気で目が尖ってくる。アーサーがまさかそこまで恋文一つに夢中になる人間とは思わなかった。
掛けていたアーサーのリュックを掴み、机に置かれた恋文を強制的に仕舞おうとするがやはり阻まれる。「読むっつってンだろ!」とステイルの腕を鷲掴むアーサーと、その腕で今にもアーサー宛ての手紙を保護しようとするステイルで膠着した。
半ば喧嘩に近い二人の攻防に、男子からは感嘆の声まで零れる。
人前で堂々と恋文を読むジャックが男らしくも見えるが、同時に女子の情緒を守るフィリップも偉いと思う。昼休みの間にこっそりとはいえあまりにも堂々と置かれた手紙の束に、恋文と知る女生徒だけでなく男子生徒もまた三人がどんな反応をするかは興味深かった。そして見守ってみれば、あまりにも対照的な二人である。
平然と手紙に動揺するそぶりもなく仕舞うフィリップも凄まじいが、その場で堂々と読み出すジャックもとても自分達には真似できない。
ギリギリと互いに掴んだものを離さず拮抗する二人は、目までも本格的に鋭くなっていく。一部の生徒が「先生呼ぶか……?」と言い合うのを聞こえた瞬間、プライドも慌てて仲裁に飛び出した。
落ち着いて、となるべく柔らかく言いながらステイルとアーサーそれぞれを掴む手を離させようと指を伸ばす。文字通り二人の間に立ったプライドに、そこでアーサーも手の力を抜く。
そのまま彼女からは見えないように自分が持つ手紙も背中に隠した。もとより恋文を盗み見るつもりはなかったプライドだが、ならば何故堂々と皆の前で読もうとしたのだろうと考
「…………だろォが」
突然声をぽつりと落とすアーサーに、へ?とプライドも口を開ける。
言いたげに呟いたアーサーに、ステイルも鋭い目で「なんだ聞こえないぞ」といつもより厳しい声で言い返す。しんとした教室でも聞こえないほどにアーサーの声は掠れすぎていた。
プライドの視線から逃げるように俯き、それでも至近距離にいるステイルを上目で睨み返すアーサーは、先ほどの焦燥一色とは打って変わって今度は顔色もじわりと火照っていた。銀縁眼鏡が初めてわずかに曇る。
自分が近くにいる場で言うということは聞いても良いことなのだろうかと、プライドも二人に手を添えたまま耳を顔ごと角度を変えるようにしてアーサーへ近づける。
聞き取れなかったとそれぞれ示す二人に、アーサーは一度羞恥に歯を食い縛ってから今度こそ二人だけに聞こえるようにステイルへ言い直した。
「……〜っ、全部一緒なら。今日中に読まねぇと断りも返せねぇだろォが」
「「……………………」」
パっ、と。
予想外の理由と、アーサーらし過ぎる必死さに次の瞬間二人は言葉もなく同時に手を離した。
今日が学校最終日、そして明日から自分達は学校に来ない。渡された手紙が恋文であれば書かれた内容は宛先への恋心や交際の申し出である。三限後もプライドから離れられない今、生徒達が下校する前に読めるのはこの時間しかない。断る機会が今日しかないのだから。
書かれたその気持ちに応えられないとはいえ、ならばきちんと断りの返事を告げなければならないと。自分宛の手紙が本当に恋文だったと確認したアーサーが最初に考えたのはそれだけだった。
予期しなかった手紙の中身が恋文だと二人に認めるのも恥ずかしいのに、残りの手紙もそうだと想定してしまうこともアーサー自身恥ずかしくてたまらない。しかし、先ほどのヘレネの話と既に一枚目が本当に恋文だった今、行動に移すしかなかった。
表情が丸い目で固まったまま力を抜いてくれた手に、アーサーもやっとわかってくれたと短く息を吐く。
プライドへ「すみません」と仲裁に入らせてしまったことに頭を下げると、ステイルから残りの手紙もするりと取り返し再び急いで手紙を読み始めた。
あくまで断る為に手紙を読破しようとするあまりにも律儀でこの上なく誠心誠意あるアーサーに、ステイルとプライドも身体ごと背けられた後も固まってしまった。
アーサーが急ぎ二枚目を読破し、更に三枚目にと封筒の中身を確認するのを見つめながら次第に今度は自分達の方が恥じらいで顔が熱くなってくる。
恐る恐る互いに目を向ければ、自分と同じ火照りの顔にプライドの顔が強張りステイルも唇を結んで表情を必死に抑えた。
王族として恋文を一方的に送られることに慣れ過ぎた自分達には全く浮かばなかった発想だった。
わざわざ直面で言うことを恥じらう女性が書いた手紙を本人や人前で読むことを控えさせるべきと考えるだけで、その先の想いにまで思考が及ばなかったことがただただ恥ずかしい。
今日で最後だと知らない生徒達にはわからずとも、少なくとも今日で最後である事実の上では帰ってから読むべきだと考えた自分達よりも、この場で恥を忍んで読んででも女性達にしっかり気持ちを返そうとするアーサーの方が遥かに誠意がある。
「…………俺、も……確認してきます……」
「え、ええ……。いってらっしゃい……」
勢いをなくし、か細い声でプライドに告げたステイルは羞恥に表情筋に力が抜けないことを自覚しつつ一度強く目を閉じた。
アーサーへそっと腕を伸ばし、今度は掴むでもなくポンと軽くその背中へ手を置くと「すまない」と覇気のない声で告げた。
読むのに忙しいアーサーも、それに短くだけ返答するが視線は早くも四枚目の手紙から離せない。
これ以上彼の誠意の邪魔をできないと判断したステイルも、ふらふらとした足取りで自分の机へ戻っていく。
引いていくプライドも形のない居た堪れなさに追いやられるように、狭い歩幅で自分の席へと戻った。アーサーの背後の席に座れば、今はアーサーを直視するのも恥ずかしくなった。自分も届いた手紙を他の王族よりも目を通す方だとは思っていたが、返事を書くためにあんなに必死になるアーサーを前にすると井戸の中にでも居たような気持ちになる。
己の傲慢さに肘をつき、両手で顔を覆ったまま授業開始まで打ちひしがれる。
三人の様子を傍観していた生徒達も、会話が聞こえず一体何が起こったのかわからぬまま唖然と三人をそれぞれに見比べた。
真剣な目で急ぎ自分宛の手紙を堂々と読み進めるジャックと、珍しく赤面した顔でリュックの中に手を入れ中身を確認しだすフィリップと、そして茹った顔で落ち込むジャンヌに三人の関係への謎が余計に深まった。
教室中の生徒の視線も今はプライドもアーサーもステイルも今は気付けない。急激に狭くなった視界の中で、羞恥と目の前のことでそれどころではなかった。
プライドの隣の席がまた別の男子生徒になっていたことに気付ける余裕すら、残っていなかった。




