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フリージア王国備忘録<第二部>  作者: 天壱
見かぎり少女と爪弾き

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Ⅱ417.見かぎり少女は再会し、


「!フィリップ……‼︎」


二限終了後、いつものように渡り廊下に行けばパウエルが待ってくれていた。

無事に家へ帰されたことは聞いていたけれど、学校に来てくれたのだということにほっとする。あんなことがあったのだし、家で休んでいても良いけれどやっぱりパウエルに会いたい気持ちが強かった。


落ち着かないまま三人で渡り廊下に向かえば、パウエルは小さく俯きながらじっと壁際に背中を預け端に寄っていた。

ステイルが最初に「パウエル」と彼の名前で呼びかけた途端、パッと顔を上げて駆け寄ってきてくれる。再会した日と同じような明るい表情に、それだけで救われる。もっと遠慮されたり距離を置かれたらとここに来るまでに何度も想像してしまったから余計にだ。


待ったか?と尋ねるステイルに、パウエルはぶんぶんと首を横に振った。

無邪気ともいえるほど顔を綻ばせて笑ってくれる彼に、私もステイルの背後で自然と頬が緩んだ。アーサーも流石に緊張していたらしく、横からほーーっと深く息を吐き出す音が聞こえる。うん、すごく気持ちがわかる。

いつもの場所で良いか、とステイルがパウエルに確認してから早速向かおうと歩き出す。すると、ステイルの隣を歩くパウエルが首ごと振り返るような形で私達へ視線を投げた。途端に心臓へ電気でも走ったように緊張が走る。


何かしら……?と表情筋へ意識して自然体で笑んで見せるけれど、どうしても両肩がいつもより上がった。

一瞬、額のゴーグルかなと手を添えて身構える。私の問いにパウエルは歩きながらアーサーと私をじっと見比べて口を開いた。



「……いや、どうりで美人だなぁって思って。あと聞いてたより可愛い」



っっっっっっっっっっっっっっっ?!!

ピッシャーンッ!!と雷に打たれたような衝撃に、足が止まった。ちょっと待って何言っているのこの子。

ものすごくさらっと、さらっと褒められた。美人⁈美人⁈まさか王族フィルターでもかかってしまったのだろうかと本気で思う。あと「聞いてたより」って私まだ何か悪評でもバラまかれているの?!


「なんか噂だと美女とか女神みたいな言われ方してたからさ」

混乱のあまりパニック気味の頭で言われた言葉を反芻する度に体温が一.五度は上がっていく。

まるで銭湯みたいに湯気が全身から上がっていってすごく熱い。唇が震えたまま半端に開いて動かない。なんとか反射的に足だけ動くけれど、人間カイロになってしまった私にアーサーも気が付いた。

「ジャンヌ?」と呼びかけてくれるけれど、自分で自分の顔をパタパタ仰いで冷ますので精一杯だ。ほんとに、ほんとにパウエルは普通に良い子だし友達としても大好きだけど、別腹で第三作目フィルターかかるからそういう不意打ちはやめてほしい。

頭ではわかっていても、やっぱり私にとっては憧れ作品の一人であるパウエルなのだから。


「あとその、髪留めか?眼鏡みたいなやつも似合ってる」

「ね、ネイトが作ってくれたゴーグルよ。デザインも素敵でとても気に入っているの」

しかも微妙な変化に気付いてくれるサービス付き‼︎

熱を発散させるべく意識的に動かしながら、勝手に口角が緩む。

発明、とは言わずとも取り敢えずネイトの功績だけ伝える。実際は髪留めどころか凄い発明だけれど、それを抜いても素敵なゴーグルだ。

そう考えながらネイトの顔を思い浮かべれば少し緊張感も緩まった。口角に続いて顔の筋肉も力が抜ければ、そっと手が再びゴーグルに伸びた。

ネイトが?とパウエルが目を僅かに開く中、私は逸れた話題に飛びつくように舌を回す。


「ネイトは本当に手先が器用で。あれから時々会っては親切にしてくれるの。パウエルと同じくらい自慢の友達よ」

ねっ!と視線を逃してステイルとアーサーに投げかける。

それぞれ肯定の一言を返してくれる二人に、パウエルも「そっか」と明るい笑みだ。いつかネイトと話してみたいと言ってくれたパウエルだけれど、多分まだ一度も再会していないなと思う。

パウエルの誤解は解けたけれど、ネイトはまだちょっと怖がり気味だ。折角なら今日の昼休みにネイトも誘えば良かった。明日にでも誘ってみようかしら。


「明日ネイトも飯誘って良いか?……ジャンヌ達の友達ならちゃんと俺もやり直しておきたいから」

「!え、ええ是非。私から誘ってみるわ」

「そっか、頼む。やっぱジャンヌも頼りになるな」

あ……ありがとう、と眩しい笑顔に否定よりもお礼が勝ってしまう。

なんとか絞り出した時には手の平に汗がべったりだ。もう恥ずかしい。

私からの返事に安心したのか、笑ったパウエルは「それにジャックも」と今度はアーサーに視線を向けた。お陰で私も呼吸ができる。


「フィリップから聞いた。ジャックもそんなに格好良いの納得できた。いつもみたいに話して良いって言われたけど、なんか悪い気するな」

「⁈い、いえ!フィリップとジャンヌはともかく俺の方はンなことねぇっすよ?!寧ろ色々すんませんでした!」

最後に苦笑気味に言うパウエルに、アーサーが全力で否定する。

そりゃあそうよね⁈やっぱり気まずくは思うわよね⁈ステイルが私達の正体を隠すように口止めも今まで通りにして欲しいとも話してくれて本当に良かった!そこで一生懸命いつも通りに振る舞ってくれたパウエルにも感謝しかない。


「悪い気」の一言のお陰で一気に目が覚めた。

はっきりと明言することもできない代わりに私からも両手の平を左右に振ってみせる。思いっきり肩に力が入ったまま「黙ってたのは私達の方だから……!」とアーサーへ応戦する。その途端、パウエルの隣に並んでいたステイルがプッと小さく口を隠して笑った。ひどい。

私とアーサーが狼狽えるのが面白かったらしい。パウエルもおかしかったのが、歯を見せて笑いながら「ありがとな」と言ってくれた。校内だし生徒がいつ聞いているかわからないからとはいえ、なかなか具体的に言えないのがもどかしい。ステイルがちゃんと色々説明とかもしてくれているのは知っているけれど。


階段を下りて昇降口を出て、中庭を歩いた時は特に生徒の行き交いが多いから注意した。

言っちゃいけない言葉ばかり考えると、いつもの日常会話がすぐにはお互い思い浮かばなくて何となく人の多さに比例して無言になってしまう。

校門前に辿り付き、木陰の芝生に腰を下ろすと今度は自然と四人分の息を吐く音が重なった。


食べるか、と一番自然体のステイルの言葉に会わせてお昼を広げる。

校門前の騎士が一瞬だけこちらを気になったように視線をくれたけど、後はまたいつも通りに背中を向けてくれた。

私達も最初の一口を食べれば、やっといつもみたいに一呼吸着いた。

美味しいわ、と私が最初に言葉を掛けると、三人とも話題を待っていたようにそれぞれ返してくれる。他愛のない会話をしながら、自然とまたいつもの調子に戻る。

昨日はどうだった?とやんわりパウエルに保護所から出た後のことを聞いてみる。


「ああ、カラム先生が家まで送ってくれた。フィリ……兄貴の方の、フィリップにすげぇ心配されてうるさかった」

はははっ、と楽しそうに最後は笑うパウエルの言葉に私も少し笑ってしまう。

アムレットは女子寮に居たけれど、エフロンお兄様には迎えられたんだと思うとそれだけで胸が温かくなる。ステイルが少しだけ唇を結んで顔に力を入れたけれど、でもやっぱりパウエルの笑い声を聞いた途端に「そうか」と一言だけ返していた。


話によると、いつもはパウエルが帰っている時間にいなかったからおエフロンお兄様はずっと家の傍で待っていてくれたらしい。

しかも騎士であるカラム隊長と一緒だから、第一声が「パウエルなにやった⁈」だったとか。……なんとも人聞きの悪い。実際は誤解とも言えないのがまた難しい。けれど、パウエル自身は笑いながら言ったからきっとエフロンお兄様の発言は気にしないのだろう。

直後には街中に響く声で「迷子か⁈いじめられたか⁈」「怪我ないか⁈」「アムレットは無事か⁈」「巻き込まれたか⁈それとも何か壊したか⁈」と雪崩のように叫ばれて、気まずさも吹っ飛ぶほど恥ずかしかったと。

最終的にはカラム隊長からある事件に巻き込まれたことだけ説明されて、それ以上は箝口令が出ていると言われればそれ以上事情は聞かれなかった。


「代わりに〝怪我は〟と〝誰かに酷い目合わされなかったか〟だけは昨日だけで30回は聞かれたけどな」

そう言いながら、パウエルから明るい笑い声がまた零れる。

昨日あんな辛いことがあったし心配だったけれど、こうやって聞くとすごく全身が芯から軽くなる。一度見たあのエフロンお兄様の明るさは辛い時には本当に救いだなと思う。どんな形でも、自分のことを心配して気に掛けてくれる人がいるっていうのはそれだけで大きい。

今も「あいつは本当に心配性で暑苦しくて」と嬉しそうに言うパウエルを見れば確信できる。


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